障害の有無に関わらず、誰もが一職員として
やりがいを持って働ける職場づくり
2023年度掲載
- 事業所名
- 社会福祉法人 藤花会
(法人番号: 9260005008087) - 業種
- 医療・福祉業
- 所在地
- 岡山県岡山市
- 事業内容
- 特別養護老人ホーム、小規模多機能ホーム ほか
- 従業員数
- 180名
- うち障害者数
- 10名
-
障害 人数 従事業務 肢体不自由 6名 介護職、看護職、ほか 知的障害 1名 清掃 精神障害 2名 清掃 発達障害 1名 介護 - 本事例の対象となる障害
- 知的障害、精神障害
- 目次
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要社会福祉法人藤花会(以下「同法人」という。)は、「地域の中で共に生きる」を法人の基本理念として平成21(2009)年に設立。翌年平成22(2010)年には、瀬戸内市邑久町にて特別養護老人ホームせとうち、小規模多機能ホームせとうちなどを開設し、事業をスタートした。平成27(2015)年には、岡山市東区西大寺にて特別養護老人ホームせとうちの郷を開設し、現在に至る。同法人の主な事業は特別養護老人ホーム、小規模多機能ホームの運営で、地域の高齢者に利用されている。地域貢献活動として、認知症カフェや子ども食堂を開き、地域の人々に親しまれる活動を展開。子どもから高齢者まで幅広い年代が参加している。令和3(2021)年度には、地域に根ざし、持続的に生きるための課題解決につながる取組を表彰する「おかやまSDGsアワード2021」にて、同法人の活動が特に優良な取組に選定された。評価された点は、未来の介護人材の育成に向け、中高生を対象に福祉教育を実施する活動が、持続可能な社会への取組と評価されたことである。同法人の職員構成は、6~7割が介護職員と看護師、そのほかにはケアマネジャーや生活相談員、リハビリテーション担当の職員がいる。また、数は少ないが事務員や清掃担当、ドライバー、管理栄養士、宿直も配置されている。SNSを積極的に活用し、利用の対象者への広報や職員採用に力を入れている。
(2)障害者雇用の経緯ア.障害者雇用のきっかけ同法人の障害者雇用のきっかけは、平成23(2011)年に特別支援学校(以下「支援学校」という。)より職場実習(以下「実習」という。)のオファーがあり、実習生を受け入れ、採用に至ったことである。その後も継続的に実習を受け入れており、現在もオファーがあれば積極的に受け入れている。実習の際には実習生の家族にも安心し、就職に適した場所か実習生と共に判断してもらうため、実習場面の見学を実施したり、同法人のSNSに投稿し実際に働く姿を見てもらったりしている。その後、継続的に採用し、冒頭の表にあるように現在10名の障害のある職員を雇用している。そして、同法人は令和3(2021)年には岡山県初となる、障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度)により、障害者の雇用促進や働きやすい職場づくりが評価され、もにす認定を取得した。本稿ではそうした同法人の障害者雇用の取組について、清掃に従事しているAさんとBさんを中心に紹介する。なお、Aさんは知的障害のある男性であり、Bさんは精神障害のある女性である。イ.障害者の採用についてお二人について紹介する前に、障害者の募集や採用までの流れについて紹介する。同法人では障害者を採用する際には、まずハローワークに障害者を対象とした求人を出し、併せて関係機関への情報提供を行っている。そして、応募者については原則として実習を体験してもらうこととしている。同法人が実習を行うのは、応募者には実際に体験してもらうことで仕事を理解し、応募を決めていただくためと、同法人としての採用や配置を検討する際の参考とするためである。実習の際には、採用に向けた確認事項を4点設定している。確認事項の詳細については後段の「3.取組の内容と効果」の(1)で紹介する。なお、支援学校の生徒の場合には、学校の行う職業教育の一環として実習を受け入れる場合もあり、そうした場合は同法人への就職希望の有無は問わない。ウ.AさんとBさんの採用についてAさんは就労移行支援事業所(以下「移行事業所」という。)で訓練を受けながら就職活動をするなかで、同法人の求人票を見つけ、ハローワークの紹介で実習を行い、採用された方である。実習から採用まで特に障壁はなかったという。一方、Bさんも移行事業所の支援を受けており、移行事業所の紹介で同法人を訪れた。Bさんは採用までに2回の実習を実施した。2回となったのは、実習での確認事項4点とは別に、1回目の実習で男性職員とのやりとりにBさんは緊張していたため、その点に関してどの程度の配慮が必要かを確認するため、2回目の実習をすることとなった。