当たり前のことを当たり前以上に。それこそが高い定着率の要因
- 事業所名
- 株式会社ダックス四国 福山工場
- 所在地
- 広島県福山市
- 事業内容
- 回収容器選別事業
- 従業員数
- 22名(福山工場)
- うち障害者数
- 17名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 14 回収容器選別など 精神障害 1 回収容器選別など 発達障害 2 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
当社福山工場は、簡易食品容器の製造大手である株式会社エフピコの100%出資による特例子会社(平成10(1998)年9月に認可)として高知県南国市に設立した当社2番目の工場として平成20(2008)年に設立されたもので、約100名の障害者を雇用するエフピコの特例子会社グループである全国5事業所の中の一員になっている。
事業内容は、各自治体やスーパーマーケット等に消費者から持ち込まれたトレーを回収し、エフピコ方式のリサイクルシステム「トレー toトレー」によるリサイクル事業の中で、人の手に頼らなければならない重要なトレーの選別部分を障害のある従業員が担っている。
(2)障害者雇用の経緯
エフピコが最初の特例子会社を設立したのは今から28年前の昭和61(1986)年に設立された株式会社ダックス(千葉県習志野市)で、平成4(1992)年5月に特例子会社として認可されている。
エフピコの特例子会社グループである全国5事業所では、障害者の法定雇用率を達成することに加え、障害のある従業員一人ひとりの特性を活かす取り組みを行ってきたことで、生産性の向上と働きがいを感じる職場を生み出す組織へと成長し、勤続28年を迎える人から新入社員までの総勢100名を超える障害のある従業員が、貴重な戦力として全国で活躍するまでになった。また、エフピコ全体の障害者雇用率も平成25(2013)年3月末時点で16.1%となった。
当事業所は、平成20(2008)年の設立当初より、そうした特例子会社の一員として障害者雇用に努めており、障害を持つ人の採用基準についても「働く意欲と自立心のある人」、「より重度な障害のある人」の二点に重点をおいてきたことから、その基準が示すように現在雇用する障害を持つ従業員の約80%が就労判定(障害者職業センターでの重度知的障害者判定)において重度の障害者となっている。
2. 取り組みの内容と成果
(1)目標設定と評価
当社で働く障害のある人は、その一人ひとりが障害の種別、程度、特性などに大きな違いや個性を持っており、仕事における日々の努力や成果への評価方法、目標設定に、障害のない従業員と同様の人事評価制度を適用することには限界を感じていた。
一方、障害のある人に対する評価と言えば、障害者雇用の現場でありがちな「頑張っているから偉いね」、「障害があるのだから競い合わなくていいよ」、「できるだけでいいから」といった曖昧な基準になってしまう。それでは、働く障害のある人の向上心も芽生えず、職責を実感することができないのではないか。それは即ち、真摯に仕事に向き合う障害のある従業員に対して失礼に当たるのではないかとの思いが募っていた。
そこで広島県職業能力開発協会が運営する広島県職業能力開発サービスセンター等のアドバイスを受け、より具体的に評価をし、ステップアップの道筋を明確にできる独自の評価システムを構築することとした(注)。
(注) | 障害者雇用を前提とする経営環境を考慮すると、障害がない人を対象とした評価制度は、そのままでは導入することは困難。そこで、職業能力評価基準のフレームワークを基に、「プラスチック製品製造業」の能力ユニットを参考にしながら、会社の実状に合った形で作成することとなったもの(中央職業能力開発協会ホームページ「職業能力評価基準の活用事例:平成23年度」)。 |
そのつくりとしては、一定の項目を入力することにより人による先入観評価を排除した平等な評価ができる仕組みを念頭に置いたものとした。そうしたことから、その構築段階において一人ひとりの抱えるバックボーンや障害の程度、勤続年数、欠勤率、家庭環境や成育歴など、障害者雇用ゆえの個別テーマをどのようにシステムに組み込むかなど大変な苦労があった。実際に運用してみると、これまでは見て見ぬふりをしていた課題や、思わぬ着眼点、次にするべきことは何かといったことが一つひとつ明確にされ、そうしたことへの対策の一つひとつが従業員の成長の支えとなるとともに、会社の方向性や理念までも底上げされていると実感できるまでになった。
障害のある人に対し「無理をしなくていいよ」、「頑張らなくてもいいよ」、「勝ち負けじゃないよ」という言葉を耳にすることがあるが、仕事は無理をするから面白いのであって、頑張ったからこそ成長できるものと考えており、精一杯頑張ってもできない悔しさを知ること、どんなに努力してもかなわない相手がいること、「あなたがやらなくて誰がやるの?」と責任を求められること、一つずつできるようになりたいと精一杯努力すること、そのすべてが彼らの成長の糧になると確信している。
