研修の場を活用し、適材を雇用・適所に配属する
- 事業所名
- 株式会社西部開発農産
- 所在地
- 岩手県北上市
- 事業内容
- 農畜産物の生産販売、農作業の受託、農産物の加工販売
- 従業員数
- 94名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 3 野菜の植苗・収穫・箱詰め、草刈り 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社西部開発農産は、昭和61(1986)年に農家の高齢化で耕作できない農地が急速に増えていることを目の当たりにした照井耕一現会長が、「ふるさとの農地を守りたい」と仲間と3人で設立、農作業の受託を開始したことから始まる。当初の受託耕作面積は小麦50ヘクタール、大豆3ヘクタールの合計53ヘクタール。翌年には味噌の加工も始め、昭和63(1988)年には転作に「ひまわり」を導入。それを使った「ひまわり味噌」で話題を集める。
創業から30年近く経った現在では、農作業受託だけでなく土地利用型農業も行なっており、その面積は合わせて750ヘクタールにまで増えている。扱う作物は米、小麦、大豆、そばのほか、キャベツ、アスパラガスなどの野菜、同時に畜産部門(黒毛和種の肉牛)も手がけるなど、農業法人としては日本有数の規模を誇る。会社が目指す姿勢として「郷土の農地を守る」「郷土の耕作農家を支える」「安全、安心な食べ物を作る」「人財を育てる」を掲げている。
第20回全国豆類経営改善共励会で農林水産大臣賞受賞、第31回農林水産祭で内閣総理大臣賞(農産部門・経営大豆)受賞など、受賞歴も多数ある。
(2)障害者雇用の経緯
同社の障害者雇用の始まりは、平成8(1996)か9(1997)年頃、隣町・花巻市にある当時の養護学校(現:特別支援学校)の先生から頼まれて、知的障害者の男性を雇用したのが最初だ。ちょうど同社が畜産部門に参入した時期で、その男性は牛に飼料を与える仕事を担当。指示された仕事はできたうえ、その先生が雇用後もよく見に来て指導するなどフォローしてくれたので、長く勤めていたという。
平成18(2006)年、その先生から、再び知的障害者を採用してもらえないかと依頼があった。実はこの頃同社では、野菜の収穫などの作業を頼んでいたパートの女性たちが60~70代と高齢化し、体力面・能力面で厳しくなって困っていたところだった。その時に先生から「そういう比較的単調な作業なら知的障害者でもできる」と言われたという。
平成8(1996)年頃に採用した男性をフォローしてくれた実績から、同社では先生に対して信頼を寄せていたものの、社内の一部からは不安の声があがった。「そこで、研修してもらってその結果で決めようということになったんです」と常務取締役で財務担当の照井渉さんは説明する。
研修に受け入れたのは男性6人。野菜の作業は、収穫して箱詰めしたものを運ぶなど力仕事がともなうことから、男性にしたという。研修期間は2ヶ月間、会社に住み込みさせて実施した。というのも、全員、家族の送り迎えなどで通うことは不可能だったからだ。3食の食事は照井会長宅でとった。
研修の結果、6人のうち4人については、すでに雇用している男性よりも障害の程度が軽く、雇用してもまったく問題ないと判断したので、2ヶ月後に正式に採用したという。
ちなみに、平成8(1996)年頃に雇用した男性は3~4年前(平成21(2009)~平成22(2010)年)に本人の都合により退社している。
このように同社ではもともと特別支援学校の先生からの依頼で障害者を雇用したが、それ以前から会社の基本姿勢として「郷土の農地を守る」「地元での雇用」といった地域貢献を目指しており、その点から地域の障害者を雇用する土壌があったことが推測できる。
2. 取り組みの内容、効果
(1)取り組みの内容
研修中の作業指導は、ふだんから野菜の作業を担当している社員が指導した。知的障害者や精神障害者に指導する際には何度も同じ説明をしなくてはならない場面も多く、そうしたことに粘り強く対応できる人をあえて選んで指導係にすえる企業もあるが、同社では特にそうした対応はしなかった。雇用後には他の社員と一緒に働いてもらうことを考え、最初から特別扱いすることを避けたと思われる。
また、社会福祉法人を経由して「ジョブコーチ支援」も依頼した。ジョブコーチは作業場に時々訪れ、作業指導をする際のアドバイスをしてくれたので、これもプラスに働いたようだ。
作業は基本的に、春は苗植え、夏から秋にかけては野菜を収穫し、箱詰めあるいは袋詰めにする。「積む」、「運ぶ」などが作業となる。冬は大豆の選別や袋詰めといった単純作業なので、最初に作業内容を説明するとそのとおりに作業することができた。就業時間も8時から17時までと決まっており、繁忙期の残業も年間で数時間とほとんどないようなもの。障害者にとっては働きやすい環境だ。
