社会福祉法人における施設の機能を生かした障害者雇用の推進
2020年度掲載
- 事業所名
- 社会福祉法人敬仁会
(法人番号: 5270005004221) - 業種
- 医療・福祉業、うち除外率設定業種
- 所在地
- 鳥取県倉吉市
- 事業内容
- 社会福祉事業
- 従業員数
- 1,258名
- うち障害者数
- 26名
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障害 人数 従事業務 視覚障害 2名 ケアワーカー、機能訓練指導員 聴覚・言語障害 2名 ケアワーカー 肢体不自由 13名 ケアワーカー、ケアワーカー(補助)、支援員、ナース、事務員、宿直支援員 内部障害 2名 宿直専門員、介護支援専門員 知的障害 3名 調理補助 精神障害 4名 調理員、介助員(清掃) - 本事例の対象となる障害
- 視覚障害、聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害、発達障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要
社会福祉法人敬仁会(以下「当法人」という。)は昭和33年6月に鳥取県にて設立。現在、介護老人福祉施設5か所、介護老人保健施設2か所、障害者支援施設1か所、救護施設2か所、養護老人ホーム1か所、保育所4か所、地域ケアセンター1か所を運営している。鳥取県を中心に事業を実施しているが、平成19年には東京都葛飾区にて介護老人福祉施設を開設、平成23年には東京都足立区に介護老人福祉施設を、平成27年には同区にて介護老人福祉施設と保育所を開設した。平成15年にはISO9001の認証を取得しサービスの質の向上に努めている。
2. 障害者雇用の経緯
当法人の実施事業は対人援助サービスが基本となるため、従来の障害者雇用は利用者に関わる機会の少ない職種(宿直専門員・事務補助)を中心に進めていた。また、「業務内容に合致する方」を雇用する傾向にあり、マッチングが進まず法定雇用率を下回る年度も多々あった。しかし、福祉業界における法改正(社会福祉法人の地域貢献活動の義務化)の背景も踏まえ、社会福祉法人としての社会的責任を改めて見直し、平成26年より積極的に雇用を推進することとした。
まず行ったことは障害者雇用に関する法人の方向性の転換であった。「業務内容に合致する方の雇用」から「障害特性に合わせた雇用」へ考え方をシフトし、介護職員・支援員・ナース・機能訓練指導員・調理員・清掃員といった職種を雇用対象に追加した。追加以降は就職面接会へ積極的に参加し、できるだけ多くの方と直接会うことに努めた。また、ハローワークから定期的に就職希望者情報誌を取り寄せ、雇用につながる可能性のある方の情報を収集した。
次に、地域の高等特別支援学校との関係づくりに努めた。学校訪問及び当法人施設での職場実習の受入れ提案を行い、少しずつではあるが実習生が増えていった。その結果、平成30年4月には1名の新規学卒者を調理員として雇用することができた。
次に、法人内の実施事業にも着目した。障害者支援施設敬仁会館では就労移行支援事業所ワークサポート敬仁会館(以下「ワークサポート」という。)を運営している。ワークサポートでは、利用者に作業訓練などを通じた就職するためのスキル習得や就職活動の支援を行い、地域企業への就職につなげてきた。そこで、ワークサポート利用者が当法人の運営する様々な福祉施設で働くことにつなげることを目指した。そのために法人内部の調整(採用部署や採用プロセスの検討など)を行い、利用者へ提示した。その結果、当法人職員として雇用することができた。
そうした様々な取組を続けた結果、現在は法定雇用率を上回る状況を継続している。本稿ではそうした取組について、ワークサポートからの雇用を中心に紹介するものである。
3. 取組の内容と成果
(1)ワークサポートからの雇用への取組
ア ワークサポートについて
