就労支援機関と連携し障害者雇用と職場定着を進めた事例
2020年度掲載
-
1. 事業所の概要
(1)設立経緯等
当法人は、大分県の南部に位置する津久見市にある。津久見市は豊後水道に面し三方を山で囲まれ、気候も温暖でのどかな街である。その津久見市の以前の医療状況は総合病院もなく、交通の便が悪く、救急患者の搬送に大変苦慮していた。そこで、入院設備の整った総合病院が津久見市内にあれば市民の皆様の役に立つのではないかと考え、津久見市の医師会員の協力のもと、平成元年(1989)年8月に津久見市医師会立津久見中央病院開院に至った。開院以来、行政とも連携をとり、地域医療の質の向上に努めてきた。現在では、夜間当番はかかりつけ医である開業医が輪番制で担当し、救急患者は津久見中央病院が受け入れる体制が整っている。また、大分県において平成24年(2012)年10月よりドクターヘリの運航が開始されたことで、離島のある当市にとって、大変有効な救急体制が確立された。現在、当法人は、津久見中央病院を中核として、老人保健施設・検診センター・訪問看護ステーションを併設し、津久見市の医療ゾーンを形成している。今後も、市民の健康を維持するため、開業医、勤務医との連携を密にし、より良い医療と福祉の充実を目指すとともに、地域医療のモデル地区として取組むこととしている。
(2)運営施設
ア 医療事業:津久見中央病院(120床)、津久見市保戸島診療所
イ 介護事業:介護老人保健施設つくみかん(80床)、つくみかんサテライトみなみ(20床)、訪問介護事業所、居宅介護支援事業所
ウ 検診センター:市民健康管理センター
(3)病院経営理念
「地域医療、地域社会に貢献し信頼される病院」2. 障害者雇用の経緯
障害者雇用を推進するきっかけになったのは、法定雇用率の遵守と障害者雇用納付金制度が根底にあった。医療・介護事業という当法人の特性から、現場の安全・安心を確保しつつ障害者雇用を進めるには相当の努力が必要であった。現場スタッフ(以下「スタッフ」という)の理解や具体的な仕事の切り出しへの協力、障害特性の理解、担当者を誰にするかといった問題は山積していた。しかし、地域社会への貢献、病院という社会性の高い業種であることから、津久見市への地域貢献も考慮し、積極的に障害者を雇用するに至った。もちろん障害者雇用は初めてのことであり、ハローワークや大分県南部を管轄する障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という)、障害者職業センター等の就労支援機関を積極的に利用し、指導や助言を受けることから始めた。
3. 取組の内容と効果
(1)就労支援機関の支援は不可欠
これまで障害者を受け入れた実績がない当法人にとって、やみくもに障害者雇用を進めるのではなく、計画段階から就労支援機関の支援を全面的に受けることが効率的と考えた。特に支援センターからは、障害特性についての詳細な説明、仕事の切り出し、雇い入れ後のバックアップ等多岐にわたって支援を受けた。受入れ前後のお互いの不安を少しでも解消するため、最初は職場実習から入り、その後3か月間のトライアル雇用を経て正式採用した。そのような経緯を辿ることで当法人、障害者本人、家族等が仕事に対する不安感を軽減し、それぞれ納得することができたことで、円滑に受け入れることができたのも支援センターの指導や助言の成果である。当法人のように、障害者雇用を一から始める場合は、専門的な知識、豊富な経験等を有する就労支援機関と連携して進めることが極めて有効であると同時に効率的である。
(2)障害特性の理解
障害者を受け入れる上で大切なことは、スタッフである職員に対して障害の特性を理解してもらうことだった。日々多忙なスタッフに対して、必要に応じて障害特性についての説明等を行った。その効果として、スタッフ自身も、これまで曖昧だった障害についての知識が明確になったこと、障害には様々な特性があり、しかも個々に異なるなど、少しずつではあるが障害者に対する接し方等不安を取り除くことができた。
(3)仕事の切り出しと安全確保の両立
実際にどのような仕事を障害者に担当してもらうのか、各部署から仕事の切り出しをしてもらった。その際、支援センターの指導や助言を受けて、一つひとつの仕事を障害者の障害特性等を念頭において、仕事の難易度、重要度、所要時間等に分類していった。よりよい障害者雇用につなげるため、障害者を戦力の一人として見る必要があり、当該部署に対して少しでも業務の負担が軽減できるような観点から切り出しを行うよう指示した。医療機関という極めて安全性が求められる現場では、切り出した仕事と現場の安全性確保の両立が不可欠であり、最終的にどの仕事を障害者が担当するか、慎重に検討を行った。
(4)事例紹介~雇用・配慮の実際
ア Aさん(知的障害 入社2年目)
