知的障害者雇用を推進することで、障害者の自立と地域との共生を目指す
- 事業所名
- NTTクラルティ株式会社 塩山ファクトリー
- 所在地
- 山梨県甲州市
- 事業内容
- リサイクル紙による手漉き紙製品の製造
- 従業員数
- 34名
- うち障害者数
- 28名
障害 人数 従事業務 視覚障害 聴覚障害 肢体不自由 内部障害 知的障害 28 紙漉き作業 精神障害 - 目次

(旧NTT塩山営業所)
1. 事業所の概要、本社の概要
(1)事業所の概要
① | 沿革 2011年4月1日 山梨県甲州市塩山に開設 2011年6月1日 社員34名(うち障害者28名)で事業開始 |
② | 事業内容 地域で回収された牛乳パックや酒パック、製紙工場などにおける規格外製品(通常廃棄)のパック紙などを原材料にした手漉き紙による、卓上カレンダー、パンフレット用紙、ノベルティなどの作成事業を行っている。 作業工程では薬品などを一切使うことはないため、悪臭は発生せず、騒音や振動もなく、周囲に悪影響を与えることはない。 |
③ | 事業開始の理由 NTTおよびNTTクラルティでは障害者の雇用に積極的に取り組んできたが、新しく事業所を開設することでさらなる障害者雇用の拡大や社会参加の機会の創出を図るためである。 |
④ | 販売先 NTTを始めとする、NTTグループ雇用連結会社(32社)を予定している。 |
(2)本社の概要
NTTの特例子会社として、2004年7月1日に設立。本社は東京都武蔵野市にある。2005年4月に社員25人(うち障害者18人)で営業を開始し、同年6月1日に特例子会社認定を受けた。
① | 事業概要 ・障害者自らが参画する障害者・高齢者向けポータルサイト「ゆうゆうゆう」の運営 ・ユニバーサルデザイン・バリアフリー化支援サービス ・紙媒体資料の電子化サービス(メディア変換業務) ・コールセンター事業 ・名刺作成事業 ・リサイクル紙による手漉き紙製品の製造 |
② | 従業員数 179名(うち障害者129名) (2011年9月1日現在) |
障害 | 人数 | 従事業務 |
---|---|---|
視覚障害 | 7 | Webサイト運営、ユニバーサルデザイン・バリアフリー化支援サービス、総務事務、コールセンタオペレータ |
聴覚障害 | 6 | Webサイト運営、書類のPDF化、ユニバーサルデザイン・バリアフリー支援化サービス、経営企画 |
肢体不自由 | 74 | Webサイト運営、CAD製図、書類のPDF化、経理・総務事務、コールセンタオペレータ |
内部障害 | 12 | Webサイト運営、経営企画、コールセンタオペレータ |
知的障害 | 30 | リサイクル紙による手漉き紙製品の製造(塩山ファクトリー)、名刺作成 |
精神障害 | 0 |
③ | 会社役員 代表取締役社長 宮田 邦彦 取締役 間壁 武宏 取締役(非常勤) 児玉 美奈子 監査役(非常勤) 豊田 愛理子 |
2. 塩山ファクトリーにおける雇用状況
(1)人員構成
所長 1名
指導スタッフ 5名
社員 (障害者)28名
年齢層・男女別の人員構成
10代 | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 合計 | |
男性 | 5 | 5 | 7 | 1 | 2 | 20 |
女性 | 1 | 6 | 1 | 0 | 0 | 8 |
合計 | 6 | 11 | 8 | 1 | 2 | 28 |
(2)山梨県甲州市塩山に拠点を置いた理由
本社のある東京近郊では、障害者の法定雇用率を満たそうと各社が障害者雇用に力を入れたため、求める人材の確保が困難になっている。山梨県は、東京都やその他近県と比較すると特例子会社も少なく、障害者の就労環境も厳しい状況にあった。
そのようななか、行政等関係機関からの支援や地域の理解が得られ、事業にふさわしい人材の確保の目処がたったことから、塩山で事業開始となった。
また、東京都武蔵野市の本社から、JR中央線の同一路線で塩山に向かうことができることも選択要因の一つである。新天地で取り組む新たな事業内容であったため、平成22年3月から山梨県の協力を得て、労働関係、福祉関係の諸機関と打ち合わせを行い、生活面の支援も含めた支援体制の構築も図ることで、円滑に事業が開始できた。
(3)社員の労働状況・環境
社員は20代を中心に10代から50代までと、幅広い年齢層の人が働いている。勤務時間は9時から16時までとなっている。通勤は、自転車や徒歩、または鉄道やバスなどの公共交通機関を使って自力で通勤しており、通勤時にはスーツ・ネクタイを着用している。なお、塩山ファクトリーはJR塩山駅から徒歩5分程度と公共交通の便はよい。また、自家用車での通勤や家族等の送迎による通勤は禁止している。体調不良等による休暇の取得や交通機関の遅れ等で遅刻する場合には、必ず電話で連絡することが徹底されている。
社内では、月に一回のペースで挨拶や言葉遣い、身だしなみ等のビジネスマナーや上司や同僚との対人関係、熱中症対策等の研修が行われ、会社で働くうえで求められるマナーや健康管理について学習している。
休憩室には社員が足を伸ばせる畳敷きのボックスがあり、ロッカールームには緊急時用のベッドなども設置されている。また、衛生面に配慮してシャワールームも設置されている。
3. 取り組みの内容
(1)手漉き紙による製品製造・販売
山梨県甲州市塩山のNTT塩山ビルにおいて、通常は廃棄される製紙工場の規格外製品などの酒パック紙を原料として手漉き紙を作っている。その手漉き紙で卓上カレンダーを作成し、NTTおよびNTTグループ雇用連結各社に販売する。
作業工程において薬品は一切使用しないため、悪臭の発生もなく、騒音や振動についても周囲に影響を与えることはない。紙資源の再利用や薬品の不使用により、環境にやさしい安全でクリーンな事業所を目指している。
本事業では、作業手順を細分化し、状況に応じた指導や支援を行うことによって、製造品質の高いレベルでの安定化を目指している。
具体的な作業工程として、まずは、原料の日本酒や焼酎等のパック紙からアルミ、ポリフィルムをはがし、シュレッダーで裁断する。裁断した紙に水を加え攪拌する。
攪拌された原料を手で漉き、水分を不織布とバキュームで吸収し、板に貼って、一晩、乾燥させる。
翌朝、板に貼った紙をはがした後、紙の周りに付いた「バリ」を取り、圧縮ローラーで紙を固める。紙の重さを測って分別し、プリンターで印刷し、枠をつけて完成させる。このような工程を社員の能力と資質に合わせて割り振り、社員それぞれの特性を生かせるように配慮している。



