サンワテック株式会社（代表取締役社長　岩尾雅史氏）（以下「同社」という。）は、昭和62（1987）年5月20日に法面工事を主業務とした「有限会社三和特殊土木」として従業員3名ほどで創業。平成11（1999）年4月に公共事業に参入し、翌年の平成12（2000）年6月に「有限会社三和特殊土木」から「サンワテック株式会社」へ社名を変更し、公共工事を多く担当している。

10年ほど前に、同社が所属している大分県中小企業家同友会（以下「大分同友会」という。）において、障害者の職場実習（以下「実習」という。）を受け入れる活動が、会社近くのコンビニエンスストアで行われたため見学したところ、実習生が障害のない者と全く変わらない雰囲気で真面目に働いている印象を受けたことを契機として、まずは自動車販売を行うグループ会社において知的障害のある特別支援学校の生徒（Ａさん）の実習を受け入れることとした。その後、本人からもう少し体を動かすような活動の希望があったため、同社での実習を受け入れたことが障害者雇用を始めるきっかけとなった。
　本稿では、同社の岩尾社長から障害者雇用の取組について伺ったことを中心に紹介する。

　現在、同社では知的障害のある従業員を3名雇用しており、全員が法面処理工事に従事している。基本的に従業員は同じ作業を行い、障害の有無ではなく、誰をどう配置すれば円滑に機能するかを配慮した3～4名の班で現場に行き、各々作業を行う。

（1）職場実習に関する取組

　同社は採用に関して実習に力を入れているが、実施前は社内に反対の声もあった。

ア　社内の反対と実施後の変化

初めて実習を受け入れることとなった頃、岩尾社長は社内で最も受け入れに反対していたという。接し方や業務を任せることへの不安、実習生に付きっきりになることで現場作業が遅れるかもしれないといった心配の声が上がっていたが、受け入れは会社の決定であったため従業員は従うしかないという、かなり後ろ向きなスタートだった。しかし、実際に実習が始まると、真面目に業務に取り組む姿勢に衝撃を受けた。また、社内で最もルールを確実に守り、安全に作業を進める姿を見て、問題なく続けることができると安心した。実習は高校2年と3年次にそれぞれ2週間行い、その間、弱音を吐くこともなく、実習終盤には社内で感じていた不安・不満もなくなっており、終了する時に本人からの「ここで働きたい」という申し出を受け、採用に至った。

イ　実習の受け入れについて

当初、社内の多くが反対していた実習だったが、現在は実習に行ってみたいという話があれば「いつでも受け入れますよ」というスタンスで、積極的に実習を受け入れている。受け入れに当たっては、実習希望者の要望を確認し、現場の従業員と話をして作業内容や日程などについてできるだけ本人の要望を叶えられるよう、調整して受け入れるようにしている。

以下に、実習を受け入れる際の考え方やポイントを記載する。

ウ　実習のポイント
・障害の種別に関わらず受け入れる
・実習期間中は従業員1名がサポートとして実習生に付く
・サポートする従業員は、実習生が相談しやすいよう、できる限り障害のある者とする
・実習期間中は学校の先生と連絡を取り合い、情報の共有化を図る
・実習生とサポート役の従業員は日誌にその日の良かった点、悪かった点を毎日記録する
・実習終了時に日誌に現場担当者が評価を記載する
・実習生の家族に対しいつでも見学可能であることを案内する
　上記のように、サポート体制を整えることを重点的に取り組みながら、これまでに精神障害者・知的障害者の実習生を5名受け入れた。

（2）職場定着に関する取組
ア　制度導入

　初めて障害のある者を雇用するにあたり、就業規則を2点見直した。1点目は週休二日制の導入。当時、土日休みではなかったが、障害の特性等から土日が休みの方が良いと考え、導入に至った。2点目は、人事評価（以下「評価」という。）を段階的なものにすることであった。雇用してから一定期間は評価を実施せず、本人が給料を上げたいなどの希望があれば評価を開始して給料に反映できるようにした。

イ　離職から始まった模索の日々

　上記のような制度を導入したものの、初めて採用した障害のある従業員はその後退職することとなり、定着が課題となった。社長や周りの従業員も本人に期待しすぎて「いろんなことに挑戦すれば」と伝えていたが、それが本人にとって重荷になっていたと岩尾社長は振り返る。その経験・反省から、一人ひとりに合った働き方を実現し、長く働ける職場であるためには会社としてどのような在り方が求められるのか、模索が始まった。

ウ　向き合うこと

職場定着のために大事なことは何かをつきつめた結果、「不満があれば、会社として解決のためにできることはすべてやる」という心構えで本人ととことん向き合い、一人ひとりに合った働き方の実現に向け、会社も共に動くことだということに行き着いた。その方法として評価の捉え方を含めて、従業員とのコミュニケーションをさらに強化することとした。

エ　コミュニケーションの強化に向けた更なる取組

同社では元々社内のコミュニケーションを大切にしていたが、Ａさんの離職を受け、一人ひとりの悩みや目標などの状況を丁寧にくみ取り、その意思を尊重するため、以下のように、コミュニケーションの取組を強化していった。

