「同じ人間」だから「仕事のパートナー」になれるとクリーニング職人に仕上げた取組
- 事業所名
- 有限会社太陽舎クリーニング
- 所在地
- 高知県高知市
- 事業内容
- クリーニング業
- 従業員数
- 50名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 アイロン掛け 肢体不自由 内部障害 知的障害 3 洗濯物の区分け・水洗い・包装 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
- 事業所の概要
有限会社太陽舎クリーニング(以下「当社」という。)は、現社長の祖父が昭和10(1935)年に創業し、祖父から父、息子(現社長)へと形態を変えながら3代にわたりクリーニング業を営んでいる。
平成2(1990)年に法人化(有限会社)し、平成14(2002)年に別組織だった「VANクリーニング」と合併、現在に至っている。合併は、後継者問題と新たな事業展開を見込んで行った。「VANクリーニング」は屋号として残し、「高知の洗濯屋太陽舎・VANクリーニング」として業務展開をしている。
当社は、本社工場(高見町)の他に大津工場を持ち、店舗は現在、21店舗になる。大半が地元スーパーに直営店(テナント)として営業している。一般家庭(個人客)が基本であるが、業務拡大のため受注は少ないが法人企業(ホテル、飲食店)も対象としている。
- 障害者雇用の理念等
現社長の父の時代から今まで障害者を雇用してきたが、子供の将来が心配でたまらない両親から子どもを預っているという感じである。
障害が「ある・ない」に関わらず「同じ人間」を基本に、会社全体がひとつの家族のような気持ちで取り組んでいるという。
例えば、知的障害者を受け入れる場合、ご飯を一緒に食べながら会話をして安心できる関係づくりから始まる。仕事を教える時は、上手なことをほめてから注意を繰り返す。1つのことを何度も聞いてきてうるさいと思うが、フランクに何でも言える雰囲気がないと言葉が出てこないから、とにかく答える。うるさいと無視すると孤立してだめになるし、敵意を持つと畏縮してしまう等を長年の付き合いで理解してきた。
「障害があっても、ひとつのことでは誰にも負けない職人になれる。仕事をしたいという気持があれば、障害があってもできる仕事を見つけることができる」と思って続けているという。
(2)障害者雇用の経緯
個人経営の「太陽舎クリーニング」と会社組織「VANクリーニング」が合併した平成14(2002)年、すでに双方に障害者は雇用されていた。
当社の雇用の始まりは、知り合いの病院から精神科の患者を軽作業で使って欲しいとの依頼からだった。その後、知的及び身体障害者を近所の知り合いや養護学校(現在の特別支援学校)からも個人的なつながりで依頼され受け入れた。
しかし、障害者の雇用は社長の考えだけでは無理である。従業員の理解と応対があったからできたことである。長年、一般従業員にとって障害者がいることはあたり前で、特に違和感はなく、仕事仲間として接してきた会社である。障害者たちも担当業務を時間通りこなし、スムーズに次の工程に移すことができ、仕事上は何の問題もなく、実際、技能に劣ることなく現場では信頼されている。むしろ、障害者雇用で頭を悩ませたのは、業務上のことより家族問題であった。特に個人経営時には、雇用している障害者の金銭問題のトラブルで振り回されたことがあった。障害によっては被害妄想が激しく、好き嫌いが極端だったりで、親が子ども(障害者)に過剰に反応したこともあった。
2. 取組の内容
(1)取組の内容
当社の障害者雇用は、主に知的障害者を雇用してきた。
クリーニングの仕事は、決してきれいな仕事でもなく、高度な技術だけでできる仕事でもない。機械化もされているが、クリーニングはサービス業で顧客のニーズは一様ではないから、所々でまだ人の手がいる。つまり、機械と人間が一体となってお互いに補完しあう関係で成り立っている。
当社の障害者は勤務年数が長い。これは周りの従業員の理解があり、一員として迎え入れてきたことと、その時の経営者が障害者本人のできる業務を選択し、業務環境が整えば、「時間は多少かかるが、職人として十分通用するようになる」と認めた上で粘り強く教育してきたからである。
