会社全体でナチュラルサポートの体制を目指す取組
- 事業所名
- 電気硝子ユニバーサポート株式会社
(法人番号: 8160001001321) - 業種
- サービス業
- 所在地
- 滋賀県大津市
- 事業内容
- ビルメンテナンス業、保安警備業、ほか
- 従業員数
- 184名
- うち障害者数
- 74名
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障害 人数 従事業務 聴覚・言語障害 3名 詳細は「3.障害者の従事業務と職場配置」の一覧表を参照(以下同じ)。 肢体不自由 11名 内部障害 5名 知的障害 48名 精神障害 7名 - その他
- 特例子会社
- 本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害
- 目次
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1. 事業所の概要、企業理念と方針
(1)事業所の概要
電気硝子ユニバーサポート株式会社(以下「同社」という。)は、日本電気硝子株式会社(以下「日本電気硝子」という。)の特例子会社である。親会社である日本電気硝子は滋賀県大津市に本社を置き特殊ガラス製品の製造・販売を行っている。同社は昭和55年(1980年)6月に設立され、同年9月に全国で6番目の特例子会社として認定された。設立当時は電気硝子興産株式会社という社名であったが、平成16(2004年)に電気硝子グループ(以下「グループ」という。)会社内の合併を経て、現社名の「電気硝子ユニバーサポート株式会社」に社名を変更した。
(2)企業理念と方針
同社では、多様性を重視した取組の一環として、障害者雇用を推進し、地域や社会への貢献を明言している 。社内では、障害のあることを特別なこととしない、健康で安全な職場作りに努め、従業員全員が「和」の精神を共有し、お互いが相手を理解し助け合いながら障害のある従業員の成長(自立)につなげていくことを目標に、様々な活動を展開していくこととしている。そして、それらを同社の設立目的・存在意義・使命としてまとめたものを以下の「企業理念」として制定している。
<同社の企業理念>電気硝子ユニバーサポートは、障害者雇用の特例子会社として、「和」の精神をモットーに従業員それぞれが、能力・体力を精一杯発揮しながら、社会の発展に貢献します。
また、「企業理念」の実現を目指すための具体的な行動指針として、「6つの約束」を制定している(約束の詳細は下に掲載したカードを参照)。そして、全従業員が「企業理念」と「6つの約束」が記載されたポケットサイズのカードを携帯し、日々指針を重んじ行動している。
企業理念・6つの約束が記載されたカード
2. 障害者雇用の経緯
設立以来、特例子会社という位置づけでグループ会社における事業の支援業務と企業内福利厚生施設の運営、福利厚生サービスの供給などを行っていたが、障害のある従業員の定着を促進する観点から、専門性が高く顧客サービスの満足度や仕事量の向上を求められるマルチタスク業務である保険・福利厚生関係業務をほかのグループ会社に移管し、事業所の環境保全美化に取り組むメンテナンス事業、安心を提供するセキュリティ事業、ガラスのモノづくりに間接的に参画する生産事業に絞り、障害のある従業員が定着しやすく働き続けられる業務に特化した事業構造の転換を図ってきた。
(1)特例子会社設立当初の経緯
日本電気硝子においても障害者雇用を推進していたが、ガラスを製造しているため、工場内は高温で危険が伴うことから、障害者がガラス製造に直接的に関わる職場への配置・定着は難しかった。そこで、製造現場とは別に障害者が安心して就労できる職場環境を整えるために特例子会社を設立することとなった。
(2)特別支援学校との連携
同社は滋賀県の特別支援学校を企業が職業教育や就労支援の面で応援する制度「しがしごと応援団」に平成29年より登録し、①生徒や教職員、保護者を対象とした企業見学、②進路学習の一環で行う職場実習や就業体験の受け入れ、③学校と連携した障害者雇用拡大などの就労促進への応援と協力をしており、②については在学中に働くことを体験できる場として広く提供している。
なお、新卒者については、4月1日付で正社員として毎年数名の採用を行っており、
