企業が積極的就労体制づくりを構築することにより雇用が進んだ事例
- 事業所名
- 株式会社明治 北陸工場
- 所在地
- 石川県野々市市
- 事業内容
- 菓子・牛乳・乳製品・食品・一般医薬品の製造販売等
- 従業員数
- 54名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 牛乳、乳飲料などの製品検査 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
お馴染みの乳牛の模型が目印である「明治乳業株式会社北陸工場」として石川県野々市市に工場が置かれ、現在は事業所名「株式会社明治北陸工場」となり、地域に根差した牛乳、乳製品を製造、提供している。
(2)障害者雇用の経緯
株式会社明治北陸工場の障害者雇用は、トップの工場長が、「明るく・楽しく・元気よく!感じて・信じて・未体験ゾーンに踏み出そう!!そして成長しよう!」という北陸工場スローガンの下、障害者雇用を進めていこうという明確なメッセージを工場従業員に発信したことに始まる。
障害者雇用を進めるにあたり、一番考えられたことは、支援の輪を採用に向けていくつ作れるかということであった。
明確な障害者雇用へのチャレンジ精神に沿って、工場長自らが石川県内の障害者雇用についての情報収集をした結果、ある社会福祉法人を知り、その事業所の一つを訪れ、障害者雇用について相談し、その事業所の人から本校高等部(石川県立明和特別支援学校高等部)を紹介された。そして障害者雇用に関する本校高等部との取組がスタートした。
本校高等部と数回にわたる打ち合わせを重ね、就業体験実習を実施し、本校高等部生徒の雇用に向け取り組んだ。
その結果、当社、学校、ハローワーク、障害者就業・生活支援センター、関係機関等の連携、支援の輪が幾重にも重なり、本校高等部生徒の就労が実現した。その就労までの取組を紹介する。
2. 取組の内容
(1)石川県立明和特別支援学校について
昭和40(1965)年設立の石川県立養護学校(肢体不自由教育部門)と昭和47(1972)年設立の石川県立明和養護学校(知的障害教育部門)が1つとなり、平成22(2010)年4月に石川県金沢市に隣接する野々市市に設立され、それぞれ小学部、中学部、高等部がおかれている。
知的障害教育部門の高等部には産業技術コースが設けられ、卒業後に全員が企業就労を目指している。産業技術コースには今までの作業学習を一歩進め、「専門教科」として「フードデザイン」及び「ビルクリーニング」に取り組み、専門的な知識から「働く意識」を育て、企業就労を目指している。この産業技術コース第一期生で「ビルクリーニング」に所属する生徒が当社に就労した。
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(2)障害者雇用相談から学校見学
平成24(2012)年5月末に当社から本校高等部へ障害者雇用を考えていることを電話にて相談された。そして、6月初旬に本校高等部に来校してもらい、学校概要や就労状況等の説明、就労までのスケジュール等を説明した。
当社からはどのような障害者雇用を考えているか等意見を伺った。そして、実際に生徒が活動している場面を見学してもらった。
直接生徒の作業場面を見てもらうことで障害者に対して持たれているイメージが変化する。障害者雇用を進めるにあたって最初の出会いはとても大切であると感じる。このときは産業技術コース「ビルクリーニング」の校外施設での委託清掃(ワックスがけ、館内清掃等)も校外施設に移動して見学した。ポリッシャーやワイパーなどの用具を上手に使い清掃している様子を見てもらったことで障害のある生徒にどのような能力があるのか、あまり明確でない部分が見えてきたり、障害者に対する見方も変わっていったようである。
(3)職場における作業内容の洗い出し
当社の採用担当者に学校見学してもらった後、雇用する障害者をイメージしながら工場内での仕事の洗い出しをしてもらった。できる仕事、できない仕事を洗い出す時に学校見学で生徒たちの作業の様子が大変参考になったようである。10数項目の作業を洗い出してもらった。作業内容は、工場内で製造している牛乳、乳飲料の出荷前の段階での判定検査の補助を行うというものである。
【作業内容】
・検査器具の洗浄作業 ・検査データの入力 ・検査用牛乳、乳飲料の運搬
・サンプル処理のためのパックセット作り ・風味検査 等々
7月中旬には洗い出しをしてもらった作業内容を直接工場内の現場に行き、説明を受け、見学または実際に体験させてもらった。作業内容以外でも工場内へ入るための服装や手洗いやトイレの行き方、朝礼・終礼の方法、昼食休憩場所の利用の仕方等も説明、見学または実際に体験させてもらった。
