障害者と高年齢者がともに働きやすい職場づくりと協働事業の推進
- 事業所名
- 有限会社平和食品工業
- 所在地
- 宮崎県東諸県郡
- 事業内容
- 鶏卵・畜産品製造卸(鶏卵、鶏肉・豚肉加工品)
- 従業員数
- 31名
- うち障害者数
- 2名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚・言語障害 1 炭火焼工程 肢体不自由 内部障害 知的障害 1 殺菌、出荷関連工程 精神障害 発達障害 高次脳機能障害 難病等その他の障害 - この事例の対象となる障害
- 知的障害
聴覚障害 - 目次
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
- 事業所の概要・歩みについて
有限会社平和食品工業は、昭和61(1986)年3月に宮崎市瓜生野にて創業以来「“安心、安全”、美味”」をモットーに、鶏卵については生産者と共に鶏の健康管理(特に鳥インフルエンザ対策)と餌にこだわり、「“美味しい卵は健康な鶏から”」を合言葉に商品化に取り組んでいる。
また、付加価値を付ける加工食品の開発にも力を入れ、鶏肉や豚肉の加工食品部門については、「良い素材を使い値ごろ感のある色彩豊かな、そして味の良さ」を第一番に掲げ、「お客様の立場で、正直に美味しいものを」という原点の下、独自の手作り製法にこだわってきた。
従業員については、地域の利用客が従業員として就労することもあり、“従業員に働きやすい人本主義経営”を掲げている。
雇用についての今日までの歩みは、障害者雇用に関する感謝状の受賞や子育て奨励賞の受賞等を始め数多くの表彰等(高年齢者雇用の奨励賞、農林水産省や経済産業省の農商工連携等事業計画の認定、2度にわたる宮崎県の経営革新計画の承認)に社会に貢献している実績が裏づけされている。
平成26(2014)年1月末の取引先は、大手量販店やスーパーマーケット、お土産物店等の計100社となり、年商は3億円となっている。
≪表:平和食品工業の流れ≫
時期歩み受賞昭和61(1986)年
3月宮崎県羽生野にて創業(代表取締役 花堂 伸樹) 平成14(2002)年
10月揚物加工工場を東諸県郡国富町(森永)に設置 平成18(2006)年
2月鶏肉炭火焼加工場を同署に設置 平成18(2006)年
8月経営革新計画の承認(宮崎県知事) 平成19(2007)年
5月本社を東諸県郡国富町に移転 平成22(2010)年
1月農商工連携等事業計画に係る認定(農林水産大臣・経済産業大臣) 平成22(2010)年
11月アンテナショップ・鶏肉惣菜テイクアウト店(宮崎かしわや)をクロスモールに開設(平成25(2013)年閉店) 平成23(2011)年
4月知的障害者雇用(社会福祉法人耕志会) 平成23(2011)年
11月宮崎県夢ふくらむ子育て奨励賞(宮崎県知事) 平成24(2012)年
5月促進事業者として、「畜産生産者「刀根大太郎氏」の6次産業化総合化計画認定(農林水産大臣) 平成24(2012)年
6月経営革新計画の承認(2度目、宮崎県知事) 平成24(2012)年
11月宮崎県・立地企業認定(宮崎県知事) 平成25(2013)年
4月第4回からあげグランプリ金賞受章(日本唐揚協) 平成25(2013)年
10月平成25年度高年齢者雇用開発コンテスト奨励賞「障害者と高年齢者がともに働きやすい職場づくり」(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長賞) 平成26(2014)年
1月新本社・工場竣工 平成26(2014)年
3月本社・工場を東諸県郡国富町竹田に移転 平成25(2013)年度高年齢者雇用開発コンテストにて、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長より奨励賞を受賞。
テーマは「高年齢者と障害者がともに働きやすい職場とするための改善」。
- 業務内容について
当社の業務内容は、営業活動や経理業務の内勤業務と工場の製造加工業務に分かれ、さらに製造加工業務は、毎日定期出荷する鶏卵の「パック詰工程」と、見込生産による炭火焼き等加工食品の「加工工程」、「殺菌工程」、「出荷工程」とに分かれている。
