支援人材を育成し支援体制を強化し、
各支援機関との連携により個別支援を行った事例
- 事業所名
- 栃木トヨタ自動車株式会社 本社
(法人番号: 8060001002998) - 業種
- 卸売・小売業
- 所在地
- 栃木県宇都宮市
- 事業内容
- 自動車販売・整備・修理・点検・部品販売・保険代理業・通信事業・JAF入会受付 など
- 従業員数
- 180名(法人全体では約650名)
- うち障害者数
- 6名
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障害 人数 従事業務 聴覚・言語障害 2名 事務職 肢体不自由 1名 事務補助 知的障害 1名 中古車商品化業務補助 精神障害 1名 事務補助 難病 1名 事務補助 - その他
- 障害者職業生活相談員
- 本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害、肢体不自由、知的障害、精神障害、難病
- 目次
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
栃木トヨタ自動車株式会社(以下「当社」という。)は昭和21(1946)年10月に設立し75年以上の長きにわたり、栃木県の皆様と共に歩んできた。
事業内容としてトヨタ車・レクサス・フォルクスワーゲンの新車販売や各種中古車の販売に加え、購入後の車両の点検整備などを行っている。また、自動車保険や携帯電話の販売なども行っている。
社員の働きやすさ向上にも力を入れており、社員の健康維持・増進に留意している会社に贈られる「健康経営優良法人ホワイト500」の認定を2年連続で受けたり、女性の活躍を推進したり働き方の見直しを進める会社に贈られる「男女生き活き企業」の認定も受けている。
また、長年地域に根ざした取組を続けてきたことが評価され、全国280社中1割のみのトヨタディーラーに贈られる「総合表彰」を11年連続して受賞している。
(2)障害者雇用の経緯
障害者雇用については、これまでも取り組んでいたが法定雇用率が達成できていなかった。そこで平成27(2015)年からより積極的に取り組むこととし、障害者雇用促進の取組として、障害特性および適性を把握するために特別支援学校を訪問し職場実習生を受入れて障害のある方の雇用の可能性を見極める、ハローワークへの障害者専用求人を提出する、トライアル雇用制度を活用するなどの活動を行ってきた。また、それまでは身体障害者が中心の雇用であったが、身体障害者以外の採用も積極的に行うようにし、個々の障害特性に配慮した時間帯での就労や特性に合わせた業務配分を取り入れ、さらに多様な障害者の雇用と定着に向けて取り組むようになった。
しかし、雇用後の支援は障害のある社員本人が登録している障害者就業・生活支援センターなど(以下「支援センターなど」という。)に委ねるのが主で、社内で個別支援を行える環境が整備されていなかった。障害のある社員が配属されても支援担当者が配置されてはおらず、配属先の社員が教育・支援を行うが、声掛けや支援方法がわからずコミュニケーションが取れないことや、障害特性に合わせた支援や業務配分を行うことができず、障害のある社員が定着できないまま離職してしまうこともあり、社内の支援体制の整備と強化が必要であった。
また、雇用した者の中には、障害特性やスキルから判断して雇用前に決めていた業務に配属したところ、当該業務への対応がとても難しい場合があり、そうした際には配属先の社員や支援センターの職員による集中的な個別支援が必要とされた。そうした場合にも対応可能な体制整備なども必要とされていた。
今後、身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害者などの多様な方を採用し定着してもらうためには、社内に障害者雇用についての支援人材(以下「支援担当者」という。)の配置と育成が必須と当社は考えた。さらに、就労後も障害のある社員の業務スキルとコミュニケーションスキルを向上させることで、社員としてのやりがいと向上心を持って働き続けてもらえるような環境整備も必要と考えた。
そうしたときに障害のある社員として採用したのがAさんである。Aさんは難病により、体調・服薬管理などの配慮に加え、合併症として難聴を併発しており、対人コミュニケーションや情報提供の方法などにおいて配慮が必要な方であった。
Aさんの採用に際しては、把握した障害特性やスキルなどから、事務職でのフルタイム勤務が可能と判断し配置したが、実際に業務に従事すると様々な課題が明らかとなり、就業に必要なスキルと就業態度など、様々な点での個別的・集中的な教育・指導・支援が必要と判断した。そこで支援担当者を配置し、個別支援を開始することになった。Aさんについての具体的な取組の内容などは、「3.取組の内容と効果」で紹介するが、支援担当者による支援の効果はあり、Aさんの就業態度の改善や、業務スキル向上につながっている。
2. 障害者の従事業務と職場配置
