精神障害者の清掃業務における合理的配慮事例
- 事業所名
- 合理的配慮事例・27245
- 業種
- サービス業(特例子会社)
- 従業員数
- 9名
- 職種・従事作業
- 当社(特例子会社)の親会社内事業所を拠点として、親会社に属する各店舗およびグループ事務所の清掃業務に従事している。
日々異なる店舗で、駐車場、窓ガラス、陳列棚など、日常の店舗清掃では行き届き難い箇所を中心に行っている。
本社清掃では、来客スペース、執務スペース、給湯スペース、トイレ、ホールなど全ての箇所の清掃を行っている。 - 障害種別
- 精神障害
- 障害の内容・特性
- うつ病(精神障害者保健福祉手帳3級を所持)
気分の浮き沈みの波がある。
-
募集・採用時の合理的配慮
面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること
面接にあたり、事前に職業センターにおいて、職業センター職員・人事担当者・対象障害者の三者で相互理解のための話し合いの場を設け、障害特性について充分な理解が形成された上で、採用面接を行った。
その他の配慮
同社は、次の3つを主な目的として設立された特例子会社である。
- 能力を発揮できる就労環境の整備
- 幅広い雇用機会の提供
- 職場定着支援
そのため、同社は立ち上げ時より各種就労支援機関に働きかけ、綿密な連携体制を構築する努力を続けている。
対象障害者への配慮は、採用以前から始まっており、その過程に就労機関が密接に関わっているため、求人の募集は概ね連携する就労支援機関を通じて行われる。
同社の合理的配慮で特徴的なのは、採用時のマッチングである。同社では、採用時の良好なマッチングが入社後の職場定着率の向上に結びつくと考えられているため、求人があるときだけでなく、平常時から同社の業務内容を理解してもらうために、地域の就労支援機関や特別支援学校からの職場見学希望に幅広く対応している。同社の採用活動は、こうした日頃の活動の延長線上にある。
職場見学・職場実習の具体的な過程は以下のとおりである。
1. 立ち上げ時より連携関係にある、各就労機関に職場見学募集のお知らせをする。
2. 見学希望者を現場見学に受け入れる。
3. 一定期間の職場実習を行う。
上記1~3までの過程は、採用を前提としない職場見学でも同様であり、採用を前提とした職場実習の場合は、以下の過程が追加される。
4. 就労希望者が属する支援機関向けに求人を出す。
5. 採用選考を経て入社。
提出書類は履歴書(支援機関によっては、個票とよばれる支援状況を要約した書類が添付される場合もある)で、面接も行う。
同社では、1~4の過程で支援機関の支援員が必ず一度は同社を訪れることになっている。採用以前の職場見学時からの支援機関との密接な連携は、対象障害者が入社後も引き継がれる。
こうした支援機関との密接な連携を築く背景には、対象障害者の職場定着と長期継続就労には、支援機関からの支援が必須であるとの考えからである。また、支援機関から適切な支援を得ることは、対象障害者の業務指導担当者の負担軽減にもつながると考えている。採用後の合理的配慮
業務指導や相談に関し、担当者を定めること
業務指導担当者は、第2号職場適応援助者(第2号ジョブコーチ)資格保持者である。
同事業所内に所属する清掃班は3班で、対象障害者が1班の班長を務めると共に、別班の班長養成にも携わっている。対象障害者の業務指導担当者は1名であり、指示は一本化されている。また、対象障害者本人も第2号職場適応援助者(第2号ジョブコーチ)の有資格者であり、同事業所の清掃業務推進の一翼を担っている。特別に要した費用 ( )はうち助成金充当部分※
(¥1,800,000 3名を対象として「第2号職場適応援助者助成金」を受給。本事例対象者はそのうちの1名である)※配慮を講じるに当たって、特別に要した費用や助成金の支給を受けた場合の金額を記載しています。
業務の優先順位や目標を明確にし、指示を一つずつ出す、作業手順を分かりやすく示したマニュアルを作成する等の対応を行うこと
<<マニュアルについて>>
同社で清掃業務を受託するにあたり、業務指導担当者は、対象障害者への指示を明確化するために、清掃業務チェック表を作成した。現在は業務の習熟度が上がり、同じ時間内でできる業務量が増えたため、チェック項目数も大きく増加した。
同社は障害者雇用に特化した特例子会社であるため、対象障害者が班長を務める清掃班のスタッフも全て障害者であり、障害者一人一人の能力に添ったマニュアルの作成は必須であった。出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること
<清掃班>
・本社清掃
8:00~15:15(休憩75分)
業務内容詳細(下図:清掃場所指示書参照)
・店舗巡回清掃
9:15~16:45(休憩75分)
休暇は、土日祝日の固定休。
上記の他に夏季休暇と年末年始休暇あり。
