弱い立場の人や困っている人を放っておけないという思いを取り組みの原点とする事例
- 事業所名
- 株式会社やまと
- 所在地
- 山梨県韮崎市
- 事業内容
- 食品スーパーマーケット
- 従業員数
- 320名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 4 パック詰め、調理補助、接客 内部障害 知的障害 4 パック詰め、調理補助、接客 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
1. 事業所の概要、取り組みの経緯・背景・きっかけ
(1)事業所概要
- 事業内容
当社は食品スーパーであり、現在16店舗を展開している。
エコ活動として、お持ちいただいた家庭の生ゴミをポイントとして還元したり、できた堆肥で野菜を作って販売もしている。そして、ペットボトルのキャップの回収を行い、発展途上国の子どもたちにワクチンを送る取り組みも行っている。また、レジ袋有料化やその収支報告をするなど、環境への取り組みは特筆に値する。
さらには、経営が厳しくなったローカルスーパーの再生支援にも取り組んでいる。 - 企業理念等
大正元(1912)年、旬の新鮮な魚を地元の人々に食べていただきたいという思いから魚屋としてスタートした。現在は鮮魚のみならず食料全般を取扱うスーパーとして、地域に根を張るにはその「土」が大事であるという思いから地域密着ならぬ「地域土着」を目指している。 - 組織構成
組織は、管理部と営業本部から成る。
- 障害者雇用の理念
一般的には、法定雇用率の確保やCSR(企業の社会的責任)としての地域雇用への貢献等が目的というケースが少なくないが、同社の場合は、「弱い立場の人や困っている人を放っておけない、何とかしたい」という、人としての根源的な思いを事業経営のモットーとしており、障害者雇用の理念と同義となっている。それは、エコ活動やローカルスーパーの再生支援とも共通するものである。即ち、義務や責任というより信念であり、あくまで自然体で、何とかしたいという気持ちに素直に従う中で、ノーマライゼーション(障害者や高齢者など社会的に不利を受けやすい人々が、社会の中で他の人々と同じように生活し、活動することが社会の本来あるべき姿であるという考え方)を実現している。また、会社の障害者雇用に対する姿勢としては、どんなに状況が厳しくとも、「障害者は絶対にリストラしない」というものであり、それが会社全体の共通認識となっている。
(2)取り組みの経緯・背景・きっかけ
障害者雇用は、50年位前(昭和38(1963)年頃)から実績があり、先代の社長の時代から採用を継続している。そのきっかけは、やはり上記の理念にある「弱い立場の人や困っている人を放っておけない」いう思いである。現在の採用のルートとしては、特別支援学校からがほとんどとなっているが、これは特別支援学校の先生の情熱に心動かされたという背景もある。
2. 取り組みの具体的な内容と効果
(1)取り組みの具体的な内容
以下については、主に知的障害者の雇用について紹介するものである。
- 労働条件等
【雇用契約など】期間の定めのない雇用契約を締結している。 【就業場所】店舗内の現場となっている。 【勤務時間】基本的にはフルタイムであるが、月172時間以下に定めている。 【賃金】月給制であり、新卒の高校卒業程度は確保している。 【通勤】 電車・バス等の公共機関や自転車などを利用しており、原則として家族による送迎等は行わない。これは、通勤手段を家族の事情等に左右されずに永続的に確保するためである。 - 仕事の内容
主に、以下のような作業を担当しているが、障害者は自社にとっての大事な戦力であり、障害のない者と作業そのものの内容は同じとなっている。
・パック詰め、運搬
・値札貼り
・調理補助(刃物や火気は使用しない)
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- 助成金等の活用
障害者雇用に関し、特に助成金を活用したことはない。また、助成金とは異なるが、障害者雇用調整金は受給している。
- 労務管理上の工夫
長年の雇用実績から得られた雇用のポイントは次のとおりであるが、最も大切なのは、親の気持ちで向き合うことである。親の気持ちを持って接することで、相互に分かり合い、意思の疎通を図ることが可能となる。その結果、健康問題等を除き、途中で退職する者は一人もおらず、定着率はほぼ100%を維持している。
【ポイント1】採用の見極め
採用については、特別支援学校から職場実習を受け入れ採用の見極めを行っている。この際、担任の先生との面談が非常に重要である。また、適性に関しては1週間くらいで判断は可能である。
