業務の可視化を進め、業務への理解を深めることで定着を図る
- 事業所名
- げんねんワークサポート株式会社
(法人番号: 6420001016476) - 業種
- サービス業
- 所在地
- 青森県青森市
- 事業内容
- 文書の電子化、データ入力、ファイリング業務、印刷業務、郵便物等の仕分け・集配・発送業務、清掃業務等
- 従業員数
- 26名
- うち障害者数
- 18名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 2名 文書の電子化、データ入力、ファイリング業務、印刷業務等 知的障害 7名 文書の電子化、データ入力、清掃業務、印刷業務、文書廃棄業務、事務用品等の補充業務等 精神障害 9名 文書の電子化、データ入力、清掃業務、ファイリング業務、印刷業務、事務用品等の補充・管理業務等 - その他
- 特例子会社
- 本事例の対象となる障害
- 肢体不自由、知的障害、精神障害
- 目次
-
事業所外観
1. 事業所の概要
げんねんワークサポート株式会社(以下「同社」という。)は、日本原燃株式会社(以下「日本原燃」という。)の100%出資により令和元(2019)年2月に設立。同年5月に日本原燃の特例子会社に認定。
令和3(2021)年10月には、特別支援学校(以下「支援学校」という。)の生徒の職場実習(以下「実習」という。)への協力等が評価され、青森県から令和3(2021)年度の「あおもりキャリア教育応援企業」表彰受賞。令和4(2022)年には厚生労働省の「もにす認定」を受け、令和元年からは毎年あおもりアビリンピック(青森県障害者技能競技大会)に出場し、全国障害者技能競技大会にも毎年出場している。
同社の業務は日本原燃からの事務処理等の受託業務であり、「一歩一歩着実に成長します」など、5つの行動基準を掲げ、文書の電子化・ファイリング業務、印刷業務、清掃業務等を展開。障害のある社員が安心して生き生きと働ける環境を整え、一人ひとりの個性や能力に配慮しながら人材を育成するとともに、障害者雇用のノウハウを積極的に地域の企業等に提供し、地域の障害者雇用に貢献する取組を行っている。
2. 障害者雇用の経緯
同社は、障害者の雇用促進のため日本原燃のグループ企業として設立され、設立した年に特例子会社に認定。設立初年度は、知的障害のある社員4名、精神障害のある社員2名で始まり、以後、計画的な雇用を進め、現在は18名の障害のある社員が活躍している(障害の内訳は冒頭の表のとおり)。
3. 障害者の従事業務と職場配置
(1)身体障害(肢体不自由)のある社員
主に事務作業を行っている。その他、文書の電子化、データ入力、ファイリング業務、印刷業務、中古パソコン等のデータ消去、データ消去後のパソコン等の買取ならびに販売業務、事務用品等の補充業務等を行っている。(2)知的障害のある社員
文書の電子化、データ入力、ファイリング業務、印刷業務、文書廃棄業務、郵便物等の仕分け・集配・発送業務、物品の仕分け・梱包・配送業務、事務用品などの補充・管理業務、清掃業務を行っている。(3)精神障害のある社員
文書の電子化、データ入力、ファイリング業務、印刷業務、郵便物等の仕分け・集配・発送業務、物品の仕分け・梱包・配送業務、中古パソコン等のデータ消去、データ消去後のパソコン等の買取ならびに販売業務、事務用品等の補充・管理業務、清掃業務、軽作業の請負等を行っている。
4. 取組の内容
(1)募集・採用に向けた取組
募集・採用に際しては、ハローワーク、支援学校、就労移行支援事業所等(以下「支援事業所等」という。)をはじめ、幅広いルートを活用している。
その際には実習に力を入れている。支援学校の生徒については、ひとりの実習生につき数回(高等部3年時の上期と下期)実施している。実際に同社で作業を経験することで実習生は「働くイメージ」を具体的に持つことができると同社は考えている。支援事業所等の利用者についても可能であれば同社での実習を経験いただくようにしている。
なお、支援学校の場合には、キャリア教育への協力という観点から、高等部1、2年生の実習も受け入れており、3年生は実際の業務を体験するが、2年生は模擬業務を体験するなどの工夫をしている。
