障害者雇用の窓口を本部に一本化し、
採用プロセスに見学と実習を加えるなど、
新たな仕組みづくりに取り組み、雇用拡大を実現
2020年度掲載
- 事業所名
- 社会福祉法人敬友会
(法人番号: 4260005001831) - 業種
- 医療・福祉業
- 所在地
- 岡山県岡山市
- 事業内容
- 特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、ケアハウス、ショートステイ、グループホーム、通所介護、通所リハビリ、訪問介護・看護、居宅介護支援
- 従業員数
- 589名(短時間勤務者含む)
- うち障害者数
- 16名(2019年12月末現在)
-
障害 人数 従事業務 視覚障害 1名 通所介護、あん摩マッサージ 肢体不自由 1名 施設内清掃業務*知的障害との重複 内部障害 3名 通所介護送迎運転手、事務、施設内清掃 知的障害 3名 施設営繕、厨房調理補助、施設内清掃 精神障害 4名 施設内清掃、介護補助 発達障害 4名 介護補助、施設内洗濯業務 *難病との重複1名 - 本事例の対象となる障害
- 視覚障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害、発達障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所概要
社会福祉法人敬友会(以下「敬友会」という。)は、平成6(1994)年3月に設立。利用者の意向を尊重し、多様な福祉サービスが総合的に提供されるよう創意工夫することにより、利用者が個人の尊厳を保持しつつ、自立した生活を地域社会において営むことができるよう支援することを目的として、次の事業を行っている。
(1)特別養護老人ホーム
(2)老人保健施設
(3)ケアハウス
(4)短期入所生活介護(ショートステイ)
(5)グループホーム
(6)通所介護
(7)通所リハビリ
(8)訪問介護
(9)訪問看護
(10)居宅介護支援
(2)障害者雇用の経緯
敬友会における障害者の実雇用率は、平成30(2018)年度まで法定雇用率に達していなかった。ハローワークなどを通じ積極的に採用を行うが、障害特性と業務のミスマッチ、 配属先の現場職員(以下「現場職員」という。)に対する障害のある職員に関する障害特性や指導法などの周知不足と、それからくる現場職員の理解不足と負担感が増加した。
具体的には、障害のある職員に対し、現場では「接し方が分らない」「何ができるのか分らない」「注意して良いのか、悪いのか分からない」といった戸惑いからトラブルが発生し、採用された本人も、受け入れる職場もストレスを抱えることとなり、最終的に退職というケースが多くあった。
そこで、平成30(2018)年度から、従来の「求人→応募受付→採用面接→採用」という障害者採用の流れに、応募者による職場の見学と職場実習のプロセスを加え、「求人→応募受付→職場見学→職場実習→採用面接→採用」とした。また、従来は各施設・各部門に任せていた障害者の採用窓口を本部教育研修部担当者(以下「雇用担当者」という。)に一本化し、求人から採用だけでなく、採用後の面談まで責任を担うこととした。そして、次に紹介する様々な取組を進めた結果、1年で軌道に乗り、敬友会の実雇用率は2.9%となった(2019年7月31日現在)。
2. 取組の内容と効果
(1)新たな取組と仕組みづくり
敬友会では、「どの部署も、当たり前に障害者を雇用し、働いていること」を目標に、次の取組と仕組みづくりを行った。
ア 職種を限定した求人は行なわず、障害特性と業務のマッチングを重視した採用に考え方を変える。
イ 研修用資料を作成し、現場職員への周知・理解を図る。
ウ 採用から職場定着まで本部(雇用担当者)でできることは本部が引き受け、現場職員への負担を軽減する。具体的には、求人・見学
対応、実習計画、採用の判断、関係者との連絡、障害のある職員本人と職場へのフォローアップ、トラブルの解決などを現場から本
部での対応に切り替えた。
エ 障害のある職員に対して配慮は行うが、特別な扱いはしない。障害の有無にかかわらず、昇給・昇格・資格取得補助などステップ
アップに関する制度や配置転換(異動)などの機会は均等に与えるものとした。
オ 障害のある職員の定着支援を重視した取組を行う。
