知的障害者の新規雇用に取り組んだ事例
- 事業所名
- 有限会社タナカS・S
- 所在地
- 山形県米沢市
- 事業内容
- 釣具(ルアー)の製造
- 従業員数
- 46名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 1 釣具(ルアー)製造補助 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
有限会社タナカS.Sは、山形県の南東部に位置する人口約92,000の米沢市にある。2009年のNHK大河ドラマの主人公である上杉の智将「直江兼続」を輩出したこの地で田中社長がこの会社を創業したのは平成12年10月であった。当初は、ノートパソコン等の組み立て製造が主たる業務であったが、その後事業を拡大し、現在は釣具(ルアー)の製造・電子機器部品の製造請負並びに組立販売・パーソナルコンピューターや周辺機器の販売並びに取付工事・印刷業及び印刷物の企画制作・生命保険の募集に関する業務等幅広い分野で事業を展開している。従業員数は、46名、平均年齢は33歳と若く、作業現場からも活気が感じられた。
社是は「夢のある人と一緒(とも)に」である。そして社長のモットーとしては、何事も夢を持ってやれば道は開ける、そして夢を持っている人と一緒に仕事をするのがなによりの楽しみであり、夢のある人と共に歩んで行く職場であることを大事にし、これからも目指し続けたいということであった。
2. 障害者雇用のきっかけ
(1)初めは実習から
会社では平成18年4月より知的障害者のAさんの雇用を継続している。雇用に至った最初のきっかけはAさんが在籍していた高等養護学校の先生からのアプローチだったという。学校では3年生の授業の一環として、「職場の雰囲気や労働時間、一定の作業量など働くことのきびしさや充実感、また、職場での人間関係について体験を通して理解を深める」ことを目標に、一般の事業所で実習を行うが、進路指導担当の先生からAさんの実習受け入れの依頼があり、初めは会社としても不安や戸惑いはあったとのことだが、会社訪問を重ねる先生の熱意に応え平成17年の6月と10月に2週間ずつ、実習を受け入れることとした。
(2)実習から雇用へ
そして、その実習期間中におけるAさんの仕事に対する姿勢はもちろん、適宜巡回指導に会社を訪問してくれる学校側のフォロー体制も会社としては安心できるものがあり、卒業と同時に採用への運びとなった。
(3)雇用へ向けた支援体制
雇用へ向けた話し合いが、会社、学校、ハローワーク、山形障害者職業センターの連携のもと開始された。Aさんの職業生活を支える“応援団”結成である。昨年度より、障害者の就労に向けた「チーム支援」の実施が国から示されているが、この事例におけるチーム支援はすでにこの時に始まっていたということである。
会社にとって初めての障害者雇用で、Aさんにとっても新卒者でありもちろん初めての職場ということもあり、ハローワークの紹介により3ヶ月のトライアル雇用を実施し、併せて障害者職業センターの職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援事業も併用した。トライアル雇用を実施することにより、会社、Aさんにとって3ヶ月の期間中にどの程度仕事ができるか理解できること、また、よりお互いを理解しあうことができた上で常用雇用に移行できること、支援計画に沿ったジョブコーチ支援により、Aさんがより仕事をスムーズに覚えられること、知的障害者に対する接し方などを相談できることなど、各機関が連携することにより様々なメリットがあった。加えて、学校の先生も卒業後のアフターフォローとして適宜会社訪問を実施したことで、会社やAさんにとって大きな支えになったことは言うまでもない。また、学校やハローワークからのアドバイスもあり、高齢・障害者雇用支援協会の業務遂行援助者の助成金も受けているとのことであった。
そうした経緯を経て、平成18年7月、Aさんは常用雇用へと移行する。
3. 障害者雇用の現状
(1)Aさんの仕事
