思い切って枠を取り去って考える
- 事業所名
- 特定非営利活動法人コリドール会 カフェ・コリドール
- 所在地
- 宮崎県宮崎市
- 事業内容
- バイキングレストラン(就労継続支援A型事業)
- 従業員数
- 32名
- うち障害者数
- 26名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 1 調理 知的障害 2 接客、調理 精神障害 20 接客、清掃、調理 発達障害 1 接客 高次脳機能障害 2 物品仕入、配達 難病等その他障害 - 目次
|
1. 事業所の概要、障害者雇用について
(1)事業所の概要
カフェ・コリドールは、宮崎市の市民文化ホール内にあるバイキングレストランである。市民文化ホールの位置するこのエリアは、宮崎市制70周年記念事業として建設された宮崎市福祉文化公園で、市立図書館、総合福祉保健センター、そして大坪池公園が隣接する。市民文化ホールでは、クラシック演奏会や各種大会など年間を通して催しが行われている。
当事業所は、理事長の岩下さんがソーシャルワーカーとして病院に勤務していた際に、精神障害のある人の就労訓練の場として活用させてほしいという願いから始まった。平成8(1996)年10月、市民文化ホールが開設された際に喫茶ブースを借りてオープン、当時はまだ障害福祉サービス事業所ではなく一般の飲食店として障害者を雇用していた。
平成20(2008)年2月に特定非営利活動法人コリドール会を設立して、同年8月に障害福祉サービス事業就労継続支援A型事業所に移行、現在に至っている。当初の定員は15名で、平成23(2011)年から定員を20名に増員している。現在、職員6名で障害者(身体障害・知的障害・精神障害・発達障害・高次脳機能障害)の生活を支援している。
特定非営利活動法人コリドール会の目的は、「障害者自立支援の理念に基づき、福祉サービス事業(喫茶店営業等)を通じて障害のある人々の社会参加を支援して、共に生きる喜びを構築し安心して暮らせるやさしい街づくりを推進すること」としている。障害者の社会参加と就労の機会を提供し、地域生活における「食」を重要視している。
(2)障害者雇用について
当事業所は、ランチバイキングを主としたレストランで、営業時間は11時から17時となっている。就労継続支援A型事業所であるため、1日の利用定員は20名である。勤務時間9時から18時までの時間の中で、週に20時間以上の勤務、月に80時間程度になるようにシフトを組んで勤務する。
朝方、夕方の勤務時間は、その日の体調でシフトできるようにしてある。利用者によっては具合が悪く、接客などコミュニケーションができない時期もあるため、2、3週間休んでもらう場合もある。
業務内容は、「清掃課」「ホワイエ課」「厨房課」「おもてなし課」に分かれている。清掃課は、レストラン開店前に写真1に示す店内のモップかけ、テーブル拭き、椅子拭き、ガラス拭き、そしてトイレ掃除や洗濯などを行う。ホワイエ課は、写真2に示すようにコンサート会場となる大ホールの入口付近にあるお店でドリンクやデザートなどを作って販売する。厨房課は、写真3に示す厨房で20種類以上のバイキング料理を作る。宮崎県外での調理経験もある利用者が中心となって、料理を作っている。おもてなし課は、店内での接客のサービスである。
各業務の中でもその内容は細かく分けられ、店内の接客であれば「案内する」「オーダーをとる」「料理を見る」「皿を片付ける」などとなっている。視野を広くすると確実に消化できない場合もあるためで、それぞれに担当を決めることでレストラン全体として確実に接客ができるようになっている。
担当する業務は、まず本人の希望を聞き、人前の業務ができない場合は、開店前の清掃を担当してもらうなど、個々に合った業務を担当できるようにしている。
障害者を雇用することは、抱え込みの就労ではない。障害者の発するオーラは会社を明るくし、会社に新しい風を吹き込む力になると思っている。法整備も徐々に進み、次のステップである一般企業への就職もできるようになった。これまでに4名の精神障害者が飲食店、介護施設などの企業に就職している。
2. 取組の内容
当事業所は当初、メニューを注文するスタイルであったが、接客など緊張が強いためにオーダーやスプーンを並べたりすることがうまくできず、客からクレームを受けることもあった。
そこで、利用者にとって都合のよい方法はないかとコンサルタントに相談し、現在のバイキング形式を取り入れることにした。バイキング形式は、多種類の並べられた料理から任意のものをセルフサービスで食べる方式のため、皿やスプーンのセッティング、オーダーをとる必要がなく、緊張の強い利用者にとっては非常に有効である。写真4にバイキングで出される20種類以上の料理を示す。
バイキングにすることで、並べられた料理や食器類、ドリンク、デザートの確認など新たに生じる作業もある。20種類以上の料理をいつも確認しておかなければならず、これまでより作業が複雑化し、困難なようにも思える。そこで、当事業所では、作業内容を細かく分け、利用者の担当を一つ程度にし、集中して取り組めるようにしている。それにより全体として十分な接客ができ、今ではクレームを受けることはほとんどない。