対象障害者は、入社当初の1年間は9:15~16:30(休憩75分)
現在の出退勤時刻は、基本9:00~18:00(休憩60分)(現在勤続6年目)。
午前業務・午後業務の間は、90分に10分間の休憩を取るよう業務指導担当が指示している。
対象障害者は、清掃班の班長を務めており、自らの健康管理のためだけでなく、班のメンバーの健康のためにも休憩時間は必ず取得するよう気を配っている。
対象障害者は、同社において様々な配慮・支援を受けた結果、現在は症状が落ち着いており、通院への特段の配慮は必要なくなっている。清掃場所指示書
できるだけ静かな場所で休憩できるようにすること
執務スペースとは別の仕切られた空間で、落ち着いて休憩を取れる場所を確保した。
本人の状況を見ながら業務量等を調整すること
<<委託業務を受注するシステム作り>>
- 委託業務の切り出しを行う営業部の設置
同社は、親会社の業務内容から業務委託可能な仕事を切り出す営業部員を設置している。
今回の場合は、本社従業員であった対象障害者の「細部へのこだわりが強い」という特性を生かす仕事として清掃業務の委託業務の受注に至った。 - 営業部員について
同社営業部員は、同社に在籍する全障害者の障害特性を把握している。
(1)委託業務切り出しのポイント
同社への業務委託によって、親会社と子会社、両社にプラスの相互効果が得られること。
(2)親会社の事業内容
「ポケットマネーで楽しめるレジャー」を事業コンセプトに、複合マルチメディアショップを展開している。
(3)各店舗での清掃状況
各店舗の責任において行われていた。しかし店舗によって、掃除が行き届かない部分があったり、必要な回数が異なったりと、清掃のレベルが一定ではなかった。
<<委託業務切り出しの例>>
- 本社内同事業所清掃班の業務内容
・本社事務所内清掃
・各店舗への移動清掃 - 委託業務量のコントロール
営業部員は清掃業務の受注にあたり、発注元の親会社にある需要本位でなく、同事業所の作業可能量に応じて業務量をコントロールする事に苦心した。勤務予定を決定する具体的な方法は、以下の通りである。
ア.清掃班のスタッフの予定を元に、各エリアのエリア長と調整し、1ヶ月前に清掃班の次月の勤務予定を決定する。
イ.清掃班から提示した勤務予定に併せてエリア長が、各店舗の清掃日を割り振り、同時に清掃希望箇所も伝達する。
ウ.清掃班は予め決められた勤務予定に沿って1ヶ月の勤務を行う。
清掃業務受注の当初は、勤務予定計画の作成を全て営業部員が行なうことで、対象障害者の負担軽減を図っていた。対象障害者は同社で既に勤続6年目であり、勤務予定計画の作成は現在は対象障害者が行っている。
<<清掃班内での業務量の調整>>
清掃班のスタッフ各人の力量やその日の体調により作業量にばらつきが生じることを考慮し、以下の対応を取っている。
- チーム責任制(相互補助)の導入
- 業務量を個人固定のノルマを課さない
- チェック表に沿った、確実な作業の重視
- チェック項目を終了したスタッフが終了していないスタッフを手伝う
- 班全体で、必要業務量を達成する
- 判断(=責任)の分担
清掃場所が通常と異なった状況にある場合- 何を(便器についている汚れが特にひどいような場合、どういった手順で)
- どこまで(どの程度)
本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること
同社では、従業員の大半が障害者であるため、入社面接時に一人ひとりに対して、以下の2卓を確認している
- 職場のフタッフに伝えて欲しいこと
- 伝えても良い範囲
を確認している。
上記の点に考慮した上で、対象障害者を含む障害者全員が、各自の障害について基本的に開示している。
障害特性の相互理解を基に、同社ではさらに働きやすい環境作りを目指し、スタッフ間の円滑な人間関係を継続するために、以下のような配慮を行っている。- 清掃班の班長(=運営スタッフ)と、清掃スタッフの相性を考慮して、業務指導担当が各班のメンバーを決める。
- 対象障害者を含む、就労障害者全員が、困りごと・悩み・不安・不満等を、いつでも気軽に業務指導担当に話せる風通しの良い環境作りに努力している。
- 職場での良好な人間関係構築上、対象障害者を含むスタッフの障害特性等を話す必要が生じた場合には、必ず事前に本人に了解を得た上で業務指導担当が話している。
- また、清掃班のスタッフ間、班長とスタッフなどの間で、不満や不安が訴えられた場合には、あくまで業務指導担当の意見として当事者に伝えている。
その他の配慮
同社では、障害を個人の特性と捉える社風が培われており、障害の有無に関わらず「個人(=その人)を理解する」姿勢に重点が置かれている。そのため、同社の障害者雇用上、問題点・疑問点が生じた際には、常に以下の3点に立ち返り、問題解決が図られる。
- 対象障害者の特性を掘り下げて理解すること。
- 対象障害者ができないことを当然と受け止めること。
