障害者雇用と定着支援の専任部署「障がい者活躍推進課」
によるきめ細かい対応が奏功
- 事業所名
- 広島アルミニウム工業株式会社
(法人番号: 3240001009146) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 広島県広島市
- 事業内容
- アルミニウム製品、樹脂製品の製造・販売
- 従業員数
- 2,493名
- うち障害者数
- 58名
-
障害 人数 従事業務 聴覚・言語障害 8名 生産現場など 肢体不自由 10名 一般事務、現場補助など 内部障害 5名 設計業務など 知的障害 17名 生産現場、環境・衛生業務など 精神障害 13名 生産現場、一般事務、環境・衛生業務など 発達障害 5名 生産現場、一般事務、環境・衛生業務など - 本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害、発達障害
- 目次
-
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
広島アルミニウム工業株式会社(以下「同社」という。)は、大正10(1921)年に田島倉造商店として創業。アルミニウム製の羽釜の製造・販売から培ってきた砂型・鋳物技術を活用し、自動車部品の製造を開始。金型内製化の取組を進め、その後、自動車の軽量化に伴う樹脂成型分野へ進出。また自社製品「無水鍋」の開発・販売も行う。
国内12拠点、海外4拠点を有するアルミニウムの総合メーカーである。
<同社の経営信条>
三意専心「熱意と誠意と創意」
<創立から現在まで>
大正10(1921)年 田島倉造商店を設立
昭和22(1947)年 広島アルミニウム工業有限会社を設立
昭和28(1953)年 株式会社に改組、広島アルミニウム工業株式会社として発足
同年、本格的に自動車部品製造開始
昭和32(1957)年 無水鍋販売開始
平成28(2016)年 本地金型工場、本地ダイキャスト工場竣工
令和 3(2021)年 創立100周年(予定)
(2)障害者雇用の経緯
同社の障害者雇用状況は、平成27(2015)年11月の障害者実雇用率1.68%から下降、平成29(2017)年から平成30(2018)年にかけて1.3%台で、障害者法定雇用率2.0%を下回る状況であった。
障害者雇用率達成指導により平成30年に雇い入れ計画を再作成。その際、従来通りの対応では目標達成が困難との反省から、同年8月に「障がい者雇用専用チーム」を発足。翌、平成31(2019)年1月総務部に「障がい者活躍推進課」を設けた。
その結果、平成30年の障害者雇用数が28名(精神障害者15名、身体障害者7名、知的障害者6名)に対して、令和2(2020)年には58名(身体障害者23名、知的障害者17名、精神障害者13名、発達障害者5名)に増加。障害者実雇用率も平成31年1月に2.13%、令和2年4月時点で2.49%に向上し、取り組み前からの伸び率が2倍近くとなった。
同社では全社一丸となって障害者雇用に取り組む意向を固め、社員の意識向上を図るため、年度社長方針書に「障害者法定雇用率の達成」「サポート人材の育成」を明記している。社を挙げて「障害のある人が安心して働ける体制」の構築に取り組む企業である。
2. 障害者の従事業務と職場配置
(1)障害者の従事業務
ア 環境・衛生業務
・フロア洗浄機を使った床面清掃
・加工完成品の箱清掃
・トイレ、事務所清掃
・製造現場の清掃
・緑化・外回りの清掃
イ 生産現場など
・鋳造工程の外観検査
・バリ取りなどの仕上げ作業
・勤怠入力などの一般事務作業
・データのPDF化といったファイル整理などの現場事務
(2)事例の従事業務と配慮事項
ア 精神障害(気分障害)のあるAさん(従事業務:環境・衛生業務)
・駐車場での自車の駐車位置、食堂の座る場所など、こだわりが強く、同じ話を繰り返し、話が長いという特性があり、雇用や将来に
漠然と不安を持っている。
・月1回、ケース会議の開催(ハローワーク、障害者就業・生活支援センター、所属部署(製造部)の課長・係長・障害者職業生活相
談員、障がい者活躍推進課2名が参加)。
・週1回、部署の障害者職業生活相談員による聞き取り。
・面談の上、下駄箱の置き場や食堂の座る場所を固定。直接関係のない作業者の行動が気になってしまうため、作業内容を変更
して対処。
イ 聴覚障害のあるBさん(従事業務:環境・衛生業務)
・安全確保のため、本人用駐車スペースを工場敷地内の駐車場に変更。
・コミュニケーションツールとして、筆談用タブレット貸与。