作業面で唯一気をつけたのが、刃物の使い方である。収穫の際にどうしても刃物を使わなくてはいけない場面があるので、しっかり教え、慣れるまで見守ったという。こうした仕事を教える際には、紙の資料などは使わず、口頭や身振り手振りで説明した。
挨拶などコミュニケーション能力は個人差があり、中には当初基本的な挨拶ができない人もいたが、何度も教えているうちに研修期間内でできるようになったという。
こうした研修を経て、4人を採用。特別支援学校と社会福祉法人の主導で北上市内のグループホームで生活することが決まり、そこから通うことになった。そこで同社では障害者雇用納付金制度の助成金を活用して送迎用のバスを購入。運転手は社員に担当してもらっている。同社では作業現場である田畑が広範囲にわたって点在しているため、各日の作業現場に送迎するまでが通勤となる。運転免許がない障害者の社員にとってこの送迎用バスは、貴重な通勤手段として活用されている。
グループホームでは障害者同士でたまにトラブルがあるようで、それをひきずって出社し、仕事に覇気がないなど様子がおかしいことがあった。グループホームから報告があったので、あとで納得したが、ホームとのそうした連絡のやりとりや連携は大切。幸い仕事上ではそれ以上の影響はなかったが、楽しく働いてもらうためにはそうした生活上のトラブルなどを把握することも必要だろう。
その後、現在までにその4人のうち1人(箱詰めや袋詰めなどの作業が中心だった男性)は、3~4年前に精神面で不調となり、数ヶ月間の休職を経て退職した。それ以外の3人は現在も元気に働いている。
雇用してから7~8年経つが、その間、3人それぞれの得手不得手が見えるようになった。その中で、几帳面で機械いじりが好きな男性1人には、草刈り機を使った草刈りの作業を中心に担当させることにしたが、それ以外の2人には継続して箱詰めや袋詰めなどの作業を中心に担当してもらっている。
|
|
(2)取り組みの効果
3人の雇用が継続されている理由のひとつには、上記のとおりそれぞれの個性(得手不得手)を考慮しながら仕事を担当させていることがある。キャベツの箱の積み上げ作業をしていた男性に話を聞いたところ、大変だと思う作業もあるがそこにやりがいを感じている様子が感じられた。
また、雇用後は指導係を固定している。この取り組みは障害者と指導係の信頼関係が築きやすいという利点もある。しかも規則正しい勤務体系は、障害者に余計なストレスを与えにくい。こうした点も、3人が継続して働くことができている要因だろう。
知的障害者や精神障害者を雇用している企業の多くが指摘するとおり、同社でも「3人とも基本的にまじめで、仕事を休まず、手を抜かない」と評価する。照井常務も、「正直なところ私も他の社員も、最初は大丈夫かなと思いましたが、実際はよく働いてくれて問題はないです」と話す。むしろまじめすぎて、暑い夏場に休憩などをとらないで作業を続けることもあるので、気をつけて声をかけるようにしているという。「3人のこうしたまじめな姿勢は、障害のない他の社員に良い影響を与えているかもしれない」と照井常務。
さらに照井常務は他の社員への影響として、「優しく接することの大切さや、障害者に対する接し方を学ぶことができているのではないか」と推測している。
3. 今後の展望と課題
同社の今後を照井常務は「周辺では離農している人が増えているので、今後も耕作面積は増え、それとともに扱う作物の種類も増えていくと思う」と予想する。そうなった場合、機会があれば同じように障害者を雇用していきたいと考えているが、その時にポイントとなるのが、何の作物を担当してもらえるか、ということ。野菜以外の作物を障害者が担当できるかどうかがカギになるという。というのも、例えば水稲など穀物は機械を使った作業がほとんどなので、免許を取得できない知的障害者は担当できないからだ。
しかし照井常務は「地元での雇用を生み出すことが大事だと思っており、特に今は若者の就職が厳しい。当社ではパート採用の女性たちの高齢化が進む一方なので、この部分を若い障害者に担ってもらうことが理想」と話す。
今回の取材を通して、筆者は障害者雇用を検討する企業に次のようなアドバイスをしたい。
Ⅰ.職種によって合う、合わないはあるうえ、さらに個人の適性も関係してくる。そこで事前研修で能力や適性を見極めてから採用することもひとつの手だと思われる。 |
Ⅱ.特別支援学校・施設や、社会福祉法人との協力体制も重要。同社の場合は学校と社会福祉法人が、障害者たちが生活するグループホームの段取りをしてくれたので、雇用が実現したという。雇用後に学校や施設がどの程度フォローしてくれるかが就労の継続に関わってくる場合も多いので、あらかじめ打ち合わせできると良いだろう。 |
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてユミルリンク株式会社提供のCuenote(R)を使用しております。