知的障害者の保育事業における合理的配慮事例
- 事業所名
- 合理的配慮事例・2021212
- 業種
- 医療・福祉業
- 従業員数
- 1,650名
- 職種・従事作業
- 保育園における清掃作業
- 障害種別
- 知的障害
- 障害の内容・特性
就労上の課題 - 事例の対象者(以下「対象者」という。)は、理解に時間がかかる、自己判断をする、空間認知がやや苦手という特性があり、工程が多く複雑な作業は難しく、同時に複数の指示を出されると混乱する。40年近く、菓子製造販売会社で箱詰め等の業務に従事しており、清掃作業での就労は本事例の事業所(以下「事業所」という)が初めてとなる。清掃作業で他事業所にも応募したが、清掃スキルの向上が見込めないという理由で職場実習(以下「実習」という。)後に不採用となった経緯がある。
募集・採用時の合理的配慮
面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認めること
対象者を採用した事業所は保育園等を運営する事業所で、障害者雇用を積極的に進めており、その際には就労支援機関との連携を重視している。対象者との面接も対象者が利用していた市立障がい者就労支援センター(以下「支援センター」という)の支援者同席の上、本社の人事担当者と配属予定の保育園園長(以下「園長」という。)で実施した。面接では基本的に対象者と直接やり取りをする。質問が伝わらない時は、対象者が理解できるよう言い換えをして、回答を待った。一方的に話さないよう心掛け、できること・できないことを確認しながら、実習での作業やスケジュールを検討した(事業所では採用に際して実習を行うことを原則としている)。どうしてもやりとりが困難な場面においては、支援センターの支援者に補足をしてもらい面接を進めた。
その他の配慮
1.対象者はグループホームを利用しており、グループホームとも連携している。
2.雇用プロセスにおいては、事前の職場見学・職場体験実習を取り入れている。
3.他スタッフとの面談は電話等で対応することもあるが、障害者雇用に関しては応募者を知るために、必ず本社の人事担当者が各事業所へ出向き、本人と対面し実施している。
採用後の合理的配慮
業務指導や相談に関し、担当者を定めること
1.対象者が混乱しないよう、慣れるまでの作業指示、報告や相談の窓口は園長に統一した。作業以外の面談は園長と本社人事担当、必要に応じて支援センターの支援者同席の上、対応した。
2.就労するにあたり、支援センターのジョブコーチ支援を活用した。
本人の習熟度に応じて業務量を徐々に増やしていくこと
1.慣れるまでは支援センターのジョブコーチと相談しながら指導にあたった。当初は無理なくできる範囲で作業を依頼した。慣れてきたら様々な作業を依頼し、できなければ他の作業を依頼し、できることを探っていった。できないことを無理にやってもらうのではなく、できること・得意なことを任せて、できる作業の幅を徐々に増やしていった。
2.慣れるまでは作業に時間がかかり、スケジュールどおりに終わらないこともあった。その場合、急かさずにできるところまで作業をしてもらい、できなかった分は他スタッフで対応するか、作業ができる時間帯にあらためて対象者に作業依頼をした。清掃箇所によっては、決められた時間までに作業が終了しなければ保育活動に影響が出ることがあるが、対象者のペースで作業をしてもらうことを重視した。ペースの向上が見込めない場合は、作業時間を厳守させるのではなく、対象者のペースに合わせ清掃スケジュールを見直した。
図等を活用した業務マニュアルを作成する、業務指示は内容を明確にし、一つずつ行う等作業手順を分かりやすく示すこと
1.就労中の服装に関しては、細かなルールがある。口頭説明のみではわかりにくいため、写真付きのユニフォーム着用ルールを活用し、対象者に確認してもらった。
2.事前に対象者のできることを聴き取り、依頼する作業を検討・相談しスケジュールを組んだ。事業所が障害者雇用時に活用している作業スケジュール表のフォーマットを対象者用に作り変えて提示した。対象者用の「作業スケジュール表」(清掃スケジュール表)は以下のとおり。

3.指示は統一して園長がひとつずつ出し、ひとつの作業が終わったら報告を受け、園長とジョブコーチで仕上がり具合を確認した。できていない部分があれば、対象者に伝え共に確認し、再度作業をしてもらった。以上を繰り返すことで不十分な自己判断と手順の抜けを防いだ。
4.トイレの床清掃をする際、当初は雑巾を使用していた。対象者より、足が痛く思うように作業ができないためモップを使用できないかと相談があった。ジョブコーチの助言もあり、モップと雑巾で清掃範囲を分けるよう指示をして解決した。
