発達障害者の事務補助業務における合理的配慮事例
- 事業所名
- 合理的配慮事例・27243
- 業種
- 教育、学習支援業(除外率設定業種)
- 従業員数
- 3,795名
- 職種・従事作業
- その他の事務作業:パソコンによるマニュアル作成、印刷、製本作業等
- 障害種別
- 発達障害
(精神障害者保健福祉手帳を所持) - 障害の内容・特性
- 決まったことを理解して、それをパターンとして繰り返していくということが得意。パターン化された作業をいくつか組み合わせるような仕事のスケジュールを組むことで、本人の能力を活かすことができる。
- その他
- 障害者職業生活相談員
-
募集・採用時の合理的配慮
面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること
本事業所は、事業所内に障害者雇用に特化した部署を設置して、障害者雇用を進めている。同部署の基本的考え方は、家族・支援機関・職場が互いに連携を取り合って対象者を支えていくという姿勢にある。したがって、同部署で働く障害者の面接は事業所側の担当者3名(現場指導員・主任指導員・室長)と、日頃から本人をよく知っている支援機関の職員、対象者家族の三者が揃う形で行われている。
求人から面接までの課程で行われること
就労支援機関のコーディネートを受けて立ち上げられた経緯があるため、発足当初から就労支援機関との関係が深く、現在は複数の就労支援機関と連携している。事業所から委託される業務の内容ごとに7つの班(巡回A・B班・機密書類処理班・保育園支援班・附属図書館支援班・ドキュメントセンター班・園芸班)で構成され、障害者は各班の作業員として勤務している。
各班から作業員の欠員募集や増員要請があった場合、連携している就労支援機関宛に、作業員募集の案内を送付するシステムを構築している。
そのため、作業員の選考に際して、対象障害者本人が提出する履歴書のほかに、本人が利用している就労支援機関からの情報提供書の提出を依頼している。就労支援機関は、対象障害者が在籍中に行っていた訓練の内容や、障害特性上配慮が必要な事柄等を情報提供書に記載して提出する。こうした事前の連携により、就労現場と就業者間で起こりうる雇用のミスマッチは、最小限に抑えられている。また、面接時に就労現場の見学も併せて行い、就労前の相互理解をさらに深めている。その他の配慮
対象障害者の職場見学には、職場で就労している作業員自らが、実際に行う作業の説明にあたり、就労後を見越した人間関係の構築にも努力をしている。こうした入念な準備の最後に、二週間の職場実習を行い、再度本人と話し合った上で、採用の可否を決定している。
また、安定した職場定着には、対象者の生活面を支える家族や支援機関の理解が必要との考え方から、就労に際して必ず家族の了解を得て、支援機関への登録を促している。採用後の合理的配慮
業務指導や相談に関し、担当者を定めること
同部署の体制は、(1)各委託業務班(7班)に現場で指揮する指導員(総勢8名)がおり、その上に(2)現場指導員をまとめ、相談に乗る主任指導員(2名)が常駐する形である。同部署の主任指導員は、社会福祉士・精神保健福祉士等の有資格者であり、1名は第2号職場適応援助者(=ジョブコーチ)でもある。
対象障害者が所属しているドキュメントセンターの現場指導員は2名で、両名とも障害者職業生活相談員資格認定講習の修了者である。現場指導員2名は作業員を担当別に指導しており、担当制を設けることで業務指示を1対1で伝達する「指示の一本化」が図られている。業務指示やスケジュールを明確にし、指示を一つずつ出す、作業手順について図等を活用したマニュアルを作成する等の対応を行うこと
ドキュメントセンターで行われる印刷・製本業務については、立ち上げ当初からの契約に基づいて、印刷・製本機の納入先から定期的に技術指導を受けている。
主な業務内容は、名刺の印刷、事業所が行う催事物案内、職員用の研修資料・カレンダー等の印刷製本など(別添1:作業依頼票)であるが、マニュアルは主に製品の種類別に作成されている。
対象障害者はドキュメントセンターの立ち上げ当初から勤務しており、委託業務の増加に伴い、その都度、新しい業務のマニュアルを自ら作成してきた。(別添2:名刺の作成方法)
ドキュメントセンターでは印刷・製本業務に関する(1)消耗品の発注(別添3:消耗品電話発注マニュアル)や、(2)納品業務も行っており、電話がけのマニュアル(別添4:電話マニュアル)等も作成している。加えて、よく行う作業については別途マニュアルを作成し(別添5:段ボールの縛り方)、誰でも同じように作業ができる工夫がなされている。
このようにドキュメントセンター内で行われる作業のほとんどにマニュアルがあり、対象障害者を含む作業員はマニュアルに添って作業を行う仕組みが整っている。電話がけや初めての納品等で、マニュアルに記載のない、いつもと違う対応が必要となったときには、その都度現場指導員がフォローを行っており、作業員が強いストレスを感じることなく働ける環境整備に努めている。
また、印刷・製本の資材であるインクカートリッジや紙類他の在庫についても、オープン収納で「見える化」し、物品の管理面でも、誰でもがどこからでも資材のありかがわかる配慮がなされている。(別添6:カートリッジ在庫 別添7:紙類在庫)