また、採用の際は、ハローワークや青森障害者職業センター、支援事業所等と連携しながら、従事業務の選定や配慮事項の周知などの受け入れ準備を進めている。定着については、障害者就業・生活支援センターと連携を図りながら、定着に努めている。
(2)職場定着に向けた取組の検討
採用した障害のある社員の職場定着に関する様々な取組も行った。定着のためには、魅力ある職場づくりが第一であり、そのためには、社員一人ひとりが仕事のやりがいやモチベーションを持てることが不可欠と考えた。やりがいを感じ、モチベーションを高めるためのより良い方法について社内で検討し、社員が自分の担当業務や目標についての理解を深めることが重要で、理解を深めるには誰もが理解しやすい「可視化」の取組を行うこととした。以下に紹介するのはそうした「可視化」の取組である。
(3)可視化の具体的取組
ア 目標と実績の可視化
業務目標や業務実績を記録し評価するツール(書式)として、もともと日報等はあったが、そこでは言葉での評価にとどまり、ほぼ数値化がされていなかった。そこで、書式を変更し、以下の方法で業務実績の記録や評価を実施した。
(ア)一週間単位で日々の業務実績と評価を記入する書式とし、社員はそれに基づいて振返りによる自己評価を行う。
(イ)目標設定の細分化と定期面談・評価とのリンク化。
同社では社員ごとに半期目標を設定し、達成を目指している。目標を確実に達成するために、新たに3か月、1か月目標を設定した。そして、達成状況について、指導員(社内で障害のある社員に日常的に業務上の指示・指導を行う者)との面談・評価を行うこととした。
まず半期目標を達成するための計画(図表1)を作成し、その後は、確実に実施されているかの社員の自己評価と指導員の評価を3か月ごと、1か月ごとのチェックシートに記入していく(図表2)。その際には指導員と本人が面談で一緒に確認しながら、次の目標等を設定する。
イ 処理数の可視化
(ア)文書電子化業務では、個人の月ごとの平均スキャン実績(枚/時間)をグラフ化(図表3)し、可視化した。自身の成果を客観的に把握することで、自身の課題の気づきや作業手順の工夫、モチベーション向上へつなげている。文書電子化以外の業務でも視覚化が可能な業務については同様の取組を行っている。
(イ)月初めに全体の実績発表を実施。業務ごとの処理数や達成率をグラフ化し、全体で確認。各業務がどのような状態であるかを共有することで、来月以降の目標設定の必要性や業務内容の理解を促し、モチベーションの向上を図っている。
図表3 月ごとの平均スキャン実績(枚/時間)のグラフの例
ウ 動画作成による可視化
(ア)業務手順書や好事例の動画化の推進
業務内容をより具体的に理解するために清掃業務手順書を動画化し、ポイントをテロップで入れ、教育・研修で活用するなど、業務に役立てられるようにしている。また、特定の業務に秀でた社員の作業動作を撮影し、良好事例として社内で共有している。
(イ)個別の改善に向けた動画化
作業手順等に課題がある社員の場合に、作業場面を撮影したものを本人と指導員が視聴することを通じて、それまで気づかなかった動作や作業の課題や改善点を確認し、業務に活かしている。
エ 精神障害がある社員への支援の可視化~SPISの活用~
同社では精神障害のある社員に限らず体調管理や職場とのコミュニケーションを図るため、SPIS(エスピス)を導入している。
SPISは精神障害者のための就労定着システムであり、職場での対話を円滑にするWeb日報プラットフォームである。利用社員は心身の状態を記録するセルフチェック欄と、コメント欄を活用し、職場の支援者と情報共有し、コミュニケーションを図ることで、安心して働ける職場環境づくりを目指している。
精神障害のある社員はSPIS(図表4、図表5)を活用し、その日の体調をチェックするとグラフ化される。調子の良し悪しが可視化されることで、自身で体調の傾向が理解できるとともに、指導員とも情報共有することが可能となり、体調不良等がある場合にも迅速な対応ができる。
また、コミュニケーションが苦手な社員であったり、直接相談できないような事柄でもコメント欄を活用することで、必要なコメントを書くことが可能となり、迅速な対応と情報の共有ができる。
