目指す自立は、周囲の人と共存できること
~安全対策を万全に、職場環境整備を進める特例子会社の事例~
- 事業所名
- 株式会社ハートフルコープえひめ
(法人番号: 3500001021207) - 業種
- サービス業
- 所在地
- 愛媛県松山市
- 事業内容
- リサイクル事業、商品センター倉庫内受託業務、コールセンター運用管理
- 従業員数
- 40名
- うち障害者数
- 6名
-
障害 人数 従事業務 知的障害 5名 プレス機への再生資源投入作業、減容器作業、コンテナ積み運搬作業、リフト運転
高次脳機能障害 1名 プレス機への再生資源投入作業、コンテナ積み運搬作業 - その他
- 特例子会社、障害者職業生活相談員
- 本事例の対象となる障害
- 知的障害、高次脳機能障害
- 目次
-
事業所外観(エコセンター)
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)設立
株式会社ハートフルコープえひめ(以下「当社」という。)は、生活協同組合コープえひめ(以下「コープえひめ」という。)100%出資の子会社として平成30(2018)年3月5日に設立した。同年の6月4日、特例子会社認定を受けた。
(2)組織構成
リサイクル事業を行うエコセンター(商品センター受託作業含む)と、コールセンター業務を行うコープ注文センターがあり、現在障害者雇用を行っているエコセンターでは、管理者1名、障害のない従業員2名(障害のある従業員への作業指示や指導を担当しており、以下「指導員」という。)、障害のある従業員6名の計9名体制で業務を行っている。
(3)事業内容
親会社のコープえひめでは、環境問題への取組として、リサイクル運動を長年行ってきた。この運動のさらなる推進を目指し、事業化するために設立したのが当社である。
組合員から回収した共同購入のカタログチラシ、牛乳パック、卵パック、仕分け用ナイロン袋のほかに、各事業所からの排出される段ボール、コピー用紙などをエコセンターに集め、異物を手作業で取り除いた上で、大型プレス機により1次圧縮加工を行う。圧縮加工したものは、再生資源物としてリサイクル業者へ売却している。
ほかに当社では、コープえひめの商品センター場内作業の受託業務、コープ注文センターのコールセンター業務の運用管理を行っている。
(4)障害者雇用の経緯
ア.リサイクル事業の検討と特例子会社の立ち上げ準備
現在西日本を中心に、生活協同組合(以下「生協」という。)の特例子会社がリサイクル業務を行っている。
当社がリサイクル事業を検討するにあたり、全国の生協のエコセンターなどを見学し、障害のある方の活躍ぶりを知る中で、リサイクル事業に必要な作業は、障害があってもできることを知った。また、障害のある方が生き生きと仕事に向き合っている姿を見て、当社においても障害者雇用でやっていけると確信し、新規のリサイクル事業の従事者は障害者雇用を主に進めることに決めた。また、併せて障害者が働きやすい環境を整えることを目指して、特例子会社の申請を行った。
イ.採用に向けた準備など
まず、ハローワークに特例子会社による障害者雇用を検討している旨の相談をし、障害者の採用活動や特例子会社の設立などに関するアドバイスをもらった。また、近隣の特別支援学校の協力を得て、学校を会場に会社説明会を開催した。説明会では、生徒とそのご家族や先生方に、当社の事業内容や障害者雇用に関する方針などに関する説明を行った。
採用活動にあたっては、えひめ障がい者職業・生活支援センターや愛媛障害者職業センターの協力も得ることができた。
ウ.採用に向けて~職場実習の活用~
採用をする際、就職希望者には職場実習(以下「実習」という。)を1~2週間体験したうえで、応募するかを決めてもらうようにしている。その後に採用面接を行い、採否を決めている。実習状況も参考にしている。
実習で実際に業務を体験してもらうことがとても重要で、その人の得意なこと、不得意なことが見えてくる。また、1週間働いたらどのような変化が生まれるのか、実際に通勤してもらうことで通勤に問題がないかなど、本人も雇用する側も共通の認識が持てるので、実習は必須と考えている。
(5)職場定着のために心掛けていること
職場定着に向けては、まず職場の環境づくりとして管理者や指導員からの声かけを大事にしている。声かけをする中で、ふだんとは違う様子(元気がない、視線が合わない、返事がない、体調が悪そうなど)がないか、どこか違和感がないかに留意し、定着上の課題に早く気づくよう意識している。また、話しやすい環境を作ることで、不安に思っていることを話してもらうきっかけになればと思っている。
