「個性」を尊重、共生し合うことで、「調和」された障害者雇用を実現
- 事業所名
- 株式会社サニーサイド
- 所在地
- 香川県丸亀市
- 事業内容
- ビルメンテナンス、清掃
- 従業員数
- 120名
- うち障害者数
- 20名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 聴覚・言語障害 1 肢体不自由 2 室内清掃 内部障害 2 室内清掃 知的障害 3 室内清掃 精神障害 11 室内清掃 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
株式会社サニーサイドは、綾歌郡宇多津町にあったビルメンテナンス会社から分社し、「個性が共生し、調和が発展を生む」という理念のもと、ホテル、ショッピングセンター、オフィスビル等の清掃管理を営むスペシャリスト集団として平成23(2011)年に設立された。
「会社とは社会の役に立ってこそ存在価値がある」を理念とし、次の3つの考えで、従業員一人ひとりが個性を生かし協働しながら、お客様への最高のサービス提供を心掛けている。
- お客様に良質の商品・サービスを提供する。
- 働く仲間が相互理解のもと、お互いの「個性」を尊重し、思いやりの精神を育て、本来の「人間性」を発揮する。
- 地域社会に貢献する。
従業員数は120名、うち障害者は20名である。積極的に障害者雇用を継続し、社内全体で、障害者の働きやすい環境作りが行われている。また、障害者以外にも一般就労者、ひきこもりや高齢者などが垣根無くチームとして働き、かつ機能しており、理念に基づく体制整備が進んでいる。
(2)障害者雇用の経緯
当社は、分社前から障害者、一般就労者、ひきこもり、高齢者などがカテゴライズされながら、様々な不利益を受けている人が多数いることに疑問を持っていた。分社をきっかけに、障害者や高齢者などといった区別を無くし、全ての社員が協働し、お互いの「個性」を生かし、「調和」しながら働くことのできる組織を目指し、その取組の一つとして障害者雇用を積極的に行うこととした。
当社の障害者雇用の方針は、障害者就労支援施設利用者の受入れを主としているところにある。従業員の金銭面、通勤、仕事を行っていく上での精神的ケアなど、生活面での支援を施設や本人の家族と連携しながら行っていくことが、職業生活の安定・定着に直結するとの考えである。
また、当社では若者サポートステーションからのジョブトレーニングとして、3~5日から1週間の実習の受入れや、香川県立高等技術学校からの職場体験の受入れも積極的に行うことで、障害者だけでなく、様々な「個性」の集まりを実現させている。
平成23(2011)年設立時の雇用障害者数は2名であり、障害者就業・生活支援センターからの受入れであった。その後、わずか2年半後の現在では20名の障害者を雇用している。主な受け入れ先は、地域の就業・生活支援センターの「くばら」「つばさ」、香川県立高等技術学校である。
2. 障害者雇用の理念等
(1)「障害者」という区別をしないこと
先にも述べたが、当社では、一般就労者、障害者、ひきこもり、高齢者など全ての社員がチーム制により共に働いている。そこには、「障害者」、「ひきこもり」などという区別は無く、社員全員がお互いの「個性」を生かしながら働くことを目指すという思いがある。同じ人間として働くことが、世間一般の「社会」であり、特別扱いをしたままでは社会に順応していくことができなくなる。「できることをできる人がする」、「できないことより、できることを伸ばしていく」という考えから、一人ひとりが自分のできる仕事をこなし、できない部分は他の社員にサポートしてもらいながら仕事をこなしていくことができている。また、社員それぞれが相互に何ができるのか、どのような仕事が向いているのかということを考える場が与えられ、いつしか緊張も砕かれる。結果、当社では3ヶ月程度で障害者本人が働きやすい環境と感じ、雇用継続・定着へと結びつくという。
「障害があるから」などという視点ではなく、色々な特性の社員とチームを組み、かかわりを持つことでお互いの個性を知り周囲のフォローも可能となる相互補完システムが構築されている。
