チャレンジド(障害児・者)と親が始めたお菓子づくりが、
障害者を雇用する事業所になった事例
- 事業所名
- 特定非営利活動法人まあるい心ちゃれんじどの応援団
- 所在地
- 高知県高知市
- 事業内容
- 菓子製造・販売及び農業
- 従業員数
- 40名
- うち障害者数
- 28名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 2 菓子梱包 1名 出庫材料の管理 1名 肢体不自由 1 農作業 1名 内部障害 知的障害 12 菓子製造 7名 販売 3名
農作業 3名精神障害 10 菓子製造 7名 農作業 3名 発達障害 2 菓子製造 1名 農作業 1名 高次脳機能障害 1 梱包及び出庫管理 1名 難病等その他の障害 - 目次
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
- 事業の特徴
NPO法人まあるい心ちゃれんじどの応援団(以下「当法人」という。)は、平成16(2004)年3月、チャレンジド(障害児・者)の親が中心となり設立、菓子作りを通じて社会参加と自立を目指す福祉作業所「菓子工房マギステル・エスト・レネー」が障害者の親3名と障害者2名で始まった。
平成20(2008)年からは、就労継続支援A型事業所(以下「A型事業所」という。)としての活動を開始した。一般企業で働きたいと希望する障害者の就労支援も行っている。
平成24(2012)年4月、事業所本部と菓子製造工房を現住所に新築移転し、これを機に、本部周辺の遊休農地を借り受け、菓子用果物(苺)や野菜・米の生産活動も進めている。
現在は28名の障害者を雇用している。
事業面では菓子製造・販売が主体であるが、注文による弁当やカレーの販売も実施している。
菓子販売は訪問販売が中心で毎月、公共施設や学校、病院、量販店等200カ所に出かけ名前も知られるようになってきた。また、直営店は2店鋪ある。
- 障害者雇用の理念等
当法人の活動は公共職業安定所等と連携しながら、一般企業に就職が困難な障害のある人たちを雇用契約に基づき受け入れ、菓子製造・販売に従事してもらい、その売上を給料として支払い、彼らが自立した生活ができるよう支援することを目的としている。
現在、知的障害及び精神障害のある人が多いが、このようなA型事業所で働きたいと希望する障害者は年々増加している。また、ここをステップに一般就労が可能な人材育成にも力をいれ、一般企業との中間的役割を果たしたいと日々努めている。
(2)障害者雇用の経緯
当法人は、障害児・者の親たちが特別支援学校卒業後の子ども達を何とかしたい、また、親亡き後のわが子の行く末を憂えてスタートした。「障害があっても生活できる仕組み」、「自分たちで、1から何かを作り上げることがやりがいになる」の思いから生まれた「菓子工房レネー」は、「子どもを想う親」と「一生やれることを見つけたい子ども」の受け皿として進んできたが、現在に至るまでには時間がかかった。当初は小規模作業所(障害者施設)として運営、雇用契約はなく、生活指導から始める状況だった。A型事業所としてずっと続けられる仕事にしよう。そこで、お菓子づくりに特化したのである。教えられる障害者も教えるスタッフ(母親)も菓子製造の素人であり試行錯誤の連続であった。
A型事業所なら頑張って一般企業への就職支援もできる。
何より、福祉を前提とする環境から卒業することを第一に考えた。ただ、A型事業所は売上がなければ給料も払えないし、事業としての継続は難しい。障害の特性によって仕事を振り分けることはできても、仕事に対する意欲が十分でないと続かない等、問題は山積した。特に、私生活面における課題が多かった。支援センターや支援学校と連携を密にしてきたことにより、やっと安定してきた。
2. 取組の内容
(1)取組の内容
A型事業所の利用者は先天的な要因だけでなく、複雑な社会構造の中で翻弄され、心身共に苦しみ抜いた末にたどり着いた人もいる。
当初からの菓子製造という作業だけでなく、施設や厨房内の清掃・作業服のクリーニング・農業生産活動等さまざまな作業が行われるようになった。
業務は多岐にわたるが、各障害者(従業員)の業務を限定し、担当となった仕事に特化させ技能を高めるようにしている。
訓練については、これまでの過程で創られてきたマニュアルを基本にしている。
