就労継続支援B型利用者の多い社会福祉法人内に開設したA型事業所
- 事業所名
- 社会福祉法人福授園 神明とうふ工房
- 所在地
- 福井県鯖江市
- 事業内容
- 就労継続支援A型事業(とうふ・油揚げ類・弁当の製造販売、フィットネスの受付、健康福祉施設の清掃)
- 従業員数
- 12名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 フィットネス受付 聴覚・言語障害 肢体不自由 1 フィットネス受付 内部障害 知的障害 6 とうふ・油揚げ類・弁当の製造販売、健康福祉施設の清掃 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
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1. 法人の概要と就労継続支援A型事業開始の経緯
(1)法人の概要
事業所を運営する社会福祉法人福授園は、昭和57(1982)年7月に当時の厚生省より社会福祉法人として認可をうけて設立した。翌年(昭和58(1983)年)4月から身体障害者通所授産施設(定員35名)を開設、その後昭和62(1987)年6月には知的障害者通所授産施設(定員20名)を開設した。この知的障害者通所授産施設の利用希望者が多く、約30年の間に利用者の総数は神中事業所・当田事業所・御幸事業所の3事業所合計で170名を超える大所帯になった。
平成20(2008)年4月から障害者自立支援法に基づく障害福祉サービス事業に移行。神中事業所・当田事業所・御幸事業所の3事業所で生活介護(2事業所)、生活訓練(1事業所)、就労移行支援(2事業所)、就労継続支援B型(3事業所)の事業を実施してきた。
(2)就労継続支援A型事業開始の経緯
ところで、鯖江市内には昭和40(1965)年代より厚生年金保養施設「神明苑」があり、温泉浴場・宿泊・宴会・軽食喫茶等の営業の他、フィットネス・体育館におけるスポーツ・教室での文化活動などを展開していたが赤字続きのため、厚生労働省から閉鎖又は地元自治体への売却の方針が明らかにされていた。
地元住民らによる存続と鯖江市買取りの署名活動が展開されていた中、当法人は、平成18(2006)年4月に所有者である年金健康保険福祉施設整理機構から「神明苑」の管理委託を受け、その業務を引き継いだ。その後、地元住民の署名活動が実を結び、鯖江市は平成19(2007)年7月に「神明苑」を買取るとともに、鯖江市多機能型健康福祉施設として引続き開設し、当法人を暫定的な指定管理者とした。
鯖江市は、翌平成20(2008)年4月から、「神明苑」の指定管理者を競争入札によるものとされ、指定管理者決定条件の一つとして、従来の事業を存続するとともに「多機能型」の名にふさわしくするための幾つかの新たな事業を加えて展開することとし、その中に就労継続支援A型事業を開始することが入っていた。
障害福祉サービス事業のうち就労継続支援A型事業は、利用者と雇用契約を結び、原則として最低賃金を支払うという意味で画期的であったが、当時の鯖江市内にはこれを実施している事業所がなかったのである。競争入札の結果、当法人が「神明苑」の指定管理者と決まり、入札条件である就労継続支援A型事業に取組むこととなった。
2. 福授園神明とうふ工房の開設、「大豆まるごと」とうふの製造
(1)福授園神明とうふ工房の開設
就労継続支援A型事業に取り組むに当たっては、利用者の最低賃金を確保できる事業内容の選択が必要であった。
当法人の従来からの授産事業の作業種目は、一部に野菜の生産販売があるもののほとんどが周辺企業からの下請け受託作業である。これによる就労移行支援あるいは就労継続支援B型事業の利用者の平均賃金は、1か月2万円から2万5千円ぐらいであり、時給にすると200円にも達しておらず、A型の事業内容としては適さなかった。
また、法人内の3事業所とも就労継続支援B型事業を実施し、その利用者が多い中でA型事業に取り組むに当たり、最低賃金減額の特例許可申請の手続きを取ることなく、何とか最低賃金を死守したいという強い気持ちがあり、このような状況のなかでは自主的生産販売でなければ目標達成はおぼつかないことが明らかであった。
そんなある時、東北地方のある障害者施設がとうふの製造販売で高額の賃金を実現しているとの月刊誌の記事を読み、理事長以下数人で見学に出掛け、会員制の販売方法を習ってきた。また、昔から、豆腐屋の一日は朝まだ暗いうちから始まり、冬でも冷たい水の中に手を入れての仕事と聞いていたが、障害者が携わり易いとうふの作り方があることを知った。このことが最終的にとうふ・油揚げ製造販売を当法人で選択し、決定した最も大きな理由と言えるだろう。
また、とうふ作りに必要な製造機器の設置や販売用の軽トラックの購入を日本財団より助成を受けることができたことも、選択の理由の一つであった。
建物については、鯖江市が市内で就労継続支援A型事業所を立ち上げたいという意向により、市が鯖江市多機能型健康福祉施設「神明苑」の敷地内にとうふ・油揚げ類製造用の建物を建設することとなった。
このようにして、福授園神明とうふ工房が、平成22(2010)年4月に当法人4番目の事業所として開設したのである。
(2)「大豆まるごと」とうふの製造
福授園のとうふの製造方法は、まず福井県産の大豆を三重県まで運んでパウダーにしてもらったものを、とうふ工房で煮沸して豆乳にするのである。液状の豆乳を機器を使ってパックに流し込み、ビニールの蓋をした後に冷やして固め、とうふの形にする。製造過程の大部分が機器を使った割合簡単な作業であり、製造に要する時間も短く、朝8時過ぎから作業を始めても、おおよそ午前中にはとうふが出来上がる。
