メンター役を担う上司が中心となって障害のある従業員を支える企業
- 事業所名
- 株式会社 秋川牧園
- 所在地
- 山口県山口市
- 事業内容
- 食品製造業
- 従業員数
- 243名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 事務作業 内部障害 知的障害 4 製造業務 精神障害 1 製造業務 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
1. 事業所概要、障害者雇用と支援への取り組み
(1)事業所概要
株式会社秋川牧園は、健康な食品づくりを目指した現会長が昭和47(1972)年に個人創業し、その後、安心・安全な食品の生産・製品化・販売までを一貫して行う企業に発展した。そして、平成12(2000)年には宅配を本格スタートさせ、地域住民の生活に密着した企業として現在に至っている。平成25(2013)年現在、秋川牧園は連結子会社(有限会社あきかわ牛乳、有限会社菊川農場、株式会社チキン食品、有限会社むつみ牧場、有限会社篠目三谷)とともに、全国のお客様へ幅広い食材を提供する会社として活躍している。農薬・化学肥料・抗生物質等の薬物や、化学添加物に頼らない安心で安全な食肉、加工食品、鶏卵、牛乳、一般食品等の製品を生産し、加工し、販売するという理念と実践は、消費者からの高い評価と信頼をこれまで集めてきた。そして、食を通じて持続可能で真に豊かな生活を社会に提案することを企業理念の一つに掲げる当社は、これまで障害者雇用にも取り組んできた。
山口市仁保の豊かな自然に囲まれた敷地には、本社社屋とともに冷凍食品工場、ミートセンター、スープ工場などがゆったりと点在し、食品の製造などが数多くの従業員の手によって進められている。
冷凍食品工場
ミートセンター
(2)障害者雇用と支援への取り組み
- 地域とのつながり(共存共栄)を目指して
当社で障害者雇用を担当している総務課長の黒瀬友伸氏と、工場内で直接的な支援にあたっている製造部次長(食品工場長)の河村洋亮氏に話を伺った。
はじめに黒瀬課長は「地域とのつながりを大切にしながら、人々との共存共栄をはかりたいと考えています。障害のない人とある人とが互いに働きながら、互いにとって良いかたちをつくっていきたいと思っています」と語る。障害のある人との共存も視野に入れてきたことが伺える。
川村食品工場長は「私が当社に入社したのは平成7(1995)年ですが、そのときには既に障害のある方が当社で働いておられました。それは、前任の工場長(現:担当取締役)に障害者雇用への理解があったことによります。そのため、一緒に働くことはあたり前、という感覚のなかで、私は勤務してきました」と語る。障害のある従業員が、自然に職場に受け入れられている様子が伝わってくる。
- これまでの障害者雇用
「これまで数年に一回、養護学校(現:特別支援学校)から生徒の受入れ依頼がありました。業務への適性や通勤条件などがうまく合えば、当社への雇用につながります。当社は事業を鶏卵から鶏肉、豚肉、牛肉へと段階的に展開してきました。障害者雇用についても同じように、最初はジョブコーチ(職場適応援助者)などからの支援をうけつつ、信頼関係を少しずつ築いていきたいと考えてきました」と河村工場長はこれまでの歩みをふり返る。
2. 株式会社秋川牧園で働く従業員への支援の様子
障害のある従業員6名を紹介しよう。全員、常勤の社員である。
(1)Aさん(左上下肢障害・身体障害者手帳「1級」判定)
Aさんは山口市内の自宅から当社に通勤している。
Aさんは、当社の営業職にあった時、脳内出血によって左上下肢に障害が残った。現在、歩行については特に支障なく、杖などは特別の場合を除いて使用していない。Aさんは、本社社屋のデスクで、右手でパソコンに入力して文書を作成したり、さらに郵便物の仕分け、電話対応、接客などの業務に従事している。
Aさんは、脳内出血の時に腎臓疾患を煩い、人工透析が必要となった。そのため、毎週火曜日・木曜日・土曜日の午後は医療機関に通院している。これらの通院の日、正午にAさんが退社することを当社は許可している。こうした理解と支援のもとで、Aさんは当社での安定した就労生活を継続している。
(2)Bさん(知的障害・療育手帳「B」判定)
Bさんは山口県内の養護学校(現:特別支援学校)の高等部を卒業して当社に入社した。山口市内にある自宅から自転車で通勤して20年目を迎えた(平成25(2013)年現在)。Bさんはスープ工場で勤務する女性である。冷凍スープの袋5本を別の大きめの袋に丁寧に詰め込むBさんの動きはスムーズである。
Bさんの部署には、Bさんを含めて従業員3~4名が配置され、終日ほぼ同じメンバーで勤務している。この中に、Bさんとこれまで一緒に勤務してきた女性の上司がいる。この上司は、人生の先輩としてBさんに丁寧にわかりやすく教える「メンター」としての役割を担ってきた。メンターとは、指示や命令によることなく、対話や助言によって相手に自発的な気づきや自律的な成長を促す役割を担う人(上司や同僚)のことである。たとえば、勤務中にBさんの集中力が途切れがちになったり、仕事ぶりが雑になったような時、この上司はBさんを叱るのではなく、適切な対処の方法をその場でわかりやすく伝えてきた。このような支援者からの支えのもとで、Bさんは安定した就労生活を送ることができている。
Bさんは仕事がうまくできないような時には今でも涙ぐむことがあるが、元気な声で挨拶のできる点は周囲から高く評価されている。欠勤もほとんどなく、午前8時には出社し、午後5時まで元気に働いている。
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(3)Cさん(知的障害・療育手帳「B」判定)