・緊急事態対応として、聴覚障害のある従業員は手首に緑色のリストバンドを装着。緊急時には従業員が声をかけるなど、非常
ベルが鳴った時に避難が遅れないようにする。
・社外の方に、聴覚障害のあることを識別いただくための工夫。
・清掃業務中、お客様からのあいさつや声かけに気づかないため、ヘルプマークに「耳が聞こえません」と表示し、作業服に装着。
床面清掃の様子 加工完成品の箱清掃を行う様子
同社では、障害のある従業員との面談を通して個人個人に合った配慮を行っている。大きな設備投資はしなくても、課題を見逃さずきめ細かく対処することで環境整備は可能であることを示唆するものである。3. 取組の内容と効果
(1)「障がい者活躍推進課」の設置と役割
同社では、障がい者活躍推進課が窓口となり、求人から採用までの諸活動、工場見学・職場実習への対応、就労支援機関との連絡、障害のある従業員と職場へのサポート、トラブルの解決 などを行っている。同課では主に「障害者雇用」と「定着支援」に取り組んでいる。
ア 障害者雇用
・障害者雇用に不慣れな社内各部門とハローワークなどの就労支援機関との取り次ぎ
・工場見学の実施
・職場実習の対応
・採用面接
・求人活動として、ハローワーク可部の事業所説明会、広島障害者職業能力開発校の見学会、障害者合同説明会などにも参加。
イ 定着支援
・定期面談の実施
・合理的配慮の推進
(2)特別支援学校とのつながり
同社では障害者雇用に向け、特別支援学校とのかかわりを大切にしている。
特別支援学校高等部生徒に向けた職場実習を、1~3年生を対象に平成29(2017)年より毎年継続して受け入れている。実習を通して「役割を果たし認められる」体験が生徒の意欲を引き出し、モチベーションの向上につなげている。
実習を踏まえた定期採用への期待も込め、同社では1年生の後期、2年生の前期と後期の合計3回の現場実習を受け入れている。生徒にとっては自分に合った企業・職種を探す機会となり、同社にとっても実習を通して本人の適性を確認する機会となっている。
3年生の前期実習では、生徒は就労を希望する企業で実習を行う。そのため、同社では希望する生徒に対し実習の様子から適性・職種を検討する。3年生の後期実習では、生徒は前期同様、就労を希望する企業で実習を行うため、同社ではこのタイミングで実習生に対し採用職種の一次判定を行う。その際、実習をする工場によって評価のばらつきがないよう、共通の評価表をもとに評価を行い、採用の参考としている。
このように同社では、実習を通して生徒との接点を増やし、仕事ぶりや適性などを見極める時間を十分にとることで適性に合う職種を検討していく。上記のような段階を経ているため採用選考では的確な採否・配属先などの判断ができる。そして、3年生の冬に採用内定者に対して行われる仕上げ実習で内定者の就労準備、会社としての受入れ準備をスムーズに行うことができる。また、計6回の各実習後には、本人、特別支援学校、保護者、同社で「振り返り」を行い、採用に向けた調整や意見交換を行うのである。
このほかの活動として、特別支援学校3校の職場見学の受入れ、広島北特別支援学校に対しては企業の出前講座のプレゼン、広島特別支援学校に対しては企業紹介のプレゼンを実施。その他、学生の就労意欲向上への協力として、パン販売の実習を社内にて年4回実施している。
(3)中途採用
同社では中途採用においても、マッチングのミスをなくすため「求人応募→工場見学→職場実習→面接」のプロセスを経ることを基本とする。これは面接だけでは本人の障害の特性が分からず、就労後に双方が困ることとなった事例に対する反省を踏まえたものである。
工場見学では、応募者が実際の通勤時間、作業内容を確認。職場実習では、応募者が実際に作業を体験し、実習終了時に「振り返り」を応募者、支援機関、同社(工場担当者と障がい者活躍推進課)で行い、お互いにマッチングの可否を判断する。そのうえで、最終的に工場責任者による面接を行う。
中途採用にあたり同社では、障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センターなどの支援制度を利用するとともに、障がい者活躍推進課がそれぞれのプロセスで社内と関連支援機関との調整を行っている。
(4)定着支援活動
同社では定着支援の取組として、「定期面談の実施」と「合理的配慮の推進」を行っている。同社の平成31(2019)年の離職者は3人に留まり、障がい者活躍推進課のきめ細かい対応が功を奏している。同社では定期面談を3か月に1回の周期で実施。障害のある従業員本人とその直属の上司に対し、個別に1時間半程度の面談を行う。アンケート形式の「聞き取り・面談記録」用紙に本人が記入。アンケートをもとに、会社に対する要望、施設で改善してほしい点、労使双方が望む仕事内容などを確認する。定期的に話を聞く場を設けて本人の要望と職場の状況を知り課題解決を図ることで、安定した勤務維持を可能としている。