さらに、取扱いの難しい機器については、注意事項を貼り出したり(別添8:印刷機注意事項)、取扱いに危険を伴う機器については、始業前点検注意を促す表示をする(別添9:断裁機)等、安全面にも気を配っている。
ドキュメントセンターでは、各日の業務内容を別途ホワイトボードに表記(別添10:当日業務の視覚化)し、当日作業をさらに明確化している。加えて、スタッフの休暇や依頼品の納入期日管理を、1ヶ月の日程標記があるスケジュールホワイトボードに記載し、スタッフ全員の共通認識の確立に役立てている。別添1:作業依頼票
別添2:名刺の作成方法
別添3:消耗品電話発注マニュアル
別添4:電話マニュアル
別添5:段ボールの縛り方
別添6:カートリッジ在庫
別添7:紙類在庫
別添8:印刷機注意事項
別添9:断裁機
別添10:当日業務の可視化
出退勤時刻・休暇・休憩に関し、体調に配慮すること
対象障害者を含む作業員は、基本的に月~金勤務・土日祝休暇の週休2日制、9時出勤→12時昼休憩→16時退勤の週30時間勤務である。休暇及び休日は、有給休暇(雇用期間1年目は10日間)のほかに、夏季休暇3日間(うち、1日は個人裁量で、2日は一斉休暇として)・年末年始休日(12月29日~1月3日)である。また、残業等の超過勤務は実施せず、過度の負担がかからないよう配慮されている。1日のスケジュールは(別添11:作業員の一日)参照。1日のスケジュールには非記載だが、午前の業務・午後の業務の時間内に、現場指導員の判断でそれぞれ10分間の休憩が設定されている。
対象障害者が作業に集中できなくなる等、通常と異なるサインを発している場合は、現場指導員が注意深く見守るようにし、状況に応じて主任指導員に相談する。相談を受けた主任指導員は、別途、対象障害者や現場指導員と面談し、対象障害者の希望があれば事業所の産業医に紹介できるシステムを構築している。
職場で前述のような配慮を行う一方で、作業員が毎日記載する業務日誌(別添12)を通じて、家庭との連携強化を図り、連絡事項の確実な伝達や、急な体調変化の抑制に努めている。別添11:用務補佐員の一日
別添12:業務日誌
感覚過敏を緩和するため、サングラスの着用や耳栓の使用を認める等の対応を行うこと
ドキュメントセンターでは、個人作業は全て壁に向かって行えるような配置(別添13:機器配置図)となっており、納品前の検品等全員で行う業務については中央の作業台を使用するようになっている。
業務上、紙を使用するため、年間を通じて部屋の空調(温度・湿度)管理は行き届いており、作業場所が極端に暑すぎたり寒すぎたりすることはなく、配慮の行き届いた作業環境である。個人差もあるため、寒い場合は個々に上着の着用が許されている。別添13:機器配置図
本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること
対象障害者はドキュメントセンター立ち上げ時からの経験者であり、職場においても面倒見の良いリーダー的存在である。加えて各班では、採用面接に伴う職場見学時に、現場の作業員全員がかわるがわる作業の内容を説明するなど、就業前から相互理解を深める努力をしており、新しく受け入れた作業員が現場になじめないなどの、明らかな問題点は現在見受けられない。
一方、日常会話上よくあるちょっとした意見の相違からくる、感情面の衝突は少なからず発生している。こうした相談を対象障害者やそのほかの作業員から受けた場合は、現場指導員や主任指導員がその都度丁寧に対応している。また、作業員の間で業務への熱心さから、業務内容について議論が白熱することもあるという。こうした衝突が起こった場合は、現場指導員が業務内容の交通整理を行い、部署内の全作業員の前で各自の業務分担を確定し、作業員全員の承認を得てから次の業務に移るなど、その後の業務全体に支障がないように配慮している。その他の配慮
家族との連携を支援の軸としているが、グループホーム等の施設で生活している作業員については、採用面接時に施設の職員と面談し、連携関係を築いている。
障害者への配慮の提供にあたり、障害者と話し合いを行った時期・頻度等の配慮提供の手続きの詳細
- 同部署が進める障害者雇用の最大の特徴は、家族・支援機関・職場のトライアングルで対象障害者を支えている点にある。
- 立ち上げに支援機関の援助を受けた経緯から、支援機関との連携が綿密であり、そのため求人面でも支援機関と連携関係にある点が特徴的である。
- 対象障害者に対する手厚い配慮を行っている部署であるが、発足から5年目を迎えており、今後は、対象障害者を含む作業員の明確なキャリアプランの作成や、雇用管理制度の構築に期待が持たれるところである。
配慮を受けている障害者の意見・感想等
自ら進んでリファレンス収集に協力してくれた対象障害者が、「こちらの仕事をするようになってから、発見の毎日です」とハキハキとした話しぶりで応えてくれたのがとても印象的であった。
対象障害者はドキュメントセンターの業務について、(1)自分が覚えるだけでなく、(2)他の人にもわかりやすく説明できるようにと、自らマニュアルを作成するなど、ドキュメントセンターの業務全般を引っ張ってきたリーダー的存在である。
今までは、ドキュメントセンターで行う業務内容が豊富になるにつれ、対象障害者の業務内容も増える形でスキルアップが図られてきた。家族の支えもあることから、今後の飛躍が期待される。
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