地域の中で障害者の「働きたい」を支える
- 事業所名
- 株式会社まるきん
- 所在地
- 佐賀県伊万里市
- 事業内容
- 釣り・アウトドア用品の販売・小売り及び釣り用ウキ・ルアー・小物・アパレル用品の開発
- 従業員数
- 71名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 金型製造 肢体不自由 1 釣り用ウキ製造 内部障害 知的障害 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - 目次
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1. 事業所の概要と沿革、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
当社は昭和39(1964)年に創業し、釣り用品の製造から販売までの一貫体制を整え、また、釣り具をはじめ釣り用エサ全般を取り扱う小売部門を持つ特異でユニークな会社である。
販売部門では、「Kizakura」(キザクラ)のブランド名で全国の大型商社を対象とした販売活動を行っている。平成5(1993)年から海外への積極的な販路拡大を行い、世界で通用するKizakuraブランドに仕立てるべく展開している。一方製造部門では、CAD/CAM等最先端の精密機器の導入を図り、製品用金型成形をはじめ自社内で自動機械の研究開発などを行っており、いち早くクラウドシステムを導入して在庫情報と生産管理情報を直結するなど、各製造工程で常に先進の姿勢をとり続け、“良い商品をより安く”販売店や一般ユーザーに提供している。
小売部門では、佐賀県内の伊万里市、佐賀市、福岡県の糸島市に直営店を3店舗展開し、釣りが好きで人との関わりを大事にし自然を愛するスタッフが心を込めて接客販売をしている。インターネット販売にも力を入れ、ネットの発信力を利用して、釣り具の販売のみならず佐賀・長崎・福岡の最新の釣り情報や釣りに関するマナーなどを発信し、また、様々な釣り大会を主催して釣りの楽しさを提案している。
今後ますますフィッシングの楽しさが認知され、その普及度が高まることに備えて、そのことを事業に活かすための人材教育にも力を入れている。
障害の有無にかかわらず「会社の方針を理解し、能力を最大限に発揮する意欲のあるものは、積極的に採用する」が会社の方針のひとつであり、職場はバリアフリーとなっている。
(2)事業所の沿革
昭和39(1964)年 | 創業 |
昭和50(1975)年 | 株式会社まるきん設立 |
昭和52(1977)年 | 波戸釣り用ウキ各種生産 |
昭和58(1983)年 | 伊万里本店移転 新社屋落成 |
昭和60(1985)年 | 伊万里本店24時間営業を開始 |
平成元(1989)年 | キザクラ工場新工場稼働開始 |
平成4(1992)年 | 伊万里本店増床 |
平成7(1995)年 | 海外へ輸出開始 |
平成10(1998)年 | 唐津バイパス店オープン |
平成12(2000)年 | 伊万里本店大改装 |
平成16(2004)年 | 株式会社キザクラ新社屋完成 佐賀北部バイパス店オープン |
平成26(2014)年 | 唐津バイパス店移転のため閉鎖 糸島店オープン |
(3)障害者雇用の経緯
- Hさん(下肢障害者)の雇用
Hさんは、当社のキザクラ工場に勤務している。Hさんの雇用のきっかけは、当社が障害者支援施設に業務委託を行ったことに始まる。当初支援施設から仕事を請け負いたいとの相談があり、当社とのニーズが一致したことから、釣り用ウキの研磨、パック詰め・袋詰め作業の業務委託を行った。「業務委託を行ったことで、障害者支援施設を利用している障害者のことについて知る機会になった」と辻常務は語る。
Hさんは、業務委託先の支援施設を利用している人で、作業の習熟度が早かったため、やがて午前中は施設内で作業をし、午後からは当社工場での施設外就労で釣り用ウキの製造を行うようになった。この時から、Hさんの自立への思いを知ることになり、また、Hさんの作業能力や作業環境への適応力であれば当社に貢献してもらえるのではないかと思ったところから、当社で雇用することになったものである。また、Hさん本人に雇用までのいきさつを聞いたところ、「将来的には一般就労を目標としていたので、工場で作業できることを良い機会だと捉え、努力しました」とのことだった。
Hさんが利用していた支援施設の施設長にも話を聞くことができた。「当時のHさんについては休みなく利用され、真面目な性格で作業効率など非常に優れていたので、そのような点が評価されたのではないだろうか。Hさんが就職できたことは嬉しかった」と振り返りながらも、「トイレや段差等、環境面では心配だった」とも話してくれた。
- Mさん(聴覚障害者)の雇用
Mさんの配属先も、キザクラ工場である。Mさんは以前、大阪で金型製造の仕事に長年携わっていたようである。伊万里に帰郷することになり、たまたまMさんの父親が当社と知り合いであったことから、雇い入れについての相談を受けた後に入社することとなった。当時のことを辻常務は、「Mさんがこれまでの仕事で培ってきた経験と技術は当社でも活かせるのではないか。また、何とか力になってあげたい」との思いだったと語る。そこから、ハローワークの紹介で入社することになった。
2. 取組の内容
(1)Hさんへの取組
Hさんを雇い入れるうえで、「業務内容についての不安はあまりなかったが、車いすを使用していることから、環境面で配慮は必要だと感じていた」と辻常務は語ってくれた。業務内容については、釣り用ウキの研磨と穴あけであり、雇用前の支援施設による施設外就労時に従事していた作業と同じであったため、心配はしていなかった。
環境面においては、Hさん自身もトイレについては心配をしていたが、「会社で改修をしてもらったため、不安が解消された」とのことである。続けて「多少の段差はもともと苦にせずに移動していたので、勤務中に車いすを押してもらうなどの介助はほとんど受ける必要もなかった」と語る。辻常務は「環境面でトイレの改修をした以外は、Hさんが努力してくれているので心配するようなことはないが、定期的に面談するよう心がけており、いつでも相談できるような関係性の構築を意識している」とのことである。施設設備を整えるだけではなく、いつでも相談できる環境があってこそ、職場定着が図られていると感じた。
