働く障害者たち・・・働く事での社会参加の実践について
- 事業所名
- 公益財団法人横浜市知的障害者育成会 ワーキングセンター
- 所在地
- 神奈川県横浜市
- 事業内容
- 障害者雇用事業
- 従業員数
- 34名(ワーキングセンターのみ)
- うち障害者数
- 28名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 清掃業 内部障害 知的障害 27 清掃業、植栽管理、ショップ運営 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
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1. 事業所の概要
(1)沿革
昭和56(1981)年12月 | 法人内に「ワーキングセンター設立準備委員会」発足 |
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昭和57(1982)年 4月 | 障害者雇用事業「ワーキングセンター」設置 |
昭和58(1983)年 4月 | 青年学級「あおぞら教室」開始 |
平成 4(1992)年10月 | ワーキングセンター(育成会館)新築 |
平成10(1998)年 4月 | ふれあいショップ「ばぁーす☆でぃ」(日産スタジアム東ゲート下売店)開店 |
平成11(1999)年 7月 | ふれあいショップ「愛あい」(脳血管医療センター1階売店)開店 |
平成24(2012)年 9月 | 作業員が優秀勤労障害者厚生労働大臣賞を受賞 |
(2)ワーキングセンターとは
ワーキングセンターは、昭和57(1982)年に横浜市中区から発注された「関内・桜木町地区の歩道清掃」の受託を契機に、財団法人横浜市知的障害者育成会(現:公益財団法人横浜市知的障害者育成会)の事業の一つ「障害者雇用事業」として、『障害者の働く場を確保する』(「働きたい」と願う障害者に対し、働く場を提供することによって所得保証や身分保証を行うことで、社会的、経済的な自立を促進し、社会の一員として社会参加を果たす支援を行う。)ことを目的に設置されているものである。
当法人はこの他に、障害者総合支援法(障害者自立支援法)に基づく障害福祉サービス事業の「就労移行支援事業」、「就労継続支援B型事業」も行っているが、本障害者雇用事業は同障害福祉サービス事業の「就労継続支援A型事業」として実施しているものではないことが特徴である。本事業で雇用される障害者(以下、「作業員」という。)には、最低賃金を保障するとともに、社会保険・厚生年金にも加入している。
昭和57(1982)年の開所当時は、屋外の作業に危険が伴うと心配され、作業員の募集を出しても、なかなか集まらず、職員だけで作業を行うこともがあったが、徐々に作業員も集まるようになり、晴れの日も雨の日も市街地で働く作業員の真面目な仕事ぶりを理解し、馬車道や尾上町地区の商店街から「仕事を任せたい」とまで言っていただけるようになり、発注を受け現在まで続いている。
そして現在は、障害のある従業員28名(27名が地域障害者職業センターが判定した重度知的障害者)が働く事業所となったのである。
当センターは、清掃・植栽管理・売店等の仕事を行っており、契約をしている現場は約15か所ある。働く場所が、当センターの施設内ではなく、仕事場に出向いていくことが最大の特徴であると感じる。生活の場から直接仕事場に出勤する作業員もいるし、一度センターに集合した後、職員と一緒に車に乗って移動する作業員もいる。
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2. 取組の内容
(1)作業の紹介
- 清掃業務
清掃の現場では、清掃を受託している施設内の日常清掃や定期的なワックスがけと窓ガラス清掃、また屋外清掃を行い施設の美観を保つように努めている。宿泊施設での清掃は、施設の休館日を除き作業員2名が担当し、チェックアウトからチェックインまでの間に廊下やロビー、浴室をホコリ一つないように綺麗に掃除をしている。
- 植栽管理業務