(2)雇用機会の拡大
山梨県では景気の低迷に伴い採用者数の減少が起こっている。山梨県における障害者雇用状況(平成21年6月1日現在)は雇用率1.61%と全国平均1.63%に比べ低く、知的障害者の就職率は有効求職者数に対して34.7%と低い。
そこで、NTTクラルティでは、知的障害者を雇用対象の中心とする事業を計画し、県内より障害者28名、所長及び指導スタッフ5名を雇用し、これにより、県内在住者の就労機会の拡大と障害者の企業就労による社会参画機会が創出された。
所長、指導スタッフとも、障害者への指導や紙漉き作業は初めてのことだが、仕事に対して熱意を持って取り組んでいる。
(3)CSR活動の推進
障害者の雇用及び社会参画の機会創出は、企業の社会的責任(CSR)の観点からみれば、企業と地域それぞれにメリットのある地域貢献を行うことができるとともに、障害者が手漉き紙で作ったカレンダーを頒布することにより、NTTグループ内外に対し障害者雇用への理解が促進され、引いてはNTT及びNTTグループ雇用連結各社の法定雇用率の維持・向上を図ることも可能となる。
また、環境保護の観点からも、薬品類を一切使用しない安全でクリーンな事業であり、アルミが内側に貼られていることで再資源化が難しく、通常は破棄される規格外製品の酒パック紙を使用することで、紙資源のリサイクルにも貢献することができる。
さらに、塩山ファクトリーの施設は、10年近く空きビルになっていたNTTグループの遊休不動産を利用しており、資産の有効活用にもつながった。
(4)地域との共生
NTTクラルティが考える障害者の就労機会の拡大と、障害者自らが社会に貢献するという考え方は、甲州市の障害者総合計画の理念(「障がいのある人とともに歩み、安心して暮らせるまち、甲州」)及び意図するところ(地域社会全体で障害のある人を支えるとともに、障害のある人自身も地域社会に貢献する機会を持つこと)と方向性が一致している。
NTTクラルティとしては、より多くの障害者に就労機会を提供することにより、障害者も障害のない者と変わることなく企業就労が可能であり、障害者自らが社会に貢献できると考えており、NTTグループの内外にも障害者があたりまえに就労できることを広め、そのことによって障害者雇用の理解推進と社会参画機会の創出を通じて、行政・企業という枠を超えて地域におけるノーマライゼーションの実践を目指している。
4. 取り組みの効果
(1)社員自身の進歩
社員は働くことを通じて、仕事の内容に対して自ら問題意識・関心を持って取り組むようになった。作業の流れを考慮した上で最適な作業のやり方を考えると同時に、作業工程の改善に向けた自身の考えを述べるようになった。同僚への気配りやチーム内での協力を積極的に行う社員も増えている。

また、規則正しい会社生活を送ることの充実感や、おおぜいの手による細かい作業を経て、手漉き紙が仕上がっていくことの満足感が、働く喜びにつながっており、社員は出社することを楽しみにしている。
今後、手すき紙によるカレンダー以外の新しい商品の展開を目指す際にも、十分に対応できるようになると期待されている。
(2)地域との関わり
山梨県甲州市においても、全国の地方都市でみられるように、商店や事務所が閉店・閉鎖されるような状況下、NTT塩山ビルにおいても、NTTグループの営業拠点の集約などに伴い、2002年3月以降は社員が常駐していなかった。しかし、2011年6月に塩山ビルで紙漉き事業を開始したことで、人が働き、塩山ビルに明かりが灯り、地域の街並みの再生や活性化に貢献している。
また、社会保険料や事業者税、光熱水料などの公租公課を支払うことにより、自治体等の増収にも寄与している。
5. 今後の展望と課題
(1)現在の状況
事業開始から間もないが、社員が作業を行っていく中で、カレンダー製造のノウハウを蓄積しつつあり、2011年の生産目標である5000部は、十分に達成が可能であり、本年の10月から11月にかけて、NTT及びNTTグループ雇用連結各社に向け、納入を予定している。
また、特別支援学校や福祉施設等から、山梨県内にとどまらず多くの見学者が塩山ファクトリーを訪問・見学している。
(2)今後の展望
卓上カレンダーを作成するだけではなく、紙漉き製品のレパートリーを増やしたいと考えている。また、紙漉き製品の製作マニュアルを作成し、指導者のスキル向上と指導方法の確立を目指している。
原料においては、製紙工場からの紙パック損紙だけではなく、将来的には地域の作業所とも連携し、家庭などから出る酒パックを地域の酒販店から回収するシステムを作っていきたい。
また、近隣の特別支援学校や作業所などの福祉施設、市町村などの行政機関から訪れる見学者に対して事業への理解を得るとともに、今後も地域との共生を目指していく。
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