インターンシップ活用による障害者雇用拡大への取り組み
- 事業所名
- 三菱重工鉄構エンジニアリング株式会社
- 所在地
- 広島県広島市
- 事業内容
- 橋梁・煙突・ガスホルダー・ビールタンクの設計・製作・据付・メンテナンス、免制振装置の設計・据付・メンテナンス、水門扉メンテナンス
- 従業員数
- 602名(2011年8月末現在)
(注)障害者雇用率算定上の常用雇用労働者数495名 - うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 生産工程管理 聴覚障害 肢体不自由 3 生産工程管理、設備保守、現地工事サポート業務 内部障害 2 施工計画取りまとめ、現地工事サポート業務 知的障害 精神障害 - 目次

1. 事業所の概要、障害者雇用の経緯
(1)事業所の概要
① 沿革 |
当社は1972年10月に橋梁・煙突・水門扉等の施工計画、現地工事、メンテナンス事業を行うため設立された「三菱重工工事株式会社」を承継会社とし、2006年4月に三菱重工業株式会社の橋梁事業を吸収分割して設立された会社である。(設立時の社名は三菱重工橋梁エンジニアリング株式会社)
2007年4月には三菱重工業株式会社の煙突事業を吸収分割、2008年4月にはガスホルダー、ビールタンク事業を吸収分割、免制振事業を技術供与受けし、受注・設計・製作・施工・メンテナンスを一貫して行う名実共に総合鉄構カンパニーとなったことから、現在の社名である「三菱重工鉄構エンジニアリング株式会社」に社名変更している。
また、2009年10月には東日本を対象とした生産拠点として千葉工場を開設し現在に至っている。
② 事業の特徴と障害者雇用 |
当社はいわゆる重厚長大型製品の鋼構造物の製作から据付・メンテナンス等まで一貫して行うメーカーのため、生産(工場)部門と現地架設部門を有し、両部門の構成人員を合わせると全従業員数の6割強を占めるとともに、業務・作業環境の特性から、当該部門で新規障害者の雇用確保は難しく、自ずと社内事務部門を中心とした障害者雇用の確保・拡大を推進する必要があった。
(2)障害者雇用の経緯
当社は2006年設立当初は障害者法定雇用率を若干下回っていたが、グループ企業からの採用等で法定雇用率1.8%を超過達成し、最高時には雇用率2.81%と2%を超える雇用率を維持してきたが、事業規模拡大と定年退職者の再雇用制度に伴う従業員数の増加、及び法改正による除外率の段階的廃止により、産業分類上、除外率が適用されない事業所に該当し、法定雇用率1.8%を下回る結果となった。
また、現在、雇用している障害者の特徴として疾病等による中途障害者が中心で、高齢化が進行している。従来はこの中途障害者で雇用率を維持してきたが、社員の健康管理に対する意識の高まりと会社の健康管理強化推進により、疾病等による新規中途障害者の雇用は見込めない状況から、法定雇用率達成のためには新規障害者の雇用を推進していく必要があり、障害者雇用確保を社の重点課題のひとつとして位置付け、中長期的観点に立った障害者雇用数の維持・拡大の取り組みを強化することとした。
2. 取組み内容
(1)採用・募集
障害者の雇用拡大は新規採用者で確保していく方針のもと、ハローワークの障害者合同面接会等への出席、障害者職業訓練学校に対する採用活動、障害者支援センター等への訪問を通じ、障害者雇用に繋がる活動を推進中である。
また、新規障害者の採用にあたって、職場ニーズをもとに採用予定職場・従事予定業務を想定した活動では、受入れ職場の選択肢が狭く採用に結び付き難いため、求職者の障害の程度、求職者の業務経験、本人希望及び本人適性等を総合的に検討して「求職者ニーズ、適性に応じた雇用職場を創出することが雇用拡大に繋がる近道である」との考え方で採用活動を展開していくこととした。
更に、採用後の障害者の定着化のためには、受入職場の障害者雇用に対する理解と受け入れ体制の整備が必要であり、社内階層別教育等の機会に障害者雇用に関する状況について説明している。
上記活動を開始して間もないが、本年3月に開催された「広島県障害者対象企業説明会」に出席して新規障害者雇用確保に繋がった事例があるのでその取組み内容について紹介する。
(2)Aさんとの出会い