ワークサポートでは職員の資質向上に力を入れており、「個別支援計画の立案スキル向上」「就労アセスメント能力向上」を目的とした外部研修への参加を積極的に推奨している。また、事業の責任者(サービス管理責任者)にはジョブコーチ・介護福祉士・介護支援専門員の資格を所持した専門性の高い役職者を配置し、OJTによる職員への指導・育成を行っている。
こうしたことが法人内施設での障害者雇用にも効果があったと考えている。
イ 採用プロセス
法人本部事務局人事課が中心となり、法人内各施設と協力しながら障害者が就労可能な部署や作業内容をリストアップした。リストアップの結果に基づき労働条件などを整理し、それをもとにワークサポートの利用者に情報提供・募集を行った。
応募者には実際の職場見学と仕事の説明を行ったうえで、人事課と応募施設の管理者による面接を行い、採否を決定することとした。応募者によっては雇用前や、採用決定後に施設での職場実習も実施した(実習は、初めて就職する者や本人に不安感が強いなどの者に対し、本人と相談しながら実施した)。
ウ 外部機関との連携
採用・定着に関しては関係機関との連携が重要と考えたことから、採用者が決まった時点で、本部人事課が調整し、ハローワーク、障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)、ワークサポート、配属予定施設による4者協議を行った。協議では、採用者の障害特性、家庭状況、配属予定施設での実習及び雇用に際する注意点の情報共有を行った。特にハローワーク、支援センターとは利用者が今後も長く関わりを持つこととなるため、関係作りに力を入れた。
(2)雇用事例から
ア 調理員として働くAさん
Aさんは精神障害を有している方(精神保健福祉手帳所持)で、ワークサポートの利用者であった(次のBさんも同様)。全般的に能力が高く、日常のコミュニケーションに大きな問題はない。ただし、自身の「疲れ」を認識しにくい傾向がある。そのため、以前の職場では能力が高いゆえに多くの仕事をこなしたが疲労がたまり、体調を崩したことがあった。
当法人での就職を希望したため、ワークサポートからの施設実習を行ったが、疲労には留意した。具体的には、職務的にはAさんに十分対応可能であっても、業務量は初心者の7~8割に抑えること、作業終了後には施設・本人共に疲労感を確認すること(施設は本人の様子から判断する)、同じく翌朝の回復具合を確認することに注意した。また、配属先となる厨房部門の職員は障害者支援の専門性を持ち合わせていないため、Aさんの言動が障害特性によるものか判断できない場面があり、そうした場合にはワークサポートの責任者が本人との相談を密に行い、必要なことは厨房部門に伝えた。その結果、徐々に仕事のペースをつかむことができ、現在は問題なく業務をこなしている。
Aさんには緊張しやすい傾向もあることから、実習当初はひとりで休める休憩スペースを準備したが、現在は他職員と同じスペースで休憩を取り同僚とも良好な人間関係を築いている。現在週30時間勤務であるが、次年度はフルタイムでの勤務を検討中である。
イ 清掃員として働くBさん
Bさんは発達障害(アスペルガー症候群)を有している(精神保健福祉手帳所持)。法人内の施設実習では日常のコミュニケーションに大きな問題はないが、アバウトな業務指示を受けた場合に不確かなことがあっても自分から確認するようなことが得意でなく、指示内容と違う作業を進めてしまうことがあった。また、明るく素直な性格ではあるが思ったこと(不満など)が表情に出やすい傾向にある。そのため、採用決定後から勤務開始までの間に、ワークサポートでは業務指示に対する程度・範囲の確認が自らできること、福祉サービス提供者としての意識向上、日々鏡の前での表情チェックが自分で行えるよう訓練を行った。また、訓練経過は配属予定施設と共有し、勤務開始の際には施設も障害特性を十分把握した状態で引き継ぐことができた。施設では毎朝、出勤時の表情確認と声掛けを徹底している。現在では清掃業務において欠かせない存在となった。
調理員として働くAさん
清掃作業に取り組むBさん
ウ 施設職員の対応とその後