採用後は特別支援学校や障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)などのフォローを受けつつ、必要に応じてケース会議を開き、定着に向けて情報などを共有している。
(3)トライアル雇用制度の利用と支援機関と連携した採用
中途採用者の採用については支援センターからの相談やハローワークの求職者、ハローワーク主催の障害のある人向けの就職面接会に参加し採用を行っており、トライアル雇用制度を利用し採用している。
トライアル雇用期間中は中間会議として、1か月半経過後に会社と本人、支援者、ハローワーク担当者を交えた振り返りを行っている。この振り返りでは、本人と業務内容とのマッチング、本人がどのようなサポートを必要としているかを確認したうえで、この職場で働くために今後どのように支援をしていくかについて話し合うこととしている。トライアル雇用終了時の最終会議で双方が納得したうえで正社員として採用することとしている。
3. 障害者の従事業務と職場配置
同社では県内に3つの事業所(大津事業所、高月事業所、能登川事業所)があり、障害のある従業員は大津事業所に27名、高月事業所に25名、能登川事業所に22名就業している。従事している業務と従事者数は以下のとおり。
4. 体制整備と人材育成
平成30年4月に法定雇用率が2.2%に変更されたのを機に、特例子会社の使命を再確認し、より積極的に障害者雇用に取り組むべく、方針を全従業員に周知したうえで体制整備と人材育成を中心とした取組を実施している。
体制整備と取組の内容は以下のとおり。
(1) 障害者雇用統括部の設立
県内の離れた3つの事業所で雇用促進に向けて足並みをそろえるために本社に障害者雇用統括部(以下「統括部」という。)を設立し、統括部には「障害者職場定着推進委員会」(以下「委員会」という。)を設置、各事業所の情報を取りまとめ、指針を打ち出すこととした。
委員会が出した指針に沿って各事業所は「地区定着推進委員会」(以下「地区委員会」という。)を設置し、指針の内容について協議し、決定した内容について取組を行う。
地区委員会では職場のリーダーとともに障害のある従業員からなるジョブサポーターもメンバーとなっており、当事者からの意見も踏まえて協議をすることとしている。
障害者雇用統括部組織図
(2)職域拡大プロジェクトの立ち上げ
障害のある従業員が定着できる業務については様々な方法で検討してきたが、さらなる雇用促進に向けて障害のある従業員が働ける職場の確保をするため、職域拡大に向けた取組として、これまで外注をしていた業務を内製化する職域拡大プロジェクト(以下「プロジェクト」という。)を立ち上げた。このプロジェクトでは構内や駐車場の白線引き作業、床のワックスがけ作業を内製化することができた。床のワックスがけ作業は専門性を要するため、ポリッシャーを扱う作業は障害のない従業員が習得し、ワックス液を吸い取る作業については手順書を作成し、障害のある従業員ができるように整備した。
また、親会社やグループ会社の従業員にも職域拡大の重要性について関心を持ってもらうため、障害のある従業員が取り組んでいる業務をまとめたDVDを作成し、全従業員が視聴できるようにグループ内イントラネットを利用し、職務創出のための意識啓発を行っている。
職域拡大プロジェクト(白線引き作業の様子)
職域拡大プロジェクト(床のワックスがけ作業の様子)
(3) 人事評価制度における目標設定
会社全体で障害者雇用の促進に向けた取組を行う方針を受けて、その仕組づくりとして、従業員の人事評価制度に障害者雇用に関する目標設定を導入した。これは障害があるなしに関わらず全従業員が設定する各自の業務目標に、自分が貢献できる障害者雇用に対する取組内容を設定することを必須としたものである。
例えば、警備員業務を行っている従業員からは、消防設備点検の中で消火器点検業務の補助を障害のある従業員と行うという業務目標の設定があった。消火器点検は有資格者が行うが、障害のある従業員とペアとなり構内の約3000本ある消火器の点検済証シールの貼替え作業を補助することで役割分担ができ、お互いに効率よく仕事に取り組める結果となった。
このほか、売店のレジをバーコード対応レジに変更し、障害のある従業員であってもレジ対応ができるように整備、手順書を動画で作成し作業の均一性を図るといった従業員が設定した業務目標をもとに職務創出された事例がある。
