知的障害者の雇用をすすめながら職場の『支援力』を徐々に高めた事例
- 事業所名
- 大阪大学生活協同組合
- 所在地
- 大阪府豊中市
- 事業内容
- 消費生活協同組合
- 従業員数
- 444名(パート含む)
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 3 清掃業務、飲食店厨房補助作業 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
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1. 障害者雇用の取組の経緯
(1)障害者雇用の取組のきっかけ
本稿では、大阪府豊中市にある大阪大学豊中キャンパス内の大阪大学生活協同組合(以下「大学生協」という。)事業所において、清掃業務で障害者雇用に取り組んでいる事例を紹介する。
大学生協の組合員数は2万人ほど。事業所数は豊中キャンパス、吹田キャンパス、箕面キャンパス内において食堂事業、購買事業、書籍事業、旅行業法に基づく旅行事業、宅地建物取引業法に基づく住宅斡旋事業及び組合員の生活の共済を図る事業を行う12の事業所により構成される。従業員規模は、非正規職員を合わせて400名あまりとなっている。
豊中キャンパス内事業所は、豊中福利会館事業所のほか4事業所で構成されるが、特に豊中福利会館事業所では、生協本部、生協事務所(総務部)、飲食店(4階食堂・3階食堂)、販売店(書籍店・購買店)、サービスカウンター(旅行・各種斡旋サービス、印刷・イベント請負サービス) がある大規模事業所である。
平成22(2010)年7月から、いわゆるパートタイム労働者についても週所定労働時間が20時間以上の場合には、常用雇用労働者数にカウントされる障害者雇用促進法の改正が施行された。当該事業所でも、以前から障害者雇用の取組を計画的に進めていたが、短時間労働の従業員が多く在籍している事情から、雇用すべき障害者数(法定雇用障害者数)が改正法の施行後に一気に増えてしまい、2ポイント不足してしまうことが懸案となっていた。
そこで、地域の支援機関、ハローワークとの連携のもと、新たな障害者雇用を進める取組を始めることとなったのである。
(2)職域を検討し障害者を採用するまで
改正法が施行される1年近く前から、地域の就労支援機関を交えて当該事業所での新たな障害者雇用に向けた検討をすることになった。まずは、事業所内で障害者雇用の可能性のある職務内容を一から考えていくところから始められた。
当該事業所では、これまでも学生や教員が利用する食堂内で知的障害者の雇用をしていた。そのため、知的障害者を新たに雇用することについてもイメージできるようではあったが、食堂の規模を考えると、同じ現場で新たな障害者を受け入れるだけの職域を確保することは難しい状況であった。
そのようなこともあり、同じ大学の別のキャンパスや学校以外での現場も含めて、障害者雇用の職域を調整、検討する作業を進めていった。その結果、これまでは業者に委託をしていた建物の清掃と構内各所に置く自販機に設置してある缶やペットボトルのゴミ回収中心の業務が、障害者雇用の取組現場の候補となった。
ただ、候補となった業務は、これまでに当該事業所が取り組んできた食堂での障害者雇用と異なり、事業所の従業員と常に一緒に仕事をする状況ではない。障害のある人だけで業務が完結しなければならないのである。
そこで、雇用現場の特性を踏まえて、障害者の採用の際には、基本的な清掃業務のスキルが身についていることだけでなく、自らで時間を確認して業務ができることも条件として、近隣の就労支援機関に在籍している人から候補者を募ることにした。候補者に対しては、雇用契約の前に職場実習も行いながら、対象者の絞りこみを行った。その結果、平成22(2010)年7月から2名の知的障害者を採用することになった。
2. ジョブコーチ支援により受入れ現場での『支援力』を高める
(1)障害者の自立度合いを高めるための作業スケジュール表の作成
本稿で紹介する障害者雇用は当該事業所にとって新たな職域での取組であったこと、また上述のように事業所従業員が常にいる場所から離れて仕事をするような状況であることから、当初から大阪障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターと調整し、ジョブコーチによる支援が受けられるようにした。
まずは、支援に出向くことになったジョブコーチが、事業所の意見も聞きつつ、一日の作業スケジュールとそれぞれの作業手順書を作成することにした。障害のある従業員にとって、仕事の流れを理解することを容易にするだけでなく、なるべく早い段階から自立して仕事ができる状況にしていくことが目的である。