専門的技能は、スタッフである職業指導員から習得するまで繰り返し指導を受ける。その時に、勤務経験がある障害者の場合は、コミュニケーションが図れるか、以前のように潰れないかを心配する。支援学校からの障害者は学校との違いを学べるか、作業時間をどの位短縮できるか等を考慮しながら進めている。ただ、仕事の訓練は対面で実施するので時間をかければ習得できるが、私生活の課題は解決が難しい。
まず、生活が成立つ方策が第一で、医療・福祉サービスに始まり、年金や生活保護の相談まで公的援助にも関わらざるをえないのが実情である。とにかく、支援センターと支援学校との連携がなければやってはいけないと判断している。
一方で一般企業への就職が可能な人材を育成することにも力をいれており、企業に雇用されることが可能と見込まれる者には、職場体験や就職に必要な知識やマナー、技能向上のための訓練を行っている。
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(2)障害者の業務内容
ここで紹介するA型事業所の障害者(従業員)28名は、菓子製造・販売・梱包部と農業部に分かれて勤務している。業務部署は個々の希望にもとづき障害特性や本人の適性を考慮した上で決定している。
- 菓子製造・販売・梱包部
担当するのは21名、製造品目はオーダーメイドケーキ・焼菓子・ジャム等のケーキとパンである。また、でき上がった製品を包装する作業がある。安全・安心の商品に仕上げるには金属探知機で確認、シーラーを使い商品の袋詰め、シール貼り、箱の組み立てリボンづくりが必要な時もある。そして、製品の在庫や出庫管理の担当がいる。
商品は訪問販売や店鋪販売するが、DMの発送担当もいる。
- 農業部
農業担当は7名、お菓子の材料になるいちご・稲作・季節の野菜づくり等を担当する。
農業部は、本部移転をきっかけに近隣の農業放棄地を借り受けスタートした。給食やお菓子の材料を栽培しているが、ほとんど農業体験がなく、指導は土づくりから始まった。
また、田畑に隣接して作業場があり、栽培した野菜類を日曜市に出荷するため洗浄・殺菌をし、販売に出かけることもある。
農作業は栽培時間がかかり天候にも左右され、クリスマスケーキ用のいちごの栽培や季節野菜等の年間の作付け計画が重要である。まだまだ試行錯誤の状況は続いているが、今後も農業放棄地の借り受けを広げていけば、障害者の受け入れ枠も増えるはずである。
(3)雇用管理
障害者の採用は、公共職業安定所および特別支援学校の紹介による人材から決めている。雇用契約は、障害福祉サービスの受給期間に合わせて行われ、雇用形態は、パート職員である。
勤務時間は障害や職種によって違う。菓子製造部門では、10:00~14:30で、清掃担当者は13:30~18:00、実働6時間を限度に延長もある。時間外労働はないが、売上が集中するクリスマスシーズンにはある。
農業部門は、10:00~14:30を原則としているが、作付け状況によって勤務時間を変更する場合もある。冬場は健康面から戸外の労働を調整している。
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休憩時間は、4時間勤務は30分、6時間勤務は1時間で、実働時間は1日4時間~6時間である。休日は日曜・月曜で、スケジュールは月単位で決める。また、通勤時の送迎と給食サービスは無料である。
賃金形態は時給で、最低賃金額が支払われる。健康管理は検診が年1回、食品に関わる担当者は検便が3ヵ月に1回(その他は年1回)を実施する。
レクリエーションは忘年会やボーリング大会で交流を深めている。また、地域の子どもたちと一緒に農園のビニールハウスでピザづくりやバーべキューを楽しんでいる。
(4)就労への支援
A型事業所の訓練だけで、一般就労に通用する力をつけるのはなかなか難しい。例えば、職場で一番問題になるのが人間関係である。その実践体験はこのA型事業所だけでは難しい。特に、一見して障害がわからない精神障害の場合トラブルも起きやすい。そんな時は、県の委託訓練(企業体験)を利用している。
この企業体験先の職場は、障害を十分フォローできる職場なため、障害者は障害を意識しなくてもよいから、本来の業務能力を発揮するし、委託先でも障害にこだわらず人物判断ができる利点があるようだ。現在も2人が体験中である。
他にも、8時間労働に耐えられるか、本当に仕事ができるかの判断も必要で、A型事業所としての証明も含めて医師との連携が不可欠になる。
(5)活用した制度や助成金等
活用した制度や助成金等は特にない。
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3. 取組の効果、今後の課題と展望