前述の「広島県障害者対象企業説明会」は、障害者雇用を検討している企業と求職障害者や就職を考えている障害者との相互理解を目的として初めて開催されたもので、求職障害者等に企業PRを行うとともに、障害者、家族、支援者等との情報交換の場とするものであった。
当社は、企業PRと求職者ニーズを把握し、障害者との接点を通じて得た情報を雇用拡大につなげるための課題として整理し、具体的なアクションプランを策定する狙いで参加した。
当社ブースに訪れた求職者に対しては、当社募集職種は「事務職」、受入れ予定職場は未定として説明したが、採用の基本的スタンスは求職者のニーズ、適性を見て受入職場を創出することであり、少しでも多く求職者が訪問してくれることを期待して企業PRに重点をおいて説明した中で、当社ブースを訪れた一人がAさんである。
Aさんは数年前に発達障害であることが判明し、就職にあたってどう活動すべきか広島障害者職業センターの担当障害者職業カウンセラーやハローワークの担当者に相談して説明会に参加していた。
説明会は面接の場ではないため、求職者等の当社に対する関心の程度を把握することが困難であったが、応対時に当社に関心があると感じられたことから、後日改めて詳細説明することでアプローチした結果、広島障害者職業センターの支援を受け、Aさん本人・保護者・担当の障害者職業カウンセラーと面談する機会を得た。
その面談の中で、Aさんが大学4年在学中で来春卒業予定であること、職業経験がなく就職に対する不安を抱いていることが判明した。本人希望の実現と本人の不安解消を、当社がどのような受入れ職場、従事業務等の職場環境を整備すれば雇用できるか検討するためには、実際にAさんに当社で就業体験をしてもらい、当社の概要、職場環境及び雰囲気などを把握してもらうことが近道であると考え、インターンシップによる実習を通じて相互理解を深めることとした。
(3)インターンシップの活用
インターンシップを実施するにあたり、ハローワーク及び障害者職業カウンセラーの支援のもと、学事日程の確認、大学の許可取得を踏まえ、本人・保護者、障害者職業カウンセラーと受け入れ日程、研修時間、研修項目、本人の心身面のケア等について打合せを行った結果、平成23年6月に、1日4時間、研修期間2週間、研修先は総務部人事グループで事務補助業務を体験する内容のインターンシップを実施することとなった。
インターンシップの活用は、本人のメリットとして就業体験を通じて会社・職場環境を把握できると同時に、障害者本人が適性の確認もでき、更には就業体験を通じて就職に対する不安解消に繋がることが期待できると考えている。
一方、受入れ企業にとっても、障害者本人の適性や事務処理能力の把握の他、障害者を受入れる際の職場環境作りを実践できる機会を得ることができ、研修した障害者を雇用する場合、職場環境や従事業務を理解して入社するため定着率も高まり、障害者雇用の安定に繋がるメリットがある。また、インターンシップ生の受入れを通じ、障害者雇用に対する社員意識の高揚が図れるものと考える。
ア.受け入れ部署
総務部人事グループで受け入れることとしたが、その狙いとして社の障害者雇用の旗振り役である部門が率先して新規雇用の障害者を受け入れることで障害者受入職場の確保に繋がること、また、障害者雇用に関するノウハウを蓄積できるとともに、本人にとっても、一般的に親しみ易い事務業務を経験でき、また社員の出入りも多く、会社の風土・雰囲気を掴み易い職場で就業体験させることが望ましいと考えた。
また、人事部門としてインターンシップにより得た経験を今後の採用活動に活かせること、今後の障害者雇用に備えて育成した人事部門の「障害者相談員」に実務経験を積ませることができ、障害者雇用数確保後には最も重要な定着対策への取り組みにも活かせると考えて決定した。
イ.研修期間・研修時間
まず、研修期間はこれまで受け入れ実績のある大学生等のインターンシップの研修期間と同様2週間とし、実施時期は本人が比較的関心が持てると思われる給与と賞与の支払時期とした。給料明細書の配布作業は取り組み易い業務である反面、正確第一が求められるとともに、仕分け処理において持続力等の基本的要素が含まれる作業であり、本人の適性を把握し易く、また仮に本人が入社した場合、担当させる可能性が高い業務のひとつである。