工場では一週一日単位での製造計画で勤務シフト体制を組むため、安定した要員計画を組むことが必要で、そのため一人でどの工程でも組めるオールラウンドプレーヤーづくりが重要な課題となる。
(2)障害者雇用の経緯
当社が所在する宮崎県東諸県郡国富町は平成24(2012)年10月1日現在、人口約20,343人で、平成12(2000)年比で約10%減少、15才~64才までの生産年齢人口は11,901人で、平成12(2000)年比で約15%減少している。また、平成21(2009)年度に町立小学校も6校中2校が廃校となり、生産年齢人口も年々減る一方である。
従業員の採用面では、国富町周辺に有名メーカーの巨大太陽パネル工場や大手企業の製造事業所等が存在し、県庁所在地の宮崎市が通勤1時間圏内にあるため、男性従業員や若年層従業員の新規採用については厳しい状況で、せっかく採用できた若年層であっても、食品を加工する仕事と就労環境になかなか慣れることができず、定着しないのが現状となっている。
農業振興地域という地域性や食品加工の業種柄からして、雇用確保が厳しく、高年齢者や就学児を持つ女性や障害者が重要な戦力になっている。
当社では現在、2名の障害者を雇用している。
Aさんは、知人が勤務する社会福祉法人からの一般就労実習として受け入れ、実習のなかで定型的反復的な基本工程について就労実習を実施したところ、業務に大変熱心に取り組んでいる姿を見て、正式に雇用することとなった。現在は、「殺菌工程」、「出荷工程」を担当することもできるようになっている。
Bさんは、当初出荷工程に従事していたが、後天性の難聴のため他の職員とのコミュニケーションのとり方に苦労をしたため炭火焼工程(肉カット、加工(調味料と肉を混ぜ合わせる))に異動を行い、現在は黙々と大変熱心に作業に従事し、任された作業内容に対しては最後まで責任感を持って仕上げることから、安心して任せられる従業員に成長している。
2. 取り組みの内容
(1)障害者に配慮した環境改善と体制の整備
- 改善前の状況
当社は、平成21(2009)年1月頃から農商工連携(平成20(2008)年7月施行の「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律」)による地場ブランド産品のアピール効果や東国原前知事のトップセールスにより、製品の出荷量が急激に伸びた。この需要の伸びに対し、供給が追いつかない次のような問題が発生した。
①従業員毎の対応能力のバラツキと生産工程内での生産管理体制が十分でなかったため、見込み生産量に狂いが生じた。
②やきとりの肉のカットや殺菌業務を担っていた障害者等に、荷造りや出荷業務などの職務拡大に向けての教育が十分でなかったため、出荷工程がボトルネック工程となった。
③単一工程従事体制が中心であり、従業員に就学児を持つ女性が多く、学校行事や家族の急病等による急な休みの発生で人員シフトの崩れが生じた。
<表の説明>毎日出荷の玉子、見込生産の真空パックやレトルト製品、焼き物製品毎の一週一日単位での製造計画を組んでいたが、単一の工程しかできない従業員もいて、製造上のボトルネックが生じることもあった。そのため、勤務シフトが変動する製造計画に対して、十分な対応ができず、生産性も低下した。
- 改善後の状況と体制の整備
状況を改善するため、工場において「お客様第一主義と製造要員体制の確立のために、各人が連携し、かつオールラウンドプレーヤー(職務拡大による多能工)を目指す!」という運営方針を定め、以下の取組を行った。
①障害者に高齢者がOJT
製造品目別にシフトを組み生産体制(従業員の配置)を明確にした。高年齢者を障害者の監督指導役として定め、工程毎のペア体制で、育成指導を行いながら品質管理を高めた。
②障害者もオールラウンドプレイヤー
単一の工程しかできない従業員がいることで、製造上のボトルネックが生じることもあったので、工程毎の基本担当者は決めつつ、他の工程でも対応できるオールラウンドプレーヤーの育成を現場に浸透させ、高年齢者等を中心に、日常からOJTを行いながらジョブローテーションを行った。
③有給休暇が連帯感の醸成
諸行事のために有給休暇を取得しやすくするために、事前に希望を募り従業員の要望に添えるようにした。このことが従業員間の連帯意識と責任感とを醸成してきた。
