新たな価値を創造し、人のしあわせと社会の発展に貢献する
2020年度掲載
- 事業所名
- 株式会社多田スミス
(法人番号: 2140001046836) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 兵庫県朝来市
- 事業内容
- 厨房・温水機器部品、水廻り機器部品、アルミダイカスト部品の製造
- 従業員数
- 297名
- うち障害者数
- 10名
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障害 人数 従事業務 聴覚・言語障害 4名 素材加工、部品供給、加工組立等 肢体不自由 2名 製造品の検査 知的障害 4名 素材検査・確認、加工作業 - 本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害、肢体不自由、知的障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)概要
株式会社多田スミス(以下「同社」という。)は、昭和44年(1969年)に設立され、令和元年には創立50周年を迎える。事業内容としては、ガス機器の開発・生産であり、厨房・温水機器部品の製造、水廻り機器部品の製造、アルミダイカスト部品の製造を行っている。ガス機器の重要な基となるアルミダイカストを核とした技術を追求し、ダイカストから加工・組立まで一貫生産を社内で行えることが会社の強みとなっている。
現在は、株式会社ノーリツ(以下「ノーリツ」という。)の100%出資により、ノーリツのグループ会社となっている。
【沿革】
・昭和44年 多田精工株式会社設立
・昭和57年 多田精工・多田スミスを合併し、(株)多田スミスを存続社名とする
・昭和61年 アルミダイカスト工場を新設
・平成10年 ISO9001 認証登録
・平成13年 ノーリツグループ会社となる
・平成14年 ISO14001 認証登録
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用の歴史は長く、27年以上の長期にわたり勤務している障害のある社員もいる。平成4年5月に聴覚障害者を採用したことが同社にとってスタートであった。平成13年にノーリツグループの会社となったことで、より一層障害者雇用が進むこととなった。ノーリツは、特例子会社である株式会社エスコアハーツを設立するなど障害者雇用に積極的に取り組んでおり、ノーリツグループ全体でも障害者の雇用拡大に取り組むことを方針として掲げている。これを受けて、同社でも障害者雇用の取組を強化してきた。近年では、障害者雇用優良事業所等表彰で、事業所及び個人ともに複数の表彰を受けるに至っている。
2. 取組の内容と効果
(1)採用段階
ア 職場実習受入れへの思い
同社の障害者採用に関する基本的な考えに、「地域への貢献」がある。会社の所在する地域内の特別支援学校、就労支援機関、ハローワークなどから紹介があった障害者は、原則的にすべて職場実習やトライアル雇用の形で、受け入れを行ってきた。障害があっても、本人の就労意欲や会社の仕事への適性があれば、実習やトライアル雇用は受け入れる。障害者雇用を通じて地域社会へ貢献したいとの会社の方針によるものである。同社のホームページに「常にチャレンジし新たな価値を創造し、人のしあわせと社会の発展に貢献してまいります」とあるとおり、「人のしあわせと社会の発展」の追求はすべての事業運営の基本となっている。
イ 実習及び採用でのポイント
実習やトライアル雇用の取組では、実施期間は1か月程度を設定しているが、その期間中はそれぞれの受入れ部署の監督者が熱心に指導に当たり、本人の適性を見極める。
受け入れた者を採用するか否かの判断で同社がいちばん重視していることは、工場内では様々な道具や機械を操作することから、安全面への配慮ができるかという観点である。今回の取材に協力いただいた担当者によると「『安全に作業できるか』どうかがいちばんの採用の見極めのポイント」とのこと。具体的には、機械操作が上手にできるか否かというより、「こちらで教えた指導内容を理解できるかどうか、また、それを行動として具現化できるかどうか、やってはいけないと教えたことを厳守し、行動できているか」がポイントであるとのことである。作業はどんなにうまくできても、やってはいけないと言ったことをやってしまう者は採用しない。作業については、口頭指示や資料により具体的に示したうえで、目の前で実演して見せて、本人ができるようになるまで根気強く指導する。やってはいけない行動があれば、「一度目は注意をする程度で、しかし二度目からはその場でしっかり叱る」ことを徹底し、何回も繰り返してしまう者については、残念ではあるが採用をお断りする。
