従業員みんなが楽しく働ける職場をつくる
~アルギン株式会社の取組~
- 事業所名
- アルギン株式会社
(法人番号: 8250001005057) - 業種
- 製造業
- 所在地
- 山口県下関市
- 事業内容
- ハム・ソーセージ・ベーコン製造・加工業
- 従業員数
- 124名
- うち障害者数
- 6名
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障害 人数 従事業務 聴覚・言語障害 1名 容器洗浄 肢体不自由 1名 工場内清掃 知的障害 1名 原材料開梱 精神障害 2名 原料検品・計量、リフト運搬 発達障害 1名 原料加工漬け込み - 本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害、肢体不自由、知的障害、精神障害、発達障害
- 目次
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事業所外観
1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1) 事業所の概要
アルギン株式会社(以下、「同社」という。)は山口県下関市に本社工場を置く食品製造・食肉加工会社である。食料品・飼料の製造販売を手掛ける林兼産業株式会社の協力会社として昭和33(1958)年に創業した。
同社の敷地内には水産加工品会社マルハニチロ株式会社の魚肉ソーセージやベビーハムなどブランド品や輸出向けの商品を製造する第1工場と、一般消費者向けにハム・ソーセージ・ベーコンを製造する第2工場がある。製造する商品には地元下関のクジラ肉や近隣の観光産業を代表する明太子を使用するなど、その種類は豊富でホテルやスーパー、大手量販店に納入されている。
同社には様々な属性の従業員が活躍している。令和5(2023)年6月現在の従業員の男女比率は男性4割、女性6割である。フィリピンやベトナム、タイなど6か国30名の外国人従業員も在籍する。工場では最高齢82歳の女性従業員を筆頭に60歳・70歳代の高齢者が元気に活躍し、若い世代を支える。
(2) 障害者雇用の経緯
同社は、令和4(2022)年度障害者雇用優良事業所等表彰において高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長努力賞を受賞した。
本稿の作成にあたり、同社取締役・業務部長の磯部孝喜氏(以下、「担当者」という。)に障害者雇用について話を伺った。「18年前に社会福祉法人下関市民生事業助成会のなごみの里障害者就業・生活支援センター(以下「支援センター」という。)の紹介で聴覚障害のある人を採用したのが障害者雇用のきっかけです。私が令和3(2021) 年に現場を統括する責任者として着任してからは、下関市で開催される障害者合同面接会(以下「面接会」という。)に参加し、精神障害や知的障害のある若い応募者と会ってきました。現在そのうちの3名を雇用しています」と担当者は障害者との出会いを語る。
面接会では「給与」「休日」「仕事内容」の3点を応募者に提示し、本人が希望すれば2週間の職場実習(以下「実習」という。)を実施する。実習では、これまでの経歴も考慮した上で複数の現場を体験してもらい、本人の障害特性を把握、適性を探っていく。同社では障害者を採用する際には応募者の意志を重視しており、実習後に「ここで働きたい」という申し出があれば採用するという。就労のチャンスは自らの意志でつかんでほしいというのが同社のスタンスだ。
また、障害者雇用を進めるに先立ち、担当者は、障害者雇用に関する文献や資料を参考に「業務日誌」を独自に作成、現場で指導に当たるリーダーとその内容を共有し受け入れ体制の整備を進めた(業務日誌については後段で詳しく紹介している)。同時に障害のある人は生活面や休日の過ごし方においても細やかな支援を必要とすることから、雇用後も引き続き支援センターや就労移行支援事業所、ハローワークなど関係機関との連携を重視している。本稿では事例を交え、同社の障害者雇用の取組を紹介する。
2. 障害者の従事業務と職場配置(事例含む)
(1) 配置される業務内容は10工程
一つのソーセージやベーコンが出来上がるまでには機械操作も含めた10項目もの作業工程がある。まずは障害のある従業員が従事する作業工程を製造ラインの順に紹介する。
①搬入(冷凍庫から原料を工場内に運び入れる)
②原料の開梱(段ボールから取り出す)
③X線に通して検品(骨片や毛など不純物のチェック)
④解凍
⑤X線に通して検品(再)、計量
⑥味付け(原料をタンクに入れ調味料を加える)
⑦成型
⑧焼成
⑨洗浄(製品を容器から外し、使用した容器と機械を洗浄する)
⑩製品を既定の大きさにスライスする