5.対象者は小柄で、園の掃除機が大きく使いにくそうであり、階段等作業する場所によっては危険も考えられたため、対象者に合わせて小型のハンディ掃除機を購入した。既存の清掃用具では作業が難しい箇所はハンディ掃除機を活用するよう指示をすることで、安全に作業ができ、仕上がりの精度も上がった。
出退勤時刻・休暇・休憩に関し、通院・体調に配慮すること
出退勤時刻は面接時に対象者の希望に沿って決定した。定期検診のための通院、急な体調不良のための通院に対しては、相談があれば必ず休暇をとれるよう、柔軟に対応している。就業中に体調不良となった場合は、作業を中断しすぐに帰宅してもらうようにしている。中断した作業で時間の制約があるものは、他スタッフで対応している。また、作業に集中し過ぎると休憩を取り忘れる傾向があるため"何時から休憩""何分たったら休憩"というように時間で区切らず、作業ごとに区切った。ひとつの作業が終わったら報告し、水分補給の休憩を取るよう流れを決めた。
本人のプライバシーに配慮した上で、他の労働者に対し、障害の内容や必要な配慮等を説明すること
周囲の理解を得るため、当初は障害種別や特性は伝えず、園全体に障害者雇用で入社したこと、慣れるまでは園長が対応することだけを周知した。慣れてくると、他の先生との交流も増えたが、皆、対象者を掃除の先生として自然に受け入れている。指示出しや普段の声掛けは、障害があるからという視点ではなく、掃除の先生が得意なこと・苦手なことという視点で行っている。
その他の配慮
1.実習前に園から支援センターに、対象者の希望を踏まえ作成したスケジュールを提供し、情報共有を行った。ジョブコーチ支援を受けながら、実践の場面で対象者に合わせてスケジュールや作業内容を微調整していくこととし、できないことを無理に任せず、できることや得意なことを任せてスキルを上げてもらうようにした。
2.人事担当者は園長より聴取した内容だけでなく、必ず、対象者からも直接話を聞いている。対象者より作業に関する困りごと等の相談があった場合は、問題となった道具や場所を実際に確認し、改善方法を検討している。
3.園長や職場のキーパーソンとなるスタッフの孤立や精神的な疲弊を防ぐため、障害者雇用に関する悩みや相談を受け付ける相談シートを活用している。園長等は相談内容と緊急度を記載したシートをいつでも本社の人事担当者へメールで送ることができ、人事担当者は依頼があれば、園を訪問し対応する。障害のあるスタッフが定着できるよう、組織全体で働きやすい職場環境づくりに取り組んでいる。
4.新型コロナウイルス感染症の感染拡大が起こる前は、スタッフ同士、共に昼休憩をとることが多く、対象者もスタッフと一緒に食事をしていた。また、忘年会等の社内行事を行う際は対象者にも参加してもらった。皆、構えることなく自然にコミュニケーションをとっている。園長は障害者雇用ではあるが保育と清掃で役割が違うだけであり、皆、同じ雇用と考えている。誰でも得意・不得意があり、障害とは思っていない。対象者の得意・不得意、できること・できないことを知り、必要なことをしているだけで特別扱いはしていない。園の関わり方が対象者にとっては適切な配慮となっており、職場定着につながっている。
障害者への配慮の提供にあたり、障害者と話し合いを行った時期・頻度等の配慮提供の手続きの詳細
1.園長は人事考課のため年に2回、対象者との面談を行っている。これは事業所の全従業員を対象に実施しているもので、対象者にも同様に実施している。対象者自身で目標を立ててもらい、次回の面談時に評価を返す。目標を立てる時は、園長が対象者の理解度を確認しサポートしている。
2.面接、実習の振り返り、採用後の契約更新前等、重要な場面では本社より人事担当者、支援機関の支援者同席の上、面談を実施している。
3.新型コロナウイルス感染症が感染拡大し始めた頃は、対象者が利用しているグループホームの担当者と連携し、体調の確認を行う等、体調管理に努めてもらった。
配慮を受けている障害者の意見・感想等
ここで働いて良かったと思うことは、人間関係です。ミスをしてもその場で教えてくれて後から追及されることがなく、後に残りません。あんまりぽんぽん言われないので私にとっては気が楽です。みんな優しくて相談しやすいです。園児のことで忙しくても、必ず後で対応してくれます。放っておかれることがないので安心感があります。疲れることもありますが、小さな園児達の笑顔に癒されています。園では掃除の先生と呼ばれています。園児が「掃除してくれてありがとうございます」と言ってくれるので、嬉しくてまた頑張ろうと思います。園児からお手紙をもらったこともあります。最初に比べ園児がとても増えましたが、馴染みのある園児の顔と名前は覚えてきました。先生達も「きれいになっている、助かります」と言ってくれます。実は掃除があまり好きではありません。でも、園では皆のためにきれいにしたいと思います。長く働きたいと思っています。
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