働く意欲に満ちた人には、みんなにチャンスを
- 事業所名
- 社会福祉法人 山陰会 就労継続支援A型事業所「正吉」
- 所在地
- 長崎県南島原市
- 事業内容
- 法人の事業:第1種、第2種社会福祉事業
事業所の事業:就労継続支援A型事業 - 従業員数
- 150名(正吉)
- うち障害者数
- 30名(正吉)
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 内部障害 知的障害 14 精神障害 15 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
社会福祉法人山陰会(やまかげかい)は、昭和40(1965)年、山陰保育園設立からスタートし、平成25(2013)年現在、障害者支援施設1所、障害福祉サービス事業16事業、保育所2所の事業を展開している。しかし、その道のりは決して順風満帆ではなかった。
平成4(1992)年に雲仙普賢岳災害で避難生活を余儀なくされ、壊滅的ダメージと身も心も憔悴しきった状態まで追い込まれた。
雲仙普賢岳災害から、障害者の通勤寮や福祉ホーム、保育園は移転し、障害者更生施設は元の場所に戻り復旧を図り、地域と共に復興を成し遂げてきた経緯がある。
法人の運営方針は、以下の五つを掲げている。
- 利用者(児)の人権、人間成長と発達を保障する。
- 利用者(児)の自己決定を大切にする。
- 地域への積極的参加と支えあいの精神をもつ。(自立と共生)
- 時代への変化に対応する。
- 苦情解決への取り組み。
そして、障害がある人を30名雇用し、上の運営方針を実践している事業所が就労継続支援A型事業所「正吉」である。
正吉は、障害者自立支援法(現 障害者総合支援法)に基づく障害福祉サービスのうち就労継続支援A型事業を行う。この事業は一般企業への就職が困難な障害者に就労機会を提供すると共に、生産活動を通じて、一般企業への就職のための知識と能力の向上に必要な訓練などの障害福祉サービスを供与することを目的としている。また、正吉を利用する障害者とは雇用契約を結び、原則として最低賃金を保障している。
平成15(2003)年に精神障害者の福祉工場としてスタートし、平成21(2009)年に就労継続支援A型事業所へ移行した。福祉施設であり、かつ事業活動を行い収益を追求する企業体としての側面を併せ持つ施設である。そのための職員が配置され、施設を利用する障害者は従業員と呼んでいる。
事業は「給食」と「製茶」を行っている。給食は地域の施設、グループホーム、学校、企業個人宅へ朝、昼、夜の食事を合計約650食、毎日提供している。製茶は雲仙のホテルや老人ホーム、直売所等へ販売している。
(2)障害者雇用の経緯
正吉は、「地域老人の人達の為に何かお役に立ちたい。それと、食事について在宅福祉の皆様方に、私達の栄養あるうまい食事を配達するサービスを実施したい」との法人創設者の本田哲郎氏の思いがあった。また、長崎県の南部地域に精神障害者の働く場所がなく、「働きたいのに働けない」という思いと状況から、給食を事業とする精神障害者の福祉工場として設立された。
2. 取り組みの内容と効果
(1)取り組みの内容
- 支援機関との連携
障害者自立支援法へ移行し、障害者への相談支援事業が活発化すると、「仕事をしたいとの相談がありますが、雇用できますか」といった問い合わせの連絡が障害者就業・生活支援センターから入るようになり、雇用するケースが大半を占めるようになってきた。
障害者支援センターはあらゆる関係機関と連携を図っている。市町村の福祉事務所、医療機関、学校、福祉事業所、ハローワーク、企業等と包括的にネットワークを構築している。その為、雇用に関することだけではなく、あらゆる問題の解決にネットワークを通し連携を図れるようになっている。 - 事業所の取り組み
健康管理と対人関係への支援は重要である。特に精神障害者は体調を崩しやすく、そのため欠勤や早退が多くなり、症状がひどくなると入院となり辞めてしまうケースが一番多い。そのため早期に体調の変化に気付き、体調を崩す原因が何なのか、職場に原因があれば早急に改善を図り、生活に原因があれば家族や世話人、担当のワーカー、市等との協力を図り改善していく。また、日常的に話を聞くなどしてストレスの緩和を図ることもとても大切である。
そして、主治医と連携を図ることが大事で、その役割を担うのが精神保健福祉士である。
正吉において、平成15(2003)年の創業から現在までで辞職した人の数は、創業当初の平成16(2004)年には5名で、そのほとんどが体調不良によるものであった。この数からも、当初は精神障害者への支援が不十分であったことは事実で、職員のスキルアップを図り、その翌年からは2~3名で推移している。
対人関係においては、次のようなことで苦労したこともある。
正吉は、もともと精神障害者の福祉工場としてスタートしている。自立支援法に移行後は、精神障害者のみではなく知的障害者の受入れも増えてきた。精神障害者は能力が高く、厨房でも魚をさばいたり、調理をしたり、オードブルを盛り付けたりする人が多く、中には一般企業での調理経験者もいる。それに対し知的障害者は、高い技術はなかなか習得が難しい。掃除や洗浄、ごはんの盛り付け、下処理、野菜切りなどである。ただ、欠勤はほとんどどなく、根気よく仕事を続けることができる。
