担当部署を設置し、本人の希望や適性と
仕事のマッチングを最優先に障がい者雇用を推進
2023年度掲載
- 事業所名
- 生活協同組合コープさっぽろ
(法人番号: 7430005003056) - 業種
- 卸売・小売業
- 所在地
- 北海道札幌市
- 事業内容
- 店舗事業、宅配事業、食品製造工場 ほか
- 従業員数
- 10,170名(令和5年3月21日現在)
- うち障害者数
- 751名(同上)
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障害 人数 従事業務 視覚障害 12名 品出し、調理補助 聴覚・言語障害 26名 品出し、調理補助、倉庫内作業など 肢体不自由 15名 品出し、調理補助 内部障害 52名 品出し、調理補助、倉庫内作業、事務作業など 知的障害 472名 品出し、調理補助、倉庫内作業など
注)発達障害のある方を含む。
精神障害 174名 品出し、調理補助、倉庫内作業。事務作業など
注)発達障害のある方を含む。 - 本事例の対象となる障害
- 視覚障害、聴覚・言語障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害、発達障害
- 目次
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
生活協同組合コープさっぽろ(以下「コープさっぽろ」という。)のルーツは、昭和20年代から30年代にかけて道内各地で設立された生活協同組合(以下「生協」という。)に遡るが、前身は、「消費者の手で真に消費者の利益を守る流通網をつくろう」と昭和40(1965)年に創立された「札幌市民生活協同組合」となる。当初は札幌市内2か所で創業したが、その後道内各地で生協が統合され、平成2(1990)年には「生活協同組合市民生協コープさっぽろ」に、平成12(2000)年には現在の名称に変更し今日に至っている。組織名に「さっぽろ」を冠するが、活動エリアは北海道全域にわたっており、全道で店舗数は100店舗超、組合員数は200万人弱、組合員組織率は70%を超えるまでに成長を遂げた。コープさっぽろは、活動の一環である「人と人をつなぐ」ことを念頭に、各店舗や事業所、関連会社などに在籍するすべての従業員がいつまでも元気に安心して働き続けられるよう、組織の改善・改革を推し進めている。(2)障害者雇用の経緯
コープさっぽろが障害者雇用に取り組み始めたのは今から20年以上前に遡る。当時のコープさっぽろ理事長が、「コープとして、社会貢献に何ができるのかを考えたとき、障害者雇用を積極的に進めていくことは重要ではないだろうか」と障害者の積極的な雇用推進を打ち出したことがきっかけの一つである。以来、障害者就労支援機関(以下「支援機関」という。)との連携のもと、仕事のあり方を工夫しつつ、障害者のみならず、すべての従業員が安心して長く働き続けられる職場づくりを心がけている。障害者雇用では、本人の希望に最大限配意した配置により、雇用の継続に取り組んでいる。新たに障害者を採用する際には、障害者雇用に係る公開求人を出すことは余りないが、求人の際は特定の支援機関に偏ることなく、公平性を保つためにハローワークや各市区町村の自立支援協議会、障害者就業・生活支援センターなどに周知している。コープさっぽろでは横の連携を大切にしており、求人の際も、そのネットワークが採用に結びついているように考える。現在は、各店舗とも1名以上の障害者雇用を目指しており、障害のある従業員は、各店舗において所属長やマネージャー、同僚をはじめ周りのスタッフから分からないところを教わったりサポートを受けたりしながら、日々自身のスキル向上を目指しつつ勤務を継続している。なお、コープさっぽろは、北海道内における特例子会社を有する企業としては6社中3社目であり、道内に本社機能をもつ企業としては平成17年12月に初めて認定された企業である。2. 障害者雇用の従事業務と職場配置
コープさっぽろにおける障害者雇用に当たっての基本的な考え方として、本人の就労意欲を大前提として、「仕事に人を合わせるのではなく、人に仕事を合わせていくこと」がある。そのため、障害者の採用に当たっては、何よりも、本人の意欲を重視している。周りが働かせたいと思っても、本人に意欲がなければ仕事は継続できないため、配属に当たっては本人の意欲と適性を慎重に見極めることが欠かせない。そのため、採用前から採用後の職場定着に至るまで、支援機関との情報共有を図りつつ、コープさっぽろ内では担当窓口を一本化し、配属先の上長が相談しやすい体制を整備した。それにより、障害のある従業員の職場定着や更なる新規採用につながっている側面もあると考えている。現在、コープさっぽろグループ全体で約750名の障害のある従業員を雇用するに至っており、支援機関との連携では、相談内容の共有や課題の整理などを図る一方、支援機関による支援ありきではなく、企業でできることは企業で取り組むことにより、コープさっぽろが主体となった障害者雇用を推進している。3. 取組の内容と効果
