障害の種類・程度に応じた職務配置・職場改善を通じて、
地域とともに障害者の雇用に取り組む事業所
事業所正門(本社・工場)
事業所外観(本社・工場)
1. 事業所の概要
(1)事業所の概要
トライス株式会社は自動車用電装品の部品を製造する会社である。特に直流モーターに不可欠なカーボンブラシ、燃料ポンプ用カーボンコンミテータ及び粉末冶金における精密機械部品の製造を通して、世界的に評価されるメーカーである。また、社名のもととなった物体表面における摩擦・摩耗潤滑に関する科学技術である「トライボロジー」を極めて、世界をリードする製品づくりをめざしている。
会社の設立は昭和21(1946)年12月16日である。起業当時は神戸に会社があり、当時の社名は「富士カーボン工業株式会社」であったが、昭和34(1959)年に松阪市に進出し、平成2(1990)年に社名を「トライボロジー」に由来する現在の社名「トライス株式会社」に変更した。
現在、本社・工場の他に、2か所の工場、東京営業所をはじめとする3か所の営業所を国内に設置している。また、海外に5か所の生産拠点と、1か所の駐在事務所を設けている。
平成25(2013)年1月には、社団法人中小企業研究センターが全国の中堅・中小企業の中から経済的、社会的に優れた企業を発掘、顕彰する「グッドカンパニー大賞」の第46回目(平成24(2012)年度)の表彰企業に選出され、「グランプリ」を受賞した。
なお、「グッドカンパニー大賞」は、昭和42(1967)年の創設以来毎年実施されており、受賞企業数は累計で589社にのぼり、うち66社が株式公開を行うなど多くの企業が日本の有力企業となっている。
(2)障害者雇用状況
障害者雇用において、障害の種類・程度に応じた職務配置、職場改善に積極的に取り組むなどの長年の取り組みが成果となって、勤続40年になる知的障害のある社員がいる。
職場定着にも努力し、高い雇用率を維持している。平成22(2010)年度は2.35パーセント、平成23(2011)年度は2.17パーセント、平成24(2012)年度は2.05パーセントの障害者雇用率である。
これらのことが評価され、平成24(2012)年度障害者雇用優良事業所等表彰において、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞を受賞した。
(3)理念
- 事業環境の変化に対応できる体質を作り魅力ある企業を実現する
<品質基本方針>
- 顧客が価値を認める品質を確かな物作りで提供する
<社 是>
- 会社を愛し職務を誠実に遂行して社会に貢献する
- 常に礼儀を正しくして人の和を大切にする
- 創意、工夫、技術を磨き良品を廉価に供給する
- 従業員福祉の向上により社運を開く
(4)事業の内容
- カーボンブラシの製品開発と製造
- カーボンコンミテーターの製品開発と製造
- 粉末冶金による機械部品、軸受の開発と製造
2. 障害者雇用の経緯
当社はかつて法定雇用率に達しない時期があった。しかし、企業は企業活動を通じて社会に貢献することが大切であるし、またそれは企業の果たすべき責任であるという理念に立ち、積極的に障害者雇用に努めてきた。特に地元とのつながりを大切にし、松阪公共職業安定所(ハローワーク松阪)と積極的に連携し、障害者就職面接会等を通じて着実に障害者雇用を進めてきた。その結果、前述のとおり現在のような障害者雇用の状況となり、模範的企業として表彰を受けるに至った。
昭和47(1972)年、ハローワークの紹介で、中学校を卒業した新卒の生徒について働き口を探しているので検討してもらえないかとの話があった。
その当時は、障害者の雇用に積極的に取組んでいくというところまでの考えはなかったが、社会貢献の一環として、雇用の場を提供した。その後、その人に知的障害があることが分かったが、その人の特性や、適性を考慮して、その人に合った仕事を作り出し、雇用の継続につとめた。その結果、この社員は現在に至るまで40年以上雇用が継続している。現在では製品製造にともなうリサイクルの職務を担当し、当社にとって欠かせない大切な社員となっている。
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2年後の昭和49(1974)年、昭和47(1972)年に雇用した障害のある社員の弟を、中学校卒業後に雇用し、この社員も卒業後、現在に至るまで40年近く雇用が継続している。この社員も、現在では当社にとって、欠かせない大切な社員となり、製品などの運搬業務を担当している。
この二人の雇用が、現在まで続く当社の障害者雇用の取組の端緒となった。
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3. 雇用に向けた取組
