育てる楽しみ、そしてなくてはならない人材に
- 事業所名
- ルートインジャパン株式会社ホテルルートイン宮崎
- 所在地
- 宮崎県宮崎市
- 事業内容
- 《ルートインジャパン株式会社》ルートインホテルズの運営・管理・企画
《ホテルルートイン宮崎》ホテル事業 - 従業員数
- 45名(ホテルルートイン宮崎)
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 2 客室清掃 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
1. 事業所の概要、障害者雇用について
(1)事業所の概要
ホテルルートイン宮崎は、宮崎市の繁華街の中心に立地し、JR宮崎駅から徒歩10分のところにある。全国に277店舗(ホテル243/飲食店19/ゴルフ場5/温浴施設8/スポーツ施設1/スキー場1)を持つルートイングループによって運営されているホテルのひとつである。運営・管理・企画及び旅行企画全般はルートインジャパン株式会社が担う。宮崎県内には、ホテルルートイン宮崎の他に、ホテルグランティアあおしま太陽閣、ホテルルートイン延岡駅前、ホテルルートイン宮崎青島があり、全部で4店舗ある。
ルートイングループの社是には、次のようにある。
一、大切なものの為に働こう
一、夢を叶えよう
そして、企業理念は、次のとおりである。
一、独自の道を開拓し、社会に貢献し必要とされる企業を目指す。
ホテルルートイン宮崎は、ルートイングループの中でも障害者雇用を積極的に勧めているところで、障害者雇用に関する制度を効果的に活用し、様々な工夫と取組みが行われている。障害者雇用のために開発された客室清掃に関する手順書など、一般の新入社員にもわかりやすいマニュアルとして活用され、障害者を雇用することで得た「気づき」を他にも活かそうとしている点で優れている。
(2)障害者雇用について
障害者の業務内容は客室清掃で、現在のホテルルートイン宮崎の客室清掃社員は全体で20名、そのうち2名が障害者である。勤務時間は10時から15時までの5時間で、宿泊客のチェックアウトから次の宿泊客がチェックインするまでの限られた時間になる。客室清掃には、①ベッドメイク、②風呂の掃除、③机の整頓・・・など40を超える工程があり、すべての工程を決められた時間内に終えるためには、正確さと一定の速さが要求される。
そのため、ホテルルートイン宮崎では、客室清掃の社員として障害者を雇用する場合、選考の前に体験学習として作業体験を実施している。作業体験は通常1週間から2週間程度で、ジョブコーチ(職場適応援助者)を派遣してもらっている。
ジョブコーチとは障害者の業務遂行能力やコミュニケーション能力の向上支援、事業主への職務や職場環境の改善の助言等を行う障害者雇用支援事業のひとつである。作業体験では、どの程度の作業が可能か、また本人の仕事に対する意識はどうかなどを観察する。雇用見極めのために最長で1カ月間の作業体験を行うこともある。作業体験の受入れは、繁忙期の2月を避けた時期に行っている。
客室清掃の難しい点は、覚えなければならないことが多いこと、そして単に覚えただけでは対応できない点である。たとえば、客室清掃によって作られるホテルの商品としての部屋は、タオルがあるか、髪の毛は落ちてないか、ホコリはないかなど、40を超える全ての工程がクリアされなければ不良品となる。また、客室はシングル、ダブルといった部屋のタイプ、部屋の向きで配置が変わり、さらにチェックアウト後の部屋の状況は利用客の使い方によって異なっている。部屋に置いてあるものが忘れ物であるか、ゴミであるかの判別は非常に難しい。清掃する部屋のドアを開けるまでどういう状況かわからなくても、客室清掃をする障害者はそれらの変化に対応できなければならない。
また、ホテルルートイン宮崎での客室清掃は、複数で一つの部屋を清掃するペアリングではなく、一人で一部屋の全ての清掃を行う方式としている。ペアリングは、ミスがあった時にだれが責任をとるのかなどトラブルの原因になり、また障害者と障害のない社員をペアリングした場合、一人に大きな負荷になる。各自の責任で部屋を清掃するほうがその点でよいが、客室清掃のすべての工程をクリアできることが障害者にも求められることになる。
そのため、ホテルルートイン宮崎では障害者が一人で作業できるよう、ジョブコーチの協力の下に、わかりやすい「作業手順書」「確認票」などのマニュアル作成に力を入れている。現在、雇用されている障害者2名(勤務年数が2年半と2か月)は、ひと通りの仕事を覚えるのに2か月程度を要し障害のない人の3倍程度の期間が必要であった。その後も一人だけで行う作業は不安なため社員がジョブトレーナーになり、障害のない社員の場合は1月程度の指導だが、障害者の場合は1年程度指導にあたる。
2. 取組み内容と効果
(1)取組みの内容
ホテルルートイン宮崎の客室清掃は、一人ひとりが責任をもってすべてを行うことになっているため、障害者には困難な面もあるが、ジョブコーチらとともに様々な取組みが行われている。
まず、障害者にわかりやすいマニュアル作成である。わかりやすいマニュアルにするためには、利用する障害者の障害やその程度をよく理解し、それぞれに対応したものでなければならない。そこで、わかりやすいように文字や写真、そして単語カードなどを用い、それぞれの障害者にあったマニュアルをジョブコーチと共に作られている。様々なツールを使った「作業手順書」のマニュアルは、客室清掃の非常に細かい作業も含まれている。客室が商品として合格ラインに達するためにはそれらを理解しなければならないが、障害者本人も家に持ち帰って復習するなど、双方の努力が実った形となっている。
