スタッフが自立に向けて働く姿は、地域活性化の原動力となっている
- 事業所名
- 株式会社鳥海フォス
- 所在地
- 秋田県にかほ市
- 事業内容
- 指定就労継続支援A型事業所、農業
- 従業員数
- 40名
- うち障害者数
- 30名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 3 施設外就労、農産物栽培・販売 内部障害 知的障害 17 施設外就労、農産物栽培・販売 精神障害 10 施設外就労、農産物栽培・販売 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
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1. 事業所の概要、障害者就労継続支援事業所設立の経緯
(1)事業所の概要
平成22(2010)年7月27日、株式会社鳥海フォスを設立。同年の11月19日に障害者自立支援法(現在の障害者総合支援法)に基づく、指定就労継続支援A型事業所(定員20名)として事業認可を受け、秋田県にかほ市に開所した。
当事業所の所在地は、鳥海山の麓で田んぼや自然に囲まれた風光明媚な場所にあるが、過疎化の影響もあり閑散としている。どうしたら人の声で溢れるような場所にできるか、地域を活性化させるにはどうしたらいいのかという思いが募っていった。
一方で、自宅に引きこもっている障害者を見るにつけ、また、農業畑の出身ということもあり、農業を基軸にした福祉をしよう、農作業で土や人と触れ合うことで生き甲斐を見つけ、障害のある方が自立を目指し社会に出て働くことで、生きる喜びや充実感を感じてもらいたいとの思いが事業を始めるきっかけとなった。
このようなことから「障害者に対し、安全適正な管理の元、社会参加・自立支援に寄与する」、「無農薬国産の農業品目の生産を通じ、消費者に食の安全、安心を提供する」の2点を経営理念として、障害者の社会参加及び経済的自立を支援することを目的に当事業所を運営している。
(2)障害者就労継続支援事業所設立の経緯
障害者の自立と社会参加は社会全体の課題であるが、その前提である障害者の就業機会はまだまだ少ないのが現状である。平成18(2006)年に施行された障害者自立支援法で就労支援対策は整備されてきているがまだまだ浸透しているとは言い難い。しかし一定の配慮と支援があれば、十分に働くことのできる障害者は多数存在している。そういった障害者の為の、由利本荘・にかほ地域では初の就労継続支援A型事業所「株式会社鳥海フォス」として当事業所は設立された。当地域においては地元大企業の下請け企業に恵まれており、いずれはそれぞれの特性にあった企業への一般就労を目指して事業所運営を行っている。
2. 障害者の従事業務と取組の内容
現在当事業所では「農産物栽培事業」、「農産物等販売事業」、また施設外就労として「農作業等受託事業」を実施している。30名の障害者(肢体不自由者・知的障害者・精神障害者)が当事業所の支援職員の指導の下で就労している。今年からは「専任制」を取り入れることを予定しており、これまでよりも、それぞれの障害の特性に合う責任感を高めた作業分担を進めていくこととしている。
そして筆者は、入所している障害のある方たちを、職員と一緒になって作業し活動することから、「スタッフ」と呼ばせてもらっている。そのようなことから、自立への希望とやる気が培われ、各自の責任感が日に日に醸成されていくのを強く感じている。
- 農産物栽培事業
「農産物栽培事業」に関しては菌床無農薬シイタケ、水稲、生鮮野菜の三つを柱としている。
菌床無農薬シイタケは、特殊2層構造のビニールハウス内において、鳥海山の豊富な地下水で温度、湿度調整をしており、低エネルギーでシイタケを栽培している。ハウス内において障害者は除袋、芽欠き、収穫、菌床の浸水作業等を行っており障害の特性を生かした作業分担を心掛けている。
良質のシイタケを収穫するためには、出はじめの芽を間引きする芽欠き作業が欠かせない。最初の頃は残しておくべき芽も摘み取ってしまうことがあり、大きさの目安になるスケールを作って「この大きさより小さいのを芽欠きして」と分かりやすいように指導していくことにより、作業もスムーズになり問題もほとんどなくなっていった。
