ダイバーシティ経営の実現に向け「寄り添う」働き方の取組
- 事業所名
- リライアンス・セキュリティー株式会社
(法人番号: 3240001007546) - 業種
- サービス業、うち除外率設定業種
- 所在地
- 広島県広島市
- 事業内容
- 施設警備、交通・雑踏警備、セキュリティコンサルティング
- 従業員数
- 230名
- うち障害者数
- 10名
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障害 人数 従事業務 聴覚・言語障害 1名 交通誘導警備 肢体不自由 2名 交通誘導警備 内部障害 5名 施設警備、交通誘導警備、管理マネジメント 精神障害 2名 交通誘導員 - その他
- 障害者職業生活相談員
- 本事例の対象となる障害
- 聴覚・言語障害、内部障害、精神障害
- 目次
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1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
リライアンス・セキュリティー(以下「同社」という。)は、広島市に本社を置く警備会社で、平成14(2002)年に設立。出入管理・巡回などを行う施設警備と商業施設の駐車場などでの交通・雑踏警備といった警備業全般を手掛ける。設立以来、山口、愛媛、岡山、兵庫、大阪、九州へ営業エリアを拡大してきた。
同社の経営理念、社是社訓として掲げるのが「お客さま主義集団」。それは、お客さまの満足を徹底追及することを意味する。質の高いセキュリティーサービスを提供するために、同社が最も重視しているのが社員教育である。警備技術を教えることはもちろんだが、警備員である前に一人の人間として人から信頼される素養を身につけることに重きを置く。礼儀礼節を重んじ、挨拶、身だしなみ、表情、態度、言葉遣いなど、人として当たり前の対応ができることを「お客さま主義集団」実現の基本とし、徹底した社員教育を行っている。
同社が描くビジョンは「警備業界のディズニーランド」である。テーマパークでお客さまをもてなすキャスト同様、警備もお客さまの感動と幸せのための仕事ととらえ、お客さまに満足を超えて感動を与えられるセキュリティーサービスの提供を目指す。同社の警備員は、お客さまが外出先で安心して楽しめるように守る縁の下の力持ちであるとともに、テーマパークのキャストのようにお客さまと一緒になって自らの仕事を楽しみ、感動を与えられる存在として位置付けている。
このように仕事にも生き方にも情熱を持てる社会人に育てるために、「人財育成」にも力を入れている。教育によって各自の誘導技術、礼儀、パフォーマンスを高めれば、現場で実力以上の成果を発揮する。警備員として社会の宝となる「人財」に育てあげることで、お客さまからの厚い信頼を得ることができ、社員の幸せにつながっていくという考えが同社の根底にある。
また、経営スローガンとして「社員の健康と命を守る経営」を掲げる。警備会社がお客さまを守るのは当然だが、警備員を守るのは会社しかない、という思いから、同社では業務上の健康リスクを減らす取組を徹底。感染症対策、熱中症対策をはじめ、社員の健康状況を把握するための「健康状況報告書」など、社員一人ひとりに寄り添う対応をきめ細かく行っている。その結果、同社は「健康経営優良法人(中小規模法人部門)ブライト500」に3年連続で認定されている。
同社では警備業では少数派といわれる「障害者」「女性」「外国籍の人」などの人材を積極的に受け入れ、多様な人材がその特性を生かし、活躍できる環境づくりを進めている。例えば、新卒採用に13年連続で取り組んでおり、令和4(2022)年は19名を採用したが、うち、11名が女性である。
【同社沿革】
平成14(2002)年 会社設立平成21(2009)年 正社員雇用の強化、60歳以上の積極採用
平成24(2012)年 新卒採用開始
平成27(2015)年 本格的な熱中症対策を開始
平成28(2016)年 働き方改革として、非正規社員の正社員化
平成29(2017)年 労働時間の実態把握をし、時間外労働の多い従業員への対応・指導
新入社員の導入研修を2週間から1か月に延長
若手社員に個別面談を実施
平成30(2018)年 広島県仕事と家庭の両立支援企業に登録
令和3(2021)年 SDGs宣言を策定
令和4(2022)年 「健康経営優良法人(中小法人部門)ブライト500」に認定
令和5(2023)年 「健康経営優良法人(中小法人部門)ブライト500」に認定
令和6(2024)年 「健康経営優良法人(中小法人部門)ブライト500」に認定
令和6(2024)年 障害者雇用に積極的に取り組む中小企業の認定制度「もにす認定」を広島県内の警備会社として初めて受ける
