さりげない配慮があり、キャリアアップへの道が開かれた事業所
- 事業所名
- 医療法人社団豊美会 田代台病院
- 所在地
- 山口県美祢市
- 事業内容
- 病院(精神科、神経内科、内科)
- 従業員数
- 203名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 2 看護業務、清掃業務 内部障害 1 看護業務 知的障害 1 リネン業務 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
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1. 事業所の概要等
(1)医療法人社団豊美会 田代台病院
田代台病院は、山口県の名勝秋吉台の近く、緑豊かな山々や田畑に抱かれた地にある。認知症などのある高齢者を主な対象に医療活動を続けており、病床数は302床。広い敷地内に、三つの病棟(精神一般病棟、認知症治療病棟、精神療養病棟)、重度認知症患者デイ・ケア施設「なごみ」、従業員のための託児所などがゆったりと並んでいる。
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(2)地域に根ざした経営
当院で障害者雇用を担当している管理部長の土肥誠氏と、総務・人事担当係長の阿部秀昭氏に話を伺った。
「地域にある病院ですので、地域とのつながりを大切にしています。多くの従業員が近隣から通勤しています。自家用車を利用する人が多いのですが、通勤用のワゴン車を毎日朝・昼・夕の三回走らせ、送迎を希望する方を送り迎えしています」と土肥部長は語る。従業員のなかには運転免許証を所持していない人もいるので、この通勤用ワゴン車による送迎は、円滑な就労を支える鍵のひとつとなっている。
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従業員の中には障害のある人が4名含まれている。当院は以前より障害者雇用に力を入れており、その雇用率は法定雇用率の2.0%を越えている(平成25(2013)年6月現在)。
「当院には法定雇用率を達成させる責務があることは事実ですが、障害がおありの方々の雇用を進めることを通して、この地域に貢献したいと思っています。院内の職場に空きが生じれば、積極的に障害者雇用を進めたいと考えています」と阿部係長は語る。障害者雇用を進める当院の経営は、地域とのつながりのなかで展開している。
2. 田代台病院で働く従業員への支援
障害のある従業員4名を紹介しよう。全員、常勤の従業員である。
(1)Aさん(下肢障害・身体障害者手帳「4級」判定)
Aさんは近隣にある自宅から自家用車で当院に通勤する男性である。
Aさんは、脊髄性小児麻痺により両下肢の関節機能に障害がある。ただし、歩行については大きな支障はなく、杖などは必要としていない。Aさんは高等学校を卒業後、私立の大学に進学した。卒業後に当院に就職し、ここで勤務しながら近隣の准看護学院で看護学を学び、准看護師の資格を取得し、その後、看護専門学校で看護師の資格を取得した。
勤続25年目(平成25(2013)年9月現在)を迎えたAさんは統括看護師長という役職にある。これは、上司である看護部長の指揮のもと、全ての病棟の看護師を統括するという要職である。Aさんは当院に就職してから、准看護師→看護師→主任→病棟師長→統括看護師長とキャリアアップの道を歩んできた。人格的にも技能的にも優れているAさんの現在の役職は、これまでの弛まぬ真摯な努力の賜である。このようにキャリアアップのチャンスが事業所に用意され、その道を歩む従業員が現にいるという事実は、他の従業員のモチベーションを確実に上げている。現在当院に勤める40歳代や30歳代の従業員が、Aさんのような資格取得を目指して一念発起し、専門の学校に入学して看護学を学びつつある。
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(2)Bさん(上肢・体幹障害・身体障害者手帳「2級」判定)
Bさんは近隣にある自宅から、自家用車(ハンドル、アクセル、ブレーキを改造)で当院に通勤する女性である。
Bさんは、脳性小児麻痺により、上肢と体幹に障害がある。肢体不自由養護学校(現:特別支援学校)を卒業後、身体障害者職業訓練校に進学し、卒業後に当院に就職した。