(2)将来的職業生活のためのステップアップの場と捉えること
当社では、知的障害者、肢体不自由者、精神障害者など、様々な障害のある人が雇用されている。その中には、他社で雇用されていた実績のある社員もいるが、通常業務をこなすことが困難になった、他の社員と同じ時間働くことが難しいなどの理由から、仕事を続けることができなくなってしまった人も少なくない。
当社では、雇用の「入口」を広くしており、その「入口」から一度出て行った人も積極的に再雇用している。また、若者自立支援などの施設利用者が一時的に就労を希望する場合でも受入れをしている。
将来他社への転職を希望する社員がいれば、基本的に引き留めることはしないという。経験と自信と実績を身につけ、将来へのステップアップの場として、当社がその架け橋になればそれでも良いという考えを持っている。就労継続支援A型の性質も有する一般企業といえる。
3. 取組内容と効果、今後の展望と課題
(1)取組内容と効果
- 業務内容等
当社で行う主な業務内容は、ホテル清掃及びメンテナンスである。ベッドメイキングは乱れた部屋を綺麗にすることなので、その整えられた様はわかりやすい。当社代表は「特に知的障害者や精神障害者が行う業務としては、その成果が可視化されることから理解しやすく、職域としてはとてもよい。また、技術向上面では、日々の努力や個人の成長も一目でわかる」と言う。
1フロア平均30室(7フロアー)について、リーダー1名を含む6名のチームで担当する。更に2名体制でそれぞれ「剥ぎ」「敷き」「洗面」(※以下に用語解説)といった3つの仕事を分業で行う。客室はフロアごとに洋室階と和室階になっており、業務仕様も異なっている。洋室清掃及びメンテナンスの方が、ベッドメイキング時のシーツ交換などの作業において、より難しい。
※用語解説
「剥ぎ」: ホテル各部屋の布団カバーをはがして、部屋の外へ出す。 「敷き」: 新しいカバーをその日の宿泊者数にあわせ、カバーを掛けて布団を敷く。 「洗面」: ホテル室内の洗面・バス・トイレ及び周辺の清掃とアメニティグッズを設置する。
- 教育訓練
当社での取組で特徴的なことは教育訓練にある。NPO法人サンライン(※)との連携である。雇用主はもちろんサニーサイドであり、その日の業務内容と作業量の指示を行っているが、新たに入った知的・精神等の障害者や引きこもりの者の教育・訓練と定着に関わる部分について、職場適応援助者の資格を持つ職員がいるサンラインに委託している。当社が行うマニュアルでの一律教育では補完しきれないところである個々人の性格や個性を見極めながら、仕事にうまく順応できるように得意分野や手順の変更といった指導をしていくのである。
※NPO法人サンライン
就労に必要な知識や技能を実際の職場において習得を図ることで障害者の就職を支援し、社会的自立に寄与することを目的とした法人 - チーム編成
当社は日々ホテルから作業量の注文を受け完全に処理していかなくてはならないが、上述のサンラインからの個々人の訓練状況報告などを参考に処理ができるようそれぞれのチームの人員配置をしていくのである。障害者が多いチームや少ないチームなどが生じるわけであるが、総合力では行うべき業務に対して確実に完了できるチーム編成となる。
- 業務実施体制
当社は社員間のコミュニケーションをうまくとるための関係作りや、個々人の仕事の枠組みを明確にするといった環境作りを重要視している。障害者、一般就労者、ひきこもり、高齢者など様々な個性を持つ社員同士がチームとしてまとまるには、助け合い、互いにコミュニケーションをとりながら作業を行うことが不可欠であり、結果として仕事効率の向上と能力の向上に繋がると考えるからである。
実際に仕事の様子を見たところ、シーツの剥ぎ作業は障害者同士で行っており、見事な連携で迅速に作業をしていた。また、各フロアのチームリーダーを中心に、次にどの作業をどの部屋ですればよいのかということを理解し、お互いにコミュニケーションをとりながら業務に従事している様子が見られた。