実習やトライアル雇用の後には面談の場を設け、業務への適性を踏まえ、本人の就労に対する意向なども確認し採用を決定する。配属先の決定についても、製造ラインや組立ラインなど様々な部署があるが、実習などで各人の能力や人柄などを把握できているので、それぞれの適性に応じた決定がされることとなる。
(2)職場定着
職場定着に向けた取組では、最初は各配属部署にマンツーマンで担当者を配置し、原則としてその担当者から障害のある社員に指揮命令を行うようにしている。これは、指示ラインを一本化することで、障害のある社員が混乱することなどがないようにするためである。
障害のある社員とのコミュニケーションについては、年間2回は各部署のグループリーダーが本人との面談を行い、本人の意向や要望などをヒアリングする制度を導入し、意思疎通を図っている。そのほかにも、気になることがあれば、グループリーダーから声をかけて、個別に面談を行うこともある。
各部署のグループリーダーへは、配属された障害のある社員の情報(出身学校や支援機関からの「アセスメントシート」など)が提供され、各人の障害特性や、特性に基づく適切な配慮の仕方、話し方や注意の仕方などについて理解されている。その内容は、必要に応じて部署内の他の社員にも伝えられ、受入れ態勢にも反映している。同じ障害であっても、個々に特性は違うし、本人のこだわりなどもその人その人で異なる。配属部署の社員が、事前に指導の仕方や伝え方、やって良いこと・悪いこと、配慮すべきポイントなどを十分に把握し、準備した上で障害のある社員に応対することの効果は非常に大きい。
就労支援機関との連携も重要と考えており、知的障害者の採用の際には、就労継続支援事業所のジョブコーチの支援も受けながら、繰り返しの作業を中心に、まずは一つの工程をしっかりと確実に定着させ、一つ目の工程が定着したら、次の作業へと、できる作業をゆっくり確実に増やしていくよう配慮している。
(3)作業運営上の取組
ア 視覚に訴える工夫
作業指示の仕様書(手順書)は、文字だけではなく、写真を多用して障害のある社員にも分かりやすい工夫を行っている。聴覚障害のある社員が複数いることもあり、通知・通達事項があれば、筆談や読話のみに頼ることなく、「紙ベースでの伝達」を重視し、紙の資料を個々に配付し、必要があればタイムカード置場付近にその「紙」の掲示も併せて行うことで、伝達漏れを防止している。
イ 「あんどん」による「見える化」の工夫
生産ラインには「あんどん」と呼ばれる装置(トヨタ式生産方式による)を設置し、障害のある社員が作業中に何か困ったことが発生した時は、スイッチを押して点滅させ、すぐに支援を受けられるようにしている。なかには、「あんどん」のスイッチを押すことをためらう者もいることから、障害のある社員とない社員を組み合わせて生産に従事してもらい、何か困ったことが発生した際には、障害のない社員が「あんどん」のスイッチを押すことができる仕組も講じている。
ウ 「待ち時間」を生じさせない工夫
機械調整などにより生産ラインによっては、一定時間稼働できない場合もあり、そうした場合、障害のある社員が1つの仕事しかできないと無為な時間(「待ち時間」)となってしまうこともある。障害のある社員の中には、「待ち時間」があるといらいらしたり、不適応行動をとってしまうことがあった。それを防ぐため、例えば、加工作業では、ひとつの仕事ではなく、3つの仕事を組み合わせた作業を担当してもらうようにした。本人が順々に回りながらそれぞれの仕事を行うことで、「待ち時間」を無くして不適応行動を防止するとともに、会社としての生産性の向上にも寄与することとなった。
(4)労働環境への配慮
ア 勤務時間の柔軟な設定
車で通勤できない障害のある社員は、電車などの交通機関の時刻に合わせた勤務シフトを柔軟に設定し、当該勤務時間に基づく雇用契約を締結するようにしている。他にも個々の状況に応じ、就労可能な時間を踏まえて勤務時間などを変えるなどの配慮を行っている。
イ 処遇面での平等