【ポイント2】パートナーの配置
職場の中で、障害者一人につき一人の障害のない社員を「パートナー」として配置し、継続的に指導等の支援をするようにしている。パートナーの人選については特に限定することなく、社員誰もが対象となり、例えば女性のパート社員や年配者が任命されることもある。即ち、OJTを通じて、共に働くような運用となっている。また、パートナーとなる社員にとっても、自身の育成や成長の機会となることは言うまでもない。
【ポイント3】声かけ
社内での様子をよく見て、常に声をかけ、決して孤立させないようにしている。また、社員一人ひとりの名札を社長自らが手作りし、それを手渡すことで、信頼関係やつながりを高めている。
【ポイント4】報奨制度
お客様から感謝の言葉をいただいたり、成果を上げたときなどは、金一封を報奨として支給している。その場合、障害者本人だけではなく、その障害者のパートナーに対しても支給し、共に喜びを分かち合うようにしている。これは、パートナー自身のモチベーションに関してもプラスの効果がある。
【ポイント5】よく話す
指導や注意する際は、決して叱り飛ばすことはせず、話すことで理解を深めるようにしている。
【ポイント6】差別禁止
社員一人ひとりが公正・公平に接することが不可欠であり、差別と受け止められるような言動は厳に慎むようにしている。
【ポイント7】モチベーションを引き出す賃金設定
上記の労働条件のところで月給制となっているが、それは給料によって生活を維持し、余暇や趣味等にも使え、貯金もできるのが当然という認識からである。それが働く励みになり、モチベーションの向上につながっている。
(2)取り組みの効果
取り組みの効果として、職場が上手く回っていることが上げられる。実際に障害者が配属されている職場では過去に揉め事が起こったことがなく、これは障害者を雇用することで人間関係が円滑化されているためと考えられる。特に、障害者の明るさや笑顔の効果は絶大であり、職場全体を朗らかな雰囲気に包んでくれるので、会社としても非常にありがたいことである。
障害者と共に働くことにより、気配りや、他者との接し方が自然と磨かれ、職場全体がレベルアップしていることが感じられる。なお、パートナーに任命された者は、社員として、また人として成長していることが実感できる。よく見ることで観察力も高まり、人を思いやる気持ちが育まれることは明らかである。
また、障害者が懸命に仕事をする姿を目の当たりにすることで、他の社員が頑張らないわけにはいかず、障害のない者にとってプラスの刺激になっている。
即ち、当社では障害者だけの部署を作って雇用を確保するのではなく障害者も障害のない者も混在するのが自然であり、共に仲間として、家族として働くことで、もろもろの相乗効果を生んでいるのである。まさしく、ノーマライゼーションそのものと言っても過言ではない。
3. 今後の課題と対策・展望
(1)課題
課題とまでは言えないが、難しさという点では、いくら親の気持ちで向き合うとは言ってもプライバシーの問題もあり、交友関係など私生活の領域にまで配慮を広げることが困難な場合があることが挙げられる。その結果、思いがけない形で雇用契約を維持できなくなるケースもあり、歯がゆさを感じることもある。
(2)対策・展望
採用については、特別支援学校から新しい話があれば検討したいと考えている。今後も、社員が自分の娘や息子のようなつもりで対応していくことを胸に、家族的な職場作りを継続していくことを心掛けている。
(3)総括
最後に、今後障害者雇用に取り組む企業に対してアドバイスするとすれば、次のとおりであるが、とりあえず一人でもよいから雇用してみれば、何とかなるものである。特に、スーパー業界には、障害者雇用の余地がまだまだあると思われる。
- とりあえず一人雇用してみる。(雇用しなければ始まらない。案ずるより産むが易し)
- 社長自らが障害者雇用に、また障害者本人に直接関わる。(間接的では現場感覚がつかめない)
- 長い目で見る。(障害者は成長するまで時間がかかる場合がある)
- 障害者雇用は当然と考える。(義務でも、責任でも、名誉でもなく普通のこと)
以上であるが、障害者雇用の取り組みは、義務でも責任でもなく、ただ「弱い立場の人や困っている人を放っておけない」という思いの表れであり、それが職場の円滑化と働きやすさという素晴らしい成果をもたらしたことになる。そしてその成果が、雇用の維持と新規雇用を可能にし、今後もプラスの循環がますます大きくなることを確信させる事例である。
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