特に「ウ」は重要な仕組みづくりであり、本部の雇用担当者が中心的な役割を担うこととなり、求人から採用、採用後の面談までの次の7つのプロセス全般の責任を担うこととした。
「求人」、「応募受付」、「職場見学」、「職場実習」、「採用面接」、「採用」、「フォローアップ」
本部の雇用担当者が中心となり、現場職員と連携して進めることで、採用前から採用後の対応を統一的に進めることができる。また、雇用担当者が採用の窓口となることで、現場職員はそれぞれの本来業務に専念できるようになり、負担軽減につながった。
(2)取組上の留意点
上記の7つのプロセスで、留意している点を下記に挙げる。
ア 求人
ハローワークなどへの求人に際しては、職種を限定した求人はせず、求人票には仕事内容を以下のように記載している。
「介護施設内での次の仕事です。
1.営繕業務(清掃、洗濯、ベッドメーキング)
2.介護助手業務(介護スタッフについて実施する生活援助、身体援助)
3.厨房内業務(簡単な調理、盛り付け、食器、設備洗浄)
*障害の特性に応じてお任せする仕事を検討します。」
イ 応募受付
求人票には、まず敬友会の職場を見学いただくことにしているので、雇用担当者に連絡いただくよう記載している。
応募者から見学希望の連絡が入った際は、希望職種、障害状況、配慮すべき事項、支援者の有無などについて大まかに確認する。
ウ 職場見学
見学は、その後の職場実習を見据えて、本人の適性や希望などを考慮して、職場実習が受け入れ可能な施設・部署を中心に実施する。見学後は、実習に向けて本人と打合せを行う。その際、実習で経験できること、できないことをあらかじめ伝え、就業に向けた実習であることを共有。また、障害特性や配慮すべき点などの確認と、それらの情報を周知する職員の範囲を確認する。
エ 職場実習
職場実習は、見学時の様子と打合せの内容、希望職種など、本人の意見を考慮し、当該部署と調整したうえで、実習場所を決定する。
実習は、「実習計画の作成→実施→計画見直し→実施」という流れで進めており、実習計画は雇用担当者が作成するが、本人の障害特性に応じ、できる限り具体的な内容としている。
実習開始前には、本人用と受入れ部署職員用の2種のマニュアルを作成する。本人用は実習予定表で、本人の特性を理解したうえで作業時間や作業内容を組み立て、分かりやすいように作っている。本人の習得度に合わせ、徐々に自主的に動けるように実習予定表も修正することもある。また、開始前には、作業別の掃除道具など、実習に必要な物品も準備し、職員が実際に使ってみせながら指示するなど、具体的にわかりやすく指示している。
職員用マニュアルは、本人との打合せに基づき、障害特性や配慮事項などを記載したもので、これをもとに受入れ部署の責任者から職員に本人について説明、周知がなされる。
実習は、本人にとって仕事や職場のキーパーソン、不安定になる要素などを確認する機会であり、敬友会にとっても本人を理解し、適切な配置や配慮を考える機会でもある。
実習終了後は本人の意向を確認し、応募ということであれば採用面接を行う。
なお、実習は障害者就業・生活支援センターなどの関係機関の制度を利用して実施している。
オ 採用面接
採用面接は教育研修部担当者及び配属先の長(施設長など)が行うが面接終了後に、配属が想定される部署の責任者、職場実習時の指導者、本部人事部門(雇用担当者など)が合議して採用の可否を決定する。採用の可否は、次の点に留意して判断する。
・応募者が自分の障害や職場に配慮してほしいことはなにか。面接で把握するが、応募者によっては本人が「ナビゲーションブック」など
の名称で、自分の経歴や障害状況、配慮が必要なことなどをまとめた資料を持参していることがあり、それで把握することも有効。
・職場実習の状況はどうであったか。本人からの自己評価や感想などを聞くとともに、実習実施部署からの情報で把握。主観評価と客観評
価の一致や相違点の有無。
・慢性疾患がある者の場合には、疾患の状況、通院・服薬の状況、就労に関する主治医の意見などを把握。慢性疾患に限らず発達障害や精
神障害の場合も特に通院・服薬状況を把握。
・体調や生活リズム。実習を踏まえて、通常の勤務(決められた勤務時間・業務内容の遂行)が可能か、睡眠・食生活などの生活リズムが
保たれているかなどを把握。
・家族、支援者の状況など。家族の意向や協力態勢、就労支援機関などの支援者について把握。
カ 採用