新型コロナ感染症の緊急時にはシフトの組み換えや出勤時間を調整し対応したが、従来から安心安全な食品を製造する企業として工場に入る前の服装の消毒や工場内の衛生管理は徹底して行っているため、従業員の予防意識は高く工場の稼働に影響はほとんどなかったという。
工場入口の様子
次に障害のある従業員の方がどのように仕事に取り組んでいるのかについて、4名の方にインタビューを行い、担当者の話も交えて紹介する。
(2) 障害者雇用の事例
ア Aさん 聴覚障害 60代前半
Aさんは、毎朝グループホームから送迎バスを利用し出勤している。勤続年数は18年、同社が障害者を雇用するきっかけとなった方である。補聴器を装用しており音声会話は可能だが、工場内は機械の操作音など雑音も多い。コミュニケーションの取り方を尋ねると「周りの人に大きな声で一つ一つ指示を出してもらうようお願いしました。日本語の通じない外国人従業員には身振り手振りで必要なことを伝えます。」と大きな声ではきはきと話された。Aさんの業務は「⑨洗浄(製品を容器から外し、使用した容器と機械を洗浄する)」である。「洗浄のほか(同僚が)肉を容器(ケース)に詰めたあと、容器を一つ一つ留め金で蓋をするのも私の仕事です。1つ10キロ前後もあるケースは結構重くて力が要りますが、もう慣れました。」と作業内容をわかりやすく説明してくれた。現在は仕事を教える立場にあるという。イ Bさん 知的障害 20代後半
Bさんも通勤には送迎バスを利用する。業務内容は「②原料の開梱」、つまりビニール袋に入った魚のすり身や肉の塊を段ボール箱から取り出し、X線を通す機械に入れることである。担当者によると、大変真面目な性格で使用済みの段ボールは丁寧に折りたたみ、決められた場所に積み重ねる几帳面さがある反面、周りの人と言葉を交わすことは極めて少ないそうである。給料の使い道を尋ねると「家族に渡している」と話された。ウ Cさん 発達障害 20代後半
Cさんは同社の近くで一人暮らし、通勤は徒歩である。大学在学中にADHD(注意欠如・多動性障害)と診断された。従事業務は「⑥原料をタンクに入れ味付けをする」である。原料に味が浸透するよう重さ100キロもある大きなタンクを機械操作で回すのだが、この工程は製品の出来を左右するもっとも重要なポジションだといわれている。担当者によると、現場には厳しい言葉を投げかける人がいるそうで、Cさんから担当者に「僕はとにかく仕事が遅い。動けない僕が悪いのだけれど、もう少し柔らかく言ってほしい」と相談があり、対応したこともあったそうである。一方で仕事の合間に工場内にある箱やラベルの裏紙を利用して作業手順をメモし、それを何度も読み返して取り組んでいた。担当者はパソコンが得意なCさんにそのメモを参考に作業手順の整理を依頼したところ、作業マニュアルとしてとりまとめ、現在社内で活用されている。このような地道な努力が功を奏し、Cさんは次第に作業効率が上がり、周りの同僚たちから誉められることが増え、自信につながった。将来はどのようになりたいかとの質問に、「人の上に立つタイプではないのでリーダーや主任には向かない。でも仕事は楽しいので死ぬまでここで働きたい」と話された。
Cさんが作成した作業マニュアル(1) Cさんが作成した作業マニュアル(2)
エ Dさん 精神障害 20代後半
Dさんは自宅から15分の距離を自転車で通ってくる。業務は「⑤X線に通して検品(再)、計量」である。解凍し洗浄された原料は再びX線を通して検品され、ベルトコンベアーで流れてくる。これらを一つ一つ計量して次の工程へ回す作業である。その合間に使い終わったケースなどを一か所にまとめて置く。これまでDさんが重ねて置いたものを別の作業員が崩したままにしたため、Dさんはパニックになり大きな叫び声をあげることがしばしばあった。担当者は現場に足を運んでは他の従業員にDさんの特性を伝え、品物や道具は元の状態に戻すなどの改善を求めた。徐々に周りの理解が進み、Dさんは予期しない出来事があっても落ち着いて行動し、自分のペースで作業ができるようになった。最近上司からの勧めもあり、フォークリフトの免許を取ったそうで、「ここにはいろいろな仕事がある。原料を工場内に搬入する際、フォークリフトを使っているのを見て、資格は将来役に立つと思いチャレンジした」と筆者に話された。私生活においては母親代わりとなり面倒を見ている祖母から「親亡き後」の生活に関して相談が同社に寄せられているという。3. 取組の内容と効果
機械化が進んでいるとはいえ、現場での作業はマニュアルに沿った内容でありながら職人技の修得に通ずるものがある。日々業務経験の積み重ねが重要だ。事例の4名はいずれも遅刻や無断欠勤はなく就労を継続している。その背景に同社が障害者雇用推進のため実践している取組がある。
(1)業務日誌の活用
業務日誌はいわゆる「報・連・相」をイメージした内容で、その目的は次の3つ(①から③)である。
