『「やってみよう」から始まる職域拡大』
- 事業所名
- 北都ハウス工業株式会社
- 所在地
- 新潟県新潟市
- 事業内容
- 一般住宅事業、共同住宅企画事業、設計事業、施工事業、不動産賃貸管理事業、地盤コンサル事業
- 従業員数
- 122名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 2 印刷機の操作、印刷物の梱包、営業事務補助作業等 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
本社外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業概要
- 事業の内容
昭和57(1982)年に一般住宅、共同住宅の建築請負業として設立開業した。「より良く、より早く、より廉く」をモットーに、家族の絆を育む住まい『企画提案型』一般住宅「パパまるシリーズ」を開発し、現在「越後杉ブランド材」使用の「パパまる住宅」も提供している。また、平成23(2011)年には、本社屋上にソーラーパネルを設置し、電力自家発電に取り組む等、未来の地球のためにCO2排出を抑えた環境保全にも貢献している。
- 経営理念
経営理念は「感謝の心で仕事に取り組み、お客様に感動を与えるサービスを提供し、地域に根ざした企業として社会に貢献します」とされる。
- 組織構成
本社は新潟県であるが、次のように支店がある(下記の( )内は支店数)。
支店:新潟県(4)、福島県(3)、山形県(1)、長野県(3)、宮城県(1)、群馬県(1)
(2)障害者雇用の経緯
- 雇用のきっかけ
- ①企業トップによる障害者雇用企業の見学
社会貢献の一環として、企業トップ自ら様々な社外ボランティア団体へ参加し、一企業として社会貢献活動には取り組んでいた。しかし新規事業立ち上げにより、社外での活動参加が難しくなったため、何か社内で地域の社会貢献に繋がることができないかと考えるようになった。
社外活動の中で障害者を積極的に雇用している企業見学の機会もあり、またその時に知り合うことができた経営者との縁で、「障害者雇用」が身近なものとなった。
- ②特別支援学校生徒の職場実習の受け入れ
時期を同じくして、近隣の特別支援学校から当時高等部2年生だったAさんの職場実習の依頼を受けた。障害のある人の職場実習の受け入れも初めてだったが、「障害者雇用」を考え始めていたので、良い機会であるとの判断で、受け入れを決めた。
実習内容は、お客様向けのチラシ等の印刷作業を体験してもらったが、社内の評価として「やれそうだ」との声が多く、Aさんの3年次の実習も受け入れることとなり、この後卒業後の雇用へと話が進んでいった。
- ①企業トップによる障害者雇用企業の見学
- 雇用にあたり~社員の反応~
雇用については、トップダウン(トップの指示)により始めたことであり、「障害者雇用」自体への社員からの反対等の声はなかった。
Aさんの採用時は、当時の副社長が指導役となり仕事の切り出しから指示等を率先して行ったこともあり、大きな混乱等も起きなかった。その後2人目を採用する際も特別支援学校の職場実習の受入れ期間やAさんの就労の様子を見てきた社員達は、「知的障害」が個々によって違う障害であること等について理解が進んでいたため、障害者を雇用することへの不安はAさんの時と同様になかった。代わりに、就職して8年間一緒に働く人を含め環境の変化がなかったAさんの心情を心配し、社員達からは次のような声が多く寄せられた。
- 新しい人が職場に入ってくることによる環境の変化に対応できるか
- 相性はどうか
- 環境の変化によってパニックは起きないか
また、本人自身も後輩ができるという初めての経験に戸惑う様子が見受けられた。
2. 障害者雇用の取組の内容等
(1)障害者の従事業務の選定
~重要だが単純な作業をみつけだす~
本社で職場実習を受け入れた際に体験してもらった実習時の業務における評価が高かったこと等から、担当業務は自社で作成しているチラシ等の印刷部署に配置することとした。
印刷部署での業務を進めていく中で、その他の様々な部署から「重要な作業ではあるけれど、単純作業のため手間がかかる業務があるのだがAさんの仕事にどうだろうか」といったような声があがるようになり、少しずつできる仕事が増えた。また入社後の本人達とのコミュニケーションの中で「インターネットを使える」等の好きなこと、得意なことを話すことがきっかけになって、パソコンを使用した業務も任せられるようになった。
- 印刷作業
- ①4台のリソグラフを使用し、印刷をする
- ②印刷物の仕上がりをチェックする
- ③1000枚ずつ取り分け、包装し物件ごとに積み上げておく
- ファイリング作業
- ①現場からの伝票が届く
- ②各ファイルにとじる
- ③間違いがないかチェックする
- ④所定の棚にもどす
- 事務補助全般(主に入力作業)
- アンケート結果、集客データの入力
- 書類のPDF化
(2)取組の内容
- 定着のために~メリハリをつける~
- ①朝礼時には、「一流の仕事人になるための10ヶ条」や「職場の教養」という冊子を唱和したり、その日各自が取り組む仕事を報告する。