コープさっぽろでは、ノーマライゼーションの浸透とともに障害者の法定雇用率が上昇する中においても着実に障害者雇用を進めており、近年は法定雇用率を大幅に上回る実雇用率で推移している。採用から職場定着に至るまでの各段階において、障害者の雇用を定着させるためにどのような取組を行い、結果どのような効果を得られているのかについて、主なものを次に紹介する。(1)採用時の本人の意欲・やりたい仕事の見極め採用時の面接では、本人がコープさっぽろで何をして働きたいのか、本人の意思を尊重するようにしている。これは、採用後、周りがいくらサポートしても、ほとんどのケースにおいて本人にやる気がなければ雇用は継続されないからである。そのため、面接では、人事担当のほか、配属が想定される部署の所属長も同席の上、本人の意向を慎重に確認の上、採用を決定するようにしている。場合によっては、本人の考えを正確に把握するため、支援機関の担当職員に同席してもらうこともある。(2)勤務地及び業務内容の検討コープさっぽろでは、グループ会社を含めると大きく3社に分かれる。バックヤードや品出し、宅配サービスを行うコープさっぽろのほか、弁当や総菜の製造、配食サービスを行うコープフーズ株式会社、納豆製造事業や包装パック事業を行う、特例子会社である北海道はまなす食品株式会社(以下「はまなす食品」という。)である。なお、はまなす食品には能力開発センターが設置されているが、これは知的障害者の多数雇用と職業訓練を行うことを目的として、北海道庁の呼びかけに呼応して自治体6団体と民間11社(団体)の出資により平成5年11月に設立されたものである。同センターで訓練を終えた修了生は、コープさっぽろグループをはじめ様々な企業で活躍している。配属先(勤務地)は、本人が採用後何をしたいのかによって決まってくる。今後社会人生活を通勤の負担なく送っていただけるよう、本人の居住地から通勤可能な職場(店舗)における配属を原則としているが、本人が希望する仕事の有無をその職場の所属長と確認しつつ、なかなか適した仕事が見当たらない場合は、支援機関に相談し、既存の仕事の洗い出しや新規業務の創出を行い、できる限り本人が興味関心を示した部署、本人が従事できる業務に就いてもらうように心がけている。(3)合理的配慮の実践障害者の雇用継続を図るためには、本人の障害特性などに応じて職場環境を見直す必要がある場合もある。障害者を雇用する企業に義務付けられている合理的配慮の実践であるが、この取組は、本人の意向や気持ちも尊重しつつ行うことが大切と考えている。例えば、業務環境のバリアフリー化として、通路に荷物を置かず、車いすが通れる幅を確保することは、すぐにでも取り組めるし、漢字が不得手な従業員に対しては、マニュアルにルビを付ければ本人の理解が得やすくなる。周りのスタッフが「指示を明確に(具体的に)出す」ことも大切である。また、どのような配慮を要するか判断が難しい場合はあらかじめ本人に確認しておくようにもしており、これらの身近な取組も本人の職場定着につながっているものと考えている。(4)キャリアアップ障害のある従業員についてもほかの従業員と同様、本人の希望があれば、正当な評価を受けてキャリアアップできる制度を整備している。コープさっぽろでは、優良な評価によりパート社員(時給)から契約社員(月給)、そして正社員へと昇格・昇給するシステムになっており、従業員の意欲や努力が認められる環境を整備している。障害のある従業員についても所属長の高い評価があれば昇給などの機会があり、待遇面が充実することにより、本人のモチベーションアップにもつながっている。(5)「S雇用グループ」の設置店舗ごとに本人が希望する仕事に配置できたとしても、職場に定着してもらうためにはその後の継続的なフォローが大切と考えている。障害者の職場定着はコープさっぽろが主体となって取り組んでいるものの、本人の特性に応じた指導方法やフォローなど、所属する現場だけでは解決できないこともある。また、職場ごとに事情や課題は様々で、解決方法も一様ではない。各現場での取組や経験をコープさっぽろ全体で活かすこと、そして必要に応じて支援機関との連携を図ることが、職場定着には必要と当初は考えていた。しかし、職場定着のための活動はあくまでコープさっぽろが主体となるべきであり、支援機関ありきにならないようにすることが、あるべき支援体制と考え、令和4(2022)年3月、コープさっぽろの人事部内に「S雇用グループ」を設置し、障害者雇用の窓口を一本化することにした。(「S雇用」とは、障害のあることを開示している従業員を指す、コープさっぽろ内の造語であるが、「障がい者手帳をお持ちで、サポートが必要な従業員」を意味してもいる。)