Cさんは山口県内の養護学校(現:特別支援学校)の高等部を卒業して当社に入社した。山口市内にある自宅から自転車で通勤して14年目を迎えた。Cさんは、冷凍食品工場で勤務する男性である。主に、機械、器具の洗浄作業等の製造の補助的業務、そして原料肉の準備など、力のいる作業に従事している。洗浄場は周囲の従業員から少々距離があるが、Cさんは丁寧に作業に取り組んでいる。
Cさんは以前、いわゆる悪徳商法に関与しかけたことがあったが、当社と出身養護学校の先生とが協力して対応し、その危機を回避することができた。また、ある時Cさんが「今とは別の仕事につきたい」という思いを当社に伝えてきた。この時には、山口市内にある障害者就業・生活支援センターの支援員と河村工場長との二人でまずCさんの思いを聞き、語り合い、説得していった。その結果、Cさんは思いを変え、今の仕事に再び打ち込み始めた。
Cさんにも、前述のBさんのように、メンター役を担う上司(男性)がいる。たとえば、休日に遊び過ぎて翌日に疲れが残ったような時、上司はCさんに対して、就労生活にはけじめが必要であることなどをアドバイスしている。
現在、Cさんは毎日退社する直前に工場の二階にある事務所に出向き上司と話をする。このことで意思疎通を図っている(2年前(平成23(2011)年頃)までは日記帳の活用を通して意思疎通を図っていた)。Cさんがしばらく散髪に行っていない様子であったり、無精ひげが伸びていたりすれば、Cさんの心が不安定になっていることも推測されるので、当社としての速い対応が可能となる。
なお、Cさんは体力があるため、当社は残業を依頼することがある。また、元気な声で挨拶のできるCさんは周囲から高く評価されている。ただ、体調不良が予測されるような時(「腰が痛いです」等の発言が本人からあった時)には、残業依頼は取りやめている。
(4)Dさん(知的障害・療育手帳「B」判定)
Dさんは山口県内の養護学校(現:特別支援学校)の高等部を卒業して当社に入社した。Dさんは家庭の事情により、山口市内にある知的障害者グループホームで生活しつつ、自転車で当社に通勤して10年目を迎えた。Dさんは、冷凍食品工場で勤務する女性である。主に、肉を切ったり包装したりする作業に従事している。
Dさんは、入社から現在までの間に大きく成長した一人である。Dさんは、養護学校が実施する職場実習で初めて来社し、その後当社に入社することができた。当初は仕事をなんとかこなしていたものの、うまく慣れることができず、そのうち出社できなくなった。出社できた時でも、建物に入ることができない状態であったため、山口市内にある相談支援事業所の支援員からの支援も受けた。このDさんを温かく支えたのが、メンター役を担う上司(女性)である。この上司は、Dさんが出社できた日にはうまく仕事ができるように語りかけたり、寄り添って一緒に仕事をした。こうした支えにより、Dさんは次第に自信を持ち始め、今では自ら元気に従業員に話しかけ、周りを明るくしている。
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(5)Eさん(知的障害・療育手帳「B」判定)
Eさんは山口県内の特別支援学校の産業科を卒業して当社に入った。Eさんは、ミートセンターで勤務する男性である。カット肉をフリーザーに流す作業や、袋にラベルを貼る作業、肉を計量する作業に従事している。
Eさんは、特別支援学校が実施する職場実習で初めて来社したが、真面目すぎるくらいの勤務態度で実習期間を終えた。当社としては、Eさんに対して「無理しすぎぬように」という指示を出す必要を感じた程である。その後当社に入社したEさんは、悩みを一人で抱えきれず、情緒不安定になった時もあった。Eさんは仕事をこなせるがゆえに、ややもすると周囲がEさんに安心してしまいがちになる。そこで当社では日頃からEさんに声をかけ、適切に意思疎通を図る取り組みを続けている。
(6)Fさん(知的障害・療育手帳「B」判定)
Fさんは山口県内の特別支援学校の産業科を卒業して当社に入った。山口市内にある自宅から自転車で通勤している。Fさんは、冷凍食品工場で勤務する女性である。主に、チキンナゲットや唐揚げ等を袋に入れて計量する作業に従事している。
Fさんは、入社するまで当社で4回もの職場実習を積み重ねた。入社してから、腹痛で動けなくなったことが1回あったが、その後は集中力を跡切れさすことなく勤務している。挨拶の声が以前は小さかったが、今は本人の努力で少しずつ大きくなっている。仕事に真面目に取り組むFさんは表情も良く、周囲から高い評価を受けている。このFさんを支えているのが、メンター役を担う上司(女性)である。この上司は、Fさんの近くにいて、休憩時間や昼食も一緒にとっている。
3. 共存共栄を目指す企業
障害のある6名の従業員は、それぞれの部署で今日もその実力を発揮しながら勤務している。そして、メンター役を担う上司のいることが当社の特徴となっている。そこで、当社における支援の理念について、黒瀬課長と河村工場長に伺った。
「当社では、日頃から面倒見の良い方にメンター役を担ってもらっています。"障害のある従業員さんと一緒に働いてもらうので、よろしくお願いしますね"とさりげなく依頼しています。」
さりげない依頼の仕方が、肩肘のはらぬ支援の展開につながっているのであろう。
「メンター役の上司だけが、障害のある従業員を支えようとしているのではありません。当社では、メンター役の上司を含め、周りにいる複数の同僚も障害のある従業員を支えようとしています。」
当社はメンター役を、組織という視点から捉えている。
「良い職場とは、安心して力を発揮できる会社です。縁あって当社に来られた方々ですから、当社がしっかり支え、一緒に働きたいと思っています。」
株式会社 秋川牧園は、障害のある人との共存共栄も視野に入れつつ、企業としての社会的責任も果たしていく経営を今日も続けている。
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