また、何事も学ぶ姿勢が大切であると考え、年間を通して外部講師を呼び、利用者、スタッフともに話を聞く講義を行っている。これまで教育をあまり受ける機会がなかった人などは、とても新鮮な気持ちで講義を受け、年末の12月頃には1年の振り返りも行われるため、各自の意識向上に役立っている。
利用者が苦手と思われるコミュニケーション力については、全員でのミーティングを重視している。声出しやそのための訓練だけでは、実際には難しいと考えているからだ。ミーティングは人前に出て人の話を聞くなど相手の気持ちを受け止める力も必要であり、コミュニケーション力をつける最も良い訓練になると考えている。毎日の業務の中ででてくる問題点などもその都度話し合い、皆が意見を言う場、話を聞く場として大切にしている。写真5は開店前の打ち合わせの様子である。
講義やミーティングなど人と出会い、話すことで、「自分はここで役に立っている」という自信にも繋がり、就労を通した達成感となり、エンパワーメントに繋がっている。ただし、自己管理を求めているからといって、ほったらかしにしている訳ではない。一人一人の観察はやはり大切であり、日誌などその日の感想を書いてもらうようにしている。
その他、利用者、スタッフの人数が多くなり回数は少なくなってきているが、レクレーションとして食事会や忘年会も行われている。近頃は自分たちで企画して遊びに行くこともある。
|
|
3. 取組の効果、今後の展望
(1)取組の効果
年間を通して実施する講義で外部講師の話を聞くなど、様々な人と対面する経験をすることで、利用者が新しいことを見出そうと自らするようになった。特に講義の中であった「自分のどこが好き?」の質問は、利用者自身が自分を見る目を変えるきっかけになったという。講義を通して「障害=不幸ではない」ということを利用者、スタッフ全員が共有し、楽しく、笑える職場づくりとなっている。一方、向き合っている病気の症状など当事者同士でしか分かり合えないこともある。悩みがある場合はスタッフではなく、当事者の周りの人の力で回復することもあり、ピュアカウンセラーをしている人もいる。
「枠を外す」という考え方で、見えていなかったものが見えるようになり、できないと諦めていたものでも可能にしている。固定観念に縛られないということであるが、こういった考えは「必ず人はスゴイところを持っている」という信念を持っているからである。利用者が休まずに8時間勤務ができるだろうかと心配されるが、この休まず8時間勤務という枠を一度外して考えると人の持つ本来の優れた能力が見え、想像以上に力を発揮できる場や働き方を考えるようになった。今では様々な力の中で自分自身で成長しようとする姿も見られ、利用者の中にはリーダー格となって業務を支えている人もいる。
指導については、「計算ができない」「接待ができない」とできないことを挙げるよりも、できることを褒め、理屈だけでなく、実践して教えることが大切としている。「利用者が大丈夫、できる」というところを支援し、共感して、高く評価(褒める)する。不安を安心に変え、よりよく働ける環境を作る努力を重ねている。ある知的障害の利用者は、計算はできないが、17年間一度も休まず完璧に仕事をこなし、今ではみんなの尊敬を集め、目標となっている。
(2)今後の展望
当事業所がある市民文化ホールは、道路から離れたところにある。オープン当時、イベントがあるときは200名以上の客で込み合うが、普段は人が立ち寄らず経営的に存続が危ぶまれる時期もあった。しかし、現在はランチバイキングが市民の中でも噂になり、多くの市民が普段から食を楽しみに立ち寄る。当事業所は、決して飲食業のプロ集団ではないが、客の表情などを見る利用者の観察力は優れ、メニューを考える際、料理人の作りたいものではなく、自分たち(客)が食べたいものを考える発想がプラスに働いているのだろう。
特定非営利活動法人コリドール会の理事長の岩下さんの話には「就労は人を育てる」という言葉が何度もでてきた。就労は自分が必要とされることがはっきり認識でき、またその対価として給料を得ることができる。
ただし、理事長の岩下さんは初めからそのことを理解していたわけではない。長く精神障害者のソーシャルワーカーとして働き、「無理をさせない」「あれはできない」とかばうことをしてきた。気付かされたのは、当事業所の福祉の専門でないスタッフの障害者に対する全く偏見のない指導であった。福祉の専門家であった岩下さんの中に、いつの間にか障害者に対してある枠(固定観念)を作っていたのかもしれない。無理をしないようにと囲いの中に入れてしまうという大きな誤解があったという。
障害者に対して思う専門家の枠、障害者自身の枠、素人が持つ枠、様々な枠を皆が持ち、これまではその枠を理解しよう、その枠に合わせようとしていたが、一度、その枠を思い切って取り去って考えることも必要だろう。
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてユミルリンク株式会社提供のCuenote(R)を使用しております。