職場実習の受け入れがベースとなり、障害者職業センター等の各支援機関との連携・協力が奏功した事例
- 事業所名
- マンズワイン株式会社
- 所在地
- 山梨県甲州市
- 事業内容
- 酒類の製造及び販売
- 従業員数
- 75名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 清掃作業 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
|
1. 事業所の概要、取組の経緯等
(1)事業所の概要
- 事業内容
マンズワイン株式会社は、キッコーマン株式会社の関連事業の一環として、ワイン・ブランデー等の製造販売を通じ、食生活・食文化の向上発展に寄与すべく昭和37(1962)年に設立され、平成24(2012)年で創立50周年を迎えている。
優れた醸造技術を背景に「品質第一主義」をもって「ソラリス」シリーズを始め業界においても確固たる地位を築いている。
なお、「マンズ」とは、親会社のキッコーマンの社名と、旧約聖書に記されているラテン語「天から授かった糧 MANNE“マナ”」の双方に由来している。
- 企業理念等
消費者本位を基本理念とし、食文化の国際交流をすすめて、地球社会にとって存在意義のある企業をめざしている。
- 組織構成
大きくは、製造部門、研究開発部門、品質管理部門、事務管理部門で構成されている。工場は勝沼工場と長野県の小諸に小諸工場がある。
- 障害者雇用の理念
理念としては、法定雇用率の達成もあるが、企業の社会的責任として地域雇用へ貢献することである。
(2)取組の経緯等
当社の障害者雇用は法定雇用率を満たすことがなかなか難しい状況の中で、毎年のように管轄ハローワークの所長並びに担当者による事業所訪問が実施されていたところ、4、5年前に同訪問に同行された山梨障害者職業センターのカウンセラーから熱心に説明を受けたことが、最大のきっかけと言える。この時に障害者雇用に対する意識が芽生えたと言っても過言ではないと思われる。
そして、平成24(2012)年度いよいよ障害者雇用に取り組むことになったのであるが、障害者雇用は初めてであり、全くの手探り状態からスタートすることとなった。
何から手を付けてよいのか、途方に暮れていたとき、以前ハローワークの訪問に同行された障害者職業センターのカウンセラーの存在を思い出し、連絡を入れたところから、ようやく動き出すことができた。
具体的には、最初は身体障害者の雇用を模索していたが、「軽い障害で事務のできる人など、会社にとって都合のよい人材はなかなか見つかりませんよ」というカウンセラーからの助言があったことが大きい。これにより障害の種類等にこだわらず、雇用を検討するに至った。特に、知的障害者の雇用は当時、キッコーマングループでも皆無であり未知の分野なので不安ではあったが、採用計画をつくる段階からカウンセラーに助言をいただくなど、ハローワーク並びに障害者職業センターの全面的な支援を受けながら進めることができたことが非常に心強かった。
まず、職務内容などをどうするかについて決めることとなったが、カウンセラーの助言で、当時お客様用も含め5箇所あるトイレ等の清掃を外部委託していた点に着目し、これを自社内で対応できないかを検討した。その結果、トイレや休憩室等の清掃を職務内容とする求人をすることとなった。
求人に対しては知的障害者2名の応募があり、ジョブコーチ、ハローワークの担当者、カウンセラーが同行する中で、現場案内や面接を実施し、職務試行法(職場実習)及びトライアル雇用を経て1名の採用を決定し、その人が現在も活躍している。
なお、上記で障害者雇用が手探り状態からのスタートであったと記したが、障害者雇用の実現可能性に関して言えば、それまでも決して低くなかったことが認められる。というのも、10年位前から社会貢献の一環として、特別支援学校からの職場実習の依頼があった場合には極力受け入れており、知的障害者の雇用に関しても現場としてはノウハウや雰囲気を含めた受け入れの環境があったと言えるからである。即ち、総務部門はそれらの経験をもとに、初めての障害者雇用をスムーズに実現できたと考えられる。
したがって、職場実習の受け入れの経験及び障害者職業センターのカウンセラーの同行によるハローワークの訪問、自社の社会的責任の姿勢の三つが相まって、それがきっかけとなり障害者雇用の実現に至ったものである。特にカウンセラー及びジョブコーチの協力や支援が大きく影響を与えたことが特徴的である。
2. 取組の具体的な内容
以下については、主に知的障害者の雇用について紹介するものである。
(1)労働条件等
- 期間
1年間の有期労働契約を更新する仕組みである。
- 場所
工場内の作業場(トイレ、社員食堂、更衣室、休憩室等)となっている。
- 時間
フルタイムであり、基本的には午前8時30分から午後5時であるが、変形労働時間制を採用している。
- 賃金
時給制であり、通常の契約社員と全く同様の設定となっている。なお、職務によっては障害のない社員よりも高い場合もある。
- 通勤
電車、バス等の公共機関を利用している。
(2)仕事の内容
場内の全てのトイレ(5箇所)、社員食堂、更衣室、休憩室等の清掃を一人で担当している。
|
|
|
(3)助成金等の活用
助成金に関してはハローワークや障害者職業センターからの助言もあり、障害者トライアル雇用奨励金、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者雇用開発助成金)などを活用している。また、採用前には職業センターの職務試行法(職場実習)を実施し、本人と職場環境や職務内容とのマッチングを確認している。
(4)労務管理上の工夫
初めての障害者雇用であり、試行錯誤の中で実施した労務管理上の取り組みは次のとおりであるが、最も重要なのはジョブコーチ等の支援を積極的に活用することである。手探り状態の中で適切な対応を行うにはジョブコーチ等の支援は欠かせないものであり、極めて有効と思われる。