私たちのすべきことは、無理をさせないことではなく、できると信じて一緒に進むことであり、そしてできたことを正当に評価することである。今回の評価システムの構築は、そうした私たちの想いが形にできるものとなった。
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(2)安全防災対策
当社では「障害のある無しに関わらず、仕事に対する姿勢やその想いに一切の妥協があってはならない」と、一貫してその方針を全従業員に強く掲げている。だからこそ、安全性に対してはどの企業どの事業所よりも高い意識と精度を持ち、より具体的な「従業員を守ることのできる安全防災対策」を構築する義務があると考える。
相談事を細やかに聞いて優しい励ましの言葉をかけることは、障害のある従業員の雇用を継続するためにもちろん必要なことかもしれないが、それだけで本当の意味での「永く」、「濃く」、「良く」働くことのできる就労環境は作れるものではない。
月に一度の抜き打ち避難訓練、個々の個性に応じた防災備品(例えば、てんかん発作のある従業員には医師から処方された薬を、自閉症で同じ枕でないと絶対に眠れない従業員には自宅で使用するものと同型の枕を用意するなど)の配備、労働安全通信の発行、保護者と一体となった緊急時対応の構築、KYT(危険予知訓練)や安全教育の徹底、全スタッフの救命救急資格、全管理者による防災士資格の取得など、できることをすべて行い、それでも「まだ何か足りないのでは?」と常に意識し続けていくこと、その積み重ねこそが、障害のある従業員との信頼関係に繋がっていくものと考える。そうした信頼関係が結果的に98%を超える定着率の高さにつながり、障害のない従業員のみを雇用するエフピコグループの他の事業部と比較しても、遜色なく、精度の高い生産力を生み出す当社のモチベーションの高さの要因であると実感している。
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(3)福利厚生
当社では福利厚生として、毎年の社員旅行をはじめ全員無欠勤で乗り越えた際に開く夏越し祝い、花見や忘・新年会などのイベントを重要視しており、ありきたりの形ではなく、会社の状況や現状の課題、目標に良い影響を与えるプランを細かく盛り込んだ完全オーダーメイドにこだわって企画し開催している。
併せて、保護者参加の会社見学会や年度総会、月に一度の全体勉強会などを開き、会社と保護者の間の意見交換を行うと共に、相互の理解を高めている。
働くことで得られるものはけっして対価だけでなく、働くことによって得られるショッピングの喜びや楽しさ、辛いこと、苦しいことも共に乗り越え励まし合える仲間との出会い、明日からも頑張ろう!と皆で笑い合えることのできる機会の提供も福利厚生の一環として捉え、今後もそうした取り組みが継続できる工夫をしていきたい。
(4)体調管理
当社の従業員の中には、知的障害と右半身の機能障害が重複する人、知的障害と精神障害が重複する人、薬が一切服用できない持病を持つ人など、様々なハンデキャップを抱える従業員も多く在籍する。そんなハンデキャップがありながらも働きたいと思うこと、そして働き続けるということが、どれほどの努力と日々の積み重ねの上に成り立っているかを推察すれば、その努力に最大限の力添えをすることが会社の使命であると考える。
工場内の具体的な環境整備はもちろんのこと、出社時の体温測定、一日3回の工場内温度・湿度の管理、騒音臭気測定を実施すると共に、冬期ではマスク着用の徹底、夏期ではクールベスト着用等々、私たちにできることはどこまでも追求し、取り組んだことにより、出勤率、定着率ともに98%を超え、「誰もやめない・誰も休まない会社」という現在の結果につながっていると自負しているところである。
3. 今後の展望と課題
障害のある人を雇用するということは、福祉活動でもボランティアでも、自己犠牲でも社会貢献でもない。障害の有無に関わらず、全従業員が「自らの力を100%出すこと」を共通の目標として、定年まで働き続けることのできる会社作りを共に展望し、実現する努力が大切であると考えている。
当事業所も設立から5年を経たが、全国のエフピコ特例子会社グループには、設立から15年を超える事業所や、間もなく30年を迎える事業所もあり、そこには当然のことながら、それと同じ期間の勤続年数を重ねた障害のある従業員も多く在籍している。
そうした歴史を積み重ねられている諸先輩の背中を目標とし、「働く障害のある従業員が、未来の働く障害のある従業員へ、働く力や想いを継承していく」という、障害のない従業員の間でも難しくなってきた「働く力の継承」を目指し、これからも進んでいくことが私たちの次の課題である。
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