処遇面では、現在、8名の障害のある社員がおり、2名が正社員、6名が契約社員となっている。同社では障害のある社員は採用時には全員が契約社員であるが、入社後3年を経過すれば無期雇用契約へと移行することとなっている。本人の意向確認、在籍部署責任者の推薦や面接などを踏まえて、正社員へと移行する制度も、障害のない社員と同様に導入されている。
処遇については障害の有無にかかわりなく同等としている。例えば、同じ正社員であれば、賞与も含めた給与、人事考課などは同等に行われている。
(5)就労支援機関との協力関係の構築
地域の就労支援機関や特別支援学校からの要請があれば、工場見学や短期間の実習も積極的に受入れるようにしている。また、地域の研修会で、同社の障害者雇用の担当者がパネリストを引き受けて、事例の紹介を行ったり、地域イベントでは、支援機関と機材を貸し借りを行うなどの協力関係が作られている。障害者雇用の先進企業として、地元で長期にわたり培ってきた障害者支援機関との連携・信頼関係は同社の強みである。職場実習やトライアル雇用での受入れの実績や、会社としても創業50周年目を迎える節目の歴史にも彩られ、地域における障害者雇用のリーディングカンパニーとしての存在感が一層高まっている。そのことが、周囲の住民の方と社員との信頼の深化につながり、障害者の採用や職場定着、ひいては会社の発展にも大きく寄与している。
3. 雇用事例から
Aさんは平成24年9月にトライアル雇用を経て入社した知的障害のある方で、現在、生産ラインで製品の加工や組み立てを担当している。今回の取材でインタビューを行ったが、プライベートでは、お給料をもらって、家族とご飯を食べに行ったりすることが楽しみであると、明るく話をする好青年である。
現在の仕事に大きなやりがいを持っており、「仕事での困りごとはラインの作業の遅れ」であり、「自分としては「一日の組立製品個数1500個」が目標である」と、大きな声で答えてくれた。また、前述の生産ラインに設置されている「あんどん」のお陰で、困った時でも助かっているとの話もしてくれた。
現在のAさんの組立個数は、一日1350個レベルであるとのことだが、この個数について担当部署のグループリーダーに聞くと、「(ベテランである)私にも難しい数量だ。障害のない社員でも1000個程度作れば平均的である。彼の一日1350個は相当高いレベルだ」とのこと。なぜこんなに高いパフォーマンスなのかと尋ねたところ、「彼の仕事ぶりは、非常にテンポが良い。担当する作業へのカンとコツが分かったスペシャリストである。生産部門に不可欠の人間である」と高い評価が返ってきた。
Aさんは入社7年を超えるが、「1500個の目標達成に向けて頑張りたい」「できれば、この会社でこれからもずっと仕事を続けたい」と熱く語ってくれた。
Aさん(左)とグループリーダー(右)生産ラインの「あんどん」4. 今後の展望と課題
企画管理グループリーダーに今後の取組などを聞いたところ、障害者雇用に関しては、ノーリツグループの一員として今後も積極的に取り組んで行くことに変わりはなく、「地域への貢献は軸ブレすることない一貫した方向性として考えている」とのことである。
また、リーダー本人も、最初に障害者雇用を始める前は、どのように関わっていけばよいかと不安に思っていた。しかし一度障害者を受入れてみたところ、ハローワークや就労支援センター、就労支援機関などとの連携や支援もあり、「障害者だから」というような特別な見方はなくなり、ひとりの社員として「自然に」働いてもらうようになっているとのことである。
現在雇用している障害のある社員に、重度の身体障害者や、精神障害者や発達障害者はいない。今後、そうした障害者を雇用することになれば、施設内のバリアフリー化など、ハード面での一層の取り組むべき課題が発生する可能性があり、障害者とのコミュニケーションのあり方や制度などソフト面の課題を含め、支援機関や団体と連携し、支援を得ながら対応していきたいとのことである。そして、これまでの取組で積み重ねた担当者のノウハウと様々な経験、地域との連携の深さ、障害者を受入れる社員個々の意識と社風は、課題解決に大きく寄与してくれると確信しているとのことであった。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
兵庫支部高齢・障害者業務課 日高 久治
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