④障害者それぞれに指導・相談役(ジョブコーチ)を配置
障害者が就労中に混乱することを避けるため、障害のない高年齢者またはベテラン従業員一人とペアを組み、その指示教育フォローのもとで職務に専念させた。
⑤職務内容への配慮
障害者の業務はまず、定型的かつ単純な基本工程に固定化しつつ、徐々に、ジョブコーチの下で職務拡大を進めていった。例えば、「殺菌工程」は定型かつ単純工程であり、そこに「出荷工程」でのダンボール組立作業という職務拡大につなげていく。
⑥全従業員の信頼関係の醸成
OJTに、定年後の継続雇用の高年齢者を指導役にしたところ、障害者に対して非常に親身になって指導してくれた。障害者に対して基本行程からオールラウンドプレーヤーになるまで育成指導する組織風土なので、障害者を支える体制も温かいものになっている。
なお、改善後の障害者は次の表の通り、オールラウンドプレーヤーに序々に育ってきている。
<表の説明>障害者も可能な業務が増えてきたことで、全体的に余裕をもって、変動する製造計画に対応することができ、生産性向上に繋がった。
(2)障害者の業務・職場配置
職場工場内の配置は下図のとおりである。
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この中で、障害のある従業員は、それぞれ異なる場所で働いている。
Aさんは、殺菌工程を作業場所とし、殺菌、殺菌後の拭き上げの仕事をしている。
Bさんは、炭火焼工程を作業場所とし、肉カット、肉と調味料の混ぜ合わせの仕事をしている。
それぞれが自分の持ち場の業務に責任をもって、自工程に取り組むようになるまで約2年を要したが、仕事に対して自信と誇りを持ち更には最後までやり遂げるという責任と自覚をもって、自分の業務を遂行している。
(3)取組の内容(定着に至るまで)
- Aさん
・殺菌後の拭上げ工程を率先して行っている
・1日分の作業量が確保できない場合などは自分から作業を催促するようになった。
・殺菌工程だけではなく、出荷工程で必要な箱組み、製品へのシール貼りを覚えた。
・上記の作業以外にも、鶏卵のパック詰めも積極的に覚え貴重な戦力となっている。
- Bさん
・黙々と作業に従事している。
・肉カット、肉と調味料の混ぜ合わせなど工程作業に精通し、積極的に行動している。
・炭火焼工程だけではなく、繁忙期には自ら他部署の応援を申し出たりしている。
・上記の作業以外にも、鶏卵のパック詰めも積極的に覚え貴重な戦力となっている。
3. 障害者との共生と協働、今後の展望
有限会社平和食品工業は、障害者や生涯現役を目指す高年齢者の就労の場の提供を通じても社会的責任(CSR)を果たす企業でありたいという考えを持っている。
また、平成26(2014)年3月に新本社・工場へ移転するが、同社での障害者雇用のほかに、現行の工場について、現在の加工工場としての機能をそのまま生かし、就労移行支援、就労継続支援(A型、B型)を行う社会福祉法人と連携して活用していくことを検討している。
中小企業にとって障害者を雇用するメリットとして、障害者の特性(几帳面、集中力、定着率が高い等)があげられるが、それだけでなく、障害者がいることで従業員同士がお互いに相手のことを気遣うようになり、職場内に明るいムードが漂ってくる波及効果もあり、同社の中では貴重な戦力と位置づけられている。
新社屋工場に移転後も、現行どおり障害者雇用は継続し、これまで同様の仕事を行ってもらう考えである。
なお通勤については、現在は送迎を行っているが、移転後は新社屋の前にバス停があることから、自分で通勤できるよう「自主・自立」を進めることとしたい(知的障害者)。
中小企業にとって、障害者雇用は大きな問題であり限界があるが、直接的・間接的に障害者に働く場を提供することで社会貢献し、障害者や生涯現役を目指す高齢者の共生と協働就労を通じて社会性のある企業でありたいと考えている。障害者を障害者として考えるのではなく、障害でない人と同様に個性・性格・育ち等の違いとして接することでお互いに支え合う共生社会が実現でき、ともに目的に向かって働くことで協働社会が完成するのではないだろうか。
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