障害のある従業員全員が「戦力」となっている事業所
- 事業所名
- 大林産業株式会社
- 所在地
- 山口県山口市
- 事業内容
- 国産材(杉、桧)の製材事業、山林買付・伐採事業、木材加工・プレカット事業
- 従業員数
- 140名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 肢体不自由 2 加工板の選別等 内部障害 知的障害 6 加工板の加工機からの前取、段積、節穴補修 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
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1. 事業所の概要
大林産業株式会社は、当社の所有林から伐採した原木(杉、桧)を建築用資材等に製材することに加え、木造住宅の建築までをトータルに手がける会社である。
本社は豊かな森林に囲まれた山口市徳地にある。さらに、市街地に近い山口市小鯖にも小鯖事業所を構えており、その工場内は加工された杉や桧の香りに満ちている。
当社では障害のある従業員8名が勤務しており、そのうちの7名が小鯖事業所で働いている。
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2. 障害者雇用の取組
(1)吸収合併を契機に
小鯖事業所で障害者雇用と支援を担当している営業部長の谷口義則氏と、工場長の弘瀬昭文氏に話を伺った。
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「当社の障害者雇用については、鳥取県境港市にあった木材加工会社を当社が平成11(1999)年に吸収合併した際に、そちらで働いていた知的障害のある従業員を当社が引き取った、というのが縁です。その会社では、障害のある従業員は焼板(建築資材)を製造していたと聞いております。当時の従業員のなかの3名は、今も当社で働いています」と谷口営業部長は語る。
当社ではその後も障害者雇用を展開させ、その雇用率は9.20%という高水準に達している(平成25(2013)年6月現在)。
(2)通勤バスと安定就労
当社は重度障害者等通勤対策助成金を利用して通勤用バスを購入した。障害のある従業員7名のうちの5名が、山口市内にあるグループホーム(共同生活援助事業所)で生活しているため、ホームと当社とを毎日往復する通勤用バスは、この5名の安定就労を支えている。
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3. 働く障害のある従業員への支援の様子
小鯖事業所の工場内では、障害のある7名の従業員が、原木を建築用の板や柱に加工する一連の作業に従事している。全員、常勤の社員である。作業はおおよそ①板の節穴の補修→②板の両面加工→③板の小穴等の補修→④板の両面研磨→⑤板の結束(複数の板をテープで束ねる)という工程があり、それぞれの工程に障害のある従業員が配置されている。
作業工程順に、7名を紹介しよう。
(1)Aさん(知的障害・療育手帳B判定)
Aさんは山口市内にある自宅から、路線バスで当社に通勤する男性である。
Aさんは、山口県内の高等学校を卒業後、専門学校で学び、山口市内の就労継続支援事業所(B型)を経て当社に就職した。今年で2年目である(平成25(2013)年12月現在)。
自動車免許も有するAさんは、当社で複数の作業を担当する力を有する従業員である。その作業の一つに板の節穴の補修(穴に木栓を打ち込む)がある。原木を板に製材すると、その表面に節穴が点在する。その穴に接着剤を塗り、そこに木槌で木栓を打ち込む作業が、Aさんに任された仕事の一つである。
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まだ2年目とは思えぬような素早く正確な手さばきで、Aさんは黙々と作業を進めていく。Aさんは、休憩時間などでは周囲から離れて一人で過ごしたいという性格なので、当社ではそのようなAさんの個性を尊重しつつ接している。
さて、Aさんが補修した板は、次に両面加工の部署に運ばれていく。
(2)Bさん(知的障害・療育手帳B判定)
Bさんは、山口市内にあるグループホーム(共同生活援助事業所)で生活する男性であり、毎日通勤用バスを利用している。Bさんは山口県内の養護学校(現:特別支援学校)の高等部を卒業し、他社を経由して当社に入社した。Bさんは、板の両面加工の部署に配属されている。モルダー(表面加工の機械)から出てきた板の表面に割れた箇所や削り残された箇所等はないか、自身の眼と手で選別している。
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Bさんの特技は、写真撮影(風景等)である。作品を当社に持参することもあり、楽しい話題を提供してくれている。
さて、Bさんが確認した板は、次に表面の小穴等を補修する部署に運ばれていく。
(3)Cさん(知的障害・療育手帳B判定、障害者職業センターで重度判定)
Cさんも、山口市内にあるグループホームで生活する男性であり、毎日通勤用バスを利用している。Cさんは鳥取県境港市の事業所から当社に入社した。Cさんは、板の表面の小穴等を補修する部署に配属されている。板の表面を注視し、そこに小穴を確認すると、その部位をホットメルトガン(熱せられた接着剤を注入する器具)で丁寧に塞いでいく。
Cさんには、「作業を早く進めてください」等の言葉がプレッシャーとなり、多動などの情緒不安定を引き起こしやすいという面がある。工場内での不測の危険を避けるためにも、周囲の従業員はCさんに対して、急がせることにつながる声かけはしないよう配慮している。
Cさんは、歴史などについての知識量が豊富であり、周囲も驚くほどである。そのため、社内の従業員がCさんに教わることもしばしばであり、Cさんの面目躍如たるものがある。