採用が決まると、本人用と配属部署職員用の2種のマニュアルを新たに作成し、作業に必要な物品、環境を準備する。
キ フォローアップ
採用後は雇用担当者による個別の定期面談(以下「定期面談」という。)を継続して行っている。定期面談では、職場の人間関係、勤務時間、業務内容や業務量、疲労度、健康面、生活面のほか、困っていることはないか、何に困っているかについて聞き取る。障害のある職員が職場になじめているかどうかを確認し、業務を行ううえでのつまずきがあれば、課題として把握。また、部署の責任者や他の職員からも不安・心配などを聞き取り、早期に課題解決を図っている。面談内容は管理者・部署職員と共有し、必要に応じて家族や支援機関に連絡し、連携を図っている。
(3)取組の成果
これまでのべてきたような取組の結果、敬友会における障害者の採用と職場定着は順調に進んでいる。本部の雇用担当者が中心となって進めることで、統一的に分かりやすい形で進んでいる。現場職員の負担も軽減し、障害者雇用についての法人内での理解も広がった。定着についても、職場実習を経ることで、スムーズな入職、適切な配置と配慮につながり、本部と現場との連携、定期面談や支援機関との連携なども相まって、離職者は少ない状況にある。
(4)事例から
Aさん(30歳代)は精神障害のある方で、特別養護老人ホームに勤務し、職種は介護補助である。
地域障害者職業センターを通じ、職場見学→職場実習→求人応募→面接を経て採用となった。実習中からジョブコーチ支援を利用していた。敬友会では、ナビゲーションブックや職業カウンセラーの助言から、Aさんの特性を把握・理解。雇用担当者がアセスメントシートを作成し、現場管理者や職員と情報を共有したうえで、Aさんの業務スケジュールを組み立てた。
業務の工夫としては、Aさんは口頭指示より視覚指示が伝わりやすいことから、Aさん個人の業務表を作成し紙面で渡すことで理解しやすくなり、Aさんのペースで進められるようにした。
また、実習中には指導者を固定し、採用後も同じ指導者で継続しているが、指導者不在時の対応者を決め、報告・相談窓口を固定している。Aさんは対人関係が苦手なため、入居者の離床時にベッド周囲の環境整備を行うなど、最初は他者との関りを少なくし、慣れた段階でまわりの職員が徐々に声を掛けるなど関わりが自然と増えるようにした。
採用後、ジョブコーチのサポートを徐々に少なくしながら職場定着を進めていった。体調も安定しており、丁寧な作業を行うAさんは現在も一職員として勤務を継続している。
清掃作業に従事するAさん
施設の現場担当者とのコミュニケーションも良好
3. 雇用継続のポイントと今後の展望
(1)雇用継続のポイント
敬友会では、障害のある職員の雇用継続・定着のポイントとして下記の3つを挙げている。
ア 情報の共有
イ 継続した支援と協力、相談できる体制
ウ 業務に対する適性の見極め
そして、ポイントごとの具体的な内容は次だと考えている。
ア 情報の共有
障害のある職員のプラスな情報だけでなく、マイナスな(配慮を要する点などの)情報も重要であり、本人と職場が共有することが必要。本人ができないこと、苦手なことといった「マイナス情報」を知ることは、共に働くうえで配慮すべきことである。「できるであろう」ではなく、障害のある職員が「今、できること」「今、したいこと」「今、できないこと」なども理解・把握し、「どうなりたいか」という将来に向けた目標を掲げることが、本人の仕事に対する意欲の向上につながり、職場も目標に応じたサポートが可能となる。
敬友会では、採用面接時に応募者の能力面や特性について情報収集し、本人の得手・不得手なことを把握する。把握・整理した情報は、入職前に、受け入れ部署へ配慮を要する情報も含め説明する。こうした事前の情報共有は、受け入れ部署の不安を取り除き、安心して障害のある職員を受け入れる体制を整えるうえで有効である。
また、障害のある職員と受け入れ部署、それぞれが感じている不安、 困りごとを知り、話し合うことも必要である。
職場でのトラブルは、業務内容そのものより、同じ職場にいる人同士の理解不足が原因ということが往々にしてある。互いに話をしたり、聞いたりする時間の量や、親しくする時間を持つことのみをコミュニケーションと捉えがちだが、特に障害のある職員の場合、「なぜ、そのような態度や行動をとったか」という背景、理由を理解したうえで対処する必要がある。