植栽管理の業務については、適宜、施設の外周の草刈り、ツツジなどの低木の刈り込みや消毒、施肥と年間を通して管理を任されている。冬場には、「大剪定」と称し、高所作業車を用いて職員がノコギリやチェーンソーを使って、電線にかかりそうな枝を下す高木剪定を行っている。
作業員の仕事は、安全な場所で用途にあったハサミを使って、高所から下ろされた大枝の分断である。枝の大きさは、ゴミ袋に入れられるサイズに分断するのだが、人によっては葉っぱ1枚1枚丁寧に切り取る人、力任せに大雑把に切り落とす人、それぞれの性格が表れる。ハサミの扱いが上手になると作業のスピードもアップする。職員が大枝を切り落とすのに手間取っていると、下で「早くしてよ」という無言の視線が痛いほど突き刺さる。
- 売店業務
店舗で働く障害のある店員のうち、2名はオープニングから現在までの勤続14年と15年で、気が付けば一番の古株となっている。
長く勤めていると、多くのエピソードがある。特に、空気の穏やかな病院に設置された売店で働くAさんはふくよかな体型であり体を動かすのが大の苦手で、半径5メートル以内での作業がベストである。
病院の売店に配置される前の実習では、お寺の境内の清掃・除草に出かけ、真面目に作業しているだろうと覗きに行くと、境内の木陰で気持ちよさそうにいびきをかいて寝ているAさんを発見したのである。この時、屋外での業務は「任せられないな」と感じ、病院内に新規オープンする売店へ配置を決めた。するとAさんには、人にはできない能力があることがわかったのである。
レジにいる時、年配の女性が来店すると「ありがとうございます。おねえさん。」「いつもきれいですね。」をさりげなく言い放つ話術である。「まあ!嬉しい!」と誰もが笑顔になる。
病院の中では、いつの間にかアイドル的な存在となり、病院が主催する「スマイル大賞」に輝いた。
しかし、病院内での行儀の悪い素行が問題となり、苦情が寄せられ、本人に厳重注意を言い渡すこともあったのも事実である。
良かったり、悪かったりの繰り返しの14年間でもあり、すべてを含めて、「Aさん!」なのである。
(2)職場配置について
センターに入社すると、第一段階として全員が日産スタジアムの清掃の現場に配置される。職員1名と作業員6名の現場である。ここで学ぶことは、一番大事な「働く習慣を身につける」ことである。集団で働くことで、仲間との協調性やルールを学ぶ。サッカーやイベントがあれば多くの人がこの地を訪ずれるので、常に綺麗にしておかなければならないと責任感を養う場所でもある。
清掃の範囲が広大なので、1日働ける体力をつけることも大切だ。箒とちり取りを使っての単純な作業だ。1日10キロ近い距離を歩き、夏は暑く冬は寒い、雨の日にはカッパを着ての作業となり、天候にも左右される。我慢が身につくのである。
その中で、スタジアムで働く人の声掛けや、緑多い穏やかな環境が彼らを育ててくれる面もある「働くために大事なもの」がぎっしり詰まった理想的な現場であると考える。
ここでの本人の成長や責任感の度合いに応じて、職員が付かない2名一組の現場に配置換えを試してみる。一番大事なことは作業員同士の相性であり、馴れ合いやトラブルにならないように気を付けている。
話し好きな者同士のペアならば効率が悪くなるし、ベテランのいるペアとなると職員の巡回のタイミングを熟知していて、遠くに職員の姿が見えると一生懸命やっているふりも上手になる。彼らにわからないような登場の仕方をするのも、時には必要なことでもある。
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(3)長く働くために
日々の中で、感じる「大事なこと」を挙げてみる。
- 手順書に頼らない
障害のある作業員だけで行う作業場所は、時間ごとのタイムテーブルや写真を使っての手順書を使っているが、使うのは最初だけだ。その後は自分で考えてもらうようにしている。手順書に頼らず自分で考え、判断することも必要だからである。
「この時間にこの場所を行うように決めてしまう」と、イレギュラーなことに対応できなかったり、時間を優先することにとらわれてしまい、かえって効率が悪くなってトラブルの原因になりかねない。
