個性を尊重し、自立できる人材を育てる
- 事業所名
- 株式会社アルビオン 熊谷ワークライフセンター
- 所在地
- 埼玉県熊谷市
- 事業内容
- 返品商品の検品、店頭用サンプルセット、清掃、産廃処理、ハーブの選別など
- 従業員数
- 13名
- うち障害者数
- 9名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 9 検品、サンプルセット、清掃など 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社アルビオンは高級化粧品の製造を行う。従業員は約3,000名、うち障害者実数は48名(平成25(2013)年6月1日現在)で、雇用拡大に向けた役割を担うのが熊谷ワークライフセンター(WLC)である。WLCは、当社が障害者の雇用と自立支援を目的として平成23(2011)年7月、埼玉県熊谷市にある熊谷工場敷地内に設立された事業所である。
熊谷市といえば、夏の猛暑日には必ずといってよいくらいニュースに登場、「暑いぞ!熊谷」のキャッチコピーで話題を呼んだ街であり、今年(平成25(2013)年)8月、高知県四万十市が最高気温41℃を記録するまで、岐阜県多治見市と並んで40.9℃の日本記録を持っていた県北の都市である。熊谷工場は熊谷市の中心部から南東8kmに位置し、熊谷市に合併されるまでは大里町と呼ばれ、周囲には田園地帯が広がっている。
WLCは熊谷工場3万坪の敷地内にあり、ここで全国の店舗から様々な理由で返品されてくる化粧品の検品作業に就く。WLCは設立後、業務を次々と拡大してきたが、原点は今もこの検品作業である。
注目すべきは、検品作業を経験して一定の作業能力、社会性を持つと認められた障害者はここWLCを出て工場内作業に就き、障害のない社員が行っている化粧品の包装仕上げライン作業等を行っているという点である。
これは、WLC設立当初からの「『研修道場』で腕を磨き、一般就労できる人材を育てていくことを障害者雇用の根幹に据えたい」という構想によるものである。工場内に配置された障害者が思うように適応できなければ、再び「研修道場」に戻ってきて、やり直すことができる。世間でしばしば見られる「駄目だったら会社を辞める」、「我慢して何とか残ってもらう」という道しか残されていない課題を解決する事業モデルとなっている。この仕組みを取り入れている企業は他にもあるが、もっと世間に知ってもらいたいと筆者は考えている。
WLCの組織上の位置づけは東京銀座にある本社人事部の直轄部門であり、熊谷工場の組織の一部にはなっていない。障害者雇用は企業の果たすべき責務として位置づける当社の考え方が伝わってくる。
(2)障害者雇用の経緯
WLC設立前の当社の障害者雇用に関する方針は、法定雇用率を守るという点に重心が置かれていた。その手段として「特例子会社を設立する」ことも検討されていた。しかしながら、特例子会社の設立には時間がかかること等から、雇用率の向上には現体制を維持したまま障害者を集中的に雇用する仕組みを検討することとなった。
全社的な構想は、製造現場と全国の支店、本社において分担して障害者を雇用することが計画されたが、中核をなすのはやはり現場を持つ熊谷工場に頼ることになった。
このプロジェクトは本社人事部が推進し、エンジンと指令塔の役割は初代WLCセンター長となった池澤新一氏が担った。平成23(2011)年4月27日に熊谷工場で事業推進会議が開催され、国立職業リハビリテーションセンター、ハローワーク熊谷など外部の関係機関、当社からは本社人事部長ら幹部を合わせて16名が参加、事業推進の基本方針が決定され、これに沿って熊谷工場や同工場の物流センターで障害者の適性に見合った作業の切り出しが始まる。
基本的な考え方は、障害者を指導する「人材」を配置し、主に知的障害者を採用すること、年度内に10名以上の雇用を目標とすること、知的障害者に対する知見が充分とはいえないことから関係機関からの支援を積極的に受け入れ、活用することであった。
収益を確保しながら障害者の雇用を行うために考え出された業務が、このWLCの中核事業となった返品商品の検品である。当時、検品作業は外部企業に業務委託していたが、これを内製化し、障害者雇用と外部費用の削減を同時に達成するものとして実行に移される。
作業室は80坪余りの厚生棟を全面改修することとし、4月に着工、作業室のほか、休憩室、更衣室などの生活空間を確保した。また、バリアフリーのため入口にスロープをつけるなど、将来の身体障害者の雇用も視野に入れ、障害者のための真新しい「居場所」を7月に完成させた。
この間、計画通り指導員2名の採用を行い、障害者の雇用に向けた準備を整え、6月16日、第1回目の障害者による工場見学会を実施し、参加した8名の中から4名が採用され、当センターの第1期生としてスタートラインに立つことになった。
2. 取組の内容
平成23(2011)年7月に立ち上げられたWLCは、返品商品の検品を主作業として事業を開始したが、その後、次々と業務を拡大、現在は検品班、清掃班、エコ班の3班に分かれ、男性6名、女性3名、計9名の知的障害者が作業を行っている。
検品班には3名が配置され、検品作業のほか、営業支援業務として、店頭用パンフレットやサンプル類のセット、箱詰めされた製品を保護する緩衝材エアパッキンの製造、廃棄品の処理、退職者の制服回収などを行っている。検品は、箱詰めされた返品化粧品を1個ずつバーコードリーダーで読み取り、同封された伝票と照合し債権を確定する作業で、手馴れてくるとかなりのスピードで処理することができる。WLC立ち上げのときは、障害者の能力をどの程度に見積もってよいかが分からず、「少なくとも6人は必要だと計算したことが嘘みたい。今は実質その半分以下の人数で他の作業までやっています」と、指導員の久保田さん、指物さんは話してくれた。