(2)障害者雇用の経緯と方針
障害者雇用状況は、障害者雇用納付金制度の対象となった平成27(2015)年以降、法定雇用率はクリアしていたが、お客さまの安心・安全を守らなければならない警備会社で、配慮が必要な社員を積極的に雇用することを社内には疑問視する考えもあった。
転機となったのは、令和3(2021)年にSDGs宣言を策定し、ダイバーシティ経営の取組を強化したことにある。年齢や性別、学歴に関係なく採用の幅を広げていく中で、同社社長の田中敏也氏は福岡市の警備会社ATUホールディングスを見学した。そして、ATUホールディングスが障害者を警備員として採用し、障害に応じた様々な配慮・工夫などを実践し、法定雇用率を大幅に上回り、実雇用率が50%を越えている取組に衝撃を受けた。これをきっかけに同社では、障害者雇用を本格化し、1年をかけて担当者教育と社内整備に着手した。
現在の同社の実雇用率は5.86%で、法定雇用率2.5%を上回り、過去3年間に雇い入れた障害者の6か月経過時点の定着率は100%。同社では「働きたいが、働く場所がない」人を受け入れ、「区別(必要な配慮)はするが、差別はしない」方針のもと、障害の種類に関わらず警備業法や関係法令が理解でき、人を守ることができる人を今後も積極的に採用することとしている。そして、実雇用率10%を目標に掲げている。
障害者をはじめ、女性、外国籍の人など多様性に富んだ人材を受け入れ、寄り添ってこそ、警備業者として真の安全・安心を社会に提供できるという考えが同社経営の根底にあり、多様な社員と共に成長し、前進していく方針である。
(機構注)ATUホールディングスについては、モデル事例で紹介しているので、参照いただきたい。2. 障害者の従事業務と職場配置
警備部門に9名、管理部門に1名(内部障害のある社員)が勤務している。
警備部門9名は、内部障害のある社員が4名で、うち1名は平成29(2017)年に入社し、その後、令和3(2021)年に施設警備における施設隊長に任命され、現在、現場責任者として10名の隊員の指導、シフト編成を行っている。その他には、聴覚・言語障害のある社員1名、肢体不自由のある社員2名、精神障害のある社員2名が、交通誘導警備業務に従事し、商業施設の駐車場などで交通事故や渋滞が起こらないように誘導業務を行っている。
3. 取組の内容と効果
(1)受け入れ体制づくり
障害者を受け入れ、一緒に働く人が障害のことを正しく理解することが必要、と考え、同社ではまず、社長以下、全幹部が平成26(2014)年に盲導犬についての研修会に参加。令和5(2023)年5月にハローワーク広島主催の「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」を受講している。同年11月に広島市が開催した「障害者雇用の拡大・定着のための企業向け講演会」に常務および採用担当係長が参加するなど、障害者に対する正しい知識と理解を深めたうえで、雇用促進を図っている。障害者と共に働く仲間となる社員の理解も不可欠なため、社員が障害のことを知り、障害者にちょっとした手助けを実践する「あいサポート運動」を全社で推進している。そして、「あいサポーター研修」などに取り組む「あいサポート企業」として、広島県、山口県、岡山県、愛媛県、大阪市で認定されている。
注:「あいサポート運動」とは、様々な障害の特性や障害者が困っていること、必要な配慮に理解し、日常生活でのちょっとした配慮を実践する「あいサポーター」を養成し、サポーターの活動を通じて、誰もが暮らしやすい地域社会を作っていく運動である。平成21年に鳥取県でスタートし、複数の府県で取り組まれており、広島県でも平成23年から行われている。
(2)特性に応じた柔軟な労働条件の提案
同社では障害のある社員が安心して業務に従事できるように、社内に「障害者職業生活相談員」(以下「相談員」という。)3名を配置。相談員は現場に赴いて障害のある社員への業務指導を行うだけでなく、生活面の支援や生活習慣、家族、友好関係などの悩みの相談にも定期的に応じる体制を整えている。
同社では、障害のある警備員の現場配置は、障害のある警備員がひとりではなく相勤者(あいきんしゃ:一緒に勤務する警備員)とマッチングし、2人体制で現場に配置している。その結果、個々の障害に応じた労働時間の選択肢が増え、よりフレキシブルな勤務時間体制となったことで、本人のペースで勤務の継続が可能となった。
体力的に自信のない障害のある警備員への配慮として、立哨業務が原則であった現場について契約先と交渉し、座哨での業務の了承を得た。同社では、このように障害のある社員が無理をせず業務に従事できるように、管理者がスピーディに現場の改善に取り組んでいる。
(3)働きやすい環境づくり