勤務状況によって異なるが、採用後にペアとなるのは女性職員(Cさん)と男性職員(Aさん)のどちらかであるため、実習ではまずCさんとペアで清掃をした。次にAさんとペアで仕事をし、一緒に作業することや指導を受けることに支障がないことを確認した。さらにほかの男性職員とのやりとりについても確認し、その結果問題なしと判断し、採用した。同法人では、障害のある職員は、就職後に何か課題があれば同法人の採用・広報担当者に報告し、採用・広報担当者から、所属部署などの担当者へつなげることを徹底している。これは、清掃の基準(「きれい」や「できている」)が職員によって異なる場合があり、障害のある職員に直接指導すると混乱することがあるので、採用・広報担当者が調整することでスムーズな解決につなげるためである。時には同法人での対応に問題がないかを、移行事業所の職員に相談し、助言等の協力を仰いでいる。より確実に課題を解決するために、関係者(卒業校の教員、本人の家族など)にも協力を求める場合がある。エ.一般採用からの障害者雇用一般の採用から障害者を雇用することもある。このような場合は、面接の中で障害があることが分かる。肢体不自由のある人の場合が多いが、そうした方では仕事の遂行に支障がほぼなく、特別な配慮をほとんど必要としない。障害により特定の作業が困難な場合があるが、実施可能な職員が代わって行っている。2. 障害者雇用の従事業務と職場配置
(1)従事業務と職場配置Aさんは平成27(2015)年11月、Bさんは令和5(2023)年4月に入社した。共に環境整備の部署での清掃業務が担当である。清掃には3名が従事し、2名のペアで行う。業務内容(清掃場所)は「共有スペース」と「居室」に二分され、前者にBさん、後者にCさんを担当として配置。Aさんはどちらの担当とペアになるかで清掃場所が変わる。共有スペースは廊下や階段など様々な人が利用する場所、居室は入居者の部屋である。どちらも3階建ての建物を時間内に効率よく清掃することが必要となる。AさんとBさんは作業中に入居者から声をかけられることがあるという。自身の担当外の質問の場合は、ほかの職員を呼び対応を任せる。イレギュラーな事態が発生しても臨機応変に仕事をこなす。8年間同法人の仕事に従事するAさんは、手際よくかつ丁寧に清掃をする。周囲の社員からの信頼も厚く、入社して間もないBさんの指導係を任されている。
ベッドの下も念入りに掃除するAさん
(2)Aさんへのインタビューから
せとうちの郷が開所した翌月より働いているAさん。ほとんどオープニングスタッフの立ち位置で、当初は先輩から仕事の指導を受けた。共有スペースをメインに取り組んでおり、仕事が慣れてくると、より効率よくするために、自らの提案で清掃場所の順番を変えたそうだ。仕事のやりがいについては「これからも働き続けたいです。入居者の方とのやりとりで元気がもらえます。就職前は話すことが苦手でしたが、今では随分とできるようになりました。性格は明るくなったと思います」と話す。
仕事の進め方を工夫し、意欲を持って働いている様子が伝わってきた。
(3)Bさんへのインタビューから
入社して半年が経とうとしているBさん。少しずつ仕事に慣れてきたという。物の位置や掃除道具の場所が分からない時は、Aさんに教えてもらっている。清掃中に、入居者から物を取って欲しいなど頼まれることがあり、緊張しながらも対応しているそうだ。一方、「入居者の方に『ありがとう』と言われた時が嬉しいです。掃除や苦手な会話が少しずつできるようになりました。これからも仕事を頑張りたい。」と話す。Aさんの指導のもと、成長しつつやりがいを持って仕事をしていることが伝わってきた。
Aさんの指導のもと、成長しつつやりがいを持って仕事をしていることが伝わってきた。
食堂のいすを丁寧に拭くBさん3. 取組の内容と効果
(1)職場実習での確認事項就職後、お互いにミスマッチが起こらないよう、実習の段階で重点的に確認する事項として以下の4点を設定している(個別の障害特性や従事する作業によってメリハリをつけている)。ア.挨拶ができる同法人の職員は、入居者はもちろん、職員間でも挨拶ができることが重要と考えている。筆者が訪問した際にも、廊下でのすれ違いや各部屋の前を通る際などで挨拶が飛び交っていた。
イ.質問に対し回答できる時間がかかってもよいので、自分で回答できることが重要と考えている。実習段階では回答できることには限界があるし、実際に入居者からの質問に的確に答えられない場面はあるが(そうした場合はもちろん職員がフォローする)、答えようと努力することは重要と考えている。