工場内を見学し、具体的に作業内容を説明してもらい体験できたことは大変よかった。作業内容の職務分析ができ、当社が求めている人材について共通理解するよい機会となった。
(4)作業内容を踏まえた本校生徒とのマッチング
作業内容を見学、体験させてもらった後に、見学に行った本校担当者で話し合いを持ち、知的障害教育部門の高等部3年生の特性、本人の作業能力を踏まえた向き不向き、本人の興味関心・好き嫌い、地域性(通勤可能区域か)等をもとに本校高等部生徒とのマッチングを行った。検査データ入力ができる人を求めていることもあり、パソコンに堪能な生徒であることや検査業務に対する興味関心度がマッチングをするに当たって大切であると考えた。
7月末には他事業所で行っている本校前期就業体験実習が終了し、実習先の企業からの評価をもらい、内々諾の状況や生徒・保護者との懇談を行い、本校高等部の候補生徒を絞り込んでいった。
9月初旬に本校高等部で開催する「雇用促進セミナー」(障害者雇用を考えている企業の人に学校見学を行っている。ハローワークや石川障害者職業センターと連携して行っているセミナーである)に当社の採用担当者も参加してもらい、専門教科や作業学習の様子や障害者就労の制度や手続き等について理解をしてもらうとともに作業学習見学の際に候補生徒を見てもらうことにした。
9月中旬には当社へ行き、候補生徒の面談と工場内の見学を実施し、本校高等部からは候補生徒の実態について丁寧に説明を行った。候補生徒が面談の受け答えの際たいへん元気ではきはきと挨拶、返事ができる等コミュニケーションスキルを持っていること等が決め手となり、実習を実施することに決定し、10月中旬から実習を行うことを確認した。
(5)就業体験実習の実施
石川県立明和特別支援学校では、学校の授業の一環として就業体験実習を実施している。当社での実習は以下のような日程と内容で行った。
実習時期/期間 | 作業内容 |
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平成24(2012)年10月22日~11月2日 /2週間 |
牛乳、乳飲料の品質管理作業 (洗浄作業、検査データ入力 等々) |
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当社は、実習を通して実習生への対応の仕方や環境の設定などについて参考になったようである。実習中に洗い出しをした作業が実習中にできること、できないことを判断しながら、作業内容を決めていったようである。他の社員に実習生のできる仕事内容を伝え、実習生理解を促すことで、社内環境を整えることができたようである。
実習中に金沢障害者就業・生活支援センターのジョブコーチにも巡回指導に同席してもらい、職場環境、作業内容を確認してもらったことは卒業後連携支援の輪づくりになった。今後も将来就労を目指す事業所での実習中にジョブコーチに同席してもらえる巡回指導に引き続き取組んでいきたい。
(6)就業体験実習の評価と課題
就業体験実習を終え、11月中旬に実習の振り返りを当社の採用担当者と本校高等部の実習生担任、進路担当者で行った。実習については、この2週間のみとし、雇用するかどうかの評価、判断をしてもらうことになった。実習生が従業員として作業をするうえで必要な作業能力について、本校高等部では社会的側面(勤労習慣、社会性)、作業的側面(作業態度、作業能力)の以下の表にある全24項目で評価をもらい、就労へ向けた話し合いを行った。
(社会的側面) | ||
勤 労 習 慣 |
□ | 欠席・遅刻・早退をしない |
□ | 欠席・遅刻・早退の場合に連絡する | |
□ | 時間や職場のきまりを守る | |
□ | 清潔感のある整った身なりをしている | |
社 会 性 |
□ | 挨拶や返事をはっきりとする |
□ | 適切な言葉遣いや行動ができる | |
□ | 指示や注意に素直にしたがうことができる | |
□ | 休憩時に職場の人と関わることができる | |
(作業的側面) | ||
作 業 態 度 |
□ | 意欲的に作業に取り組む |
□ | 集中して作業に取り組む | |
□ | 準備・片付けができる | |
□ | 作業終了時に報告ができる | |
□ | 失敗したときに報告ができる | |
□ | わからないときには質問できる | |
□ | 職場の人と協力して作業ができる | |
□ | 自分の仕事に責任を持つ | |
作 業 能 力 |