Bさんの所属施設では、毎日Bさんから介護課長への業務報告を徹底し、意識してコミュニケーションを取るよう指導している。日々の業務報告では「今日は清掃がうまくできた」「ご利用者の方が落とし物をされた」など仕事中の様子を伝えており、介護課長は必ず「ありがとう」の言葉を添えるようにしている。それにより、業務外の相談も自然にできる関係となってきた。また、介護課長は週に1回は清掃箇所へ確認に入りBさんへ評価を伝え、Bさんのやる気につながっている。
障害のある職員と一緒に働くことでまわりの職員の意識も変わりつつある。Bさんに対して自然に職員旅行や職場での飲み会(任意)への声掛けも行っており、Bさんはほかの職員と変わりなく施設イベントに参加している。
(4)取組成果と要因
先に述べたように当法人は法定雇用率を達成しているが、達成要因は、次の3点と考えている。
ア 法人として障害者雇用の方向性を明確化したこと
イ 法人のスケールメリット(多様な職場・職種があること)を生かした雇用機会の創出
ウ 退職しない職場づくり(職員定着)
雇用を進めるのと同時に退職しない職場であることが法定雇用率達成には欠かせない。
障害のある職員が退職しない職場づくりとは、障害特性への配慮と職員満足度の向上である。職員満足度の向上については障害のある職員に限らず、障害のない職員も含めて以下の取組を行っている。ア 職員教育訓練手順に基づき、年3回の上司定期面談を実施(状態の定期確認)
イ 年2回の定期健康診断(全職員)
ウ ストレスチェック実施
エ 身上報告書による本人状況の確認(毎年12月)
オ メンタルヘルス相談窓口(外部保健師)の設置
カ パワハラ・セクハラ相談窓口の設置
キ 職員旅行、研修付き職員旅行、職員運動会などによる職員交流
ク 利用できる法人制度をまとめた福利厚生パンフレットの全職員配付
ケ 地域企業と提携しての職員優待割引制度 など
(5) 推進による副次的効果
障害者雇用を推進したことで様々な障害を持つ職員が様々な部署で活躍する状況となった。その結果、共に働く職員の多様性を重視し、多様な人材を積極的に受け入れようという職場の雰囲気ができつつある。現在、当法人では外国人介護人材の雇用も進めており、令和2年4月には19名の外国人人材が各事業所へ配置となる。外国人人材を受け入れるには文化・言語・宗教など、職員の意識変革が求められる。これまでの障害者雇用の推進は、今後の変化に対応するための職場風土醸成に良い影響を与えることとなった。
4. 今後の展望
(1)働きがいの提供
法定雇用率の達成は果たしたが、今後はより長く働いていただくため「働きがい」に着目することが必要と考える。特性に合わせて無理なく働くことを希望する職員もおるが、意欲や能力がある職員については状況を見ながら職務の幅を広げていただきたいと考えている。特別高等支援学校から採用した新卒職員の場合、採用時は短時間勤務であったが、採用後は配属施設にて定期的に会議を行い、段階的に作業内容の見直しを行ってきた。現在はフルタイム勤務で作業の幅も広がっており、次のステップアップが十分期待できる。これまでは雇用する障害のある職員の数を重視してきたが、今後は働きがいの提供を強化していきたい。
(2)ワークサポートの取組の継続
近年福祉業界では人材不足が大きな課題であり、多くの法人、事業所が苦戦している。今回、ワークサポート利用者を当法人職員として採用した取組は、障害者の就労機会を増やすとともに、福祉事業における貴重な人材確保につながる好事例となったともいえる。
現在、ワークサポートには当法人への就職を希望している利用者が2名おられる。希望理由を尋ねたところ、「先輩利用者が安心して働いている姿をみて自分も働きたいと思ったから」との答えであった。このような利用者の声は、職員のモチベーションアップにもつながっている。ワークサポート(法人内施設)の強みを活かした取組を続けていきたい。
このように、障害者雇用を推進した成果・効果は様々な面で大きかったと考える。今後、障害者・外国人・高齢者など、多様な人材が働きがいをもって活躍できる職場を目指し、地域から必要とされる職場づくりに努めていきたい。
執筆者:社会福祉法人敬仁会 本部事務局人事課 伊藤 誠
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