障害者雇用と農業、地域振興を組み合わせた事例
- 事業所名
- 株式会社センコースクールファーム鳥取
- 所在地
- 鳥取県東伯郡
- 事業内容
- 水耕栽培による野菜の生産販売・栽培室でのきのこ類の生産販売
- 従業員数
- 39名
- うち障害者数
- 25名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 栽培・収穫業務 肢体不自由 10 栽培・収穫・梱包・出荷・事務業務 内部障害 知的障害 11 栽培・収穫・梱包・加工業務 精神障害 3 栽培・収穫・梱包・加工業務 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯と背景
(1)事業所の概要
株式会社センコースクールファーム鳥取は「センコー株式会社」の特例子会社として鳥取県東伯郡に2010(平成22)年4月に設立された会社である(特例子会社認定は2011(平成23)年1月6日)。
親会社のセンコー株式会社は大阪市に本社を置く総合物流企業で事業所数340カ所、従業員数8,889名、車両数3,240台、物流センター総面積221.1万㎡の規模を持ち、物流業界では大手の会社である(いずれも2013(平成25)年3月31日現在)。
株式会社センコースクールファーム鳥取の事業種目は「農業」で、鳥取県東伯郡にある廃校(旧羽合西小学校)を利用して事業所とし、校庭にビニールハウスを建設して水耕栽培で野菜を栽培し、校舎の教室を改造してキノコ類の栽培をしている。
生産開始は2010(平成22)年8月からで、当初は10名程度の規模であったが、現在従業員は作業を受け持つ障害者が25名、高齢者(60~65歳)が10名、事務が2名と親会社からの出向者2名の計39名で運営されている。
◇施設規模
廃校利用: | グランド・土地5150㎡ 校舎1460㎡ プール800㎡ |
新規設備: | ビニールハウス(8m×16m)6棟 水耕ベッド24基 菌床きのこ栽培施設(80.85㎡) 冷蔵施設(65.65㎡) 食品加工施設(112.5㎡) |
◇生産品目
・水耕栽培: | チンゲン菜、小松菜、ルッコラ等の葉物野菜 |
・キノコ栽培: | メガ舞茸、キクラゲ、シイタケ |
・食品加工: | 舞茸、キクラゲの水煮加工品 タケノコ水煮加工品 トマト加工品 ラーメンスープ |
◇販売先
岡山県の青果会社(委託生産販売)
鳥取市、倉吉市、米子市の青果市場
JA鳥取中央、直売所
地元のスーパー、道の駅、旅館、ホテル、飲食店
(2)障害者雇用の経緯と背景
- 鳥取県進出
センコー株式会社は、鳥取県産業振興機構の紹介で鳥取県の農産物アンテナショップへの流通を検討する機会があり、その時から繋がりが生まれ、農業進出と廃校利用の検討を進める中で、鳥取県への進出が決定し2010(平成22年)年3月に鳥取県、湯梨浜町との間で進出協定が締結され、進出が可能となった。
- 農業事業参入
全国で物流事業を展開するセンコー株式会社では、国内の物流量が年々減少して行く中で「これからは、物流会社も"ものづくり"をして自分達の運ぶものを自分達で作る時代」との方針の下、食料自給率の向上、耕作放棄地の解消、環境保全の高まりなど農業を取り巻く環境変化に注目し農業事業への参入を検討して具体化した。
- 廃校利用
この地域に着目した一因として廃校がある。全国的に廃校利用が問題になる中、湯梨浜町でも社会情勢として少子化による小学校の統廃合により3校の廃校があり、学校跡地施設利用検討委員会により利用検討がされていたが結論が出ていなかった。その中でセンコースクールファーム鳥取の企業進出の話が具体化した。
3校の廃校の中では旧羽合西小学校跡地は敷地が平坦で建設年度が比較的新しく、山陰道「はわいIC」の近くに位置し交通の利便性も高いことから決定した。当然ながら廃校を利用することで建設コストを低廉に抑えることができたし、賃借料も湯梨浜町が支援策として通例の半額程度にして頂いている。
- 障害者雇用率
センコー株式会社の障害者雇用率はグループ全体では2009(平成21)年には2.20%で法定雇用率を達成していたが、上記のような背景と経過により、会社の経営基本方針「当社は先進的物流、情報技術で最高のサービスを創造し提供することにより株主、お客様、社員をはじめ、社会やすべての人々に貢献し、信頼される企業をめざす」を基にして、CSR(企業の社会的責任)経営を強化して社会的貢献を果たすため、障害者雇用をより進めることを目的として、センコースクールファーム鳥取を設立した。
その結果、2012(平成24)年には障害者雇用率が3.01%に達している。
2. 取り組みの内容
(1)取り入れた雇用支援策
- トライアル雇用
採用時に3ヶ月間のトライアル期間を設け本人の適性を見ながら採用を行った。
- ジョブコーチ支援
採用時から鳥取障害者職業センターのジョブコーチに来て頂き、支援計画に基づいて、障害者に対して直接指導を、会社に対しては助言、指導をして頂いた。
- リワーク支援(長期休暇者の職場復帰)
休職中の精神障害者がいたが障害者職業センターの障害者職業カウンセラーから支援・助言を受けることでスムーズな職場復帰が可能となった。
- 特別支援学校他の実習受入れ
鳥取県内の特別支援学校の職業実習を受け入れて就労支援を行った。その結果2011(平成23)年4月に米子養護学校、倉吉養護学校、倉吉高等技術専門校から各1名計3名の学卒者の入社式をすることができた。
- 助成金
a 特例子会社等設立促進助成金・地域雇用開発助成金(鳥取労働局)
水耕栽培の温度管理装置の設置を行い野菜の出荷量の安定化を行うことができた。また、キノコ栽培施設の拡充、食品加工機械の購入により業務量が増加したので雇用の拡大に繋がった。