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写真で紹介しているのは、本稿の取材時点で活用をしている作業スケジュール表である。それぞれの作業について、目安となる開始時間と終了時間、作業の際に準備すべき道具と作業手順が記入されている。また、これらは障害当事者の作業中での確認しやすさを重視し、作業毎に分かれた「めくり式」になっている。
さて、このような作業手順書は、障害のある従業員が業務をする上では便利かつ効果的なツールであるが、障害当事者の作業の習得状況や現場での事情により、作業内容や手順を変更せざるをえない場合は、その都度作り直さなくてはならない。当初は、支援機関のジョブコーチが内容の変更のたびにスケジュール表を作成していたが、今ではスケジュール表の作成に際して支援機関がサポートすることはない。事業所の障害者雇用受け入れ担当者が、現場で働く知的障害者の特性を踏まえた作業スケジュール表を作成するノウハウを獲得していったのである。
就労支援機関のジョブコーチでの関わりを見ていく中で、現場での『支援力』が徐々に高まっていったといえる。
(2)意図的に設けた従業員との関わり
作業スケジュール表を活用することで、障害のある従業員の仕事面での自立度が高まっていくが、一方では障害のある従業員と障害のない従業員とが業務場面で関わる機会が少なくなってしまうことが懸念された。本事例のように、常に一緒に仕事をするような状況でなければ、なおさらである。そこで、障害のある従業員の雇用管理という面も踏まえて、従業員が障害のある従業員と意図的に関わる機会を設けていくことも意識している。
例えば、作業の開始、終了時や消耗品不足等の際には、その都度担当者に報告することをルールにしていった。日々の報告を通じた関わりから、障害のある従業員との関係性を深めていくことができたことも、雇用を長期間続けることができている要素の一つになっていると思われる。
(3)突発的な事態に対する対応
また、長期間の雇用継続のためには、障害者雇用ゆえの想定し得ない状況にも、しっかりと対応していくことが求められる。
障害のある従業員が業務中にてんかん発作を起こしたことがあった。その際には、支援機関のスタッフも現場に出向き、家族を通じて医療機関からの情報を収集しつつ、事業所の担当者と一緒に対応を検討していった。
この一件以後、現在も当該障害のある従業員は他の従業員の目に留まりやすい場所を中心とした清掃作業に作業場所を変更する等の配慮がなされるようになった。このように、障害者雇用の『支援力』が高まり、日常の関わりでは事業所内で障害者雇用についての支援が対応できている状況であったとしても、想定外の出来事が生じた際には、支援機関のサポートを得られる関係性が続いていることも就労継続には、大切な要素である。
3. 当該事例から学びたい障害者雇用のヒント
法定雇用率の引き上げ等にともない、企業等で、新たな職域での障害者の雇用を進めている事例が増えていると思われる。その際、本稿で紹介する事例のように、常に障害者と共に働く状況とならない現場や、障害のある人との関わりに不安を抱えたまま取組をはじめる事業所も少なくないだろう。そんなときに、就労支援機関のジョブコーチ等の支援を活用して、企業内での障害者雇用の『支援力』を高めていったプロセスは、これから障害者雇用を進めていく事業所に示唆するものが多いのではないだろうか。
また、本稿の事例で紹介した大阪大学では、5年前から「エコ・レンジャー」という愛称でキャンパス内の清掃作業で知的障害者の受入れを計画的に取り組んでいる。大学生協の店舗を利用する学生や教職員にとっては、普段から既に大学構内で障害者が働いている場面を目の当たりにしている状況がある。本事例ゆえに感じられることではあるが、障害のある人が働くことに対して、理解を得られやすい風土となっていることも、当該障害者の安定した就労によい影響をもたらしていることは間違いないだろう。
以上、知的障害者2名が仕事面での自立度合いを高めて、長期にわたり雇用継続が可能になっている事例を紹介してきた。安定して就労が継続できているのは、何よりも障害者本人たちの頑張りによるものであるのは事実である。しかし、これまでの障害者雇用を通じた障害者との関わりによって、当該事業所での『支援力』が高まっている点、障害者雇用に対して暖かく受け入れる風土によって支えられている側面も、当該事例から学ぶべき障害者雇用を進めていくヒントとして心に留めておきたい。
執筆者: | 一般財団法人箕面市障害者事業団 箕面市障害者雇用支援センター 所長 下司 良一 |
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