(1)取組の効果
- 取組の効果
作業所よりもっと給料が欲しいと挑戦するも、まずスピードに戸惑った。自分で考え、行動するのが当たり前の普通の生活に慣れるのにも時間もかかった。
職業指導員や生活指導員のスタッフが根気よく指導した結果、新たな菓子づくりに挑戦する障害者(従業員)もいる。A型事業所の従業員として働くことで障害者自身が幸せを感じ、自分が役に立ち必要とされていることを、自らが感じている。
また、A型事業所から、老人介護事業所等での一般就労を果した従業員もいる。同僚が活躍している姿が、仲間の励みになっている。
それに刺激され本格的に一般就労を目指す次の障害者が現れることで、人生を福祉施設で過ごすとなると費用も大きくなるが、就労することで公費の節減にも貢献できる。
- 障害者のコメント
○Aさん(発達障害)
「前は冷蔵庫から豆腐を出したり、出荷手伝いをしていたが、今は10人位の仲間とクッキーを作っている。クッキー作りは難しかったが、うまくできると楽しくなる。フルーツ、ジンジャー、チョコチップも使うし型抜きもするよ。」
休日は、家で大好きなドラマや映画を見ているそうだ。人の沢山いるところは苦手なので外へは行かない。
仕事は今のままでここにいたいというのが本人の希望である。
○Bさん(精神障害)
ここに来て2年、仕事は菓子製造の補助業務で、材料の洗浄、計量チェック、材料の発注等を指導員の指示を受けながら進めている。東京で就職していたが、病気で帰高後、病院のディケアで療養中に、「病気を隠さず仕事をしたい人のプログラムがある」と教えられたそうだ。Bさんは次のように語ってくれた。
「この事業所のシステムのおかげで、私には一般就労のチャンスが来てるんです。病気のことも話して、現在、ホテルの客室清掃の訓練を受けてます。春が楽しみ。母も喜んでます。」
○Cさん(知的障害)
日高養護学校を卒業後すぐこのA型事業所に入社、学校でもケーキづくりはしていたが、先輩が教えてくれたのはシフォンケーキやロールケーキだったそうだ。「自宅でも作ってみるが甘いのは苦手で、母の職場に持っていく」とのことである。「作ってみたいのはシュークリーム、お菓子づくりはずっと続けたい」。勤務時間が合わないので友だちと遊ぶ機会は少ないが、ひとりでサイクリングに行くのが好きな若者である。
(2)今後の課題と展望
ここでは、「障害者がお菓子を作っている」を前面に出して販売し、このスタイルで大きくなってきた。そして販売を通じて地域とのつながりもでき、顧客側の意識も変化しており、障害者を受け入れる余地が広がったと思える。しかし、今後は福祉枠の活動を卒業して一般企業としての積極的な運営を考えている。それには福祉に甘える姿勢では通用しないはずだ。これまで福祉施設だからとして積極的な動きは遠慮してきたが、今後は事業としてプラスになるものは大いに取組んでいきたい。そのため商品開発に必要な分析やデータづくりには大学関係者等の応援協力を仰ぎ、商品の品質を高め、地元だけでなく、他県との連携も視野にいれて商品力・営業力をつけたいという。
国際規格ISO22000(食品安全衛生管理システム)取得のための取り組みは、平成23(2011)年9月から始まった。専門のコンサルタントを招き、毎日勉強会を開催し作業場に入る工程や商品の衛生管理、梱包の仕方などをマニュアル化した。昨年(平成25(2013)年)11月にイギリスのISO認定機関による検査を受け、12月末に取得した。高知県内の企業でも1社しかなく障害者施設の取得は、四国でも初めてではないかと、コンサルタント会社の話である。
ISO22000を取得したことで、障害のある人でも安心、安全の商品を作ることができることを証明した。これからは、県外にも商品を売り出したい。また、障害者がここでの仕事がこなせればどこに行っても衛生管理ができる証明になる。障害者も各自モチベーションを高めながらやっている。
一方、これまでの運営で気になるのは、このA型事業所に入所しながら勤務が続けられなかった障害者(従業員)の「その後」を探る後追いができていないことである。例えば、障害を踏まえた専門教育を受けてない、社会性が弱く仕事ができない、親離れ子離れができない親子等、勤務を始める前に解決すべき問題を抱えた障害者がいることだ。
また、一般就労後も継続して応援する体制も必要だろう。課題は沢山あるが、1つずつ進めて今後に活かしていきたい。
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