インターンシップを通じて適性を見極め、雇用へつなげる
- 事業所名
- テイボー株式会社
- 所在地
- 静岡県浜松市
- 事業内容
- マーキングペン先(フェルト・合成繊維・プラスチック)及びMIM(金属射出成形)による金属部品の製造・販売
- 従業員数
- 438名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 2 現場作業 内部障害 知的障害 2 検査作業・材料の矯正作業 精神障害 2 ケバ取り作業 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
当社は明治29(1896)年3月、「帝国製帽株式会社」として資本金12万円で浜松市砂山町に創業した。当時の事業内容は、紳士用高級ソフト帽子や中折れ帽子の製造であった。昭和5(1930)年天皇陛下の御臨幸の栄を賜る。本社敷地には記念碑が建立されている。昭和39(1964)年の東京オリンピックにおいては、当社製品が日本選手団のかぶる帽子に採用されたそうである。
昭和20(1945)年5月、空襲により被災し、全工場を焼失してしまったため、翌年8月、現在の浜松市中区向宿に本社工場を移転し、復興、操業を開始。昭和32(1957)年1月、フェルトペン先の製造・販売を開始した後は、昭和34(1959)年3月にヘルメット、昭和37(1962)年1月に合繊ペン先、昭和43(1968)年3月にプラスチックペン先の製造・販売を開始し、同年12月、事業内容の変化に伴い、社名を「帝帽株式会社」に変更した。
その6年後、紳士帽子の需要減退に伴い、フェルト帽子の製造を中止。昭和56(1981)年12月には、社名を「テイボー株式会社」に変更した。その後、平成5(1993)年11月、大手企業や大学の研究施設や市のインキュベートセンター、工業技術センターなどが集積する浜松テクノポリス内に「都田技術センター」が完成。ここには高度な電子顕微鏡をはじめ、最新の試験用機器が設備されており、技術の統合化、集約化の拠点となっている。
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マーキングペン先の分野で今日の地位を築いた当社は、国内及び世界50カ国以上の国内外の筆記具メーカーへ製品を提供している。ペン先事業は世界トップシェアを誇り、製造している製品は年間約2400品種、月産約3億5千万本にのぼる。
さらに当社は、アイライナーの筆先など化粧用品分野の製品も開発し、応用分野を広げ、平成6(1994)年1月には、金属射出成形法(MIM)部品の製造・販売を開始した。金属射出成形法(MIM)とは最新の金属部品製造法の一つで、従来のプラスチック射出成形法と金属粉末冶金法を融合することによって生まれた複合技法であり、金型を用いた射出成形により機械加工が困難な微細・精密部品や複雑形状・3次元形状の部品も容易に製造することが可能となった。
このように当社は、研究開発から製造、出荷までを一貫して行う体制を確立し、低コストで高品質な製品を安定的に供給し続けている。製品はすべて当地域で生産され、市場から高い評価を得ており、平成13(2001)年には、当社の技術力の高さや、国民生活・経済活動に与える影響の大きさ・企業の国際貢献度等が認められ、経済産業省「元気なモノ作り中小企業300社」に選出されており、今後も活躍が期待されている。
(2)障害者雇用の経緯
当社が積極的に障害者を雇用し始めたのは平成23(2011)年である。それまでは、もともと雇用されていた従業員が糖尿病を悪化させ腎臓病を患ったことにより障害者雇用に結びついていたため、新たに障害者を採用するということはなかった。しかし、その人が退職し障害者雇用率が法定雇用率を下回ったため、必要に迫られて初めてハローワークに相談に行った。
その時ハローワークからは会社の構造がバリアフリーになっておらず、身体障害者にとって働きやすい環境ではないとの理由で、精神障害者の雇用を勧められた。そのアドバイスを受け、都田技術センターに知的障害者と精神障害者を1名ずつ採用することを決め、二人を同じ部署に配属した。職場への受け入れ前には職場のリーダーに彼らの障害特性を説明したり、作業マニュアルを作成するなどの準備をして彼らが働きやすい環境を整えた。しかし、実際に二人を受け入れてみると、お互いを過剰にライバル視してしまい、精神障害のある従業員の体調に波があって休みがちであることを知的障害のある従業員が理解できず、不満に思うなどの問題がおき上手くいかず、結局、精神障害のある従業員は辞めてしまい、知的障害のある従業員のみを採用することとなった。同じころ、本社でも精神障害のある従業員を1名雇用したが辞めてしまい、再度精神障害者を雇用した。その人は現在も継続雇用されている。
2. 取組の内容
当社では現在、肢体不自由者(重度)2名、知的障害者2名、精神障害者2名を雇用しているが、障害者の採用はすべて人事総務付けとし、部門への経費参入の形を取っていない。
障害者の担当業務は検査業務、材料を延ばす作業、ペン先のケバ取り作業などである。ケバ取り作業とはペン先についた粉を専用の機械のバケットに入れ、回転させることで製品に付着した粉を除去する作業のことで、当社ではこのケバ取り作業に従事している精神障害者に対して障害者雇用納付金制度に基づく助成金である「障害者介助等助成金」を活用し、業務遂行援助者を1名配置している。この職場では一日に何十種類ものペン先を扱うため、製品の変わり目ではそのつど声かけをすることによって間違いを防いでいるという。