このほか、不定期に「突発面談」も実施。職場から本人の様子がおかしいといった情報が入ったときや、本人の出勤状況に欠勤や早退が多いときにも、その都度、面談を行う。様子や出勤状況の変化の理由が体調不良によるものかなどをきめ細かく確認し、不安や心配事が要因である場合は合理的配慮による解決策を検討している。
(5)社員教育
同社では社内外の制度や専門機関を利用し、社内研修の一環として障害者への理解を深める講座などの受講機会を社員に提供している。人材開発課においても社内の研修・教育メニューとして、障害者をサポートする人材育成を念頭に置いた階層別研修を実施している。
・精神・発達障害者しごとサポーター研修(養成講座)
・あいサポーター研修
「あいサポーター」になるための研修を階層別研修として、各工場の班長、係長に対して実施。
注)あいサポーターとは、障害者が暮らしやすい社会を実現するために障害を理解し、ちょっとした配慮や手助けができる
「障がい者サポーター」のこと。鳥取県が「あいサポート運動」として平成21年に始めたもので、令和2年7月現在、8県14市6町
で行われている。
・聴覚障害の特性研修
聴覚障害の人が入社する前にその特性について手話通訳者を講師に招き、講習会を実施。
・企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)の養成など
職場適応援助者(ジョブコーチ)に必要となる専門的知識や支援技術を修得するための「企業在籍型職場適応援助者養成研修」
受講。総務部「障がい者活躍推進課」に企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)を置くとともに、本社を含む12拠点のうち9拠
点に障害者職業生活相談員を11名選任し配置している。
(6)その他の取組
全国安全週間標語作品提出者への特別表彰として、「障がい者活躍推進課 課長賞」を設け、これまでに31名が表彰されている。社内行事である会社発表会では手話通訳を手配し、席の位置を配慮することで、聴覚障害のある従業員の積極的な参加につながっている。
4. 今後の展望と課題
(1) 有期契約社員の正社員化
長年にわたり勤務する障害のある従業員のキャリアアップの在り方が課題のひとつであると考えている。社内には有期契約社員から正社員への登用制度はあり、障害のある従業員も対象であるが、仕事内容がばらばらであったり筆記試験で個人差が大きいなど、障害のある従業員にはハードルが高い面がある。そのため、この制度を障害特性に合ったものに整備することが必要であると同社は考えている。
(2) 障害者と共に働くための理解・対応
以前には各職場で障害者を受け入れる際、どのように対応していいか分からず変に気を回したり、入社後は障害者への理解・配慮不足から、悪気はないのに不快な思いをさせていたりするケースが存在した。障害のある従業員を特別視するのではなく一同僚として対応するためにも、各人の障害の特性などをきちんと理解・把握して接する必要がある。当初はぎこちない対応だった従業員も障害者と職場で共に仕事をし、障害について意識し、配慮する方法を知ることで、理解・交流を深め、自然な対応へと変化してきている。
(3) 障害者職業生活相談員の職務内容の決定
現在同社では、本社を含む9拠点に11人の障害者職業生活相談員(以下「相談員」という。)を選任している。相談員が各拠点で障害のある従業員の職業生活全般における相談・指導を行うにあたり、活動周期、記録の方法、課題発見時の即時連絡ルールなどを決定するなど、より効果的な活動を行うための職務内容の整備を進めたいと考えている。
これまでも同社は、障害者雇用・定着を進めるにあたり、種々の問題解決に各種支援機関との連携を図ってきた。就労座談会への参加も支援機関のみならず他企業とのつながりを生む良き機会となり、より広い情報共有や気づきを得ることができている。
同社障がい者活躍推進課職員は、「障害者に入社してもらうことが目的ではなく、障害者本人の適性に合った仕事を、けがをせず元気に長く働いてもらうことが当社の目的。安心して仕事に従事できる環境を整えるのが、私たちの役割です」と話す。
執筆者:神垣あゆみ企画室 神垣あゆみ
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてユミルリンク株式会社提供のCuenote(R)を使用しております。