「あなたの仕事はこれ、この部分が担当」と、はっきり区分することによって障害者も技能が身につく。あれこれ同時に言うと混乱するので、作業能力があるかどうかは、その都度、判断しながら一つずつ作業を増やし習得させた。その上で作業をつなげてやると、いくつもの作業がひとつに結びつき、そのセクションの職人に仕上がる。大事なことは、誰でも得手不得手はあるが、障害者はそれがもっとあると職場全体で理解し、障害者が確実にできることと苦手なことをはっきりさせることである。
(2)障害者の従事業務、職場配置等
現在、当社で雇用している障害者は4名(聴覚障害1名、知的障害3名)である。
聴覚障害者は、平成9(1997)年に入社して、ズボンプレス一筋で担当している。
夏場は「暑い」を超える現場の仕事だが、同僚と並び黙々と作業をこなしている。
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業務(作業)経験は長く、仕事は任せられるが、非常に恥ずかしがり屋であり、同僚との対話は苦手のようであった。
知的障害者は、全員洗濯物の区分け(ドライ・水洗い)・乾燥・ハンガー掛け・包装・製品の仕上げ等の業務を担当している。平成10(1998)年入社の一人は、現在、短時間勤務である。平成16(2004)年と平成22(2010)年に養護学校(高等部)を卒業後、入社した二人は特に指導がなくても一人で判断し、急ぐ作業から順次進めることができる。バーコードを読み取り、製品の区分けや洗濯機械の操作もするので、現場の重要な一員となっている。
(3)雇用管理
障害者の募集・採用は、これまでの経緯から直接の依頼や養護学校から要望があっても必ず公共職業安定所を通じて行うことにしている。
雇用形態は、準社員扱いのパート職員である。勤務は、聴覚障害者は9:00~16:00、知的障害者は9:00~15:00を基本にしている。ただし、知的障害者の場合は身体の調子によって短時間勤務になることもあるし、季節による業務の増減があり勤務日数が変動する。特に冬期は、仕事の減少時期で障害者が交替で勤務する状況になる。
休憩は昼休みが1時間であるが、クリーニング製品の仕上げと同時進行で店鋪からの受け入れ、配送準備があるため作業が止まらないようにみんなで時間をずらしながら取っている。
休日は、毎週日曜日で、年末年始と夏季休暇が約10日ある。賃金形態は時給で、一般従業員と同条件で能力や勤続年数に応じて加算される。福利厚生面では雇用保険に加入している。健康管理では、急な欠勤があると仕事の手順が違ってしまうので、普段から家族と連絡を密にとって体調には気をつけている。また、現場では夢中になると周囲を見なくなる傾向があるので安全管理には注意し、常に要所・要所を管理者が見回っている。
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社内行事は特にないが、お昼休みのお弁当や休憩時間には、おやつを一緒に食べたりしながらコミュニケーションを図っている。
(4)活用した制度や助成金等
- 業務遂行援助者の配置助成金(1件)
- 第1種作業施設設置等助成金(3件)
(5)外部機関の活用
当社では、公共職業安定所からの雇用管理指導関係や、助成金関係等については普段から社会保険労務士事務所の担当者と相談しながら進めている。
会社の内外からの業務改善に関する意見やお客様からのクレームが出た場合は、すぐに対処することとしている。特にお客様からのクレームについては、社長自ら出向いている。行政関係の法令が問題の時は、専門家として、社会保険労務士事務所の担当者にアドバイスを受ける。その担当者には参考となる各種制度や助成金等の提案をしてもらう等随分助けられている。
障害者の雇用時は、まず公共職業安定所に相談することとしている。公共職業安定所等が主催する就職支援セミナー等も利用する。ただ受け入れ側の具体的な要望としては、例えば就職希望者やご両親がクリーニング業を理解し、応募に当たっては、障害の種類や障害の程度によって当社の業務に合った作業ができるかである。業界情報を明確に伝えなければ必要とする人材は、なかなかは応募しないという体験もしたので、日頃から公共職業安定所の担当者には、当社の障害者雇用をアピールしている。