□ | 指示通りに作業ができる |
□ | 機械・道具の使い方を理解できる | |
□ | 製品を正しく丁寧に取り扱うことができる | |
□ | 失敗なく確実に作業ができる | |
□ | 作業中、安全に対して注意をはらえる | |
□ | 能率よく一定量の作業を行うことができる | |
□ | 一日の労働に耐えうる体力がある(持久力) | |
□ | 作業を行うのに十分な体力がある(筋力) |
今後の課題として、以下のようなことが挙がった。
- 指示が複数になると迷う部分がある
- 集中力の継続
- 作業手順等の説明中の態度
- 書く作業の意識づけ
- 時と場面の声のボリュームの調節
課題として挙がったものについては、卒業まで本校高等部の教育活動全体を通して指導できるよう教職員で共通理解し、実習生に対して統一した指導をしていくことを確認した。
実習生の課題は就労後も当社に引き続き支援していただくものであり、実習を行うことの意義を改めて感じた。
課題ばかりではなく、次のような実習生のよかった面を発見する実習でもあった。
- 朝の会の安全唱和は誰よりも大きな声を出しておりお手本になっている
- 職場で会う人にしっかり「失礼します・お疲れ様です」と挨拶ができる
- 分からないことを分からないままにせず、必ず質問する
- 1つの作業を終えると連絡があり「次は何をしますか」と積極的に作業に取り組む姿勢がよかった
働くに当たって必要な資質やスキル、雇用を進めるときに意識したいことを私たちが学ぶよい機会ともなった。
(7)卒業後支援体制の構築
雇用が内定し卒業後の支援体制の構築のため、3月中旬に移行支援会議を持った。会議には、当社、金沢障害者就業・生活支援センターのジョブコーチ、本校高等部実習生担任と進路担当者が集まり、移行支援計画に基づき実習生の特性や課題、今後伸ばしていきたい資質等を話し合った。
これまで障害者雇用について当社の採用担当者と繰り返し意見を交わしてきたことでお互いの人間関係も築け、実習生の支援の窓口を本校から当社、ジョブコーチへスムーズに移行できた。また、今後も必要に応じて連携支援会議を開催し、就労者本人にも同席してもらい、仕事面、生活面、健康面と引き続きサポートできる体制が求められる。
入社後5月中旬に、ジョブコーチと連絡を取り合い、連携支援会議を開催することができた。本人の話を聞き、対話しながら課題を明確にしていく姿勢が重要である。今後も実習中からのよい関係を継続し、当社、学校やジョブコーチと連携していくことが求められる。
3. 取組の効果、まとめ
(1)取組の成果
株式会社明治北陸工場トップの工場長の明確な障害者雇用に向けたメッセージを工場全従業員が受け止め、理解し、工場全体で雇用に向けた取組を構築できた。事業所側の障害者を雇用するという積極的で明確な方針とリーダーシップ、トップと現場とが十分な意思疎通が図られていたことが障害者を職場に受け入れるときに大切であることを確認できた。
就業体験実習を実施するまでに当社の採用担当者と十分な会合を持ち、本校と意思疎通が図られた後、実習へ入ることができた。そのことで作業内容の洗い出しと実習生のマッチングを丁寧に行うことができた。
(2)まとめ
平成25(2013)年9月、障害者雇用に関する事例報告を当社の採用担当者に本校で開催する「雇用促進セミナー」で報告してもらうことができた。以下報告をまとめたものである。
「最初、どのように接してよいかわかりませんでした。しかし、本人が明るく積極的であり、教える側も構える必要がなくスムーズに職場環境に適応できているように感じています。一人で作業させるのではなく、サポートすることを意識し、よく声をかけ、見直しをしながら進めています。誰もが働きやすい職場にするため、社員全員で、職場内に危険がないかということを話し合い、改善前と改善後の写真を提示し、注意箇所を分かりやすく提示しています。できないと決めつけず、教え続けることで身に付くこともあるので、何ができて何ができないかを見極める目が必要です。本人の話を聞き、対話をしながら課題を明確にしていく姿勢が重要であり、実習中だけでなく就労後も、学校やジョブコーチさんと連携をとりながら進めています。」(セミナー報告抜粋)
障害者を雇用することを通して、今まで気づかなかったことを現場に生かすことができ、誰もが居心地良く働きやすい職場に成長されているように感じる。
今後も企業と特別支援学校が連携、スクラムを組み、実習を通して障害者の理解と雇用がますます進んでくれることを願いたいと思う。
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