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(4)Dさん(知的障害・療育手帳B判定)
Dさんも、山口市内にあるグループホームで生活する男性であり、毎日通勤用バスを利用している。Dさんは山口県内の養護学校(現:特別支援学校)の高等部を卒業し、他社を経由して当社に入社した。Dさんは、Cさんと同じく、板の表面の小穴等を補修する部署に配属されている。小穴をホットメルトガンで塞いだり、小さな割れであればその箇所をパテで補強している。作業にスピードがあり、複数の仕事をきびきびこなす従業員として信頼されている。
Dさんの特技は、フットベースボールである。平成25(2013)年度の全国障害者スポーツ大会では、山口県選手団の一員として活躍し、見事銀メダルを獲得した。そして社内でこのメダルを披露することができた。このスポーツが、Dさんの心の励みになっていることが伺われる。
さて、DさんとCさんが補修した板は、次に板の研磨の部署に運ばれていく。
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(5)Eさん(知的障害・療育手帳B判定、障害者職業センターで重度判定)
Eさんも、山口市内にあるグループホームで生活する男性であり、毎日通勤用バスを利用している。EさんはCさんと同じく鳥取県境港市の事業所から当社に入社した。Eさんは、補修の終わった板をサンダー(板の両面を研磨する機械)に差し込む部署に配属されている。仕事が好きであり、ベテラン従業員として周囲を指導するほどの力を発揮しているEさんであるが、聴力と下肢にも障害がある。そのため、工場内では大きな声でEさんに語りかけたり、あるいは、転倒などの危険を回避するために床に物を不用意に置かないようEさん本人に伝え、周囲も気をつけるようにしている。また、工場内で動いている木材運搬用リフトの近くには接近しないよう伝えている。
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(6)Fさん(上肢障害・身体障害者手帳3級判定)
Fさんは山口県宇部市内にある自宅から、自家用車で当社に通勤する男性である。家庭では奥さんと子どもさんとの生活である。
Fさんは、平成21(2009)年に左腕を機械に挟まれる事故に遭い、手術で肘から先を切断した。その後、小鯖事業所に配置換えとなり、最初は事務系の部署に就いた。しかし、なかなか仕事に集中できないFさんの姿に接した弘瀬工場長は、Fさんの部署を再び工場内に戻す決断をした。Fさんに用意されたのは、サンダーで研磨された板の品質をチェックするという重い責任を伴う部署である。サンダーの点検・調整や操作もFさんの役である。この配置転換が、Fさんの勤務態度を180度変えることになった。仕事に積極的に取り組む姿勢がFさんに生まれ、仕事上の疑問が生じた時には上司の判断を仰ぐようになった。責任あるポストへの配置転換が、従業員の積極性を引き出したと言えよう。
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Fさんの特技は、陸上競技(1500メートル)である。仕事の後は、毎日トレーニングに汗を流している。平成22(2010)年度、23(2011)年度の全国障害者スポーツ大会では、山口県選手団の一員として活躍し、見事二連覇(金メダル)を達成した。そして社内でこのメダルを披露することができた。Fさんは競技用ストレッチにも詳しく、そのノウハウを社内の従業員に教えることもある。陸上競技がFさんの心の励みになっているが、この度お子さんが誕生したこともFさんをさらに前向きにしていることが伺われる。
さて、Fさんが点検した板は、次に結束(複数の板をテープで束ねる)の部署に運ばれていく。
(7)Gさん(知的障害・療育手帳A判定、障害者職業センターで重度判定)
Gさんは、山口市内にあるグループホームで生活する男性であり、毎日通勤用バスを利用している。Gさんは、CさんとEさんと同じく、鳥取県境港市の事業所から当社に入社した。Gさんは、板を結束する部署に配属されている。板を束ね、テープで次々と結束し、製品を積み上げていくGさんの手の動きは速く、その姿からはベテラン従業員としての自信さえ伝わってくる。
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4. おわりに
谷口営業部長は語る。
「私は、当社で初めて障害のある従業員に出会いました。最初の頃は彼らのことをよく理解できなかったのですが、そのうち、『私たちと一緒だな』と思うようになりました。従業員の全員に対して言えることですが、仕事に真面目に取り組みます。そして、ずる休みなどをすることがありません。彼らがいないと当社の業務は止まってしまいます。全員が当社の戦力になっています。」
障害のある従業員の全てが、その持てる力を発揮しながら木材加工の業務に取り組み続けている。そして、仕事と趣味を両立させながら、この地域社会のなかで働く手ごたえと喜びを感じていることが伺われる。
当社の長年に渡る障害者雇用と安定就労への取り組みは、平成25(2013)年度に「独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞」の受賞となった。障害者雇用の優良事業所として、これからの取り組みにも期待がかかる。
障害の有無にかかわらず、人は皆、その持てる力をこの社会で発揮し、社会参加したいと願っている。大林産業株式会社では、就労を通した社会参加という理念の実現に向け、きめ細かな支えのもとで従業員全員が今日も元気に働き続けている。そして、企業としての社会的責任を果たす経営を今日も目指している。
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