（1）事業所の概要

　KCJ GROUP 株式会社（以下「同社」という。）は平成16（2004）年の設立で、こどもの職業・社会体験施設「キッザニア」の企画・運営・開発を行っている。現在、キッザニア東京（東京都江東区）、キッザニア甲子園（兵庫県西宮市）、キッザニア福岡（福岡県福岡市）の3か所に施設を展開している。本社は東京都中央区にある。

（2）障害者雇用の経緯
　本稿では、同社の取組のなかから、キッザニア甲子園についての取組を紹介する。

　キッザニア甲子園では5年前より障害者雇用をスタート。就労移行支援事業所や障害者就業・生活支援センターから職場実習（以下「実習」という。）の受け入れを行い、ハローワークと連携して採用に取り組んできた。近年は特別支援学校（以下「支援学校」という。）から在校生の実習を積極的に受け入れ、採用しており、現在は8名の障害のある従業員が働いている。会社全体で障害者雇用の取組を行っており、障害者の雇用状況は本社が全事業部分をまとめて報告している。

　8名のうち7名は事務、1名は清掃業務に従事している。

　配置は7名が運営部、1名が管理部に所属している。清掃業務に従事する1名は運営部内清掃担当グループに所属し、育成を担当するトレーナーが配置されている。

（1）精神障害のある従業員

　4名ともにバックヤード（オフィス）での業務に従事し、お客様へ渡す「ご案内」などのセッティング、パソコンの入力作業、イベント時の備品準備を行っている。

（2）知的障害のある従業員 

　4名のうち3名はバックヤードでの業務に従事（業務は上に同じ）、1名は清掃業務に従事している。清掃業務では、キッザニア施設内およびバックヤードのトイレ清掃やごみ収集、備品補充などを行っている。

（1）取組の内容

ア　募集・採用

　ハローワークと連携しながら募集・採用活動を行っている。兵庫県内の支援学校からは在校生の実習を年2回受け入れており、それを契機に採用した従業員もいる。また、障害者の雇用の促進等に関する法律に則り、障害者職業生活相談員の資格を有する人事担当者が採用活動および入社後の相談や指導を行っている。

イ　個別の取組内容

　仕事の内容は、それぞれの障害特性に応じ、本人と相談しながら決定している。また、入社後「私の説明書（同社作成の特性シート）」（以下「説明書」という。）を本人が中心となって、人事担当者とともに作成している。説明書は障害のある従業員が自分の障害特性や長所などを職場に理解してもらうために作成するもので、同社では兵庫障害者職業センター（以下「職業センター」という。）から提供されたフォーマットを参考にしている。本人の同意を得た上で、人事担当は本人と同じグループで働く従業員に、説明書を提供・説明している。同社は、この取組が障害に対する相互理解を深め、円滑な人間関係や働きやすい環境づくりに役立っていると考えている。説明書は、会社が一人ひとりに応じた配慮や支援を検討する際の参考資料にもなるため、今後も1年に1度のペースで更新し続ける予定である（本年が初めての実施）。

　　　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　「私の説明書」の作成例

ウ　精神障害への配慮など

　4名のうち1名には聴覚過敏があり、落ち着いて就業できるよう前方と左右が壁になっている（パーテーションで仕切っている）場所を作業場所としている。就労移行支援事業所等（以下「支援機関」という。）の支援を受けている従業員は、月に1回程度、支援機関の担当者と本人、本人の上司および人事担当者の四者で面談を実施している。四者面談を実施していない場合でも、支援機関とメールや電話で情報共有や相談を行い、より働きやすい環境作りに努めている。

エ　知的障害への配慮など

　4名のうち2名は支援学校からの実習を経て採用された従業員である。清掃業務に従事している従業員Ａさんは、新型コロナウイルス感染症拡大時に入社した。お客様が通常より少ない時期で、業務量も通常より少なかったため、手厚く指導を行うことができた。感染状況が落ち着き徐々に会社全体の業務量が通常に戻る中、Ａさんの担当業務も通常ベースに戻る、つまり増えることが予想された。Ａさんに適した指導方法や働きやすい環境を徹底したいという思いから、同社は職業センターのジョブコーチ支援を利用し始めた。月1回のジョブコーチ訪問で、現状の把握、改善案の提起、「説明書」のバージョンアップ、障害者雇用についての従業員研修、Ａさんの指導などを担当する「担当トレーナー」（以下「トレーナー」という。）の起用、Ａさんとトレーナーとの定期面談を行っている。