(1)雇用に至るまで
- 平成9(1997)年には特別支援学校知的障害教育校(当時は養護学校)高等部の卒業生を雇用した。この人はコミュニケーションに障害があり、そのこともあってか知的重度の判定であった。他の社員が休憩時間などに積極的に話しかけるなどの対応を取り、また、自発的に一人の社員が1対1対応での指導を続けるなどした結果、1年後には一人で職務をこなせるようになった。この社員も現在に至るまで雇用が続いている。
- 平成17(2005)年には、社員の紹介で、身体障害(内部障害)の人を中途採用した。この人は入社前に障害者判定を受け、障害者手帳を取得していた。この社員についても、積極的に障害者雇用に努めて社会的責任を果たしていくという会社の方針に基づき雇用した。
- 平成18(2006)年には障害者就職面接会を経て、中途障害の身体障害者(肢体不自由)を雇用した。この社員についても、適性や能力を考慮し、職務内容を検討して、職場配置を行い、現在まで雇用を続けている。
- 平成25(2013)年には3月に中途障害の身体障害者(肢体不自由)を採用し、引き続き4月には内部障害のある身体障害者をハローワークの新卒者対象の障害者就職面接会を通して採用した。3月に採用した社員は、もともと派遣で勤務していたところ本人からの申し出もあったが、勤務態度や能力などを会社が認め、また障害者雇用を積極的に進めて社会貢献を果たしていくという当社の方針により、直接雇用することとしたものである。
- 平成19(2007)年に特別支援学校高等部卒業生を雇用し、食堂業務を担当させたが、すべてのことに力を入れすぎてしまい、適度に力を抜くといったことができにくいといった本人の特性から体力的な限界を生じた。当社としては雇用を継続しようという考えがあったが、このような本人の事情から、平成25(2013)年7月に離職するという結果に至ってしまった。
(2)現在の状況
- 現在雇用中の7人については、6人が本社工場で1名が松阪広陽工場で勤務している。特に障害からくるような雇用上の問題はなく、それぞれの職務を遂行している。
なお、松阪広陽工場は、平成17(2005)年にバリアフリー工場に改装した。そこに勤務する障害を有する社員には工場に最も近い駐車場を提供するなど、働きやすい環境を提供している。
- 現在の雇用形態等
- 昭和47(1972)年と昭和49(1974)年に採用の社員(知的障害)・・・ともに正社員
- 平成9(1997)年採用の社員(知的障害)・・・準社員(常勤)
- 平成17(2005)年採用の社員(内部障害)・・・契約社員
- 平成18(2006)年採用の社員(肢体不自由)・・・正社員
- 平成25(2013)年3月採用の社員(肢体不自由)・・・契約社員
- 平成25(2013)年4月採用の社員(内部障害)・・・契約社員(平成26(2014)年4月より正社員としての雇用を予定)
(3)雇用の成果・課題等
「障害者の雇用について、特別に配慮していることはない」あるいは「特別なことは何もしていない」とは、当社の担当者の話である。
しかし、実際には障害者就職面接会に参加したり、あるいは紹介を通じて雇用したりしている。また、雇用した社員の特性や能力、あるいは障害の種類・程度に応じた職務配置、職場改善に積極的に取組むなどの対応をしている。その結果が高い雇用率であったり、また長い勤続年数となって表れている。
それは、長い障害者雇用の取組の中で培われた障害の種類・程度に応じた職務配置、職場改善の取組が、まるでごく普通の日常的取組となっていて、特別な対応と意識することはないところまで定着しているからではないだろうか。このことが、当社における障害者雇用の最大の成果であると考えられる。
(4)雇用に当たって利用した制度等
- 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者雇用開発助成金)を利用。これは、高年齢者や障害者等の就職困難者をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)として雇い入れる事業主に対して、賃金相当額の一部が助成される制度である。
- 障害者介助等助成金のうち業務遂行援助者の配置助成金を利用した。これは、就職が特に困難と認められる障害者を雇い入れるか継続して雇用している事業主が、障害の種類や程度に応じた適切な雇用管理のために必要な介助等の措置を実施する場合に、その費用の一部を助成するものである。
鳥羽商船高等専門学校 講師 西世古 悌治
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