目標を達成するために各自が行動することで個人の評価にもつながり、様々な視点や観点から職務創出を図ることができ、障害のある従業員を支援している部署のみならず、従業員全員が常に意識をもって行動をする必要がある仕組になったことで、部外者意識を持つ従業員がいない、目指すべきナチュラルサポート(社内の自然な支援)体制を築く土台となった。
消防設備点検業務の補助の様子
レジ対応の様子
(4) ジョブサポーター制度とキャリアアッププランとの連動
従前より、障害のある従業員がほかの障害のある従業員の指導役を担う「ジョブサポーター制度」を導入していた。
ジョブサポーターは、障害のある従業員の支援を行っている従業員の補佐としてサポートやアドバイスをするほか、トライアル雇用の専任指導役としても活躍している。社内でもジョブサポーター制度への認識が進んだことで、ジョブサポーターになりたいと意欲をもつ障害のある従業員も増えてきた。会社にとってジョブサポーターは障害のある従業員にとって相談しやすい立場であるということと、障害のある従業員の指導を担う人材の育成や支援体制が強化できるという2つの大きな役割がある。そして、その観点から見直しを行い、新たにスキルアップ制度を設け、選任後の昇格や賞与の評価に結び付けモチベーションのアップを図ることとした。具体的には、ジョブサポーターになるには一定の適性基準をクリアする必要があるが、選任されてからは1年に1回、独自に設けた項目を評価する「グレード判定(4段階)」を受けることになっており、判定の結果は各自がつけているジョブサポーターのバッジにライン表示され、処遇にも結び付けることでさらなる目標を立てることができるような仕組みとした。
また、グレード判定の結果をグラフで表示し、自分の強みと弱みを「見える化」し、1年の振り返りとして面談を行い、次の1年につなげられるようにしている。
ジョブサポーターとなった従業員は、スキルアップや昇給などが明確となったことで仕事に取り組む姿勢にも変化が現れ、何事にも積極的にチャレンジするようになった。特に、後輩従業員への指導については自覚と誇りをもっており、教えられる立場から教える立場になった際の配慮や気配りについては当事者の気持ちを最優先にくみ取ることができるため、なくてはならない存在である。
ジョブサポータのバッジ
グレード判定の項目と結果の例
5. 今後の展望と課題
全従業員で一丸となって取り組んでいる同社の障害者雇用。その取組が評価され、令和4年には厚生労働省が認定する「障害者雇用優良中小事業主 もにす」の認定を受けており、特例子会社として使命をうけ、法定雇用率の倍を目標に取組を続けている。様々な仕組づくりや取組が浸透し、障害のある従業員に対して事業所内の誰もが自然に声かけができるようになった。これまで障害のある従業員の支援は一部の従業員が担っていたが、責務が分散され、障害のある従業員にとっては事業所の誰もが安心して頼れるサポーターとなり、自然に挨拶や報告・連絡・相談ができるようになったことで働きやすい組織、職場が確立された。
コロナ禍において、リモート会議などの導入や在宅勤務が推奨されるようになったことで、親会社やグループ会社内でも出勤して働く従業員の人数が減り、親会社の会議室やトイレの清掃についても、使用機会が減ることで清掃の頻度が下がっている。そのことで障害のある従業員が多数在籍しているメンテグループにおいては作業場所やシフトの変更などの臨機応変な対応をしているが、障害の特性によっては難しいケースもある。同社としてはこういったケースも想定した職域開発を進めることも課題としており、あわせて障害のある従業員が働いている職場環境の変化に対するフォローも必要となっている。
同社としては時代に沿った「働き続けられる会社」を目指し、働き方改革の一環として障害のある従業員に対しての環境整備を進めることで「働きやすい会社」となる必要があると考えている。
また、障害のある従業員が本当に必要としているサポートを社内で見極め、企業としての視点から障害のある従業員の視点で築いていく真のナチュラルサポート体制を目指している。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
滋賀支部 高齢・障害者業務課
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