現在、本社では6名の障害のある社員が勤務している。主に事務職およびその補助として従事しており事務作業のみならず、社内配送便の仕分・発送作業や職場環境整備作業なども行い、特性に合わせて入力作業や仕分作業、軽作業などをそれぞれ担当している。また、知的障害のある社員はその特性を活かし、中古車の商品化補助業務に従事し、定着している。難病のある社員については職場環境を特に配慮し、精神障害のある社員については指示や終了すべき時刻を明確にして、視覚的情報(図や写真など)を加えて伝達している。ほかの社員と共同で行う作業も各々が自分の得意な面を生かして作業分担ができるように配慮している。3. 取組の内容と効果
(1)取組の内容
ア.支援人材(支援担当者)の配置・育成
さきに触れたように障害者雇用を進めるなかで、社内での雇用障害者に対する理解不足や、支援体制が整備されていないなどの課題が明確になり、まず本社内の障害のある社員や配属部署への支援を行う支援担当者の配置を決めた。支援担当者は自身が障害のある社員で、障害特性や必要な支援などについての知識があり、障害者の受け入れにも理解のある者から選び、総務部門に配置した。そして、支援担当者には障害者職業生活相談員の資格及び企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)資格を取得させ、経験者ならではの知識や視点を生かした個別支援などが実施できるようにした。併せて支援担当者の存在や役割について社内に周知した。
イ.Aさんへの個別支援
Aさんは難聴による影響と、コミュニケーションスキルが低いこともあり、指示の理解に課題があった。支援担当者は、Aさんが在籍している部課の社員に対し、障害特性や声掛けなどの有効な支援方法を伝え共有するとともに、Aさんの指示理解の様子などを確認しながら、必要に応じて手順・指示書などの視覚的に分かりやすい資料の作成などを行った。
また、Aさんは難病により、体調管理、特に服薬や自己注射の管理などについても配慮が必要であった。そのため、Aさん(家庭含む)への聴き取りと、Aさんが利用している福祉機関(相談支援事業所)との連携を行い、状況確認や配慮事項などの共有を行った。その際は、Aさんと相談支援事業所から情報を共有することに関して了承を得て行った(当社では、相談支援事業所に限らず、関係機関などとの情報共有については障害のある社員の了解を得ながら慎重に進めている)。
そのほかにも、業務上のミスや不適切な態度などの課題があり、支援担当者は、その都度、個別相談(振り返り)を実施し、ミスの原因や再発防止のための方策を一緒に考えるとともに、不適切な態度などに対しては時間をかけて相談し、本人の自覚や反省を促し、意識や行動の改善に向けた指導・助言を行った。
支援担当者以外の社員は、Aさんに対し特性に合わせて声掛けなどを行い、状況を支援担当者へ報告し、必要な相談を行うなど、情報共有と連携に努めた。
ウ.支援体制の強化、支援機関との連携
Aさんについては栃木障害者職業センター(以下「職業センター」という。)と連携してジョブコーチ支援を活用した。支援担当者(企業在籍型ジョブコーチ)と訪問型ジョブコーチが連携した支援を実施するとともに、相談支援事業所とも情報共有と定期的な面談を実施していった。相談支援事業所では家庭や生活面における悩みごとや不安点などについて相談・支援を行い、当社・職業センター・相談支援事業所では情報を共有し、生活支援と就労(職場定着)支援を連動させることで、定着支援に生かした。また、Aさんへの両ジョブコーチの助言内容などを明確化する(同じ方向性で表現も揃える)ことでAさんが相談しやすい環境を整備した。
エ.作業ミスなどの減少に向けた取組~支援計画・目標の設定~
作業によっては手順の定着度が低かったり、同じようなミスが繰り返されるという課題があった。正確な手順での業務遂行とミスの減少に向け、短期的な目標設定を行い、達成に向けて個別支援を行った。以下は分かりやすさに配慮した指示の出し方などの例である。
Aさんに限らず、当社では同じ作業を行う場合でも障害のある社員個々の障害特性に合わせた手順書・指示書を作成したり、特性に合わせて指示内容を詳細にしている。
・例1
配慮前の指示「計算が間違っているので確認してください」→配慮後の指示「合計が合わないのでもう一度計算してみてください」
<配慮のポイント>
どのような状態なので、どのような作業をすべきかを具体的に説明する。
・例2
配慮前の指示「テープが足りないので持ってきてください」
→配慮後の指示「テープが〇個足りないので倉庫から〇個持ってきてください」
<配慮のポイント>
Aさんが自分で考えて行動できるための指示(声掛け)へステップアップするようにした。その際には、次のような補足確認を行うことで、必要性やすべきことが理解しやすいように配慮した。
「テープを使用するのは何人ですか?」
「全員がテープを使用できるようにするためには何個足りないですか?」
「テープはどこで保管していますか?」
(答えを待って)「では、どこから何個テープを持ってくればいいと思いますか?」
オ.自己理解の促進に向けた目標設定と振り返り
Aさんの業務遂行上の課題について、支援担当者は本人と相談しながら、具体的な改善目標を設定した目標管理チェックシートを作成した。本人はチェックシートに基づき毎日振り返りを行い、支援担当者は定期的に本人との面談(振り返り、相談などの支援)を行った。特に目立つミスなどが生じた際には、その都度、助言などを行った。そうした際には本人の意欲と自信を低下させないように表現やタイミングに配慮しながら、自覚・改善に向けた指導・助言を行った。