①健康状態の把握 - (1)今日の体調はどうだったか(4択)
➁業務の振り返り - (2)今日の業務内容と自己評価(3択)、(3)疲れた業務(自由記述)、
(4)今日の仕事はどうだったか(自由記述)
③(5)気づいたことは何か(自由記述)
そして、項目は、以上の5項目((1)から(5))となっている。雇用する側にとって業務日誌に記された内容を毎日確認するメリットは2つある。1つは体調の変化と作業内容や業務量を把握することで勤務体制を整えることができることである。もう一つは記術内容に現場ではなかなか言えない困り事や仕事に対する要望を見出すことができることである(実際の記入例は「業務日誌1」と「業務日誌2」のとおり)。
なお、業務日誌はその活用が必要と同社が判断した従業員について実施しており、先に紹介したBさん、Cさん、Dさんも活用している。
ほぼ同時期に入社した同年代のBさん、Cさん、Dさんは毎日仕事が終わると業務日誌を提出し、現場のリーダーや担当者などが確認する。そして、必要があれば本人との面談、周囲への確認などを行う。
Cさんが作業現場で受けた周りからの言葉に悩んでいることやパソコンを得意とすること、Dさんがフォークリフトの免許取得に興味を示していることに気づいたのも業務日誌からコミュニケーションの手掛かりを得たからである。
一方で当事者にとっても一日の業務を振り返ることは自分の課題を発見することにつながる。実際Cさんは「仕事が遅い」と自己分析をして、どうしたら早く仕事ができるようになれるか考え、メモを取ることを思いつき実行、作業手順を覚えていったのである。また、先に紹介した4名は皆さん自分の仕事内容を順序立ててわかりやすく説明してくださった。文章にして書くことで自分の考えをまとめることが習慣となり、上司や周りの同僚に言葉で伝える力が身についていったのではなかろうか。皆さん揃って丁寧な文字であることも印象深い。上司に読んでもらえるという安心感が業務上の不安を軽減していったとも考えられる。
業務日誌2
(2)支援機関との役割分担
障害のある従業員が職場に定着するためには生活全般にわたりその実態を把握し支援する必要がある。例えばBさんの生活設計の見通しやDさんの将来の生活に不安を募らせている家族からの相談は、企業はその課題を把握することはできても踏み込んで関わることができない領域である。そのため、同社ではそうした課題については、支援センターあるいは就労移行支援事業所に連絡し、相談・支援いただくこととしている。担当者は「従業員として受け入れたからには個人的な事情を解決できないことが理由で仕事を辞めるようなことになってほしくない。支援機関の専門性のある支えがあるおかげでより働きやすい職場環境を実現することができる」と述べている。
4. 今後の展望と課題
担当者は同社のこれまでの働き方を次のように振り返る。
「60歳・70歳代の高齢者が今もなお働いているということはそれだけ下が育っていないということです。彼らは長いキャリアを持つ熟練従業員ですが、教えるということに不慣れなため、指導がスムーズにいきませんでした。」一時期は高齢の従業員には引退してもらい、若い従業員を増やすことを考えたという。しかし、障害者雇用を進めるなかで、彼らが長い年月をかけて修得してきたものを人材育成に生かすことこそが、生産性を向上させるために重要であると気づいたという。そこで取り入れたのが高齢の従業員を「ブレインマネージャー」と名付け、後継者を育成する役割を担ってもらうという同社独自の考え方である。同社でいうブレインマネージャーとは、共に働く従業員のやる気と自信を引き出し、仕事上のつまずきや失敗も含めて相手の働き方に寄り添い自分の技術と経験を伝承することのできる人材のことである。事例で紹介した聴覚障害のあるAさんはまさに熟練従業員として教えることを実践しているところだが、その言葉には自分の仕事に対する自信と誇りが感じられた。ブレインマネージャーは自分自身の成長も実感できる役割でもあるようだ。今後の活躍を期待したい。
担当者は「仕事はつらいもの、苦痛なものだと思うと続かないものです。失敗した時に、できない自分を責めてほしくない。作業現場では慣れた人間がやる方が確かに早い。しかし、時間はかかってもいいのです。ブレインマネージャーには若い人にどんどん仕事をさせてほしいと頼んでいます」と語る。
おわりに
担当者の言葉は、雇用するひとりひとりの能力が発揮できるよう職場環境を整えたいという熱意にあふれていた。同社は多様な働き方を受け入れ大切に人材を育成する企業として、仕事と生活の調和を図りながら「みんなが楽しく働ける職場」を目指している。
執筆者:周南さわやか家族会 精神保健福祉士 板村 七重
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