スタッフの大半は、農業の経験がまったく無いことから、職員と一緒に基礎から学ぶこととなる。職員においては、手本を示したり器具等を使って分かりやすい指導を心がけている。
水稲、生鮮野菜に関しては耕起や播種、除草、収穫など作業全般で利用者が一人一人自覚と責任をもって作業をすることにより、最近では順調に野菜、水稲の生産ができるようになってきた。来年度からはイチジクを導入し、さらに農産物の加工品にも挑戦していく計画である。
- 農産物等販売事業
「農産物販売事業」に関しては、当事業所で生産されたシイタケを主として、大根、馬鈴薯等を近隣の小中学校の給食や、老人福祉施設、直売センターへ納入している。
また、障害者が当事業所で生産したシイタケや生鮮野菜を持って、市内の各家庭や会社に訪問販売をすることにより、障害者と障害のない人との触れ合いの場を図り、障害者の社会参加の一環としている。今後は当事業所で生産した農産物を使用した加工品を開発し、より付加価値を高めた商品の販売を企画している。
スタッフによる、無農薬でおいしいシイタケの訪問販売を心待ちにしている地域の人は、「次はいつくるの?」と楽しみにしている。近所の人の分もまとめて購入していただくこともあり、そうしたことが評判となり、「お得意様」は確実に増えている。
農産物の収穫期には、直販所「やまびこ」の営業を行っている。そこで、レジ係りを担当するAさんは、脳卒中が原因で手足の麻痺を起こし、自宅に引きこもっていたが、意を決して当事業所に入所した。Aさんは次のように言う。この声は、この事業を行うきっかけとなったひとつの回答でもあり、喜びを感じている。
『鳥海フォスに入所することができ、自分と同じように障害を持ちながらも今やれることに前向きに向かう仲間との触れ合いが生まれ、また今日も作業ができるという喜びで、人生の輝きが全く違ってきました。障害者になって初めて、人の優しさを感じることができ、感謝しています。本当に生きててよかったと思います。』
- 農作業等受託事業
これまで「農作業等受託事業」として当事業所では野菜苗の間引きや、イチジク、ネギ畑の除草、機械を使った薪割等を請け負ってきた。
今後はさらに提携先を増やし、障害者の社会参加の機会を増やしていくことを計画している。
過疎化が進んでいるこの地域は、同時に高齢化も著しく農業の後継者の確保が非常に困難となってきている。農作業を請け負うスタッフの存在は大変貴重であり、また喜ばれている。今後は提携先も増えていくことが予想され、それに伴ってスタッフの更なる健闘と成長が期待できると考えている。
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3. 今後の展望と課題
今までは、スタッフ全員で3つの事業、「農産物栽培事業」、「農産物等販売事業」、「農作業等受託事業」に取り組んでいたが、効率化を高め、そして生産性を上げ、そしてまた、スタッフのさらなる成長を遂げるためにはどうしたらいいかということが課題となっていた。
そのひとつの解決策として、今年から「専任制」を取り入れる計画である。作業を分散せず、特定の作業に専門に取組ませることで、課題の解決につなげていきたいと考えている。開所してから3年が経過しており、各スタッフの把握もある程度できたこともあり、それぞれの障害特性を認識しつつ能力や成長の度合いを確かめながら適材適所に配属をしていく計画である。
しかしながら、冬期間はどうしても農作業が激減することもあり多角的な視点でもう一度、どういう作業が可能かを考える必要がある。
そこで、今後は当事業所で生産した農産物を使用した加工品を開発し、より付加価値を高めた商品の販売や新たな農産物としてイチジクを導入し、その加工品にも挑戦していく計画である。
事業を運営していく上で、何らかの課題は必ず付いてくるものである。課題を一つ一つ解決していくことで、事業の目的である「スタッフの自立と社会参加」が可能になるものと確信している。
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