次に、1日あたりの研修時間は、本人意向及び障害者職業カウンセラーの助言を踏まえ、本人の健康面、環境変化による精神的な疲労度も考慮して4時間とすることで決定した。勤務時間帯については、当初昼休みに他部署社員ともコミュニケーションを取れるよう昼休憩1時間を挟んだ午前2時間、午後2時間という案も考えたが、本人の拘束時間が少し長くなり、また昼休み時間の過ごし方によっては体調面への影響も不安があるため、本人希望である午後の始業時からの4時間勤務として研修を行うこととした。
ウ.研修業務・内容
採用後、人事グループに配属するとの前提で、配属時に担当させる可能性の高い業務をグループ員で相談して洗い出した。具体的には給料明細書の配布作業、住民税通知書の社員配布とチェック作業、配布先仕分け及び勤怠集計の演習等、給与実務に即した業務を体験させることとした。また、人事グループ各担当との共同作業となり、作業を通じてコミュニケーションが図れることから研修業務に適切であると考えて決定した。
また、グループの各担当者が分担して指導できる業務であり、研修項目を通じて、事務処理の基本動作、給与支払いに関する流れの他、給与支払いのおける源泉徴収や社会保険料徴収などの一般的知識についても説明を加え、本人に興味を持たせるよう指導方法を工夫した。
研修中における本人のケアを目的に、広島障害者職業センターのカウンセラー及びハローワーク担当者に研修期間中、数回に亘り研修状況を視察してもらい、視察時の本人面談を通じて研修内容に対する本人評価や健康状態の確認を行って不安解消を図って頂いた。
また、研修中は毎日実習日誌を記入させることとし、自習した業務に対する感想や質問及び気付き事項を自由に記述できる欄を設け、毎日行う終礼時に活用することとした。実習日誌の記述内容をもとに、当日の感想などをヒアリングしてコミュニケーションを図った。実習日誌には本人の記述欄だけではなく、指導員・指導責任者の所見欄を設け、本人の感想に対する助言、心構え等を記載し本人の士気昂揚に努めた。
研修期間中、本人から苦手な電話応対について体験して見たいという前向きな申し出があり電話応対の模擬訓練も行った。
エ.研修結果
実務体験による達成感、グループ員との共同作業を通じ年代の異なる社員とのコミュニケーションも図れたこと等から、本人から充実感があったという感想があり、就職に対する不安解消の一助になったものと思っている。
また、受入職場として、本人の業務適性、協調性などを把握することが出来、インターンシップの活用は求職者及び企業双方にとって理解を深めるための有効な方法であった。障害者雇用の確保・拡大のツールとして今後も機会があれば活用したいと考えている。
オ.採用内定への取り組み
インターンシップ終了後、少し期間をおいてAさんの就職活動状況をフォローした結果、当社に関心を持っており、就業条件面で折り合いが付けば就職したいとの回答を受けた。採用内定に向けての手続きは、ハローワーク及び担当の障害者職業カウンセラーの助言を受け必要な手続きを行った後、本人・保護者に対し雇用条件案を提示した。
Aさんの意向は、現状ではフルタイム勤務は健康面から不安があり、当面は短時間勤務の雇用を希望したいとの申し出があり、当社がその条件を受け入れ採用内定に繋げることができた。
なお、基本的な雇用条件は次のとおり。
①勤務時間 | 午前9時15分から午後3時15分までの実働6時間勤務 (休憩時間 正午~午後13時) |
②勤務日 | 週5日勤務(月~金) |

3. 今後の課題
当社の障害者雇用に関する課題は次のとおりであり、障害者雇用率の維持・拡大のためには新規雇用の取り組みが不可欠であり、ハローワーク等の支援・助言を得ながら、合同面接会への参加、障害者職業訓練校への訪問等の継続的な活動を行っていきたいと考えている。
① | 当社雇用の障害者は高齢化が進行しており、今後数年以内に現雇用者は雇用満了年齢に到達し減少する。 |
② | 当社の障害者雇用算定上の常用雇用労働者数は、ここ数年は増加傾向にあり障害者雇用数が不足する可能性がある。 |
③ | 社員の健康管理意識の高まり、会社の健康管理施策の強化充実等から中途障害者による雇用数を維持することは困難である。 |
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