- ②毎日退社前には、使用した印刷機等にお礼を言いながら掃除を行う。始業と終業を明確にすることで、日々の行動にメリハリが付き、集中力や落ち着きが増した。特に退社前に行う掃除は、チェック内容を壁に張り確認できるようにした。印刷機等の仕事上で使う機器に感謝をする気持ちが養われ、扱いも丁寧になり、機器の故障も減少し様々な業務がスムーズに行えるようになった。
- 安心して働くために~みんなで解決する~
- ①マニュアル(手順書)はなし
手順書は用意せず、教えながら本人に書かせて、オリジナルのマニュアル(ノート)を作成させる。書きながらまたやりながら覚え、だいたい2~3回で任せた業務をマスターすることができる。また、自分がわかるようにマニュアルを作成しているため、わからなくなった時や確認する際も見やすいようである。
- ②言い方・伝え方の工夫
作業手順を教える担当者は、特定のスタッフに固定した。ただしフォロー・管理面はスタッフ全員で共有し、何か就労上の課題や問題が生じた時には、障害者本人を責めるのではなく、
- どんなやり方・指示の出し方をしたらミスがなくせるのか
- どうフォローしていくか
等指示を出す側である全員で、解決策を考えるようにしている。
失敗によって本人達が萎縮してしまわないよう、特別扱いではなく「一人ひとりの様子を見ながら、注意したり励ましたり」を心がけている。
- ③業務日報の作成
特別支援学校の職場実習中は、学校から指定された実習日報をつける習慣があったため、採用後も同じような形で業務日報を作り書くこととした。入社から3年目頃までは家庭との連絡帳としても活用し、職場と家庭双方での本人の様子をお互いが知るための大切なツールとしていた。
その後、本人達が記入しやすいように形式を変更し
- 目標
- 午前・午後それぞれの仕事の内容
- 1日の振り返り
- 帰る前に必要なチェック項目(チェック欄にチェックする)
を毎日記入するようにし、自分がどんな仕事をしたのかを振り返るツールの一つとしている。
また、社員はその内容を見て、業務の進捗状況や様子等の細かい部分の把握に活用している。
- ①マニュアル(手順書)はなし
(3)活用した制度・支援機関
- 採用活動の始まり・募集
特別支援学校の職場実習を活用した。実習期間内の様子を通して、本人の特性や性格、作業のスピード等を知り、採用時の判断材料とした。
実習中、課題が生じた時には特別支援学校の先生も交えながら解決に努めた。
- 採用から定着
実習が終了し、その後の定着に向けた見極めの期間として、ハローワークのトライアル雇用(障害者トライアル雇用奨励金)を活用した。
またこの期間中も、必要に応じて、特別支援学校の先生の支援や障害者就業・生活支援センターを活用しながら、定着を進めた。
(4)採用後の課題と解決方法
- 働く本人(障害者)が困ったこと
社屋が移転となり、通勤手段が変更になるので、一人で通勤できるか不安という課題が発生した。これについては、次の方法で解決した。
- 家族も交えて、通勤方法や通勤経路の検討を行った。
- 休日を利用して、バスの乗車方法等の練習を重ね、社屋移転時には一人で通勤が可能となった。
- 企業が困ったこと
2人目の採用時、Aさんが環境の変化に対応できるか不安という課題が発生したが、次の方法で解決した。
- 出身特別支援学校との連携
- 家庭との連携
社会人となり、初めて後輩という存在ができることに、どう対応してよいのか戸惑い、精神的に不安定になっていたAさんに、2人目の採用までの期間中に数回、特別支援学校の先生がお弁当を持ってきてランチミーティングを行い、「先輩としての心得」のような部分を中心に話をしてくれた。
また、帰宅後の様子は家庭と連絡を密にし、Aさんの心の状態を把握するよう努めた。一時期は不安定さからくるパニック等が起こっていたようであるが、先生とのランチミーティングを重ねる内に「今度自分は下の人の面倒をみることになるから、少し今よりもレベルアップしなければいけない」と家族に話す等、2人目の採用をきっかけにAさんの仕事に対する意識の変化と心の成長を感じることができた。
この後、2人で作業することにも慣れ、安定して働き続けることができている。
3. まとめ
本稿の取材に当たって、ご対応いただいた当社の社長と企画啓発部のOさんから、障害者雇用を通じて感じていることとして、次のようなコメントをいただいた。
- 企業トップの声
「当社が地域社会に協力できること、社員も私も心が温かく和むようです。今後も多くの方々の実習へのご参加をお待ち申し上げます。」
- 企画広報部Oさんより
「障害者の業務の幅が広がることは、他の社員の余裕につながります。障害者雇用を通して、相手に正確に伝えることの大切さを再認識し、それぞれが障害のあるなしに関係なく「正確な指示」を心がけ、コミュニケーション上の工夫に努めるようになった気がします。この他にも事務所内を「いつも清潔に」の気持ちを持つようになり、社内清掃が習慣化する等、安全で働きやすい職場になりました。」
そして、筆者からも一言、「あせらず・ゆっくり・少しずつ」、「できるまで『励まし』、『応援し』の繰り返し」、そして、一人ひとりに目を配り気を配り、時には厳しくそして温かな目でそれぞれの成長を見守る。これからも1つ1つのステップを大切に、職域の拡大を目指して欲しい。
執筆者: | 新潟高齢・障害者雇用支援センター 障害者助成金等担当相談員 髙木 江麻 |
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