これまで環境整備では、社会保険労務士事務所の担当者に相談の結果、「働きやすい環境」を整えるために、これまで関係助成金を3回活用した。
- トイレを和式から洋式に改修
- 聴覚障害者に緊急を知らせる装置を装備したプレス機械を設置
- 知的障害者には安全面に対策が取られた洗濯機の導入(利便性が高まり業務(作業)の効率がアップ)
知的障害だからできないと思い込む前に、雇用する側が、どうしたら何ができるかを見つけることが大事で、そのための制度や助成制度を社会保険労務士からアドバイスを受け活用することが手段の一つである。
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3. 取組の効果、今後の課題と展望
(1)取組の効果
- 取組による効果
障害者に対する偏見を持たなければ仕事のパートナーになれるし、双方が成長もすると実感している。
現場で繰り返し仕事を教えることは勿論、作業が定着するまで根気よく習得させる。完全に任せられる状態になったら指導する従業員は別の作業に移る。障害のない者は、仕事に慣れると作業工程を飛ばすことがあるが、障害者は言われたことを必ず繰り返し、作業工程を飛ばすことはないので安心して任せられる。
一方、障害者雇用の対応で業務内容を整理したことで、会社としても従業員の作業安全対策につながり作業効率アップにも役立った。
職場の同僚からは、「障害者といっても私たち以上に仕事は良くできる。任せておいても大丈夫。ただ、シーズンによって体調をコントロールできない時期がある」という。このシーズンは皆も『早く帰れ』とは言わない。本人も皆が困ると分かっているから『時間までやって帰るよ』と、仕事に責任を持っているという。
- 障害者へのインタビュー
- Aさん(知的障害)
Aさんからは「養護学校を卒業してずっとこの会社にいる。Yさんから仕事は教えてもらった。ゲームするのも好きだけどクリーニング機械の操作も好き。洗濯物を入れたり出したり、乾燥機に入れて取り出すのも立ちっぱなしで大変だけど頑張っている」と話してくれた。
週2回練習をしているというバスケットボールのことになると、自信に満ちた顔で「中四国で一番強い。全国大会で東京にも行ったよ」と、チームのことや練習の仕方を説明してくれた。高校1年から始めたバスケットボールは国体に参加するほどの腕前だそうだ。
- Bさん(知的障害)
Bさんは電車とバスを乗り継いで通勤している。仕事は責任者に教えてもらって覚えたそうだ。洗濯物の仕分けや包装もするし、仕上った製品を分けたりもする。10年ほど勤務しているので仕事場では作業の流れにそって自然に分担をこなしているし、同僚の指示にもテキパキと動いている。
「仕事で困ることは、今はないねえ。仕事の中では包装がやりやすい。ずっとクリーニングにいるからわからんけど、他の仕事をしてみたいというのはないねえ」とのこと。
給料から親に生活費を渡す。たまには、友だちと映画やカラオケにも行くし貯金も少しだけしているそうだ。
- Aさん(知的障害)
(2)今後の課題と展望
昨今の社会状況は、クリーニング業界だけが厳しいわけではないだろうが、家族型のクリーニング零細店が減る一方である。
その状況下でも、クリーニング業には障害者ができる業務がまだまだある。
例えば、クリーニング業界は、客層の高齢化や単身家庭の増加等の社会構造の変化により需要は維持され、障害者の雇用拡大にも余地があると見ている。
その一つとして、県条例により特定洗濯物が、取次店経由では難しいとの規制であったが「障害者雇用の拡大」を図るため、県条例の解除を提案した。提案を受け県及び関係機関等が、県条例の改正を迅速に対応していただいた結果、4~5年前から取次店で特定洗濯物が取り扱えるようになった。
こうした社会構造の変化や県条例等の改正により、障害者雇用の促進が拡大していくのではないだろうか。
知的障害の場合には軽作業が主な仕事であるが、現場では機械化も必要だが、最後は人の手で仕上げるしかない。障害者だからと差別せず、種々のプロフェショナルを育成していけば、まだまだ仕事は拡がる。
安全対策を十分にして、繰り返しの軽作業ではあるが、障害者の能力を活かし、人と機械の組み合わせにより、仕事の質の向上が図れる。
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