また、ホテル1フロアの端から端まで約100メートル、1室のベッドメイク完了が数分遅れると、1フロア全室ではかなりの時間オーバーとなる。その場合は、全フロアを時間内に終了させる必要があることから、早く完了したフロアのチームが応援に入り、全てのフロアを時間内にやり遂げている。不履行の場合は、宿泊客やホテルに多大な迷惑をかけてしまうことから、臨機応変に対応ができるよう、チーム内連携にとどまらず、チーム間連携の重要性を社員に認識させている。障害者だからといった苦情はこれまでに受けたことはないという。
- モチベーションの維持・向上
当社では定期的に、代表と社員との間での情報交換を行っており、日々の仕事を行っていく上で、社員が感じたことなどをアンケートするという取組を行っている。アンケート結果を代表に聞いてみた。
ある知的障害を持つ社員のアンケートには「自分の仕事は繰り返し行っていくうちに慣れてきて、どうすればうまくできるのかがわかるようになってきた。今では新しく入ってきた人や、わからない人にコツを教えるといった教える側に立つことができるようになった」というのがあった。
その社員も以前は、一つひとつの仕事を覚えることに時間がかかっていたという。他の社員とともに、助け合いながら仕事を行っていくうちに、自分の仕事が理解でき、今では他の社員に教える立場にまでなれたという。これはまさに、「できることを伸ばす」「個性を生かし、互いに調和する」という当社の理念にかなっていることである。このアンケートを見た代表は、この従業員もいずれフロアリーダーとしての仕事ができるのではないかと考えており、日々の業務の中での従業員の成長と次へのステップを見出すことができていたようである。
これからどのような仕事をしてみたいかについて、同じく知的障害のある他の社員のアンケート結果を聞いてみた。「洋室の仕事もできるようになりたい」「フロアのリーダーができるようになりたい」という声があった。普段から社員で助け合いながら、お互いがそれぞれの達成感を持ちながら仕事をすることができているからこそ、仕事に対して次のステップへ進みたいという社員の声が出てくるのではないかと考えられる。代表はこの従業員の声をもとに、本人の働きたいという意欲を尊重し、従事させる仕事を増やすことを考えていた。
なお、当社では毎月、月間MVPを選ぶ取組を行っている。その月に頑張った社員を代表が選び、全体で表彰するという形をとることで、社員が達成感を得ることができるとともに、仕事への意欲を高めることができるのではないかと考えている。
このように、社内での働きやすい環境作りを行い、社員とのコミュニケーションをとりながら現状を把握していくことで、社員全員が責任感と達成感をもちながら業務に取り組むことができ、モチベーションの維持・向上が図られている。
(2)今後の展望と課題
今後の課題として挙げられることとしては、一つは他の作業場での業務従事である。当社では、日々の業務の中で、一人ひとりが責任感を持ちながら、ホテル清掃を行っている。それぞれの清掃のスキルは確実に上がってきているが、培ったスキルを応用して他の作業場でも生かすことができるようになれば、更に能力は向上する。新たな作業場を作るということは容易なことではないが、社員は新たなチャレンジを行うことで、更なる充実感を味わうことができる。特にベッドメイキングの職域は障害者の働く場として、まだまだ拡大していくべき分野であり、ニーズも高まる可能性を感じる。
もう一つの課題として挙げられるのが、現場でのリーダー育成である。現在、各フロア約6名体制で業務を遂行している。フロアリーダーは、現在は障害者職業生活相談員の資格を持った障害の無い社員が担当している。そのフロアリーダーを、雇用されている障害者本人に任せることができるようになることを願う。そのためには、ペアで作業をする際の指導技法の習得、フロア全体を把握する能力・統率力など、リーダー育成のための特別なプログラムの作成と、中・長期的な計画策定及び実践が必要となってくるが、働く社員全員がお互いの「個性」を生かし、「調和」することができる社内環境が構築されている当社には、大いに期待をしてしまう。
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