（1）事業所の概要

沖縄美装管理株式会社（以下「当社」という。）は昭和49（1974）年に創業した。離島を含めた沖縄県内にて、主に病院、クリニック、商業施設、大学、ホールなどの清掃業務（日常清掃・定期清掃<ワックス・カーペット・ガラス・草刈など>）、環境衛生管理業務、設備保守管理業務、警備保安業務、そして建物および地域の環境をトータルでサポートするファシリティマネジメント業務を行っている。特に当社では新型コロナウイルスなどの感染症に対応したホスピタルハウスキーピング業務（科学的根拠に基づく院内感染防止効果に優れた病院クリーニング）を得意としており、衛生的な医療機関の環境創りに寄与している。

また当社では社内教育に力を入れており、障害のあるなしに関わらず社員の清掃技術のスキルアップを図るため、「美装検定」という独自の社内技能検定制度を設けている。これは国家資格である厚生労働省認定のビルクリーニング技能士よりも、審査項目を増やすなど、あえて難しくした当社オリジナルの検定制度であり、社員の仕事へのモチベーションアップや会社全体のサービス品質向上へつながっている。
　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　美装社内検定の審査場面

当社の企業理念は、『企業は人なり』、『総合ビルメンテナンス業は、社会の意思の延長と知ること』、『社員の幸福と社会への貢献を、常に念頭におくこと』の3点であり、ビルを利用するお客様、ビルを所有するお客様にとって居心地がよく、衛生的かつ「快適な環境をクリエイトする」ことを目指している。

　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　各職種のユニフォーム

（2）障害者雇用の経緯

当社は平成23（2011）年より県内の特別支援学校（以下「支援学校」という。）の生徒の職場実習（以下「実習」という。）を受け入れているが、障害者を雇用するきっかけは、平成26（2014）年に沖縄高等特別支援学校から1名採用したことである。そこから令和元（2019）年には採用を前提とした3年生の実習をより積極的に受け入れるなど、各支援学校との連携につながっていった。令和3（2021）年には沖縄高等特別支援学校の生徒を対象としたビルクリーニングの授業を開始した。生徒の皆さんが少しでもビルクリーニング（清掃）に興味を持ってもらえるよう授業を行っている。

(1)本社技術サービス部へ配属となったＡさんとＢさんの事例
　本社技術サービス部所属の社員はワックスがけやカーペット清掃を機械操作で行うが、お客様との契約に応じての対応となるため、毎日様々な現場へ出向き作業をすることとなる。
　Ａさんは支援学校を卒業し、令和4（2022）年4月に入社した。1年後にはフルタイム勤務（週40時間勤務）を目指し、一日8時間の週3日勤務にて勤務を開始。初めは問題なく勤務できており、毎月の面談では「頑張って勤務したい」と元気よく言っていたが、上司はＡさんが疲れて無理をしているのではないかと感じていた。半年後の面談の際に詳しく話を聞いたところ、本人から「技術サービス部は毎日違う場所へ行くので、たまに混乱することがある。毎日同じ場所で勤務し、その現場を極めていくことも頑張ってみたい」と打ち明けてもらうことができた。そして、入社7か月目からオフィスビルの清掃にて1か月の体験研修を実施した。研修により、本人のペースと合致することが確認できたため、入社8か月目に日常清掃の現場に異動した。今では表情も明るくなり、同年代のスタッフと日々の業務に励んでいる。自分のペースがつかめたためか、車の免許を取得するなど私生活面でも良い影響があったようである。

　Ｂさんは支援学校を卒業し、令和4年4月に入社した。Ａさんと同様、1年後にはフルタイム勤務（週40時間勤務）を目指し、一日8時間の週3日勤務にて勤務を開始。毎月の面談では本人から「この部署で頑張りたい」との申し出であった。上司としてもＢさんの勤務状況や手順の習得力等を勘案し、Ｂさんは覚えが早く業務に無理なく対応していると感じていた。6ヶ月目の面談の際に詳しく話を聞いたところ、本人から「技術サービス部は、毎日違う場所へ行くので、とても勉強になる。先輩方も丁寧に教えてくれ、少しずつ機械も触れるようになったので、今後もこの部署で頑張っていきたい」との話があった。令和5（2023）年1月には念願のフルタイム勤務となり、1人暮らしを開始するなど生活を充実させている。同年6月の社内検定（機械操作・学科）では、8名受験者（障害のある社員はＢさんのみ）の中でトップの成績で合格した。