図表4 SPISの日報入力画面図表5 月間のセルフチェック画面5. 取組の効果
(1)目標と実績の可視化について月初には可視化した資料をもとに社員と指導員による前月実績についての振返りを行っている。これが各自の実績についての理解を促す機会となっており、社員一人ひとりが業績を意識できるようになってきた。また、指導員が個々の障害のある社員に対してきめ細やかなサポートをしていくために欠かせないツールとなっている。
(2)処理数の可視化について
ア 各自の毎月の業務実績を指導員がグラフで提示することで、グラフが裏付けとなり、「グラフを見ることで前月よりがんばっていることがよくわかるようになった」など、障害のある社員からは好評である。実績が上がらない場合は、本人と一緒に原因を究明し、翌月に改善できるよう促すことができている。
イ 個人実績とは別に月初に全体の実績発表を行い、年間の処理目標の達成割合をグラフなどで視覚化し説明することで、各自の貢献が全体の目標達成につながっていることを理解し、自分の業務だけではなく、会社全体としての業務や目標達成を意識できるようになってきている。
(3)動画化の推進について
ア 業務手順書と好事例の動画化
・障害のある社員に使用してもらうと「わかりやすい」という感想だった。年齢の若い社員ほど動画に慣れていることもありスムーズに受け入れることができている。
・実習生に対する説明でも手順書の動画を使用し、一度に複数に対し、わかりやすく説明することが可能となった。動画を途中で止めたり、巻き戻したりすることで、各自の理解度に合わせることができるようになった。
・好事例を全体で共有することで、ほかの人のよいところを積極的に取り入れるなど、各自の業務に対する意識の向上につながった。
イ 個別の改善に向けた動画化
・動画を見ることで、清掃業務等における自分のやり方を客観視することが可能となり、課題の改善につながった。
・改善後にはその様子も動画化しているが、改善後の動きを見ることで、口頭で褒められるだけよりも成長への自己理解が深まった。
ウ 動画化全体の効果・動画化前と比較してミス数が減るなど、業務品質の向上につながった。
・可視化を進めていくことで、手順や出来栄えなどに関する曖昧な部分が減り、障害のある社員の業務への理解度が高まるとともに、半期ごとの人事評価に対する障害のある社員の納得度が高まっている。
・各自の努力が実績として見えるので、障害のある社員の業務に対する姿勢も向上したと感じている。
・自己評価が低かった社員については、自己肯定感が高まったと思われる。
・障害のない社員も可視化のメリットを理解し、会社全体として可視化推進の土壌ができつつある。
・毎年12月に満足度調査を行っているが、「仕事への満足度」が令和2(2020)年度は「とても満足している」「まあまあ満足している」が75%だったが、令和3年(2021)年度には90%となった。また「仕事へのやりがい」については、令和2年(2020)年度は「とてもやりがいを感じている」「まあまあやりがいを感じている」が75%だったが、令和3年(2021)年度には90%となった。満足度の上昇についても可視化の成果が反映されていると同社では考えている。
業務手順書の動画化に向けた撮影風景個別の改善に向けた動画による振返りの様子6. 今後の展望と課題
人口減少による労働力不足等の社会状況の中、令和6(2024)年度から障害者の法定雇用率が引き上げられる予定である。そうした状況を踏まえ、同社では障害者雇用をよりいっそう計画的に進めていくことを常に念頭に置きながら、現在の業務のみならず、様々な分野で障害のある社員が活躍できるような職域拡大、そして、一人ひとりのキャリアアップを中長期的に考えていきたいと考えている。
障害のある社員それぞれの成長と企業の発展が地域への貢献につながり、親会社である日本原燃が掲げる「地域社会とともに発展する」につながっていくと考えている。
執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 青森支部 高齢・障害者業務課
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。