そのほか、障害のある従業員が誰に相談したらいいのかすぐ判断がつくようにすることも、重要だと思っている。日頃の作業指示や指導を行っている管理者と指導員の3名は、全員が障害者職業生活相談員資格を取得しており、一日の振り返りのコメント記入などを通じて、気になる点があった時は直接話をするようにしている。
また、指導者(管理者と指導員)間での情報の共有を行うことで、指導のレベルアップを進めている。管理者は障害のある従業員との定期面談を実施するとともに、両親、関係機関の支援者からの連絡や相談に対応し、必要な情報は指導員と共有し、職場定着に活かしている。
全国の生協、県内の企業からも適宜アドバイスをもらうようにしている。例えば、取り入れたアドバイスを元に、次のようなことを実践している。
・終礼時の振り返りとして、「今日、頑張っていたと思う人の紹介」、「今日、安全に作業するために気をつけたこと」などテーマを
決めて発表する。・「朝礼当番制」を導入して、朝礼時にひと言発表をしてもらう。
・振り返りノートを作成し、今日の出来事を記入してもらう。
・職場実習の際は、作業ができたかではなく、うまくいかなかった際の言動や教わったことを実践する姿勢を評価する。
2. 障害者の従事業務と職場配置
従事業務と職場配置については、できる業務を増やしていくために一通り経験をするようにしている。
実際の作業を行ってみて、本人の感想も考慮して配置を決めるようにしている。例えば、機械で発泡スチロールを割る音が怖くて作業が困難な場合などは、その従業員に合ったペースで指導を進めることにしている。怪我がなく1時間作業に集中でき、なおかつ作業ムラがなく(ペースが乱れることなく)業務にあたれることからスタートするようにしている。
3. 取組の内容と効果
(1)ハード面での安全対策安全対策(事故防止、体調維持、安全意識の向上など)はとても大事にしており、ハード、ソフト両面で対策を講じている。ベルトコンベアに投入した古紙などの中に異物を発見した場合には、その都度機械を停止させてコンベア内に作業員が入り、手作業で取り除かなくてはならない。こうした作業は危険を伴うことから、何重にも安全対策を取っている。
ア. エコセンター内の服装(身だしなみ)を整える。
・制服着用…夏場は空調服支給
・安全靴着用…会社支給
・ヘルメット、手袋着用
イ. プレス機の安全装置の整備。
・コンベア内への侵入は、停止ボタンを押し、必ず侵入扉から侵入すること…扉にはセンサーを配置し、停止ボタンと二重で誤作動を防ぐようになっている。
・緊急停止ロープ配置…異常時ロープを引っ張ることで緊急停止させることができる。
・安全タブをヘルメットに装着…周囲に助ける人がいない時にコンベアに流されてし
まった場合でも、機械に巻き込まれる前にタブが反応し、ブザーが鳴って周囲へ知ら
せるとともに、緊急停止する。
・機器の見やすい場所に分かりやすい「注意書き」などを掲示する。
コンベア内での異物除去作業
(扉の開閉部分にセンサー、左側に緊急停止用ロープがある。空調服を着用し、作業
員のヘルメットには安全タブが取り付けてある。)
前掲画像右下の「注意書き」の拡大
(ふりがなや写真を付けて理解しやすいように工夫している)
ウ. エコセンター内の約束事を守る。
・「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」を守る。
・重量物の持ち方指導を行う。
・移動時の声掛け(「通ります。」「お願いします。」)を欠かさない。エ. 夏場の熱中症対策
・スポットクーラー、工場扇(扇風機)を作業場に設置。
・夏場は空調服を作業用に支給。
・麦茶・スポーツドリンク飲料の無料支給。
スポットクーラーと安全タブ
(2)ソフト面での安全対策
・適度な休憩(午前中は1時間おきに10分、午後は15分)を確保している。
・適度な声掛けをする(変化に気づく、再度集中させる、注意指導のため)。
・定期面談(半年に1回)を実施し、勤務状況によっては即時に面談をする。
・両親との面談や、関係機関との情報共有と連携(えひめ障がい者就業・生活支援セン
ター、愛媛障害者職業センター、特別支援学校など)
(3)業務指導、相談
立ち上げ当初に分かりやすい表現や図・写真を使った従業員向けマニュアルを作成し活用しているが、マニュアルだけでは理解できない場合は、指導員が実際にやり方を見せながら教えるなど丁寧に対応している。
また、人によって理解度が違うため、その人にあった指導の工夫や改善を行うようにしている。指導については、「慌てず、焦らず、諦めず」に関わっていく指導を常に意識している。