車いすを使用する社員や足の不自由な社員が移動しやすいように、駐車場から社屋通用口までを段差なしの設備に改修している。
また、同社では社員の資格取得、スキル向上を積極的に支援しており、社員が警備業務に関連する資格取得のための講座受講料を全額負担している。障害のある社員についても当然会社が負担しており、現在の在籍者は全員が支援を受けている。
4. 今後の展望と課題
障害のある社員の中には、障害があることを公にしたくないという意向の方もおり、そうした場合には周りの理解が得られないといった課題がある。そこで、同社では令和6年2月に社内に新設した「ダイバーシティ推進委員会」(以下「委員会」という。)を中心に、障害者がより働きやすくなる環境整備を加速している。
その一環が、厚生労働省が作成した「就労パスポート」の活用である。就労パスポートは、障害のある人が働くうえで、自身の特徴や希望する配慮について事業主などに伝えるためのツールである。障害のある社員の中には自身の障害について書くことに当初は抵抗を示す場合もあるが、書くことで本人は特徴や必要な配慮の整理ができ、周囲も配慮ができることで、仕事がしやすくなることを説明し、希望者への記入・活用を勧めている。同社では、障害のある社員10名全員が就労パスポートを記入しており、その情報を現場と共有している。
また、委員会に所属する雇用促進担当者(以下「Aさん」という。)が、障害のある社員との定期的な面談やサポートを行っている。Aさんはご自身が精神障害のある方で、警備業務の現場に立つ傍ら、障害のある警備員をフォローアップする役割(雇用促進担当者)を担っている。Aさんが身近な存在として障害のある社員に寄り添い、フォローアップすることにより、障害のある警備員が長く働くことのできる環境を整えている。そして、Aさんは、経営者に対し障害者の視点からの適切な助言を行える貴重な存在としても期待されている。
そうした同社の取組の成果ともいえるのが、令和5年に採用した精神障害のある警備員2名のケースである。同社では過去に精神障害者の警備での雇用が長続きしなかったケースがあったことから、精神障害者が警備を行うことを不安視する見方が社内にあり、実行は厳しいものととらえていた。しかし、障害者雇用を進めるとの考えから両名を採用し、障害への理解と配慮を、寄り添いながら続けた結果、短時間業務から始め、現在は週2回の勤務で警備員として活躍している。
こうした取組の成果を社内で共有するともに、社外へも発信し、障害者の方が「障害があると警備業は難しい」と諦めず、「自分も警備の仕事をしたい」と意欲を持ち、チャレンジすることを期待している。そして、警備業に従事する多様な人材を1人でも多く増やしていくことを同社は目標としている。
そして、同社では障害者をはじめとする多様な人材の活躍を目指している。前述の「ダイバーシティ推進委員会」は、同社が取り組むダイバーシティ経営(年齢・性別・国籍・障害の有無などに関わらず、多様な人材が個性や能力を発揮できる機会と環境整備の実現)を更に推進することを目的に設置したものである。シニア世代や女性の活躍に向けた同社の取組は関係者から注目されており、令和6年度の高年齢者活躍企業フォーラムにおいて高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰(優秀賞)を受賞している。
取材の最後に、同社執行役員で採用教育研修部長の有田恭彰氏に話を聞いた。
「当社では、制度ありきで、それに社員が合わせるのではなく、社員にとって『どうすれば、良くなるか』を常に考え、必要な対策をすぐにとるスピード感を大切にしています。社長の田中自身も『社員にとって良いことはすぐに、すべてやる』という考えです。当社を象徴することの一つが『報告10分ルール』です。現場で110番通報や119番通報する事案やクレームなどのトラブルが起きた場合、原則10分以内に社長へ報告するというもので、契約先とのやり取りや交渉は会社側が責任をもって対応します。トラブルが起きた場合、現場の警備員の責任を追求するのではなく、会社が即座に引き受け対処すれば、お客さまに不満や不快な思いを抱かせることを回避できますし、契約先との関係も良好に保てます。むしろ、迅速、的確に対処することで、トラブルを最小限に抑え、お客さまにも契約先にも信頼していただけます。こうした社の姿勢は、全社員に配慮した結果であり、常に更新するなかで、形作られてきたものです。障害の有無に限らず、多様な人材がイキイキと働ける環境を整えるのが当社の役割です。一人ひとりの社員に寄り添い、向き合い、やりがいを実感しながら働くことのできる警備会社を実現していきます。」
執筆者:神垣あゆみ企画室 神垣あゆみ
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