　　　
　　　　　　　　　　　技術サービス部の作業例

(2)就業体験をきっかけに採用となったＣさんの事例
　Ｃさんは令和5年1月に支援学校で行われた当社の就業体験に参加し、そこで初めてビルクリーニングの業務に触れた。就業体験では実際の業務さながらに一日7時間の作業で、朝は6：30からスタートする。作業日数は、精神面・体力面を考慮し、毎日ではなく週3日勤務であったが、ビルクリーニングに興味を持ったＣさんは就業体験に精力的に参加した。Ｃさんは明るく前向きな性格で、スタッフたちにも応援されながら一所懸命頑張っており、研修の振り返り時には当社現場責任者が「すぐにでも働ける」と太鼓判を押すほどの適性を見せていた。
　Ｃさんはその後支援学校を卒業し、令和5年4月に入社した。本人の体調と技術向上を見極めるため、初めは2名で担当するエリアで一日7時間の週3日勤務からスタートした。本人の希望として「頑張って毎日勤務したい。できるだけはやくフルタイムで働きたい」との考えがあったようで、入社後も一所懸命頑張っていた。令和5年7月までは週3日勤務としていたが、本人の希望と体調、勤務状況などを考慮し8月よりフルタイム（週5日）勤務へ移行した。その後も、体調を崩すこともなく頑張っている。4か月目でのフルタイム勤務への移行は、支援学校からの就職者では最速のケースであった。

　　　
　　　　　　　　　カーペット清掃業務場面

（1）取組の内容

ア　募集・採用

当社では、「業務を体験することは雇用する側にとっても、される側にとっても長く勤務を継続できるか見極めるよい機会となる」という考えから、採用活動の際は、支援学校、障害者就業・生活支援センターと連携し、応募者には実際の業務を実習で体験してもらってから応募いただき、採用選考を行っている。それがミスマッチを減らすことにつながっていると考えている。

また、採用選考では支援学校などとの窓口を担当する副社長及び採用関連部門担当が面談をし、採否を決定している。採用後も個々人の性格・能力・得意分野を十分に活かし、やりがいを持って業務ができるような職場配置を行っている。

イ　入社・定着などに向けた取組

（ア）安心して入社できる環境づくり

　支援学校の卒業生については、当社の実習や授業を受けてから入社となるため、ビルクリーニング業務とのミスマッチが生ずることは少ない。受け入れる職場でも実習を踏まえた準備（具体的配慮の準備など）を行っており、本人がすぐに馴染めるような環境となっている。

実習参加者は実際のビルクリーニングを体験でき、「実際にはどんな仕事なのか、自分はこの仕事に向いているか、仕事を続けられるか」を理解するとともに、当社はその方が「この業務に合っているか」の適性を確認することができ、採用後もすぐに戦力として業務に従事していただくことができていると感じている。

　当社には支援学校の卒業生のほかにも、ハローワークなどからの紹介により雇用された方もいるが、どの方も同じ職場で働く仲間とともに課題を解決することを学び成長しており、現場責任者も障害の有無に関係なく対応することにつながっている。

　当社にとっては、障害のある社員18名全員が「人財」であり、非常に心強い存在となっている。

（イ）職場定着に向けた環境づくり

　採用した障害のある社員がすぐに馴染めるよう、また周囲の社員と協力して業務に取組めるよう、配属の際は、障害のある社員の了解を得た上で配属部署の社員に対して事前に本人の障害状況や配慮事項の周知を行っている。また、本人や周囲の社員からの相談窓口を設けている。相談への対応は、まず現場主任と管理部担当者が中心となって行うこととしており、副社長からも定期的にフォローを行うことで相談しやすい環境となっている。

（ウ）職業能力開発への取組

　職場配置については、実習状況や障害のある社員の希望などをもとに、適性を把握し柔軟に対応することを基本としているが、本人の更なるスキルアップを目指して他部門への異動を行うなど、本人の職業能力の開発の観点からの配置を行っている。

配置以外にも美装検定など、社員のスキルアップ、チャレンジを支える取組を、障害の有無に関係なく進めている。

　また、自動車免許の取得を奨励し、取得後はマイカー通勤や業務車両の運転をしてもらうなど仕事や生活面での充実を図っている。

（2）取組の効果
　前述の取組により、現場での受入れは、スムーズにできている。障害のある社員も一人のスタッフとしてほかの社員と同様に対応し、ひとつのポジションを責任をもって担当してもらうことにより、現場で必要な存在として自立できるようにしている。また、清掃業務の社員の平均年齢が59歳とやや高めであるが、障害のある社員には若い方が多いため、両者のコミュニケーションが取りやすい環境にあり(年齢の高い社員が、自分の子供・孫に接するようにしているため)、和やかで明るい雰囲気を作ることができている。