ウ.指導者の歩くスピードに付いてこられる限られた時間の中で対応しなくてはならない業務が多いことから、作業スピードは重要と考えている。特に清掃業務については、指導者とペアで移動しながら作業するため、指導者の歩く速度に合わせられるかが大切と考えている。
エ.空間認識ができる清掃従事者は、自分の体や持っている掃除道具の大きさを認識することと、自分以外の人の動きを想像できないと事故が起きる。このため、複数人がエレベーターに乗る際に奥まで詰められるかを見ている。そのほかにも、移動時に職員や利用者と適切な距離がとれるかなどを見ている。(2)職場実習の報告書実習の終了時には、同法人で働いたことを覚えていてもらうため、実習生本人の活動をまとめた報告書を本人と学校・移行事業所へ渡すこととしている。報告書には働く姿を撮った写真や職員からのメッセージが添えられている。報告書は、中高生の子どもを持つ職員からの提案(「思い出となるものを家に持ち帰ると家族にも喜ばれるかも」)で誕生している。(3)ダイバーシティ&インクルージョンの実現に向けた研修障害者に限らず、多様な人材を採用し、個々の個性を受け入れ、その特性・能力を発揮してもらうことを同法人は目指している。その考えのもと、職員研修にも力を入れている。「清掃担当だから法人の理念を知らなくていい」とか、「シニアのパート職員だから研修は不要」といった考えは持っていない。法人の理念などはすべての職員に研修などを通じて伝えている。また、入居者はどの職員が何の担当かを詳細に把握することは難しいし、障害のある職員についても知らない。そうした入居者のニーズに応えるため、職員は全てに臨機応変に対応しなければならない。そのため障害のある職員についても、研修を受ける機会はほかの職員と同様に設定している。(4)取組の効果同法人の採用・広報担当者(以下「担当者」という。)によると、先の報告書は、本人(実習終了者)が就職を考えた時に、同法人を思い出すきっかけになっていることがあるそうである。「職場実習がよかったと思い出してもらえたら当法人に就職してほしい」と担当者は話す。ただし、同法人では採用部署の仕事をこなせなかった場合には、本人が希望しても採用を見送ることとしている。それは、障害者を採用することがゴールではなく、採用した方が仕事をとおして活躍できるかが重要と考えているからである。担当者は、障害者雇用に取り組む中で、障害のある職員が困っていると周りの職員が声をかけたり、分かりやすく教えたりするなどの優しい気持ちが生まれたように感ずることがあるが、本来は障害者に限らず誰に対してもそうあるべきと考えている。障害の有無は関係なく一職員として活躍することが基本であるとの認識で、採用に関しても特別視はしていない。同法人で仕事をこなし、活躍できるかに重きを置いているとのことである。AさんとBさんはそろって迷いなく、今後も仕事を続けたいと望む点や障害の有無関係なく一職員として見られていることから、働きやすい環境でフラットな関係性であると伺えた。障害者ではなく、一職員として認識されることが仕事のやりがいにもつながっているのだろう。最後に、障害者雇用の取組が、障害雇用以外でも同法人にプラスとなったことを紹介する。それは、もにす認定を受けたことが同法人に関する関係者の評価につながり、職員の応募・採用につながったことである。
様々な掃除道具を使いこなし、丁寧に清掃するAさん4. 今後の展望と課題
同法人は、今後も障害者雇用を続けるが、求める仕事と本人ができることが一致しない場合や通勤手段がない時は採用を見送ることとしている。お互いにとって無理な雇用(ミスマッチ)では続かないと考えるからである。ミスマッチを防ぐために、実習で4点の確認に加え、さらに確認すべき点があれば段階を踏んで確認することとしている。ゆくゆくはAさんに掃除担当のリーダーになってほしいと同法人は考えている。今後新たな実習生を受け入れる際には、実習生の指導をAさんに一任したいと思っている。そのためBさんの指導を障害のない職員ではなく、Aさんに任せた。現在Bさんは職員の予想よりも早く、掃除をこなせるまでに成長し、Aさんは期待に応えている。今後は、Bさんも含め、同法人に就職する障害者にはAさんを目指してほしいと願っている。取材を通し、雇う側も雇われる側もお互いが働きやすい環境を大切にしていることが伝わってきた。障害があるけれど、障害者だからと特別視せず一職員として捉えている点に、筆者ははっとさせられた。障害者という枠組みを作らず、フラットな関係で働く。それが誰もがやりがいを持って仕事をする上で大切なのだろう。執筆者:フリーライター 森田美紀
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