当初は、精神障害者は、知的障害者を理解できなかった。「なんで、あの人と給料が一緒ですか」、「何もできんとに」といった不満を訴える人も多かった。プライドも高い。納得いかずに欠勤する人もいた。
しかし、職員の支援と精神障害者本人たちが知的障害者と関わって行くうちに、知的障害者が掃除や洗浄、下処理、単純な作業を行ってくれることで、自分たちは調理や野菜切り、オードブルの盛り付けに専念できること、知的障害者が休まず真面目に仕事に出ていることなどから、知的障害者に対する考え方が変わり、対人関係もよくなってきた。
食事を提供するため365日無休で、職員、従業員全員が揃った旅行などの行事もできない。しかし、従業員(障害者)が自ら計画し、調理して花見や焼き肉会、忘年会などを催し、日頃の労と親睦を図っている。今は、それぞれの作業の分担を理解し、最高のチームワークで仕事ができている。
- 雇用の状況
就労継続A型事業所になると、雇用関係助成金等で受給不可になるケースが出てきた。
「トライアル雇用奨励金」は、本採用前に職場環境に適応することを容易にすることや障害者雇用の経験の浅い事業主が試行的に雇用することを支援する目的があり、就労継続A型事業所の本来業務と近い性格を有するものであることから受給の対象とはならなくなっている。また、「職場適応訓練」は、当該訓練の実施の可否について、職場適応訓練実施要項及び職場訓練受講指示要領の規定に従い個別に判断するとなっており、各種雇用関係助成金等を利用するケースがなくなっている。
トライアル雇用も職場適応訓練も本採用前の見極めに当たって、有効な制度であると考えているが、利用できないかわりに、正吉では近年、独自に実習を経たうえの雇用をするようにしている。本人の能力・経験・障害の程度から実習期間は3日~3週間程度行っている。
ここで、独自に行っている実習を経て採用した身体障害者(正吉で唯一1名働いている。)Aさんの事例を紹介したい。
Aさんは障害者支援センターからの依頼で平成23(2011)年6月から雇用している。
年齢は平成23(2011)年当時47歳、男性、既婚者で奥さんや子供もいる。平成20(2008)年に脳梗塞で倒れ、左半身麻痺が残った。居酒屋で働いていた経緯から調理の経験もあり、正吉への就労を希望された。
Aさんへの個別支援フローチャートに沿って、手順を紹介していこう。
《Aさんとの面接(1次アセスメント)》
- 必要な書類、履歴書、主治医の意見書の提出を受ける
- 障害者自立支援法利用に係る障害福祉サービス受給者証の取得手続きを説明
- 実習期間を設定(今回1週間)する
- 実習までに検便検査を行うように指示
- 事業所と本人の間で実習の覚書を交わす
《実習の開始》
- 実習に入ると、Aさんの調理の経験を確認するため、厨房で掃除、洗浄、下処理、野菜切りを体験するが、脳梗塞の後遺症で、指示や作業内容をすぐに忘れてしまう記憶障害もあった。
- また身体麻痺により、立ち姿勢を維持することが困難で、足の痛みを訴えられる。
- 職員会議で、厨房での作業は難しいと判断。本人、家族と相談して製茶の作業にシフトする。本人や家族はリハビリを兼ねて調理仕事ができるようになればと望んでいたからだ。製茶の仕事は、座って出来る作業で、最低必要な作業内容は実習期間でできるようになった。
《Aさん障害福祉サービス受給者証を取得》
- 受給者証の確認(市町村で支給された障害福祉サービスを受ける証明書)
《2次アセスメント》
- ご本人の状態を再確認
- ご本人、家族の希望を確認
《受け入れ協議》
《サービス利用契約》
- 個別の支援計画を作成。目標は職場に慣れ、日中活動の場を提供する。
《個別支援プログラム作成》
《支援スタート(雇用スタート)》
その後、現在に至るまで就労を続けている。
(2)取り組みの効果
障害者が働くことは自立につながっていく。そこに大きな狙いがある。
平成25(2013)年現在、雇用している障害者の生活の場所は自宅19名、グループホーム4名、宿泊型自立訓練7名となっている。就労したことで、生活の場が施設であった人が、自宅やグループホーム、宿泊型自立訓練へと移行した。その数は13名。家族で生活している人も、自分の収入で家計を支えている人が多い。
3. 今後の展望と課題
今後、グループホームや高齢者の在宅が増加し給食の需要はまだまだ伸びてくる。
しかし、障害者雇用の枠には限界があり、現状の人員から増やすことが困難となってきた。たとえ、定員枠を増やしたところで、ハード面にも限界があり、調理を行うスペースに人が溢れてしまう。これでは働く意欲があっても、チャンスを与えることができない。
それには、まず個々の能力を高め生産性を高めることである。まだまだ従業員には能力がある。やる気がある。収入が上がれば従業員の賃金へ還元できる。みんなに期待している。
そして、技術が上がれば、一般企業への就労へ繋げたい。中には調理師免許取得を目指している従業員もいる。是非、叶えてもらいたいし、その為の協力は惜しまない。
本来、一般企業への就職ができなかった人が、正吉で働いている。しかし、これまで一般企業へ就職するために辞められた人はいない。調理の技術を磨き、健康管理ができ、対人関係を保つことができれば、一般企業での就労も可能であると考えている。従業員の滞留化を解消し、働く意欲に満ちた人には、みんなにチャンスを与えたい。
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