清掃を受託している施設では、花壇の水やりも日課にしているが、ある日、雨が降っているのに水やりをしているのを見かけた。彼らにとってはいたって真面目なことであるのだと感じた。時には失敗し、それを気づき、一緒に学ぶことの方が、彼らを知る大きな力だと思うのである。
- 職場の空気の入れ替えは丁寧に
朝の出勤時の「おはようございます」、退社時の「お疲れさま、また明日」の言葉かけを大事にしている。朝の出勤時、どのような状態で来ているかは、顔をきちんと見なければわからない。表情や会話で元気がないな?眠そうだな?と感じたら、仕事モードに導くのである。
家庭でのストレスや悩みを持ち込み、切り替えられない人もいる。逆に、仕事で注意を受けたことを引きずったまま家に持ち帰る人もいる。
「声掛け」は、場面を切り替え、新しい1日につなげる魔法の言葉である。
業務では、毎日同じメンバー、同じリズムで作業していると空気がよどみ、マンネリ化してしまいがちである。時には、違う場所への配置やメンバー変更も新鮮な空気が入り、全体が活性化することもある。
- 職場における本人の必要性
配置された場所での作業への責任感は、自分の存在を実感する場面で生まれる。
街の中で仕事をしていると道を尋ねられることが多いのだが、聞く方は障害者と知らずに声をかけてくる。職員はついつい手助けをしようと思うが、彼らが自分なりに答えることも大切なことで、聞かれた人から「ありがとうございます」と言われることで、自信のようなものが身につくのである。
また、清掃業務や売店業務はチームで行うことが多い、理由がなんであれ自分が休むと代わりに誰かが出勤し、誰かの代わりに自分が出ることもあるという「お互い様の気持ち」という意識が大切である。このような意識によって仲間への繋がりを大事にしたいと思うのである。
- 健康であり働き続けること
「長く働く」は、長きにわたる最大のテーマである。知的障害者は自分の判断だけでは、長く目に見えないものを維持するのが難しい。特に健康管理は難しい問題である。健康診断はバロメーターとして行うが、規則正しい生活習慣や健康で働き続けるための実践として「安全学習週間」を職場全体で取り組み、年3回実施している。作業中の「安全」と「危険」、「規則正しい生活」と「不規則な生活」とを具体例を挙げて、わかりやすく意識するまで繰り返して学習する。健康維持や食生活のバランス、マナーやルールも繰り返して学習することが大切である。
3. 過去の30年、これからの30年
一昨年、清掃業務に就くBさんから「疲れる」という訴えがあったことをきっかけに、第2号職場適応援助者(職場内ジョブコーチ)を配置することになった。配置に当たっては職場適応援助者助成金の受給を申請した。目的は、定年に近い年齢になったBさんを屋外の仕事から屋内の仕事に配置転換をして負担を軽減することと本人の気持ちの向上であるが、配置転換をするには、Bさんの代わりに他の作業員の配置変更もしなくてはならない。長年働くBさんは室内の清掃に無理なく移行することができたが、初めて配置転換される人に関しては、出勤から作業の習得まで予想以上に時間がかかった。他の職員の力を借りて同時進行しなければ、互いの作業場所をクロスするのは至難の業で、職場全体の協力と理解が必要だと痛感したのである。
一方で、Bさんは昨年、厚生労働大臣より永年勤続表彰を受け、新聞に取り上げられたり、新聞のおかげで旧知の方と再会できたり、センターからはチャンピオントロフィーを贈呈されたり、と多くの人から祝福を受け、モチベーションが上がったのであろう。気持ちが活性化され、「疲れた」という言葉は出なくなったのである。このBさんの表彰と変化が、センターで働く若い人たちに、この上ない「働くお手本」になったことは間違いない。
あれから1年。今年60歳を迎えるBさんにとっての、労働人生は終わりに近づいている。生活面の支援者ともよく話し合い、緩やかな仕事のフェイドアウトと定年までのあと5年間、その後に繋がる目標や生きがいを丁寧に探っていく作業を定期的に続けている。センターの30年間の歴史を支えた人たちの「これから」と、これから始まる若者たちの「これから」の30年。始まりと終わり。センターも岐路に立っていることをひしひしと感じている。
伊澤 和弥
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