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当社で雇用されている障害者が担当している業務は会社の要となるものであり、不良品を出すことは信用問題にも直結するが、徹底した教育のもと障害者も分け隔てなく企業の戦力として仕事を任されている。このような取り組みが評価され、当社は平成25(2013)年度独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞を受賞している。
障害者が配属されている現場と総務とは関係が密になっており、現場で問題がおきるとすぐ総務に報告する仕組みになっている。精神障害者の中には精神的に不安定になると過呼吸になったり薬を服用して気持ちを落ち着かせるなどの手立てを講じなければならない人もおり、そのつど総務が対処している。このように、総務が常に障害者の状態を把握していることは現場の従業員や障害者自身の安心感に繋がり、問題が起きたときに早急に対処することで現場の負担軽減にもなっている。こうした体制作りが障害者の職場定着に大きく影響している。
当社はすでに来年(平成26(2014)年)4月に1名の障害者を雇用することを決めている。その人は現在特別支援学校の高校3年生で、これまでに3回のインターンシップを行っている。まず1年生の時はケバ取り作業を体験し、2年生の時には学校でコンピューターを扱っているとの話を聞いたため、総務の仕事をさせてみた。彼が作業しやすいように一日の仕事の流れをマニュアル化し、社員の残業や給食の注文の入力などに挑戦させたが、1日というスパンが彼にとっては長く理解が難しかったため、総務の仕事は断念し研磨の仕事に切り替えた。しかし、この作業もやってもやっても次から次へ製品が流れてくるので、本人が達成感を得られずうまくいかなかった。そこで、3年生になった時、再度ケバ取り作業をさせたところ、1年生の時に経験済みということもあって作業工程がしっかり頭に入っており、本人も自信をもって意欲的に取り組むことができた。その結果、作業が定着し、彼を受け入れた現場から「インターンシップの期間を延ばして、もっとここにいてほしい」と声があがるまでに成長した。ひたむきな勤務態度も評価され、来年度(平成26(2014)年度)の雇用内定につながった。
インターンシップの期間中は障害者と配属先の課長が日誌をやり取りしている。日誌には保護者も目を通し、会社と家庭双方で情報の共有を行っている。時には作業へのモチベーションを高めるため、数値で目標設定をすることもあるという。具体的な目標があるとそれに向かって努力する気持ちが芽生え、目標を達成すると褒められることでさらに意欲的に取り組むようになるという。
3. 取組の効果、今後の展望と課題
(1)取組の効果
当社はインターンシップを通じていろいろな仕事を体験させ、適性を見極めた上で採用を決定し、配置決めを行っている。こうすることで、入社後もトラブルが起きることなく、スムーズに就労できるという。新卒を採用することに決めた理由として、親御さんが就職に関して熱心なため家庭との意思疎通が図りやすく、協力が得やすいという点が挙げられる。安定した就業生活を継続させるためには家庭の協力が欠かせないと考えるからである。採用した障害者の中には、どうしても当社に就職したいとの強い想いから会社の近くに移り住んだ家庭もあるという。親子の熱心な思いに触れ、彼女の人生で大きな位置を占める「就労」の部分を引き受けることに身の引き締まる思いだったそうである。
精神障害者は季節の変わり目に体調を崩しやすく、休みが長引きやすい。そんな彼らに対し最初は現場から不満の声もあったようだが、共に働くうちに周りの従業員が彼らの体調の波のサイクルを把握できるようになり、これが彼らの障害特性なのだという理解が浸透し不満は出なくなったという。それは、体調不良で会社を休むことがある一方で、出勤できているときは自分の業務をしっかりこなしているからにほかならない。都田技術センターで採用されている知的障害者も作業方法に強いこだわりはあるものの、その働きぶりは障害のない従業員と変わりなく、性格も明るくみんなに愛されている。
このような彼らの真面目な働きぶりを目にして、他部署からは障害者に担当させる業務の提案があったり、新たな障害者の受け入れを希望する声が少しずつ出始めてきたという。これは、今まで障害者と接点のなかった人たちが彼らと共に働く中で、障害があっても彼らの持つ能力が充分に発揮できる職場であれば、充分会社の戦力となりうることを実感したからではないだろうか。
(2)今後の展望と課題
テイボー株式会社はマーキングペンの需要増に対応すると同時にペン先製造技術を活かし、化粧品用、産業用の部材など関連する分野へも事業を積極的に展開していくことを目標としている。また、新規に導入したMIM(金属射出成形法)の技術水準を高め、早期に量産体制を構築して一層の事業拡大を行っていく考えだ。
障害者雇用に関しては今後も継続して受け入れを進めていく方針だが、一度に複数名を雇用するのではなく採用した人が安定してから、次の人を採用するという形をとっていきたいと話している。それは、インターンシップ等を通して、じっくりと適性を見極め、それぞれの強みを生かしたジョブマッチングを行うことが、職場定着に繋がると考えるからであろう。まさに、「物造りは人づくり」との考えに基づき、人材育成を積極的に推進し、個人の能力向上と個の力の結集により総合力を強めていくことを経営理念として掲げる当社ならではの考え方である。今後ますます、障害者雇用が増えることを期待したい。
サブコーディネーター 保坂 真理
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