社長自ら一人一人の特性の理解に努め、適切な対応をする
- 事業所名
- 有限会社光成工業
- 所在地
- 岩手県一関市
- 事業内容
- 運搬用および収納保管用機器の製造・販売、土木・建設工事用設備の製造、金属プレスや溶接全般など
- 従業員数
- 88名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 1 組み立て作業 知的障害 2 塗装ライン補助、溶接ロボットオペレーター 精神障害 1 溶接ロボットオペレーター 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
創業者の村上晃良氏が昭和42(1967)年に横浜市で設立した有限会社鈴忠が昭和48(1973)年に開設した岩手工場が前身である。昭和50(1975)年に社名を有限会社東北機工に、昭和54(1979)年に現在の有限会社光成工業に変更した。それまでは運輸業・金属プレス加工業が主体だったが、現在の社名に変更するとともに、事業主体も現在の運搬用・収納保管用機器の製造に変更したという。
東日本大震災後は仮設住宅の建築用資材の受注が多く、今は建築現場用のプレハブを毎月50~60棟分、受注を受けている。取材時は本社工場敷地内で新工場建築など設備投資が行われていた。本社工場のほか、本社周辺に2工場、秋田県平鹿町にも工場がある。
また、3年前に2代目社長に就任した耕一氏は、地元の青年会議所のメンバーとして地域おこしにも積極的に関わっている。その結果としてタウン誌の発行などの事業も行っており、地元の若者の雇用に貢献している。
(2)障害者雇用の経緯
創業者の村上晃良氏が岩手工場を設立したのは、「地元の若者に雇用の場を!」という想いからだった。光成工業として現在の事業を行うようになってからも、近所の兼業農家の人たちを中心に雇用している。同社が立地する霜後地域は市内中心部から離れた里山地帯で、兼業農家の人たちの街中への就業が難しい。晃良氏はそうした人たちに就労の場を提供したいと願ったのだった。
その中に内部疾患の障害を抱える男性がいた。たまたま男性の父親もかつて同社で働いていたという縁もあって採用した。組み立て作業を担当し、50歳前後で、現在も勤務している。
その後は会社の拡大とともに、高齢者や女性、障害者の雇用に積極的に取り組むようになった。知的障害者の採用に当たっては、隣接する奥州市前沢区の前沢明峰支援学校の先生に「近所に住む学生で、就労を希望する人がいたら紹介してほしい」と依頼した。その結果、4年前と2年前に一人ずつ知的障害の男性が同校卒業後にやってきたという。また4年前には、市内にある一関広域障害者就業・生活支援センター「メイフラワー」で訓練を受けてきた精神障害の男性も採用した。同社が「近所に住んでいる人」にこだわっているのは、長く働いてもらいたいからである。耕一氏は次のように説明する。
「仕事に慣れた頃にやめられるのは、雇用側にとっても本人にとっても周囲の人間にとっても良いことではありません。でも実際、通うのが大変という事実はやめる理由にもなりえるでしょう。そこで、基本的に自転車で通えるような近所の人に限定したんです。ちなみに彼らの中には入社後自動車の運転免許を取得し、自転車ではなく車で通っている人もいます。」
この4年の間に採用した3人については、正式採用の前に2週間の研修期間をもうけている。3人が担当している仕事のうち、塗装ラインの作業ではシンナーを使い、溶接ロボットのオペレーター作業では強い光が出る。そこでシンナーの臭いや強い光が気にならないかを確認し、担当を振り分けた。ちなみに、どちらも大きな事故が起きる確率がかなり低い作業だという。
2. 取組の内容、効果
(1)取組の内容
もともと溶接ロボットのオペレーター作業は安全な作業だが、障害者に担当させることが決まってから、より安全性を高めるためにオペレーターのスイッチの位置を変えたという。耕一氏は次のように説明する。
「ロボットの手が左右2箇所あり、それぞれのそばにスイッチがあったのですが、万が一間違ってスイッチを押した時にロボットの手が作業者に近づく可能性があります。ロボットの手がふれることはなくても、環境の変化が苦手な彼らは驚いてパニックになるかもしれません。そこで左のロボットのスイッチは右側に、右のロボットのスイッチは左側に入れ替え、間違って操作しても作業者が安心できるようにしたんです。」
研修中は、3人に比較的年齢が近い現場担当者に指導させたという。何かあったら相談しやすいように、という配慮からだ。また前述のとおり彼らは環境の変化が苦手なので、「指導担当者をできるだけ変更しないようにも心がけた」と耕一氏。耕一氏は社長就任前から人事部門を統括し採用に関わったので、社長就任後にも彼らの様子を見守りながら声をかけるなど、気を配っている。