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(2)Mさんへの取組
Mさんは聴覚障害があり、音声言語のコミュニケーションでは情報伝達がうまくいかない。しかし、当社には手話ができる従業員もいない。そのため、Mさんの業務内容は工程表に示されており、それに沿って一日の仕事をこなしている。Mさんの作業スペースの近くにはいつもメモ用紙が置かれており、筆談でコミュニケーションを取ることができる。また、辻常務をはじめ、従業員からMさんに伝えることがあるときは、メモ用紙を持っていくことが日常的になっている。どうしても筆談ができるものが近くにない時には、Mさんが黒板などに誘導することもあるとのことである。
このようなコミュニケーションの取り方が特別なものという意識は最初から誰も持っておらず、当たり前のこととして取り組んでいたとのことである。
3. 取組の効果
取引先などの企業経営者等が当社を訪問した時に、障害者を雇用していることに驚くことがあるとのこと。それは、障害者を雇用するためには、人的にも施設環境的にも特別な配慮が必要だと思っているからだろうと考えられる。もちろん、当社も必要な施設の改修等の配慮はしているが、様々な施設や環境面での工夫、従業員の障害者に対する自然な関わり方を目の当たりにして、障害者雇用の経験がない者からしたら驚きであったのだろう。
(1)Hさんへの取組の効果
Hさんを雇用したことで、「従業員全員がさりげない気遣いができるようになった」と辻常務は語る。特別な配慮は却ってHさんが気を遣うので、さりげないフォローを心がけているそうで、よく従業員が自然と声をかけているところを見かけるそうだ。また、Hさんは魚釣りが趣味とのことで、休日に他の従業員と時間が合えば出掛けているという。これは、他の従業員がHさんのことを障害者として特別視していないからだろう。もちろん、Hさんもできるだけ同行者の手を借りないように行動しているとのこと。
Hさんは、「雇用されてからは、仕事に対する責任感が変わった」と話している。支援施設を利用していた時には、製造工程の一部しか見えていなかったものが、当社に就職したことで一連の製造工程が見えるようになり、自分の役割や責任が明確になったことが大きく影響しているようだ。
Hさんは、車いすのマラソン大会に出場する予定もあるそうだ。辻常務は、「会社としても応援してやりたい」と笑顔で話してくれた。
(2)Mさんへの取組の効果
Mさんに対しては、他の従業員からコミュニケーションをとる姿がよく見られるとのことである。「Mさんにとって働きやすい環境になるようにと、従業員が自然と心配りをしているからではないだろうか」と、辻常務は感じているようだった。聴覚障害者によっては健常者とコミュニケーションをとる際に、双方で手話ができなければ何らかのツールが必要になり、それが無いときは孤立してしまう可能性も出てくる。そうならないような環境を自然と作りだせる、そんな雰囲気が全体から感じられた。
Mさんは、もうすぐ定年を迎えるそうだ。しかし辻常務は、「Mさんが希望するなら継続して雇用することも考えている。Mさんの技術は誰彼もが容易に習得できるものではない」と話してくれた。Mさんがこれまでに経験し蓄積してきた技術が、どれほど当社に貢献しているのかをうかがい知ることができた。また、障害の有無にかかわらず、一人の専門的技術者として当社がMさんのことを見ていることがわかる。
4. 今後の展望と課題
事業所内には多くの機械を導入していることもあり、従業員の安全の確保や安全性の維持・向上は必要不可欠な課題である。そのため、当社ではこれまでは身体障害者を雇用してきた。今後、知的障害者や精神障害者を雇い入れるには、経験がない為に、どのように作業指導をしていいのか、また、安全に作業をしてもらうための環境整備の取組、精神障害者のメンタルケアなど不安な面は多いようだ。しかし、「当社での業務に十分に能力を発揮してもらえる環境を整備することで、仕事の幅は広がり、さらに能力も向上できる。前向きに検討していきたい」と辻常務は言う。
現在では、障害者の雇用支援体制も充実してきているため、ハローワークや障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどの支援機関の持つノウハウを活用することで、知的障害者や精神障害者などの雇用の可能性は開けてくるはずである。
また、「障害者を直接雇用するだけではなく、当社の仕事を請け負ってくれる障害者支援施設があるならば、委託先を拡大し、応援していきたい」とのこと。障害の内容・程度によっては、当社の職場環境では十分に安全面が確保できない障害者もいるかもしれないが、環境整備の整っている障害者支援施設であれば、仕事ができる可能性もある。そのような形でも、障害者の生きがいや働きたいと思う気持ちに対して、地域の中の企業として貢献できることがあれば取組んでいきたいとのことである。
もちろん企業としては利益を追求しなければならない。「当社の業務を十分に理解して協力してもらえる支援施設には、業務の種別や性格などをきちんと説明し、コミュニケーションを大切にしなければ、お互いに向上もしないし、お互いに利益を出すことも難しいと思う」と付け加えがあった。
障害者の雇用には、従事する業務内容や職場環境とのマッチングは欠かせない。そのためには障害者のことを知らなければならない。当社においては、地域の障害者支援施設との関わりの中から下肢障害者のHさんとの出会いがあり、雇用につながった。地域の中で障害者の「働きたい」という気持ちを支えることは、直接雇用することはもちろんのことではあるが、雇用という意味をもっと幅広くとらえてもいいと思う。
- 執筆者:
- 社会福祉法人東方会
障害者就業・生活支援センターRuRi 就業支援員 蒲原 憲彦
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