肝心なのは定着させること
~自然なコミュニケーション~
- 事業所名
- ヤマト運輸株式会社 群馬主管支店
- 所在地
- 群馬県前橋市
- 事業内容
- 運輸業、サービス業
- 従業員数
- うち障害者数
- 17名(2013(平成25)年7月現在)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 5 事務、送り状読み取り作業、配達 内部障害 1 事務 知的障害 6 仕分け作業 精神障害 2 清掃、クロネコメール便仕分け 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 3 荷物の配達、受付スタッフ - この事例の対象となる障害
- 知的障害
精神障害 - 目次
1. 会社概要と障害者雇用の背景・経緯
(1)会社概要
「クロネコヤマトの宅急便」というキャッチフレーズでお馴染みの当社は、宅配便業界では国内最大の物流ネットワークを展開し、年間約15億個の宅急便を取り扱っている。
本社は東京都にあり、全国に69の主管支店(集約支店・物流ターミナル)を置き、配送センターは約6,000箇所、社員数は約14万人にもなる。事務・配達・仕分けなど様々な職種があり、24時間体制で荷物を動かしている。
物流を通じた社会貢献活動だけでなく、安全・環境・地域面での社会貢献も目指しており、特に地域・安全面では社員が地元の保育所・幼稚園・小学校に出向いて「こども安全教室」を開催する等、交通事故防止活動に積極的に取り組んでいる。
当事業所は主管支店の1つであり、群馬県全体を管轄し、関東と北信越を繋ぐ重要な拠点となっている。
(2)障害者雇用の背景
宅急便の生みの親であり当社の社長・会長を歴任した故・小倉昌男が、心身に障害のある人々の「自立」と「社会参加」を支援することを目的に、ヤマト福祉財団という公益財団法人を設立したのは1993(平成5)年のことである。現在では、ヤマトホールディングスを始めとするグループ各社がヤマト福祉財団の賛助会員となるだけでなく、社員も労働組合を通じたカンパ活動で財団に資金面の援助をするなど、小倉の障害者に対する理念がヤマトグループ全体に浸透している。
こうした財団を通じた間接的な支援の他に、当社では障害者施設に対してクロネコメール便配達の業務委託をする等の直接的な支援も行い、障害者の自立と社会参加に多面的な取り組みを行っている。
そしてこの自立と社会参加に最も重要な雇用の面では、全社での障害者雇用率を向上させることを目標として掲げ、各主管支店での障害者雇用における好事例や各種助成金活用のための情報などを他の主管支店にも提供して、主管支店ごとに雇用率を意識するように働きかけている(2013(平成25)年6月現在 全社の法定雇用率2.02%)。
このような会社の気運のなか本社からのバックアップも得て、群馬主管支店でも積極的に障害者雇用に取り組んでいる。
(3)障害者雇用の経緯
群馬主管支店が本格的に障害者雇用に取り組み始めたのは約7年前(2006(平成18)年)になる。当時は、どのように障害者雇用を進めて良いかわからず、担当者が障害者施設や特別支援学校の見学などをしたり、障害者合同面接会に参加して情報収集することから始めた。そして、ハローワークなどの助言もあり、面接だけで決めず採用前に2週間の職場実習を行って、精神障害者と知的障害者計5名の雇用が始まった。以下、精神障害者と知的障害者の雇用に焦点をあてて記述する。
2. 障害者雇用の現状と従事内容
(1)障害者雇用状況
群馬主管支店の雇用障害者数は17名である(2013(平成25)年7月現在)。精神障害者と知的障害者は現在8名となるが、主な勤務先は、前橋市にある群馬主管支店物流ターミナルで、仕分け、清掃などの作業員として活躍している。
(2)求人方法
障害者求人は全てハローワークを経由しており、主な募集経路は2つある。一つは地域の特別支援学校からの新卒採用で、もう一つは一般の方向けの募集に応募してくるか障害者雇用促進会で面接した方の中途採用である。特別支援学校からの採用は、現在では、複数の特別支援学校と連携し、生徒の職場実習を積極的に受け入れて毎年1~2名の定期採用に繋げている。(「3.定着の成功要因」で詳細後述)
(3)従事内容
精神障害者と知的障害者が実際に従事している仕事内容の一部を紹介する。
- 宅急便仕分け
宅急便の仕分けの大部分は人の手を介している。郵便番号に似た6ケタの数字で構成された仕分けコードを見て行き先ごとに仕分けをする。
- クロネコメール便仕分け
宅急便仕分けとほぼ同じ業務内容であるが、宅急便のように重量のあるものはないので、女性でも安心して業務に取り組むことができる。
- 送り状印字
宅急便の送り状に市町村や郵便番号などを入力し、印刷機にセットし印刷する作業。1日に1万枚から多い時では、2万枚ほど印刷する。
また、これ以外にも清掃や事務、荷受をこなす障害者もいて、群馬主管支店ではもはや日常に欠かせない人材となっている。どのような部署に配置するかは、作業環境、仕事上の安全面などを考慮した上で、個人の体調・状況に合わせて決めている。配属の判断材料となるのはあくまでも個人の特性やパーソナリティーであり、例えば精神障害だからこの業務、知的障害だからこの業務、と障害別に決めることはしていない。