（2）取組の効果～Ａさんへの取組から～

　先輩従業員をトレーナーに起用したことで、Ａさんは、複数の異なる先輩従業員からの指示や指導を受けて戸惑う場面が減り、分からないことや相談はトレーナーに話すことで解決できるようになった。また、「少なくなったら」や「多めに」など分かり難い表現は、「この線より少なくなったら補充する」など目安となる印を付けたり、具体的な数量（例えば「〇〇を10個運ぶ」など）で伝えたり、指示内容や判断基準を明確にした結果、作業ミスが減少した。

　障害者雇用についての従業員研修は、本人の同意を得た上で説明書をもとに実施した。お互いを知ることで障害についての共通認識を持つことができ、その後の円滑なコミュニケーションと業務遂行につながっている。

　なお、Ａさんに限らず、各人に理解しやすい情報の提示に努めている。例えば、その日に行う作業の内容や手順を分かりやすく図示した資料を作成し、朝礼の際に障害のある従業員全員に配付している。

（3）清掃業務に従事しているＡさんのコメント

ア　現在の担当業務

　従業員の更衣室やトイレの清掃、施設内の掃き掃除やゴミ回収を行っている。10時から18時45分までの週4日勤務。掃き掃除は高校で行っていたので取り組みやすかった。 

イ　仕事で気をつけていること

　施設内の清掃やトイレ清掃の時には、お客様に接触しないように気をつけている。従業員の更衣室清掃の時は、更衣室を利用する従業員の邪魔にならないように気をつけている。 

ウ　やりがいを感じるところ

　掃除してもすぐ汚れると辛いと感じることもあるが、きれいにすることでお客様や従業員に「ありがとう」と言われることが嬉しいし、やりがいを感じる。

エ　休日のリフレッシュ法は

　友達と遊びに行くこと。

　清掃に加え、お客様に道案内をしたり、声をかけて食事用のトレーを下げたりすることにも積極的に取り組みたい。施設内のパビリオン案内もできるようになりたい。

カ　この職場で働きやすいと感じることを教えてください

自分に合った仕事をわかりやすく教えてもらえるところ。出勤したときに今日のスケジュールを渡してもらえるので、何をすればいいのかよくわかり、仕事の見通しが立てやすい。

【Ａさんの担当マネジャーのお話】 

　Ａさんは、よく現場を見て一生懸命がんばっている。他の従業員が抱えている空の食事用トレーなども気づくとすぐ持ってくれるなど、周囲への気配りができてとても助かっている。掃除の仕方など仕事も丁寧なので安心して任せられる。挨拶も自ら率先して行い、朗らかでよく笑顔も見られ、明るい性格なので、ほかの従業員にも良い影響を与えている。担当トレーナーも親身に接しており、日常生活の話や悩みも気兼ねなく話すことができているようである。

　現在勤務している障害のある従業員が継続して長く働けるような環境づくりをしていきたい。そのためには、支援機関や職業センターのジョブコーチ支援を活用し、定期的に面談を行いながら職場環境や日常生活の悩みや要望をくみ取り、就労の課題解決に向けた取組を行える体制を整える必要がある。また、短時間勤務の従業員がフルタイム勤務に移行できるよう、上司や人事担当者が各支援機関と連携をとりながら、勤務時間を少しずつ増やすためのトライアル期間の設定などの支援を行っていきたいと同社は考えている。

　取材終わりに、キッザニア甲子園事業部の大橋アシスタントマネジャーに、障害のある従業員が働いているオフィスを案内していただいた。障害特性に配慮するため設置された刺激を遮るパーテーションや、迷いなく業務に取り組めるよう作られたマニュアル、各用品類の表示ラベルなどを拝見した。オフィスでは、障害のある従業員が黙々と担当業務を遂行されていた。

　また、お客様が利用するキッザニア甲子園の施設内も案内いただいた。「こども向け職業・社会体験施設」の言葉どおり、多種多様な職業の模擬体験ができる施設であった。小さな子どもたちが体験に集中し、真剣な眼差しで説明を聞く姿には感銘を覚えた。 

　気が付くと施設内には取材で話を伺ったＡさんが仕事に戻っており、設置されているゴミ箱の袋を入れ替えていた。お客様の動きを見ながら手早くゴミを回収し、きびきびと働いている姿が印象に残った。Ａさんは、今後の目標を「お客様へのご案内やパビリオンの説明ができるようになりたい」と語っていたが、近い将来に実現できると筆者には感じられ、その姿が目に浮かんだ。