勤務時間は8:20~17:30(休憩70分)、Aさんが従事している業務は、冒頭に前述した釣具(ルアー)の製造であり、会社の事業の中でも7~8割を占める主要事業となっている。その製造は、完成まで幾多の工程があるが、Aさんは、最初の工程、ルアー本体に部材(重り)を入れ、組み立てる作業を任されている。製品には、多くの種類があり、中に入れる部材も種類や量など違うため、間違いがあった場合はその後の工程にも大きな影響が出てしまうため集中力を要する仕事であった。訪問した際も仕事に従事中であったが、若干の時間をいただき話を聞かせてもらった。Aさん自身も高校を卒業してから初めての職場ということもあり、最初は不安でいっぱいだったが、定期的に様子を見に来てくれる学校の先生やジョブコーチの方の存在が大きく、更に常に声を掛けてくれる職場の方々の指導もあり徐々に仕事や職場にも慣れ頑張っているとのこと。「将来の夢は?」という漠然とした質問をしてしまったが、「今は毎日の仕事を頑張り、ミス無くこなしていきたい」との返事をいただいた。
障害のある従業員については、業務内容そのものよりも職場での人間関係がネックとなり不適応等が原因でストレスを抱え込んでしまい、それがもとで離職に至ってしまうケースが多い。多かれ少なかれこれは障害のある無しに関わらず、組織で仕事をする者にとって人間関係はどこでも発生するが、障害によりコミュニケーションが苦手(自分の考えを上手く伝えられない、相手の気持ちが上手く汲み取れない)な者にとっては大きな問題である。しかしAさんのように、周囲の同僚から声を掛けてもらい、昼食を一緒に食べる、会社の飲み会には参加するなど決して大げさではないが会社の一従業員として接してもらうことによって、自然にその課題が解消していると思われる。
通勤も以前はバスを利用していたが、仕事を始めてから自動車免許を取得し、今は自家用車で通っているとのこと、生活の幅も広がっている。

(2)工場長より
実際にAさんの業務を指導、管理している工場長からも話を伺った。
やはり採用当初は、会社として初めての障害者雇用ということもあり、障害のある従業員に対してどの程度仕事を任せていいのかわからない、という戸惑いがあったとのこと。また、学校の先生からはAさんに接する際の留意点として、「背後から大声で話しかけられることが苦手」との話を聞いており、その点については十分配慮して接したとのこと。会社としてAさんを採用するにあたっては、もちろん職場での戦力として一つの工程を担ってもらう必要性があったのは当然のことであり、社長を含め現場でも試行錯誤を重ね、また、支援に入っていたジョブコーチの助言もありAさんに従事してもらう仕事の工程を作り上げていったという。
ただし、最初から全てが上手く行った訳ではない。集中力を要する作業であるということは前述したとおりだが、社会人一年生のAさんが労働習慣を身に付けるにはやや時間がかかったのか、また、疲れが出てしまうのか勤務時間中に居眠りが見られたこともあったとのこと。今でこそお互いに信頼関係も構築され、スムーズにコミュニケーションはとれているが、当初は、注意一つにしてもどういった声がけをすればいいのか不明な点もあり、ジョブコーチへすぐに相談し、状況の改善を図ったとのこと。早急な対応により以降居眠りは見られなくなり、また、ジョブコーチ支援は工場長はじめ会社にとってもメンタル面での支えになったとのこと。

4. 今後の障害者雇用の展望
上記で述べたように、会社として新規に障害者を雇用するということは決して平坦な取り組みではないが、障害があっても従業員として頑張ってもらいたいという会社としての強い想い、また、その想いに応えたいというAさんの仕事ぶりもあり現在も雇用は継続している。今後も実習の受け入れや、仕事がより増えれば新たな障害者雇用についても前向きに取り組みたいとの社長のお考えであった。
また、直接の雇用ではないが、社内で製造しているルアーの箱の組み立てを市内の障害者授産施設や就労継続B型事業所に外注しているという。お願いできるところがあればもっと外注したいとの意向もあり、これは施設等にとって利用者の方の作業確保という面では大変ありがたいことである。また、障害者自立支援法の施行により「福祉施設から一般就労へ」との取り組みが進められている今、福祉施設利用者の方がこうした外注作業を行うことにより、一般就労への意欲の喚起、また、基本的な労働習慣の確立といったことが図られるのではないかと思われる。
執筆者 : 置賜障害者就業・生活支援センター
就業・生活支援ワーカー 白岩 守
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