（1）事業所の概要　

　久大建材株式会社（以下「同社」という。）は昭和58（1983）年に設立され、鳥取市・倉吉市・米子市に拠点を置き、建築資材販売や木工事、内装・外装工事等の事業を県内一円で展開している。また、平成18年に福祉用具の販売・レンタルを始めたことをきっかけに、介護福祉事業部を新設し、デイサービスや老人ホームを運営している。

（2）障害者雇用の経緯

　特別支援学校（以下「支援学校」という。）から職場実習（以下「実習」という。）の受入れの依頼を受けたことがきっかけである。当初は、障害者雇用の実績がないこともあり、対応できるか社内に不安が大きかったが、代表者が日頃より話している「福祉への貢献、地域への貢献」に基づき、受入れを行った。生徒の頑張りや先生の支援もあり実習終了時には社内の不安は解消され、生徒も自信がつき、お互いが就労しても大丈夫という結果となり、卒業後の採用に結びついた。それをきっかけに同社は障害者雇用を継続し、現在4名の障害のある社員が働いている。

　4名は障害の種類や特性に応じ、各々異なる業務に従事している。

　身体障害のある社員（以下「Ａさん」という。）は、入職以来住宅の内装や骨組み作業に従事していたが、在職中に脳梗塞を発症し、まひが残った。休職を経て復帰し、現在は、事務所内で積算業務に従事している。

　知的障害のある2名のうち1名（以下「Ｂさん」という。）は、同社が障害者として最初に雇用した方で、採用当初は建材の配送業務に従事していたが、現在は、老人ホームの清掃や洗濯業務に従事している。もう1名（以下「Ｃさん」という。）は、介護職としてほかの社員と同じように勤務している。

　4人目の方（以下「Ｄさん」という。）は、精神障害と高次脳機能障害を併せもつ方で、採用後2年間は介護職に従事し、現在は事務所及びデイサービス施設の清掃に従事している。

（1）取組の内容

ア　採用について

　ハローワークの紹介を受けるとともに、最初に実習生を受入れた支援学校を中心に、教育機関などからの採用を行っている。その際には、まず実習からの受け入れを行っている。実習前には本人の希望職種を確認し、それを踏まえた職種での実習を経験してもらう。実習を経験したうえで、就業を希望される方には、事業所側で適性があると思われる職種を選択し、本人、支援学校の先生、障害者就業・生活支援センター（以下「支援センター」という。）などの支援機関と相談の上、職種を決定して採用を行っている。

イ　個々の取組内容について

（ア）中途障害からの職場復帰

　Ａさんは、住宅の内装や骨組に携わる職人としての職歴が長く、現場で重要な存在であった。しかし、受障後は元の業務に従事することは難しく、復帰後は事務所で建築工事の積算業務への配置転換を行った。更に、本人の体調を考慮した上で勤務時間を短縮し、1時間早い終業時間の雇用契約に変更した。また、仕事に復帰直後には、身体機能回復のため、福祉事業部の理学療法士が作成したメニューに従い、勤務終了後にデイサービス施設のトレーニングルームでリハビリが行えるような配慮を行った。

（イ）障害特性などに応じた配慮

Ｂさんは、当初、複数人体制での建材の配送業務に従事していたが、細かいところまで一人で熱心に取り組む、自分の力でやりきることにこだわるといった特性は、配送より清掃業務に向いているのではと所属長が提案し、本人の同意の上、介護施設の清掃へ配置変更を行った。現在では、廊下や居室の清掃やベッドメイキング、洗濯などを主体となって行っている。

また、介護職に従事しているＣさんは、一般の職員と同等の仕事内容であるが、特に得意なパソコン操作を生かして、日々のカルテ入力や施設だよりの作成などを積極的に行っている。

採用当初は介護業務に従事していたＤさんは、記憶があやふやになることがあり、指導する側からはメモ帳を携えて記録をとるよう助言を行ったりした。また、仕事中に感情的になることが見られ、そうした際には休憩時間を適宜とって落ち着いてもらうようにするなどしていたが、複数のことを同時に行おうとするとパニックになったりすることも見受けられたため、職務の見直しを図った。トラブルの要因の一つとして、多くの利用者の認識と個別の対応が苦手なことが考えられたため、限定された人間関係の部署や場所で、自分のペースで作業を行う職務がよいのではないかということで、事務所や利用者のいない時間帯でデイサービス部門の清掃を主に行ってもらうようにした。

清掃業務に従事している2名（ＢさんとＤさん）は、同じ内容の仕事をしているのではなく、上記に記載したように、特性を考慮して内容を分けている。同社では、介護職員が清掃業務も担当しているため、清掃業務については全員が熟知しており、人によって指示内容が変わるということもないので、ＢさんとＣさんへの作業指示は、その日のシフトに合う介護職員が行っている。困りごとが起きたときには、介護職員から所属長や総務部門へその都度報告し対応するとともに、毎月の職員ミーティングの中で、必要に応じて情報共有を行っている。

また、定期的に、支援センターの訪問を受け、本人との面談を行ってもらい、困りごとなどの情報を共有し、働きやすい職場づくりに努めている。

（2）取組の効果

　中途障害から職種変更を行い職場復帰したＡさんは、当初はパソコン業務などの事務作業には不慣れであったが、もともと必要な工事種別や部材は熟知しているため本人の努力もあってパソコンに慣れるに従い、作業のペースも速くなり、結果も正確で周囲の評価も高く、現在では積算業務は一人で担当するなど、事務所でも頼もしい存在になっている。

障害者として採用した3名のうち2名が、途中で職種の変更となったが、3名ともそれぞれの特性を生かし、自分のペースで着実に仕事を行っている。また4名が各々異なる職場に在籍しているが、全員突然の欠勤や遅刻もなく勤務しており、周りの職員からの信頼も厚い。

　同社の障害者雇用推進者でもある総務部長は、「当社の障害のある社員4名については、それぞれの能力と適性に基づいた職場配置ができ、現在に至るまで順調に業務をこなせている。今後は、課題の一つでもある業務のスキルアップのための支援や職場環境の整備などを通じて、各人が最大限の能力を発揮できる環境を整えていくことを目指していく。人材の確保が難しい業界であり、障害に関係なく門戸を広げていきたい。」と語っている。

　同社は異なる業種の事業を、それぞれ別の場所で展開しているが、障害特性に応じて部署を超えた職種変更が円滑に行われており、それらは日頃より社内の連携がとれている証（あかし）と思われる。

このような障害の種類が異なる社員の適性を考慮した雇用への取組が評価され、同社は令和4年度鳥取県障がい者雇用優良事業所の県知事表彰を受賞しており、それは会社として大きな励みになっているところである。

　一方、障害のある社員に対しては、各部署で日頃より気配りを行い、フォローしているつもりであるが、対応した結果に後悔が残ったり、個人の金銭感覚や人間関係などの障害特性により発生した仕事以外の課題に事業所としてどこまで対応すればよいのか苦慮したこともある。今後は、障害者職業生活相談員資格認定講習など外部の講習を積極的に受講し、核となる担当者を育成し、障害に対する情報の収集と支援スキルの向上、更には全社員対象の社内研修の実施などをとおして、社内の理解を深めていく必要があると総務部長は考えている。

　同社の取組は、障害のある社員の多様な能力と視点を尊重し、適切な支援を提供することで、組織全体のパフォーマンス向上に寄与するものであり、それは同社が掲げる「地域社会への貢献！」を果たす存在の実現につながるものでもあると筆者は感じた。更なる同社の障害者雇用の拡充と会社の発展を期待している。