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WLCの中で異色ともいうべき作業に、ハーブの選別がある。当社は世界自然遺産「白神山地」を持つ秋田県白神山麓に、化粧品の原料として使われる植物の研究所を持っているが、そこで栽培し乾燥させた研究用ハーブの選別作業も行っている。この作業は乾燥したハーブを扱うため、丁寧な手作業が必要で根気の要る仕事である。WLC建屋の隣接地にもハーブガーデンがあり、全員で管理している。最近、拡張されて、ハーブはもとより、野菜やスイカ、イチゴなども栽培し、自分達の手で育てたものは収穫し、お昼の食材となって出てくることもあるという。
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清掃班が受け持つのは2,700坪の広さを持つ物流棟の清掃で、委託している外部清掃会社社員1名と一緒に4名で行っている。150人分の社員食堂の床やテーブル、休憩室、正面玄関の床や窓、男女更衣室、6箇所のトイレ、また、工場棟の来客用・従業員用下駄箱などの清掃全部を、分散・集合しながら行っている。食堂を利用する社員から「最近、窓もテーブルも綺麗になって気持ちが良い」と、お褒めの言葉をいただくのだという。
エコ班には2名が仕事に就く。ここは、工場棟、物流棟から出る産業廃棄物の処理が仕事だ。廃棄段ボールの整理、ゴミの種類のチェックと分別、大型圧縮機を使った圧縮作業などが主な仕事だが、屋外作業のため、夏は暑く冬は寒い厳しい環境で行われる。特に、夏場は暑さで全国最高水準の熊谷市とあって、水分補給をまめに行って熱中症対策は怠らないのだと一緒に作業するシルバー派遣の方が話してくれた。
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3. 取組の効果、今後の展望と課題
(1)取組の効果
平成25(2013)年10月6日は、WLCにとって記念すべき日になった。開設当初からここで仕事に就いてきた1期生のT.YさんとT.Mさんの2人が、2年半の時を経て、この日、工場内のライン作業に移ったのである。こうして11人いたWLCの仲間は9人になった。2人は年初に立てた年間目標「工場でライン作業をしたい」を達成、仕事ぶりも評価されて化粧品の包装仕上げ部門で一般社員と一緒に仕事を任される立場に立った。WLCは工場内の「一定の業務ができる部門」と位置づけられるが、将来は工場内の生産ラインで一般社員と一緒に仕事ができる人を育てる「研修道場」となることが目標であった。
ここに至るまでには、池澤センター長をはじめ、指導員の熱意と努力があったことは言うまでもないが、人を育てるための様々な工夫が凝らされていることに注目したい。先ず、障害者が能力を伸ばせるための労働環境である。仕事は単純作業であっても、単に「ミスをしないこと」だけではなく、一人ひとりが現在より高度な目標を立てて取り組む。
工場だけでなく、全社に障害者雇用の意義を浸透させ、障害者の仕事が会社全体に貢献していることを知ってもらい、労働の成果を共有する。
最近起こった出来事で一番嬉しかったことは、ある支店の秋のイベントに使う2,000点のサンプルのセット作業を予定通り完了させ送り届けたところ、その支店から送られてきた返品化粧品の箱の中身が、普段入っている返品商品ではなく、お礼の感謝状と沢山のお菓子だったことだと、池澤さんが話すのを聴くと筆者まで胸が熱くなる。障害者も自分たちの仕事が評価され、会社に貢献していることを実感できた効果は計り知れない。
WLCの取り組みの底流にあるのは、働く人のモチベーションを如何にして上げるかだ。会社の掲げる「社是」が暗唱でき、更に正確に漢字で書けるようになったら100点をあげる。一つひとつの仕事に対し、真心を込めて行う。「5W1H」、「次工程はお客様」、「報連相」を丁寧に繰り返し、学校さながらの教育に時間を割き、仕事をする喜びと仕事が人を育ててくれることを身体が覚えてしまうまで教え込む。
一方、日常業務外も大事な課題だ。化粧品を製造している工場だから、男性も女性もなく「美容講習会」と銘打って、社内の美容講師によるメイク講習も行う。このときは、もともとにぎやかな部屋の空気はより明るく華やいだ笑い声と嬌声で満ち溢れるそうだ。銀座の本社研修に出かけて暖かく歓迎されたり、休日には全員で長瀞のラインくだりを楽しんだりもした。誕生日には休憩時間を利用し「お誕生会」を開き、ケーキでお祝いをする。当社社長の小林章一氏は、熊谷工場に来ると、しばしばWLCに立ち寄ってメンバーに声をかけて帰られるそうだ。休憩室に掲げられた写真、小林社長を囲んで嬉しそうな顔が並ぶ写真は、障害のある人の働く喜びをそのまま映し出していて印象的だ。
(2)今後の展望と課題
WLCは現在9名の障害者を雇用しているが、しばらくは事業の拡大とともに雇用を拡大していく計画である。「研修道場」として、WLCの役割はいつまでも変わらないだろう。設立以来、WLCは事業を次々と拡大してきた。訪問するたびに必ず新しい事業が付け加わって、その意欲的な取り組みには驚かされる。設立後、わずか1年目で地域を代表する障害者雇用のモデル事業所になり、県北地域の企業による交流会の会場にもなった。
現在、新たな経営課題として更なる「障害者雇用の拡大」に向けた取り組みの検討を行っている。この職場で働く障害者の増員があっても、「自立できる人を育てる」志は引き継がれていくであろう。
企業支援アドバイザー 杉山 睦郎
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