次に必要なことは、一度覚えた作業を定着させる取組みである。覚えても時間の経過とともに徐々に雑になったり、抜けが生じたりするためである。ホテルルートイン宮崎では定着させるために、本人に作業日報をつけてもらうようにしている。トレーナーが清掃後に定着しにくい部分を中心にチェックし、できなかったことを本人は作業日報に書き、自覚してもらうようにしている。ベッドのシーツのバランスや間隔といった「きれいさ」に対しては、特に本人の自覚と理解力が大切であり、非常に難しい時間のかかる取組みである。
さらに、客室清掃ではスピードが問われる。チェックアウトから次のチェックインまでの限られた時間にすべての部屋の客室清掃を終えなくてはいけない。そのため、本人が時間に意識を持つように、キッチンタイマーを使ったり、ストップウォッチで時間を測ったりと様々な工夫した取組みが行われている。本人が達成感を認識できるようにできるだけ数値化して結果を示し、作業日報には作業時間とともに万歩計で動いた歩数も記入して、障害者のコンディションの観察ができるようにしている。
これらの様々な取組みは、10日に1回行われるケース会議で話し合われる。ジョブコーチ、ジョブトレーナー、そして家族も参加し、何が得意で何が不得意なのか、そして達成感を持たせるにはどうすればよいかなど現在の取組みの確認が行われている。
上記以外の取組みは、事業所と家族で日誌の交換をし、体調管理など日ごろから家族と連携している。家族が仕事の様子を見に来たり、給料日には自宅でおいしい夕食を作ってくれたりと、本人にとって楽しみになっている。また、卒業した支援学校の担任の先生や後輩が見学に来るなど多くの人に見守られた環境になっている。
(2)取組みの効果
ホテルの客室清掃は、普通、パーツによって分担した方が効率は良いとされているが、ホテルルートイン宮崎では自立してもらうために、客室の清掃は一人で仕上げまでやってもらっている。とはいえ、品質と効率にはこだわっている。そこで、時間を意識してもらいつつ、仕事が早くなることを楽しみになるように工夫している。現在勤めている障害者は、最初の2か月の頃は勤務時間内(4時間)に2部屋の清掃がやっとだったものが1年後には9部屋になり、2年後には11部屋と障害のない社員と同じレベルにまで達することができている。
一人で仕上げまで行う客室清掃は、責任も重いが、その分やりがいもあるという。たとえば、自分が清掃した部屋には自分の氏名を書いたメッセージカードを置くが、そのカードに書かれた宿泊客のメッセージは、自分の仕事を認めてもらえたという達成感につながる。子どもの絵やメッセージなどが楽しみで、客からもらったメッセージは大切に持っているということだった。
ホテルルートイン宮崎では、障害のある人に働くことがどういうことか理解し、独り立ちしてもらいたいという思いがある。そのため、障害のある人もコミュニケーション力が必要で、助けてもらいたいときに助けてもらえるようになることが大切と考えている。ただ、彼女たちが仕事の予習・復習を自分で考えてやっている姿を周りが知り、褒められて彼女たちが嬉しそうにしている様子を見ると、今のところ心配はないようだ。障害者を雇用することで、普通の人にないものがあることを知り、彼女たちのほうが輝き、逆に優れているところもあることを感じ、彼女たちの頑張っている姿から自分も頑張ろうと思う社員も多い。
その他、障害者雇用の企業としてのメリットは次のようなこともある。それは、障害者は障害のない社員よりも時間をかけて仕事を教えて育てるが、その分仕事はずっと続けてくれることである。ホテルイートン宮崎で働く二人の障害者は、皆勤で無断欠勤は全くなく、台風のときには休むようにお願いしたくらいであるという。体調管理も家族の応援のおかげもあり、しっかりしている。長く働いてもらえることは、ホテルの最大のメリットである。そして、企業として雇用を生むということは地域貢献でもあり、会社のイメージづくりにもなる。
3. 今後の展望
ホテルを評価する場合、客室清掃はどのくらいのウエイトを占めるのか、今回の取材に対応してくれたエリア支配人代理の方に聞くと、「きれいと感じる感覚は人それぞれ異なるので難しいが、きれいという抽象的なものを具体的に見せるのが、客室であり、それがホテルの第一印象になる。その点で、ホテルの客室清掃は5割以上のウエイトを占める」と答えてくれた。そして、客室清掃で働く二人の障害者は、裏方の仕事であるがホテルルートイン宮崎の非常に重要な人材であると言われた。
そういった経験から、障害者雇用について企業が考えなければならないことは、雇用することをすぐに考えるのではなく、まずは様々な仕事をチャレンジできる機会を障害者に与えるべきだということ、そして見極めは1度や2度では難しいが、原石がそこにあり、企業としてのチャンスもそこにあるかもしれないと思い、取組むことだという。
障害者を職場に受け入れることに対し、どんな状況になるのか、どう接すればよいのか、周りの社員もどうサポートすればよいのか。こういった懸念はどの事業所も最初に考え、悩むことだろう。しかし、それを理解するには、日ごろから障害者と接触することが必要である。
ホテルルートイン宮崎の取材で、障害者雇用を果たしたホテルルートイン宮崎から障害者雇用を進めようとする企業にわかって欲しいこととして言われたことは、結局、障害があってもみんな同じ、同じ接し方で良いことをわかってもらいたいということだった。
また、「ジョブコーチによる支援事業」「障害者トライアル雇用奨励金」など様々な支援やサポート体制があることがあまり知られていないのはもったいないということも言われた。様々な制度が整っているため、事業所はそれらをうまく活用することが大切である。
ホテルルートイン宮崎では、今後、グループ全体としても障害者を受け入れられるように、これまでの経験を活かして伝承していくことが大切と考えている。
障害者雇用は、取組み方によっては多くのプラスの効果をもたらすことが今回の取材でよく理解できた。多くの事業所も障害者雇用にトライし、様々な「気づき」を得てもらいたい。
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