- 1. 2.を踏まえた上で、対象障害者がどうすればできるようになるかを模索すること。
同社では、対象障害者に常にこうしたスタンスで向き合っており、「人を変えるのではなく、一人ひとりの能力を最大限に活かす」手法を探している。
入社以来、こうした同社のきめ細かなサポートを受けた結果、入社当初は、2週間に一度の通院が必要であった対象障害者は、現在は2ヶ月に一度程度の通院に落ち着いており、現在は急な体調変化はほとんど見られない。
障害者への配慮の提供にあたり、障害者と話し合いを行った時期・頻度等の配慮提供の手続きの詳細
- 同社採用時のマッチングについて
同社では以下の2点に注力することにより、マッチングの精度を上げるよう務めている。- 同社の就労現場についての充分な情報開示
同社は親会社を含むグループ企業全体の障害者雇用の窓口を勤めており、特別支援学校を含む学生の職場実習希望に広く門戸を開いている。加えて、地域の就労移行支援を含む各種支援機関からの実習・見学希望なども広く受け入れている。このように同社は日頃から地域障害者社会に向けて、同社内の職場環境を含む障害者雇用状況について広く情報発信を行っている。 - 支援機関との緊密な連携
同社は、ハローワークを通じての求人活動は行っておらず、求人は全て旧知の支援機関を通じて行われる。従って新規入社の障害者は、全て支援機関の支援を受けている者であり、入社前に支援機関を通じて、対象障害者の障害特性等の情報を得ている。支援機関との連携は、対象障害者の入社後も継続しており、支援機関の有効活用により職場定着を図っている。
- 同社の就労現場についての充分な情報開示
- 対象障害者の育成方法
同社では、対象障害者のやる気を引き出す仕組みとして以下の2点の制度を導入している- スキルアップ
ア.班員
・各業務を行うスタッフ。
・6名程度で1班を構成。現在、清掃業務には3班があたっている。
イ.班長
・当日作業の準備・後片付けを行う。
・作業現場における班員からの細かな質問に答える。
ウ.班長になるための条件等
・自ら手を上げること
・その後、班長候補生として実際の業務にあたる。
・必要があれば班長候補生の主治医等にも諮る。
・最終決定は、同社の判断で行う。
対象障害者は、現在班長であり、スキルアップを目指したいスタッフのやる気を向上させる存在となっている。 - キャリアアップ
ア.アルバイト社員
・入社の際は、時間給のアルバイト社員として採用。有期契約。
イ.チャレンジ社員
・1年間の出勤率が90%を超えたアルバイト社員に、チャレンジ社員への選択権利が付与される。
・チャレンジ社員になると契約期間の無い月給制の社員となる。
・勤務時間は、6時間・7時間・8時間から選択可能。
・有給休暇を超えて通院が必要となった場合は、通院に伴う無給休暇が付与される。
ウ.エキスパート社員
・ラインの班長以上=チャレンジ社員や一般の社員を指導する立場になった社員
・業務指導担当のサポートがほとんど必要無い状態にある障害者
・勤務時間は、8時間固定
チャレンジ社員を希望するかどうかは、あくまで対象障害者本人の意思を尊重しており、自動的に移行はしない。
なお、現在のところ出勤率90%をクリアした社員は、ほとんどチャレンジ社員に移行しており、その後も問題なく就労している。
同社ではチャレンジ社員への条件を出勤率90%と明示することにより、対象障害者が自発的に体調管理を行う仕組みづくりに成功している。
- スキルアップ
配慮を受けている障害者の意見・感想等
対象障害者は、誠実で人一倍真面目な努力家であり、以前の職場でも勤務態度に目立つ問題は無かった。
しかし、以前の職場では周囲の雰囲気に溶け込めず、常に息苦しさを感じていたという。
「まさに、歯車がうまくかみ合っていない。という感じがぴったりだった」とは、本人の弁。
同社に入社後は、困ったことや悩みがあるときには、気軽に業務指導担当に話ができる環境を得て、
「息をするのが楽になった」と感じたという。
安心して働ける環境から、症状も徐々に安定した。対象障害者は、同社の育成制度を活用し、着実にキャリアアップ・スキルアップを果たしている(現在は、清掃班の班長を務めるエキスパート社員であり、第2号職場適応援助者(第2号ジョブコーチ)の資格保有者として、3つある清掃班のうち2つを見る運営スタッフとして活躍している)。
「将来は、グループ企業が全国に展開している店舗での清掃業務を、支援する立場で働きたい」と、夢は大きい。
「以前は休みの日には、サイクリングなどをして気分転換をしていたけど、今は仕事が楽しい。だから休みは、本当に休息に充てています」
と体調管理にも余念が無い。
そんな対象障害者に対して、業務指導担当は
「しっかり寝る事、仕事と休みの日の切り替えが大事だよ。メリハリをつけてね」と声をかけていた。
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