なお、障害のある社員本人が他の社員とスムーズに仕事できるようになり、障害者職業センターに相談する機会の減った今でも、何かあればすぐに相談できるという心強さは何事にも代え難いものであり、それが安心感としてプラスの影響を与えていることは紛れもない事実である。
- 周知の実施
職務試行法を実施している時点から障害者雇用に取り組むことを各所属長を通じ社内全体に周知を行った。その際、総務部の心配をよそに現場では不安の声は全く聞かれず、むしろあたりまえのこととして受け入れていた。これは、上記1(2)取り組みの経緯でも触れたが、特別支援学校からの職場実習を受け入れた経験があったことが良好な雰囲気を作り出したものと思われる。
また、トライアル雇用開始の際、カウンセラーに一般的な注意点を確認し、その注意点を障害のある社員を配置する部門及び他の部門のいずれにも所属長を通じて説明を実施した。
- 相談体制
職務試行法、トライアル雇用時及び本採用後約1年間にわたり、ジョブコーチに支援をお願いした。マニュアルの作成を始め作業方法はもちろんのこと、自宅から当社までの通勤方法についても支援を受けた。
なお、本採用に至った後もジョブコーチからは継続的な支援とアドバイスがあり、一連のジョブコーチの熱心な支援に対しては本当に頭の下がる思いである。現在はジョブコーチの支援は終了しており、気になることがあると地域の障害者就業・生活支援センターの就労支援ワーカーに相談しながら対応している。
- 作業管理
初めは作業指示を行う担当者は一人に限定し、混乱しないようにした。さらに、各トイレに作業のチェックリストを設置して、本人も作業状況を確認できるようにした。また、作業手順が分からなくなることがあるので、就労支援ワーカーのアドバイスを受けて活動を記入できるように日報を整備した。
- 声かけ
素通りしないことが非常に大切である。「調子はどう」、「疲れていないか」など、とにかく一言でも声をかけることが継続して力を発揮してもらうポイントである。
(5)本人・上司の談話、エピソード
以下に本人並びに上司の談話を紹介するが、創立記念式典や忘年会、歓迎会、懇親会などにも必ず参加するなど、会社にすっかり溶け込んでいる様子である。
また、通勤時にバス停から徒歩の区間があるが、本人を見かけた自動車通勤の同僚が声をかけて同乗することがあるなど社員としてごく普通にサポートしながら職業生活を送っている。まさにノーマライゼーション(障害者や高齢者など社会的に不利を受けやすい人々が社会の中で他の人々と同じように生活し、活動することが社会の本来あるべき姿であるという考え方)の実現といっても過言ではないであろう。
○本人の談話
「家にいるよりも仕事をしている方が楽しい。一人だけではなく大勢でする仕事にも関心がある。懇親会も楽しい。一泊二日の親睦旅行にも参加する予定であり、今から楽しみにしている。」
○上司の談話
「現在、雇用している方は非常に朗らかな性格で、朝礼で全員の前で自己紹介するほど人前に出るのも平気で、よい人に来ていただいたのだと思う。本採用の前に採用をするかどうかを判断するためのトライアル雇用があったが、うっかりトライアル雇用期間中に歓迎会をしてしまい、今にして思えばその時から会社としては本採用することを決定したようなものだった。本人はあまりアルコールは飲まないが、皆と一緒にいる雰囲気が好きなようだ。」
3. 取組の効果、今後の課題と対策・展望
(1)取組の効果
法定雇用率を達成したということよりも、障害者を職業人として迎えることができ、企業として社会的責任を果たすことができたという達成感の方が大きいと感じている。
また、職場のパート社員が面倒見の良さを発揮するなど積極性が出てくるとともに、支援者としての役割を果たすようになったことは大きな進歩である。特に、障害者の「違う仕事でも嫌がらず、与えられた仕事以外のことにも気が付く(気が利く)」など仕事に対する姿勢が他の社員の手本となる部分も多く、会社全体を活性化している。
(2)今後の課題と対策・展望
- 課題
特に課題はないが、ジョブコーチや就労支援ワーカーなどとの相談体制を維持していくことが重要と考えている。
- 対策・展望
障害者雇用にとって有効な職場実習については、特別支援学校から話があれば今後も継続して受け入れたいと考えている。
また、職域を広げるという点では製造ラインでの固定的な作業などを割り振ることも検討に値すると思われる。さらに、長期雇用を見据えた働き方を期待するところである。
- 総括
最後に、今後障害者雇用に取り組む企業に対してアドバイスするとすれば、とりあえず門を開くことが大切ということである。そして、ハローワークや障害者職業センター、就業・生活支援センターなどの支援機関等と連携し、また、各種特別支援学校の職場実習を受け入れることが極めて有効である。それらが、障害者雇用の実現可能性を飛躍的に高めることになると思われる。まとめると次のとおりである。
- 職場実習を受け入れる(障害者雇用に対する社内のベースを整備することが可能)
- 障害者職業センター等の支援機関を最大限活用する(自己流でのリスクを回避)
- 障害のある社員に対しては、丁寧に説明・指導する(作業が定着するまで時間が必要)
- 声をかける(孤独感や疎外感の回避)
以上であるが、法定雇用率の達成を目途に始まった取り組みではあったものの結果として法定雇用率達成のみならず会社として地域雇用に対する社会的責任を果たし、パート社員の積極性の向上を始めとして、職場全体の活性化にもつながるなど、有形無形の効果が認められる素晴らしい事例である。
当事例は、特にこれから障害者雇用に取り組む事業所にとって、職場実習の受け入れ及び障害者職業センター等の支援機関との連携・協力が、いかに有効かつ重要であるか大変参考になるものと思われる。
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてユミルリンク株式会社提供のCuenote(R)を使用しております。