3. 定着の成功要因、ヤマト運輸に勤めて
(1)定着の成功要因
群馬主管支店には障害者指導の担当者(障害者職業生活相談員)を置いているが、特別なことは一切していない。あえて取り組んでいることをあげるとすれば、次の2点があげられる。
- 連絡ノート
指導担当者・障害のある社員・その親と三者の間でやり取りするノートで、指導担当者は会社での出来事を、本人は一日頑張ったことや感じたことを、親は家での会話の内容や出来事を記入し、常に連絡しあっている。抵抗がある人に強制してはいないが、このノートを活用することで三者間の信頼関係を築くことができた。 - 障害者就労支援機関との連携
毎年、特別支援学校に求人を出していることは先にも述べたが、4月に新卒として採用した後も、出身校の進路指導の先生や群馬障害者職業センターのジョブコーチと連絡を密に取り、近況の報告などを行っている。その結果を踏まえて必要であれば面談の機会を設けるなど、職場以外の人とも仕事について話をする時間を作るようにしている。
これら2点の取組みからわかるように、最も重要視しているのは、コミュニケーションと周囲の協力である。指導担当者が休みの日でも周りの社員が自然と教育係のような役割となることができるため障害者が孤立してしまうことがない。また、社員は誰が何の障害を抱えているかなど気にせずに接しているので、障害のない社員とある社員の垣根を感じることがなく、障害者にとっては良い職場環境になっているのではないか。現にここ数年、職場環境が理由で退職した障害者はいない。
精神障害や知的障害のある社員の指導担当者であり、このような職場環境を作り出しているNさんに、心掛けていることは何か尋ねたところ、次のような答えが返ってきた。
「一番は、出勤してきた時に顔色や様子を見て体調を確認することです。何か指示する時も指示を1つ出して、その作業が終わるまで次の指示は出しません。終わったのを確認したら次の指示を出すという風に気をつけていますが、それ以外は特別扱いは一切しません。また、担当者だからといって一人で抱えこまないことも大切です。連絡ノートは私が担当者になりたての頃、手一杯になってしまい、始めたのがきっかけでした。親御さんなどご家族の方と接する機会を積極的に取り入れると、自分の負担も軽くなりました。あとは周りの人の協力が本当に大切です。一人ではとてもやり切れないと思います。みんな定年までうちで働きたいと言っていますので、早く一人前になってもらうのが目標です。」
頼る頼られるという良い意味での依存関係ができているのも、障害者雇用成功の大きな要因である。
(2)ヤマト運輸に勤めて
今回、精神障害のある社員2名(Cさん・Dさん)に話を聞いてみた。
- Cさん
「入社7年目になります。担当業務は、建物内の清掃です。インターネットの求人を見て応募しました。週5日で時間は8時~16時の勤務をしています。入社当初は当時の人事担当者と群馬障害者職業センターのジョブコーチさんに指導してもらいました。ジョブコーチさんには、掃除の順番を決めていただいたり、掃除の仕方に対するアドバイスをいただいたり、仕事上の悩みを相談して解決してもらいました。今では部屋の利用状況などを見て自分で工夫しながら掃除をしています。他にもどうすればよりキレイになるか、どうすれば早く掃除を終わらせられるかなど常に考えながら働いています。これまで色々な職場で働きましたが、ここはチームワークがいいなと感じます。仕事は大変ですが、これからも【とにかくキレイに】を目標に頑張っていきます。」 - Dさん
「入社丸7年になりました。宅急便の荷下ろしやクロネコメール便の仕分けをしています。障害者雇用促進会に参加した時にヤマト運輸の募集を見たのがきっかけです。はじめは午前中勤務だけでしたが、いまでは週5日の10~17時の勤務です。生活上、規則正しい生活をし体調管理をしっかりしています。以前、他の会社に勤めていましたが、仕事上のことでいちいち指摘されるのが苦痛でした。ここでは、教えてもらうところはしっかり教えてもらい、任せるところは任せてくれるのでとても働きやすいです。ここは自分に非常にあっていて、定年まで働きたいです。」
4. 障害者雇用の効果と課題、今後の展望
障害のある社員が一生懸命業務に励んでいる姿には、障害のない社員も感化され、良い相乗効果が生まれた。また現在では、障害のある社員の中には、アルバイト社員に仕事を教えている者もおり、その成長とともに障害者に対する認識も変化してきた。
群馬主管支店では、ただ雇用するということが目的なのではなく、長く勤めてもらうことに主眼を置いてきた。現在も定期的な採用を行っているが、本音を言うと年間でもっとたくさんの障害者を雇用したいと考えている。しかしそのためには、障害者の採用・定着担当者の体制確保や構内の安全確保、社員の一層の理解と協力を押し進めていかなくてはいけない。
今後、これらの課題を克服し小倉昌男の理想としていた【心身に障害のある人々の「自立」と「社会参加」】という理念を社員一丸となり実現していきたい。
人事総務課 高木 淳一
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