(4)アセスメントシートを活用した定期面談を実施
アセスメントシートを活用して面談を実施し、本人と会社側がそれぞれ4段階で各項目を評価している。評価の低い部分はできていないのではなく、まだ伸ばせる「伸びしろがある」と考えて、目標設定を行う。本人から不安なこと、悩んでいること、自信がついたことなどを聞き取りして、指導員と共有をしている。
(5)社会勉強の日の開催(年1回)テーマを決めて勉強会(社会勉強の日)を行っている。これまでに取引先や異業種の工場見学や、「お金の教室」などを行った。これらは、業務に関連する事柄を学んで、知って、仕事に誇りを持ってもらおうと行っている。また頑張った「自分へのご褒美」として、みんなで食べる昼食(外食)を楽しみにしている人もいる。
過去の訪問先では、参加者から以下のような報告・感想があった。
・大手製紙メーカー
自分たちの製品(圧縮加工した古紙)から印刷用紙ができることを学んだ。異物があると、製品ムラができることを知り、また明日から異物の抜き取りを頑張って行おうという動機づけとなった。
・印刷会社
見たことのない機械に驚愕した。ふだん自分たちがプレス機に投入しているチラシが新たに作られている場面に親近感がわく。チラシは4色の色で印刷されていることを知った。
また、「お金の教室」では、LPA(ライフプランアドバイザー)資格を持つコープえひめの共済担当者から、給料の管理方法、クレジットカードの知識、家計簿のつけ方など基本的な金銭管理の仕方を学習した。今後も開催したいと考えている。
(6)家族交流会
家族も招いて交流会を行い、親睦を進めている。これまでにバーベキュー、餅つき、鍋、うどん打ち、流しそうめんなどを行ってきた。
(7)「ハートフル通信」(社内報)発行
月2回会社での出来事をニュースにして発信している。家族にも読んでもらうことで、会社の様子が少しでも分かればと思い、発行している。
(8)親会社であるコープえひめからの支援
(5)の社会勉強の日などに一緒に参加してもらったり、(6)の交流会の際に準備や炊き出しを手伝ってもらったりして、人的な支援も得ながら交流に努めている。仕事納めや仕事始めの会にも参加して、企業グループとしての連帯感を深めている。
4. 課題と今後の展望
(1)課題
ア.指導者の育成
指導やサポートをする側に、障害のある従業員の育成に必要な知識が不足している。
指導する側のレベルアップが必要である。
イ.業務拡大での経営の安定
特例子会社も一企業であり、利益を出してはじめて継続経営ができると考えている。そのためには業務拡大にもチャレンジし、継続して障害者雇用ができるように進めていきたい。
ウ.人財育成
障害のある従業員もキャリアアップして、リーダーとなる人や親会社で働ける人財を育てていきたい。
エ.業務外(プライベート)の部分への配慮
プライベートの部分については、どこまで関わっていくべきか判断が難しい。
オ.労働環境面での待遇向上
将来不安なく生活ができるよう、給与など待遇面の更なる改善を進めたい。
カ.自立に向けて
あいさつの仕方、思いやりや感謝の心、時間管理や健康管理、社会や会社の守らないといけないルールなど、どれも大事でできないと困ることばかりである。ただ、自分でできることは自分でするけれども、困ったときには周囲に助けを求めることができるのも大事な「力」である。そういう力を育てていくことを当社は目指している。自立が目標だが、周囲の人と共存できることが、その人にとっての本当の自立とも考えている。
(2)展望
管理者も指導員も、障害者雇用に携わった経験がなかったところからスタートし、現在も試行錯誤しながら職場運営を行っている。
その中で障害者雇用については、「できている人」=先行企業の担当者様からいろいろと勉強させていただき、学んだことを「マネすること」から始めている。会社も従業員も先行企業様に学び、「まずはやってみる」を掲げて実践している。
障害のある従業員と一緒に作業をする中で、はじめは難しいかも知れないと思っていた作業でも、諦めずにやり続けることで、求める水準までできるようになると実感できた。できる作業を増やすことが、障害のある従業員の自信と働きがいにつながると考えている。今後も職場定着やモチベーションの向上、そして自立支援のために、今以上にどのような教育や評価制度が有効か考えて、障害者雇用で先行している他企業から学び、実践していきたいと考えている。
執筆者:株式会社ハートフルコープえひめ
取締役部長 永井 正明
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