各部署(店舗、宅配、工場など)への障害のある従業員の配置が進んだことにより、職場における障害者雇用への理解は深まり、対応力も向上しつつあるが、職場でどのように対応すれば良いか分からない場合もある。そうした場合に、その職場の所属長はS雇用グループへ相談すれば課題解決に向けたアドバイスや直接的な支援を得られるようになった。支援機関の利用が必要な場合にも適切な機関へのつなぎなども進められた。各職場とS雇用グループは本人への支援方法や経験を共有することにより、組織的・効果的に職場定着に向けた取組を実践することができるようになった。(6)企業在籍型ジョブコーチの配置支援機関の職場適応援助者(以下「ジョブコーチ」という。)による支援は、本人の職場定着を図るため、採用後、本人や会社に対して業務遂行や職場におけるコミュニケーションの向上支援、職務内容の設定に関する助言などを行うことにより、本人、会社、家族のマッチングを図り職場定着を図るもので、数か月程度の期間を定めて集中的に支援が行われるケースが多い。実施期間終了後もフォローアップが実施されることはあるものの、支援期間は限られている。しかし、障害の種類、程度、特性などにより、支援機関のジョブコーチによる専門的な支援終了後も、職場定着を図るための支援を継続する必要があると考えられるケースもあることから、企業在籍型ジョブコーチを配置した。企業在籍型ジョブコーチは障害者を雇用する企業の従業員が研修を受けてジョブコーチとなるものである。コープさっぽろは、「企業ができることは企業で行い、外部の支援者ありきにならないようにする。従業員であれば支援に期間の定めがないので、必要な支援を必要なタイミングで、継続的に行なうことができるようにする」という考えのもと、S雇用グループ設置と合わせ、コープさっぽろ内に企業在籍型ジョブコーチを担う従業員2名を採用し、配置した。コープさっぽろの企業在籍型ジョブコーチは、専門知識と実務経験を活かして支援を行っているが、支援が必要な従業員をくまなく支援するためには増員が必要と考えており今後も積極的に養成していくことを考えている。(7)助成金の利用などについてコープさっぽろでは「助成金ありき」の雇用計画は考えていない。助成金が先行してしまうと、本人に対する支援以上に、助成金をいかに受給するかを考えざるを得なくなる場合もあり得ると思われるからである。コープさっぽろでは本人の雇用継続のためにどのような支援が必要かを第一に考えており、それが必ずしも助成金につながるとは限らない。もし、雇用継続や職場定着を図る上で助成金を利用するメリットがあると判断されれば、活用し、職場定着などにつなげていきたいと考えている。なお、助成金ではないが、新たに採用した従業員に対し、国(ハローワーク)の「再就職手当」の申請について情報提供し、受給につながったことがある。障害の有無に関係なく、従業員にメリットのある情報提供などを行うことも大切と考えている。4. 新型コロナ感染症への対応
新型コロナウイルス感染症によるパンデミックはコープさっぽろにも大きな影響を与えた。店舗での販売や宅配サービスなどを業務とする事業所にとって、業務にオンラインを導入することは不可能な一方、業務のなかでお客様にウイルスをうつさない、ウイルスをもらわない対策を講じる必要もあり、その対応は非常に困難を極めた。
コープさっぽろは全道で業務を展開しており、障害のある従業員も全道の店舗に配置している。新型コロナウイルス感染症対策は、全従業員による徹底した対応を求められるものであり、コープさっぽろでは新たな取組を行うのではなく、お客様にウイルスをうつさないための取組、例えばマスクの着用、うがい・手洗い、出勤時の検温など、国から示された感染症対策を徹底し、感染症拡大の危機を乗り越えた。5. 今後の展望と課題
障害者雇用に関するコープさっぽろの基本的な考えは今後も変わらない。それは、既存の業務の枠組みにとらわれることなく、本人の希望に沿った働き方の実現に向けて何ができるかを考えることを大事にすることである。
例えば、宅配サービスでは、その補助業務として、商品の積み込みから後片付けまで、ドライバーとの役割を明確にすることにより新たな職域を創出できるではないだろうかと考えることである。また、朝は苦手という従業員には朝からの勤務を要しない仕事を割り当てるなど、個々の障害特性に合った仕事を担当してもらうようにすることである。そうした工夫・対応が雇用継続の秘訣と考える。今後においても、人を仕事に合わせるのではなく、仕事を人に合わせるよう見極めつつ、雇用の継続を図っていきたいと考える。執筆者:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
北海道支部 高齢・障害者業務課
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