b 障害者介助等助成金(高齢・障害・求職者雇用支援機構)
精神障害者のサポートを行う体制が整ったので、精神障害者の雇用拡大を行うことができた。
c バリアフリー環境整備促進事業補助金(鳥取県)
廃校を改造しスロープ、スライドドア、自動ドア、障害者用トイレの設置を行ったので車いすの身体障害者にも安心して働ける職場になった。
(2)職場配置とサポート体制
- 障害や本人の適正に応じた職場配置
水耕・キノコ・梱包・加工・露地・配送・事務等のチームを作り、本人の適正に応じた職場配置を行っている。主として高齢者がチームリーダーとなって障害者の見守りをしながら作業のサポートをし、各チームの障害者の指導を行うようにしている。
- 多種多様な連携の強化
会社生活の中では個人は色々な問題を抱えており、仕事の悩み、個人生活、家族問題、金銭問題など多岐にわたる。そのため不調になり勤務を休む人もいるが、対処方として会社だけでなく支援センター、ハローワーク、学校、保護者等に連絡を取り情報交換を行って意見を聞き、相互にサポートを行うことを重要視している。
(3)事業別の就労状況
- 水耕栽培
野菜の生産は理科教室を改造した育苗室で育苗を行ってからグランドに建設したビニールハウス6棟で生育を行い、一ヶ月から二ヶ月で収穫を行っている。
栽培管理8名、出荷梱包担当3名の障害者が従事している。水耕栽培の水は井戸水を使用し使用後の水はプールを利用して水質処理を行っている。
また、設備に使用する電気はプールの上に太陽光発電装置を設けその電気を使用している。栽培に使用するベッドは高さ80㎝程度で腰をかがめなくても作業ができるので作業者の疲労軽減に役立っている。
- キノコ栽培
廃校舎の家庭科教室を温度や湿度が調節できるクリーンルームへ改造し、舞茸、キクラゲ、シイタケを菌床栽培している。生で出荷する他は乾燥保存しキノコ乾燥品として出荷している。
5名の障害者が従事しているが、菌床で育てるので原木より軽く、ラックに収めるので作業しやすい環境になっている。
- 食品加工
技術科教室を改造した加工室で、キノコ栽培で生産した舞茸、キクラゲを水煮加工し学校給食用食材として製造出荷している。また、春先にタケノコの水煮加工を行いこれも年間を通じて学校給食用食材として加工出荷している。
タケノコ加工は鳥取県農林局とタイアップし「中部とっとりタケノコ振興会」を立ち上げ、竹林所有者から収穫されたタケノコの集荷を行うことで、竹林整備事業と連携し放置竹林対策に貢献している。この事業は鳥取県で注目されており、国内産タケノコとして学校給食用他に利用されている。
高齢者3名、障害者2名の計5名のチームで運営されており、実動は1日当たり5時間にしており、体の負担を軽減した職場となっている。
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- 露地栽培
事業所近隣の農地を借り受けし、唐辛子他サツマイモ等を生産している。
唐辛子は収穫後、乾燥、粉砕処理を行った後、唐辛子メーカーに出荷している。
作業はリーダー1名の他4名の知的障害者で行っており、会社から車で5分程度の畑で作業しているが、管理者が定期的に見回りして安全確保に努めている。
3. 取り組みの効果、今後の課題と展望
(1)取り組みの効果
- 鳥取県中部を中心としてハローワーク倉吉の指導の下採用活動を行い、障害者雇用は2010(平成22)年9名、2011(平成23)年には16名を採用し総勢25名となった。その後、退職や入社があったが2013(平成25)年現在で25名となっており、地域の障害者雇用の拡大に大きく貢献している。
- 入社した人の中には過去に会社勤務を経験した人もいるが、福祉施設から一般就労を目指して入社した人や特別支援学校から学卒採用として入社した人も多く、その人達からは「自分で給料を稼ぎ税金を納め社会保険にも加入できたことで1人前の社会人として認められて嬉しい」と言う声も聞かれた。社会福祉施設ではなく企業で社員として働くということで、社会人として自覚も芽生え、会社組織の一員として行動できるようになった。
- 野菜やキノコの製品出荷では「お客様に喜んでもらう商品作り」を目指して、社員自ら包装方法や出荷基準(品質・数量)を試行錯誤してCS経営に取り組んでいる。
- 鳥取県で農業を行うことで県民に浸透している「地産地消」の活動の一翼を担うことができている。
- 湯梨浜町で事業を継続することで廃校の有効利用と地域活性化に寄与している。
- 障害者雇用・農業・廃校利用と言った観点からの視察見学が年間200名程度ある。
- 社員1名が入社以来続けているジャベリクスローと言う競技で、2013(平成25)年10月に開催された全国障害者スポーツ大会に参加し、1位入賞した。
(2)今後の展望と課題
地域に根差した企業として雇用を創出して障害者や高齢者が無理なく働ける環境を作っていくには、安定した成長を行う必要がある。そのために新規商品開発と安定的な販売先確保による売上拡大が課題となる。今後以下の施策を実施する計画である。
- 2013(平成25)年度、LED照明室内植物工場実験設備を導入し高付加価値の作物(イチゴ、ゆーまい采の通年栽培)を生産する技術力を養成する。
- 採用と人材育成から農業生産に興味を持つ意欲的な社員を育てていく
- 遊休地を賃借して農業事業の拡大を行う。
- 地域の農産物を取り入れた斬新な加工商品を開発し販売する。
管理担当 蜂須賀 和彦
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