Aさんに限らず、個別の指導などが必要な場合には、個人別のチェックシートの作成や定期面談を当社では行っている。
カ.業務に集中できる環境整備作業中の離席時間が多い、居眠りや手が止まっていることがあるなど作業に集中できていない場面がみられたことから、本人と家族及び支援機関・ハローワークを交えて支援会議を実施。特性(多動・注意散漫であること)を考慮し、就労時間の調整(時短勤務への変更)などを行った。
キ.特性に合わせた作業道具の選択と活用など
特性により爪いじりなどに没頭してしまうことを回避するためにストレスボールなどの導入、衝動的行動を抑制するために、ジョブコーチと相談しながら、集中しやすい文房具や作業道具を選定し活用した。視覚的で順を追った細かな指示が必要なため、社内で導入している連絡ツールを活用し、伝達や報告を文章で行い、必要に応じて写真や図解を送付。PC作業についても実際の画面を印刷するなどして、流れや注意事項をわかりやすく記載した手順書を作成。また、タイムスケジュールを作成し、障害者同士の作業内容などを共有、不安や不明点の相互確認を実施、皆が業務手順を理解できるようにした。
ク.所属部内での支援及び定着状況の共有
月一度、支援内容と習熟・定着状況及び課題を共有。特性と習熟度に合わせた作業の振分と助言・フォローを行った。支援担当者だけでなく、人事課担当者とも定期的な振り返り面談を実施、定着とステップアップに向けての助言を行った。
作業手順を全員で確認するための共用スケジュール画面の例
※画像中のAさんは本文とは無関係
Aさんの作業の様子(別の障害のある同僚と行うチラシの袋詰め作業) Aさんの作業の様子(チラシの袋詰め作業)
(2)効果
・職業センターと連携した支援と支援担当者による個別支援などの取組を通して、Aさんは力を発揮し、定着することができた。Aさんの事例から障害者の一般就労・定着のためには受入側(企業側)の支援体制の整備が不可欠であることを当社は再認識した。そして、様々な特性をもった障害者を受け入れ、日常的に助言や指示の工夫を経験することで、配属先の社員にとっても、自然と支援スキルの向上及び障害者雇用の理解とコミュニケーション向上につながっている。
・業務ごとにどのような課題があり、どのように助言すればよいかなどの積み重ねのなかで、Aさんの新たな特性(得意な面)を知ることができ、適性に合わせた業務を担当させることができた。Aさん自身もやりがいと自信をもってできる業務が増えてきた。そして、自分が今すべきことを判断し、報告・連絡・相談などを誰に何を伝えるのかを自分で考え伝えられるようになった。
・支援担当者は、職業センターや支援事業所と連携をとることで、初めて直面する課題についても柔軟に、視点を変えながら支援や助言を行うことができるようになり、Aさんも業務スキルの向上と就業態度の改善ができている。自信をもって行える作業が増えたことで、やりがいや責任感を感じてもらえるようになった。
・特性や体調に合わせて労働条件や業務内容を柔軟に調整したことで、集中して作業できるようになった。
・支援担当者自身も聴覚障害者であることから、支援対象の障害のある社員も各々の障害特性や個性に応じたコミュニケーション手段の必要性を理解し、伝達する際は個々の障害者が理解しやすいように考慮し説明できるようになった。
・ミスや課題に合わせて個別的・集中的に結果が出やすい支援・助言を続けたことで、本人自らが振り返ることができるようになり、自身で解決策に気付けるようになった。その結果、同じ内容のミスが大幅に減り、作業の精度と処理速度が向上した。それがさらなる本人の意識面の向上につながった。
・配属部署全体で障害特性や支援内容について共有し、Aさんに応じた声掛けや指導が自然に行われることとなり、入社当初に比べて、Aさんの就業態度・言葉遣い・作業精度などが改善している。そうした改善を配属部署では是と捉え、Aさんのさらなる成長、ステップアップに向けて努力している。
4. 今後の展望と課題
当社の障害者雇用の実績と定着状況、支援体制についてはまだまだ発展途上ではあるが、支援機関との連携などを積極的に行うことで、企業として抱える様々な負担や課題を改善できるようになっている。しかし、受け入れている障害者の障害種別が限定され、従事可能な業務が少ないことや支援・指導体制がまだまだ整備されていないことが課題である。また、雇用後のミスマッチを防ぐために個々の障害や特性を理解し、適材適所で配置を行えるような採用活動と環境整備も必要である。
今後はこれまで以上に多様な特性を持った障害のある社員が増えることが予測されることから、会社全体で障害者雇用について理解し、共生していくためのコミュニケーションスキルや支援方法を習得し、特性に合った業務配分や柔軟に労働条件を決めることで、障害の有無にかかわらず、全社員がやりがいを感じながら成長していけるような、働きやすい職場づくりにつなげていきたいと考えている。
執筆者:栃木トヨタ自動車株式会社
総務部総務課 西澤 琴野
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