今年で勤続26年目を迎えたBさんは現在、院内の清掃業務(廊下、トイレ等)に従事している。朗らかな人格のBさんは、これまで無遅刻・無欠勤であり、周囲の従業員から信頼され、慕われている。ただ、細かな作業に苦手な面のあるBさんには拭き残し等がうっかり生じることがある。そうした時には、周囲の同僚がその部分を拭き、その後本人にさりげなく伝えるという自然な関係が職場内にできている。
長年に渡る真摯な勤務の積み重ねが評価され、平成19(2007)年度に「山口県雇用開発協会長表彰」を受賞した。この表彰はBさんの誇りとなり、今もモチベーションを支え続けていることと思われる。
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(3)Cさん(心臓機能障害・身体障害者手帳「1級」判定)
Cさんは隣の市にある自宅から、自家用車で当院に通勤する男性である。
Cさんは、高等学校を卒業後、准看護学院で看護学を学び、当院に就職した。勤続28年目を迎えたCさんであるが、60歳を目前に受診した健康診断で、心臓機能障害の指摘を受け、ペースメーカーを心臓に挿入することとなった。Cさんはその時、病棟の師長の要職にあったが、自身の体調や年齢を考慮し、その年度を最後に師長のポストを退く決断をした。
現在は、院内にある重度認知症患者デイ・ケア施設「なごみ」で、高齢者へのケアに尽力する毎日である。勤務開始1時間前には出勤し、仕事に真摯に取り組む姿勢は、以前から何ら変化していない。社交的で会話が得意なCさんは、本年(平成25(2013)年)8月に院内で開かれた夏祭り(当院の患者、その家族、地域の人々などが参加)で司会の役を担い、祭りに花を添えた。
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(4)Dさん(知的障害・療育手帳「B」判定)
Dさんは近隣にある自宅から、通勤用ワゴン車を利用して当院に通勤する男性である。
Dさんは、中学校を卒業後、職業訓練校で学び、他の事業所での勤務を経て当院に就職した。今年で4年目である。
Dさんは現在、院内のリネン業務(患者の衣服、タオルケット等の洗濯業務)に従事している。Dさんがこの業務に携わるまで、この部署は女性が中心の職場であったが、力仕事を厭わないDさんは皆から感謝されている。
Dさんは、これまで無遅刻・無欠勤であり、周囲の従業員から信頼されている。ただ以前、衣服などを詰め過ぎたことが原因で乾燥機を故障させたことがあった。強い責任を感じたDさんは感情的になり、声が大きくなった。その時、周囲の従業員はまずDさんの思いを聞き、「あなたはこの職場になくてはならない人なのだから、これからもよろしく頼みますよ」とやさしく語りかけた。Dさんは次第に心を落ち着かせることができ、大きなトラブルにはならなかった。その後、Dさんは順調に勤務を続けている。
Dさんは当院に就職してからの約1年間(毎月1回程度)、県内の就労移行支援事業所のスタッフに見守られつつ、必要に応じた支援を受け続けた。支援事業所の存在はDさんにとっても当院にとっても心強い支えとなった。
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3. 田代台病院の取り組み
障害のある人にとって、就労は究極の社会参加である。田代台病院は、障害者雇用を推進させつつ、患者への「こころの療養」という理念の実現に向けた経営を今日も続けている。当院の取り組みの特徴を以下にまとめた。
(1)当院での職場定着を支える要素
障害のある4名の従業員は、それぞれの部署でその実力を発揮しながら勤務している。その就労を支えているのは、周囲からのさりげない配慮である。それゆえ、障害のある従業員が当院のなかで自然に受け入れられ、職場に定着している。さらにキャリアアップへの道も開かれており、真摯に努力する上司の姿は、若い従業員のモチベーションを高めている。
(2)障害者雇用による医療活動の質の向上
当院は、認知症などのある高齢者を主な対象に医療活動を展開しているが、この活動の基本は、一人ひとりの患者や通院者をかけがえのない大切な存在として尊重し、愛情をもって接し続ける姿勢にあるといえよう。障害のある従業員と接するようになってから、周囲の従業員がこれまで以上にやさしく気配りするようになり、支援活動の原点に立ち戻ることができたという事例は、これまで数多くの事業所から報告されている。当院も、障害者雇用を推進させる取り組みを通すなかで、着実に医療活動の質を高めていることと思われる。
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