耕一氏の話を聞いていると、それぞれの特性の理解に努めたうえで対応していることがわかる。例えば、ある障害者の自転車が現場作業の関係でほんのちょっと場所を移された時、「自転車がない」と大騒ぎになった。その時、耕一氏は彼がモノを色や形でなく「最後にどこに置いたか」で認識していることを知り、「あなたの自転車はこういう色でこういう形だから、今度からこれと同じものを探せばいいよ」と教えてあげたら、以後、そういう騒ぎはなくなったという。
また、コンビニエンスストアで3種類のパンから2個を選ぶのに長い時間をかけて迷ったあげく、同じ種類のパンを2個選んだ男性には、「こういう時は違う種類を1個ずつ買うと、そんなに迷わなくて済むよ」と教えてあげたら、その後はそれほど長く迷わなくなったそうだ。「ちょっと『スイッチ』を入れてあげると理解するんですよ」と耕一氏。ただしその「理解」は、自転車のみ、パンを買う時のみに限定されるという。
さらに耕一氏は、困ったことが起きると、「そういえば以前も似たようなことがあったな」と冷静に振り返り、対処法を見つけることもあるとか。
一方で、悪いことをした時にはしっかり注意することを徹底している。例えば特別支援学校出身の2人は、最初の頃あいさつができなかったり、目上に対する言葉づかいが悪かったので、耕一氏自らしっかり注意した。結果、すぐに直ったそうだ。
親との連携も重要だ。「メイフラワー」出身の男性は、ずる休みのクセがある。最初はずる休みとわからなかったが、ふだんから父親と耕一氏が連絡帳でやりとりしていたため発覚した。だいたい2ヶ月に1回の頻度で休むこともわかり、時期をみながら声をかけて注意している。
「それと、特別支援学校の先生が申し訳ないくらい協力してくれることも大きい」と耕一氏。最初の頃に様子を見に来た先生の中には、就労したばかりの職場なのに、作業ができていないことを見て、がっかりしたこともあったようだ。でも次第にできるようになり安心されたようだ。また、彼らも先生たちと話をするのが楽しみで来訪を喜ぶので、先生たちも今でも足を運んでくれているという。
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(2)取組の効果
耕一氏は、雇用している3人の障害者について、「良くも悪くも、障害のない若者と変わらない」と話す。前述のようにずる休みもするし、不満を口にする人もいる。でも、しっかり指導し、きちんと説明すれば、態度を改めたり納得する。そうした毅然とした丁寧な対応により、彼らはまじめに、そしてしっかり働いている。また、同社の安全面への配慮により、勤務中にパニックを起こすなどのトラブルもない。彼らは、他の社員に対して自分から話しかけることは少ないが、話しかけられると一生懸命に話すという。耕一氏は「こうした様子を見て、障害のない他の社員も彼らに対して普通に接していると、他の社員へ良い影響を与えている」と話している。
3. 今後の展望と課題等
(1)今後の展望と課題
前述のとおり、障害のない社員と同じように働く3人について耕一氏は、「今は最低賃金で働いてもらっているが、もう少し年数が経ち、他の社員の理解が得られるようなら、給料を上げたいと考えている」と話す。
また、同社では彼らが担当している作業のほか、組み立て、プレス、塗装、フォークリフトのオペレーターなど様々な仕事があるので、機会があればもっと雇用したいと考えているそうだ。ちなみに、5年前に地元の聾学校と養護学校が合併して一関清明支援学校ができたので、採用活動に行っているとのこと。創業者である父親・晃良氏が雇用の場として同社の前身を設立したように、耕一氏も自社を地元の若者の就労の場として考えている。
(2)障害者の雇用を検討している企業へのアドバイス
短期と長期、どちらのスパンで雇用を考えるべきか。
「東日本大震災以降、社会全体が「競争よりも助け合い」の方向に変わって、障害者が働きやすくなったと思うが、一方で、助成金や補助金の活用が前提となって短期雇用が増えているようにも感じる」と耕一氏は話す。しかし耕一氏自身は、長期的視野で雇用を考える方が良いと考えているそうだ。長期雇用は、雇用者にも本人にも周囲の人にも利点が多い。また、彼らが担当する作業の安全面を考慮し、スイッチの位置を変更するなどの取組を行うことによって、結果的に工場全体の安全性がより高まってくる。さらに耕一氏の経験から、障害者は長く継続して働いてくれる傾向があるという。
そうしたことから耕一氏は、地元の同世代の経営者にも障害者の長期雇用を勧めている。
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