また、出来上がったとうふにも特色がある。豆乳を絞って「おから」を出す工程がなく、大豆のほとんど全てがとうふになるため、植物繊維を沢山含んだ大豆の味が濃いとうふが出来上がる。また、真空パックの中で固まるため、外気に触れず、雑菌が入る余地がないため、賞味期限を数倍長くして販売することができる。
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3. 事業所の構成と現状、生活支援の状況
(1)事業所の構成と現状
福授園神明とうふ工房のA型利用者の定員は10名である。専任職員は、サービス管理責任者、生活支援員、職業指導員が各1名ずつ、他にパート職員が1名である。利用者は現在8名で、とうふ・油揚げ類の製造販売に5名、「神明苑」敷地内の清掃に1名、同施設内のフィットネス部門の受付業務に2名が携わっており、定員に達していない。
当初からの目標である最低賃金の支払いはどうにか死守しているが、開設から4年半あまり経過したものの販売額が伸びておらず、定員まであと2名分の賃金支払いの目途が立たないために、新たな採用ができていないのが現状である。
神明苑敷地内の清掃やフィットネス受付業務に携わっている利用者の賃金の財源については、別会計である神明苑の営業経費から受け取っている。
(2)生活支援の状況
利用者の現員7名は、いずれも当法人内の他の事業所の就労移行支援か就労継続支援B型の利用者の中から選ばれて移って来た人たちである。A型に移ることによって格段に賃金が高くなっていることもあり、誇らしい言葉を口にする人はあるが、作業が辛いなど不満を聞いたことはない。
生活支援の面であまりに難しい課題のある人は選んでいないが、それでも生活支援指導を必要とすることはある。
開設当初は他の事業所と同様に、毎月10日に前月分の賃金を現金で手渡していた。現金を手にすることで労働の達成感を肌で感じることができ、その後の働く意欲の醸成になるとの考えからであった。ところが、手にする金額が多くなったことから急に金使いが荒くなり、高額のおもちゃを次々と買ったりして、次の10日までに小遣いにさえ事欠く人が出てきた。そこで支払方法も職員同様の口座振替とし、計画的なお金の使い方を身に付ける指導を実施した。
また、他の事業所での元同僚の求めに応じて金を貸したことを発端にした金銭トラブルから、仕事が手に付かなくなってしまった人もあった。両方の父親に来てもらい貸し借りを止めさせるとともに、支払い方法を話し合う場を持つなど、職員が積極的な支援をしてトラブル自体は解決に至った。それでも相当の期間は情緒不安定が治らないため、職員が励まし続けることもあった。
家族構成員の状況変化など家庭環境が影響して、長期にわたって情緒不安定が続いた人もあったが、このような人を支援する場合には、ご両親と連絡し合いながら、職員が本人とともに専門の相談機関や医療機関を訪れて対応策を検討している。
A型に移る前のB型在職当時の本人をよく知るB型の職員と連携のもと、話し合ったり励ましたりして乗り越えたこともあった。
4. 今後の課題と展望
極めて小規模の就労継続支援A型事業所ながら、商業ベースの経験がない社会福祉法人が自主生産・自主販売をして、利用者賃金の最低賃金額を確保するには大きな困難が伴う。当事業所も肝心の売上額が伸びず、開設以来3年半が経過したが販売額は最初の1年目とあまり変わらず、利用者の雇用増加が1名も実現していないことが課題である。
週1回配達する約束の定期購入会員組織については、法人内の各事業所の職員や利用者のご家族に協力をお願いして、開設時に多くの人達に会員になってもらった。次に、多くの利用者が卒業した特別支援学校の先生達や関係取引先の社員などにもご協力頂き、最初の1年でほぼ体制はできた。しかしその後、会員数はほとんど増加しておらず、新規に開拓した人数と同数程度の脱退者も出ている。
これまでにも、地元鯖江市の「つつじ祭り」をはじめ休日祭日の周辺各地の人が集まるイベント会場で出張販売や、福井県セルプ振興センター(障害者の事業所が組織した製品販売のための団体)が主催する県庁や各市役所などでの販売会への参加や、贈答用のとうふ油揚げセットを作り、チラシやインターネットによる通信販売もするなど、これらの販売方法はそれなりに実績をあげているが、利用者を雇用増加できる程の売上にはなっていない。
今後の新しい販売方法として、いよいよ巡回販売に踏み切ることにしている。「いよいよ」というのは、開設準備段階から巡回販売を予定していたからである。これまでの会員組織による販売も継続するが、これからが本番というぐらいの気持ちでなければならないと思っている。決して販売額の急激な増加は望めないが、地域の多くの皆さんに毎日接して信頼を得ることによって、地道にお得意様を獲得していくことが常道と決意している。また、販売品目の幅を拡げるためお惣菜を加えることや、お客様、特に買い物に店まで足を伸ばし難い高齢者の要望にも応えていきたいとも考えている。
また、お弁当の製造販売にも新しく取り組み始めている。福井県セルプ振興センター主催の販売会でのお弁当の売れ行きのすごさに目を見張り、当事業所も平成25(2013)年4月からお弁当の販売を開始したところ、売れ行きもよく、収益率も悪くない。今後は更にお弁当の製造能力を高めるとともに販売先を拡げて、将来は事業内容の2本目の柱にしていく計画としている。このような努力により少しでも収益を増やすことにより雇用増加を図り、一日も早く「福授園神明とうふ工房」を定員の10名にするとともに、更に大きく飛躍を図りたいと思っている。
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