入社のきっかけは、地域で開催された事業所と障害者をつなぐイベントで紹介されたことだった。Aさんはきちんと自己主張ができ、自分の気持ちを外に発信する等コミュニケーションには問題を感じなかったため、支援センターの指導・助言により3か月間のトライアル雇用を経て正式採用となった。現在は看護助手の仕事の一部を担い、入社当初に比べて仕事の幅やスキルの向上が見られる等十分戦力になってきている。Aさんは何でも一人でできる事を目指している。例えば、運転免許は取得していたが、入社後1か月間は支援機関から通勤にあたって送迎支援を受け、現在では自家用車で通勤ができるまでになった。勤務内容が安定しているため、勤務時間も現在の6時間(9:00~16:00)から広げる方向で調整している。Aさんの勤務評価表は下記のとおり。勤務評価表には(ア)一人で出来る仕事(イ)指示すれば出来る仕事 (ウ)一緒にすれば出来る仕事 (エ)時間をかければ出来る仕事 (オ)安全性を配慮してさせない仕事の5つに区分されている。業務の習得状況が一目で分かるようになっているため、本人のモチベーションの維持や担当者による進捗状況の確認手段として有効に機能している。本人も(オ)の安全性を配慮してさせない仕事以外の仕事について、最終的には一人でできるように日々取り組んでいる。
表1 Aさんの勤務評価表 注)評価結果は省略している。
イ Bさん(発達障害 入社4年目)
支援センターからの要請で職場実習、その後3か月間のトライアル雇用を経て採用した。当初の勤務時間は1日4時間であったが、Bさんの環境への適応状況を判断し、現在では1日5時間勤務になっている。仕事の内容は、患者さんと接することがない、シュレッダー業務や当直室のシーツ交換、手すりのふき取り、各部署への物品配送・郵便物配布等が中心になっている(詳細は下記業務管理表のとおり)。雇い入れ当初に、職員に対してBさんの障害特性等を説明したことや、Bさんが早く職場に馴染むように周りから声掛けするなどの関わりを持ったことでスムーズに職場に馴染んだ。また、こまごました作業を頼めるので助かっている等現場からは好意的な声が上がっている。仕事の進捗管理等を一元管理するため、担当者は所属部署の係長とした。係長不在時は他の職員に任せるのではなく事務長自らが補佐する体制とした。Bさんには障害特性である人とコミュニケーションを取ることや時間の管理が苦手なこと、なかなか仕事の幅を広げられないこと等に課題があるため、支援センターの担当者とは連携を密にして対応している。今後も支援センターを交えて本人との面談や家庭訪問等を行うなど対応を継続していく。Bさんに対しては、業務だけでなく早い段階で経済的自立など自立支援に取り組みながら今の職場で生活力を付けてもらいたいと願っている。
表2 Bさんの業務管理表
4. 今後の展望と課題
当法人は医療機関であるため、患者の安全確保を最優先に考える必要がある。障害者雇用の推進と安全確保の両立には医療スタッフ等現場職員の理解や協力が不可欠であり、これまで様々な形で障害特性の説明や受け入れ態勢への協力を呼びかけてきた。その結果、障害者雇用率もほぼ達成することができた。しかし、実際に障害者を雇用して分かったことや新たな課題も出てきた。一つ目は職員とのコミュニケーションの問題だ。コミュニケーションが取れる人とそうでない人、自ら発信できる人とできない人ではどのような関わり方ができるのか、また、障害特性は理解していても、障害者の方からコミュニケーションが取れず行き詰るケースも見られた。このコミュニケーションに関わる問題が患者の安全確保にどのような影響が出るのかといった事も合わせて検証し、解決していかなければならない。二つ目は職域開発の問題だ。これまで関係部署から様々な形で仕事の切り出しを行ってきたが、更に障害者を増やしていくとなると、今までとは違った観点から仕事の切り出しを考えなければならない。三つ目は障害者がどのような適性を持っているのか、その障害者が今後も安定して仕事が続けられるのか、現在の仕事を障害者本人がどのように思い、どのように感じているのか掴みにくいことである。それを解決していく糸口は一つ目の課題であるコミュニケーションの要素が深く関わっていると分析している。最後に、当法人にとって障害者雇用はまだ道半ばであり、様々な課題を一つずつ克服していくことが、当法人が目指している地域社会への貢献に繋がっていくものと思われる。
今回の取材を通して、当法人の星子事務長が述べた、「障害者雇用はご縁」という言葉が印象に残った。その真意を尋ねると、「障害者雇用は単に障害者を雇えば良いというものではなく、事業所、本人、支援機関、親等全ての関係者が障害特性を理解した上で共通認識を持つことが大切である。現場の理解がどうなのか、受け入れ態勢はどうか、障害特性に合った仕事の切り出しができるのか、単純に合わなければ辞めればいいと安易に考えるのは本当の意味での障害者雇用には繋がらない」というものだった。当法人における、実質的な障害者雇用を推進する立場として、障害者雇用に真摯に向き合っている言葉であり、当法人の今後の推移を見守っていきたい。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
大分支部 高齢・障害者業務課 山口 広継
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてユミルリンク株式会社提供のCuenote(R)を使用しております。