障害のある職員の言動によるトラブルが発生した場合、言動を注意して終わりではなく、なぜ、そうした言動に及んだかという「理由」を現場職員に伝え、共有することが合理的配慮である。
例えば、障害のある職員が「急に同僚に対して乱暴な態度を取った」という場合、恐怖心を感じた同僚に対してフォローするとともに、なぜ、乱暴な態度に至ったのかの理由を伝える(合理的配慮)。そのうえで、本人に対しては、理解を得やすい方法で乱暴な態度をとったことへの注意・助言を行うことである。
イ 継続した支援と協力、相談できる体制
採用後、障害のある職員が仕事や職場に慣れたようでも、不安や心配など精神状態の波が生じやすい。急に表情が悪くなったり、遅刻・欠勤が多くなったりということがある。また、仕事に集中していない、体調不良の訴えが増えることもある。
障害のある職員が仕事に集中できなくなる理由は様々で、季節や温度の変化であったり、小さなつまずき、睡眠不足や生活の乱れ、自分のこだわり、家族や友人関係、異性関係などが挙げられ、複数の理由が絡み合っている場合もある。
できる限り早く本人からのサインをキャッチし対応するために必要となるのが定期面談である。 雇用担当者は、定期面談でキャッチした情報を現場管理者と共有。日頃から就労移行支援事業所などの支援者とも情報共有し、連携を図る。また、障害のある職員に継続した支援を行うためにも以下の方法を共有しておくことが重要である。・変化時の対応・対処方法
・困った時の対応・対処方法
・本人特有の理解の方法一方で、トラブルや課題がなく、安定してうまくいっている部署・現場に対しては面接も必要ない。現場と調整し、一任できる場合は、その時間と労力を課題のある部署・現場に重点的に割いている。
現在、雇用担当者は1名であるが、他の業務も担当している。定期面談は基本的に1か月に1回の頻度で行っており、障害のある職員を新規に採用した場合には必ず月1回の定期面談を行うが、職場になじむ中で頻度を少なくしたり、特になにもなければ行わないケースもあり、月1回行っているのは16名中4~5名程度である。
ウ 業務に対する適性の見極めと業務の切り出し
その仕事が本人に適しているのかどうかは、実際の業務に従事してみないと判断しづらい面がある。
本人が経験のある介護職を希望したため採用しても、定着するケースばかりとは限らない。今までには、「身体介護をしたい」という本人の強い思いに応えて採用したが、本人の能力が伴わず、話し合いを重ねても折り合いがつかず退職したケース、想定外の事態には体が固まってしまうため、定型的な業務を中心にスケジュールを組んだが、本人がストレスを感じ退職したケースなどがあった。一方で、身体介護ができるかどうかを実習で体験したいという希望を持った応募者のケースでは、敬友会は介護での実習は断ったものの営繕業務での実習を提案し実習を行い、就職・定着に至った。
このように本人の希望と実際に業務が遂行できるかどうかは必ずしも一致せず、実習を行って初めて判断できる。
一方で、担当業務の柔軟な切り出しも重要である。敬友会には様々な施設があり、各施設には数多くの業務があるため、業務をきめ細かく洗い出し、作業の難易度や負荷、特徴などにより再編成することで、障害のある職員の能力に適した業務として設定することができる。また、業務のミスマッチが起こった場合はいまの考え方ですみやかに変更し対処することで、本人も現場も納得、理解したうえで適した業務分担を行うことができる。
(2)今後に向けて
敬友会では、雇用担当者の役割は、障害のある職員本人と現場職員の双方のストレスを最小限にすることと位置付けている。障害のある職員、受け入れ部署、それぞれが感じている不安、 困りごとを知り、話し合う場と機会を設けるとともに、積極的に専門家の協力を得るようにしている。
しかし、何より大切なのは、部署の管理者や職員が障害のある職員を雇用したことで、「(職場が)助かっている!」と感じていることを本人へ言葉で伝えることである。「助かっていること」がすなわち、業務に従事する障害のある職員の役割であるからだ。障害に応じた適度なコミュニケーションが続けられる環境づくりの推進に敬友会では今後も取り組んでいく方針である。
執筆者:神垣あゆみ
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