・年に二度、社長・現場の工事長・従業員の3名で面談し、本人のやりたいという意思をくみ取る

・「何かあったら現場のトップ、管理者に相談すること。相談しづらい場合は社長に直接相談してもらって構わない。」ということを日頃から伝えるなど相談体制を整える

・月に一度、全現場の従業員が集まる機会として全体朝礼を実施し、経営理念の浸透や状況把握のため、全員が一言ずつしゃべる時間を設ける

・面談や朝礼以外の場でも従業員とコミュニケーションをとれるように、社長は定期的に現場に赴き、従業員へ声掛けをする

・外部講師を招き、自分の特性を知るための講習を実施

・障害の有無に関わらず、一人ひとりの従業員の理解力などに合わせたコミュニケーションの取り方を心掛ける

　上記のようにコミュニケーションを強化したことで個人の意思を把握することが可能となり、障害があるから『苦手なことがあるだろう』、『できないことがあるのでは』といった先入観を会社が押し付けるのではなく、働き方や制度について個人のペースで自分に合った評価制度を選択できるようになった。また、過度に期待しすぎずに、目標設定やその実現に向けた取組を強要することなく、本人のやりたいという意思があればサポートするといった、従業員の自主性を尊重するような関わり方に変化した。

　最後に、岩尾社長に障害者雇用を含む同社の今後の展望などを聞いた。

（1）会社としての理想

岩尾社長は「自分も従業員の頃、ライフステージの変化に合わせて、今より環境が整った安定した会社に変えようと考えたこともあった。代表になって、この会社自体の環境を整えることで、皆が一生働ける会社にしたいと思っている。そのためには、障害のある人を含めて、誰もが働けるような会社、誰もが働き続けたいと思える会社が理想である。そうでないと、人材の確保や職場定着も難しい。今までも職場環境の充実に力を注いでおり、障害者雇用も理想の実現に向けた取組の一環といえる。また社内では、働く意味についてのグループ討論、会社の予算の仕組みや、年金をテーマとした勉強会など、社会人として必要な知識やスキルについて学ぶ機会を設けており、人を育成することが大事。」と話す。

同社では、実習の受け入れ、制度を含む雇用環境の整備、障害のある従業員を含め一人ひとりと真摯に向き合うことによって、会社全体の活動に良い影響を与え、さまざまな課題への取組が進んでいる結果として、以下のように各方面から評価を受けている。

平成30（2018）年　　エコアクション21の認定・登録　　　　　※環境配慮への取組

令和元（2019）年　　大分市子育て支援優良企業の表彰及び「おおいた子育て応援団」の認証

令和２（2020）年　　ユースエール基準適合事業主の認定　　　※若年者雇用への取組

令和５（2023）年　　もにす認定　　　　　　　　　　　　　　※大分県で5例目

また岩尾社長は「離職率が高いと、もにすやユースエールの認定は受けられない。障害のある者を含め、誰もが働ける環境を目指したことが認定につながり、そのことで、同社が働きやすい会社であると認知されるようになった。結果として、会社の利益向上につながっている面もあるため、取引先などに『障害者雇用をきっかけに、会社の職場環境を見直してみては。』と伝えることもある。うちと同じような会社が増えてほしい、それが自分にとっては一番の地域貢献になると思っている。」と話す。

（2）障害者雇用への思い

岩尾社長は近年、大分同友会の活動として、月に1回程度、県内の特別支援学校を訪問のうえ作業・授業風景を見学し、先生と「この生徒はこういう強み・能力があるからこういう企業だったら働けるのでは。」といった助言や意見交換を行って、雇用に向けた足がかりを作るなど、一般就労を促す活動も行っている。

障害者雇用に関して岩尾社長は「うちができたのだからほかの会社も絶対できると思っている。人手不足といっても地域によっては、障害を抱えて就職できない人が少なくない。その人達を雇っていく企業はこれから伸びていくと思っていて、そういった企業が増えていくことを願っている。そのために自分たちが、障害者雇用の取組について発信していきたいと思っている。」と力を込めて話す。

取材を通して筆者が感じた同社の障害者雇用のポイントは以下の3点である。

（1）実際に採用する前に実習を行うことが、受け入れる会社側だけではなく、受け入れられる実習生側も、障害があってもそれぞれに適した業務があることに気づくきっかけとなったこと。

（2）個人に合った理想的な働き方ができるよう、会社としてできる限りのことは対応するという姿勢で、従業員一人ひとりと真摯に向き合うこと。

（3）会社が従業員に押し付けることなく、個人の自主性を尊重した人材育成を行うことで、従業員に成長を実感してもらい、職場定着につなげること。

以上の3点は、会社の根幹をなすのは「人」であり、従業員が働きやすさを感じられる会社であるための取組といえる。業種・規模に関わらず、障害者雇用に新たに取り組む会社や、現状に課題を感じている全ての会社の参考となる事例であると感じた。